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160カケルのバカが救い(カケルのターン)

 ピュ――!


 庭の植え込みで何かがキラリと光った。


 カキン!


 鳶加藤は、苦無で飛んで来た何かを弾いた。


 地面に落ちた何かは針だ。


「これは甲賀忍びの毒針。(庭の植え込みを睨んで)そこに隠れて居る者姿をみせよ」


「ホホホ、オホホ、仕方ありまへんな。武田の透波者の加藤段蔵はだませまへんな」


 そういうと、植え込みから橙色の忍び装束の二人の男が現れた。


 お虎は、二人の甲賀忍びを睨みつけて、


「そやつらは卑怯な術を使うぞ、段蔵! 左近! 用心致せ!」


 お虎の真横で、鳶加藤にお任せのつもりでいたカケルは目をむいて、


「えええーーー、なんで俺まで! 相手は忍者なんだから鳶加藤さんが専門でしょう。オレは、平和主義者だから争いは避けて通りたいタイプ」


 お虎は、カケルを睨んで、


「左近、お主、わたしの胸を見たであろう。責任をとって、仇を討つのじゃ!」


「ええ! おれはほんの少し胸の谷間をチラッ、チラッと見ただけだよ……グフッ」


 カケルの言葉の終わりを待たずお虎の正拳突きが、カケルを打ち抜いた。


「左近、わたしの胸のことはもう申すな。はやく、やつらを成敗致せ!」



「ホホホ、ワシらを見くびってもらったら困るのう、なあ、孫七」


「オホホ、そうじゃのう孫六兄貴、透波者の頭、加藤段蔵の首と、山県昌景の首を持ち帰れば、ワシらも城で胡坐をかいて暮らせるやも知れぬぞ」


「おお、そうじゃのう。それもよい」


 甲賀忍者上忍、鵜飼孫六うかいまごろく・孫七。双子の兄弟忍者は、その瓜二つの顔を使って、敵城へ忍び込み数々の功績を上げた。初見で孫六に出会った者は、弟の孫七の存在を知らぬため、居らぬはずの所へ突然現れる瞬間移動の忍術で攪乱する。しかも、孫六・孫七の兄弟は、甲賀忍びの棟梁、多羅尾光利の右腕と呼ばれるだけあって腕も相当に立つ。一人だけでも厄介なのに同じ腕を持つ強者が同時に現れ息もつかせぬ双子ならではの連携を見せるのだ。彼らによって、数々の名将が、歴史の闇に葬られた。



 加藤段蔵は、お虎と山県昌景を後ろ手に守って、


「山県殿、お虎殿、時間をかけて前田玄以の家来が目を覚ましたら面倒です。ここは、左近殿に任せて、我らは一刻も早く逃げ出しましょうぞ」


「うむ、そう致そう」


 山県昌景は、前田玄以の落とした刀を拾い上げると、カケルへ放り投げ、


「スグに、追いつくのだぞ!」


 と加藤段蔵の案内で、お虎を連れて去って行った。


「……え?! オレは、刀一つ持たされてどうせぇ言うねん!」


 その光景を見た鵜飼孫六が、ポツリと、


「まあ、十中八九、ワシらに殺されるだろうなあ」


「だよね、絶対、殺されちゃうよね。山県のオジサン、『追いつくのだぞ』ちゃうよね。オレ、ここで死んじゃうよね」


 鵜飼孫七は、ウンウン頷いて、


「うむ、間違いなく殺す!」


「だよねーーーー!」


 とカケルは、山県昌景を追って逃げようとする。


 ピューー!


 カケルが抜き足、差し足、一歩、二歩、進んだ爪先に、毒針が突き立つ。


「お前も、その図体やから、そこそこの大将首やろ逃がせへんで!」


 カケルは、振り返って、


「ダヨね。世の中そんなに甘くないよね~~」


 カケルは、逃げるのを諦めて、刀を構えた。


 鵜飼孫七は、カケルの刀の構えを見て、首を三時に傾ける。


「お前、刀の握り方も知らんのか?」


 カケルは、頭を掻いて、


「いや~ん、バレた。オレ、戦場では槍ばっかり使ってて、刀握ったことすらないの」


 鵜飼孫七は、なにか疑いを持ったように孫六の耳にコソコソと、


兄者あにじゃ、山県昌景も、こいつを置いて、サッサと逃げたし、刀も満足に握れんところを見ると、こいつホンマにただの荷物持ちちゃうか、さっきから、話を聞いてると頭も弱いし」


「そうだのう孫七、こいつは、価値が全くないのかもしれん。付き合うだけ時間の無駄じゃ」


 鵜飼孫六、孫七は、互いに向き合って、頷くと、ドロン! 煙球を足元へ向けて叩きつけ姿を消した。


「…………おれ、置いてかれちゃった」


 ムクリ!


 カケルの足元で仰向けに倒れていた前田玄以がゾンビのように、こけしを掴んで、上半身だけ身を起こしカケルと目が合った。


「あ――――!」


 カケルは、前田玄以のこけしを奪い取り、頭をポカリと殴りつけた。


 前田玄以は、また気を失い仰向けに倒れる。


 カケルは、その隙に、逃げようとするのだが、このまま、前田玄以を置いて行くと風でもひいちゃうんじゃないかなと思い立ち、そっと、法衣を掛けてやり、前田屋敷を後にした。



「和尚! 和尚!! なんだこれは!」


 秘密の部屋で倒れている前田玄以を家臣が見つけて、部屋のこけしを手にとって検めた。


「この大量のこけしはなんじゃ!」


「もしや、和尚の趣味でもあるまい」


 パチリ!


 前田玄以が目を開けた。


 ムクリ!


 ロボットのように上半身で起き上がる。


「和尚、ご無事で!」


 前田玄以は家来の手に持った趣味のこけしを見つけて、「あわわ!」と奪い取り、


「来易く、こけしに触ってはならぬ。これはわたしが、織田家家中の殉職者を弔う大事なこけし様じゃ。触ってはならぬ」


 と取り繕った。


 後日、前田玄以は、こっそりと悪趣味のこけしを一体一体焼却し、今夜の出来事もなかったことにし歴史の闇に葬った。




 つづく

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