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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
一章 疾風! 西上作戦開始!
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16月代の進路(現代、左近のターン)チェック済み

 長く伸びた夕焼けのひだまりを、現代の高校生時生カケルと入れ替わった左近と、カケルの幼馴染、北庵月代がならんで帰宅の途へ着く。


 月代は、サッカーボールが顔面直撃して気を失った左近を心配して付き添っているのだ。


 幼馴染と言えど、互いに距離感があって話しにくい空気がある。月代は、帰宅の途の世間話をどう切り出したものか、はたまた、自分から話を切り出してよいものか思案していると、左近の腹が「グゥ~」と鳴った。


「月代殿、この時代のメシは旨いのう。ワシは母上が作る、ほれ、ゴロッとしたニンジンとジャガイモをシャキっとしたせん切りの玉葱の食感を残しつつ肉の肉汁と香辛の効いた茶色いあんかけをメシに掛けた……名はなんだったかのう……?」


「カレーライスね」


 左近は破顔して、


「おお、そうじゃ! カレーライスじゃ!! 母上の料理は京の御所様の料理番にも勝るとも劣らない腕前じゃ。豚肉の生姜炒め、肉じゃがもすてがたいが、一等旨いのはやはりカレーライスじゃ。月代殿も母上のカレーライスを一度食うてみよ。きっと、カレーライスの(とりこ)になること請け合いじゃ。そうじゃ! 月代殿、このまま着いてきて母上に教わるとイイ。そうじゃ、それが一番じゃ!」


 月代は、子供のようにカレーライスの話を無邪気に熱弁する左近にほほえましいような気持ちになった。


「こんな風にカケルくんと話したの小学生以来ね。なんだか懐かしい」


 左近は、カレーライスへの思いをまだ話足りないが、月代にこう言われてはカレーライスへの情熱を横へおいておくよりなかった。


「なんじゃ、月代殿。ワシと話すのは久しぶりなのか? 」


「昔は家も近所だからよく一緒に遊んだけれど、中学高校生になると、ずっと同じクラスでも会話が減っちゃってこんなに話せなくなったわね」


 ここぞとばかりに左近は白い歯を見せ子供みたいに無邪気に笑って、


「月代殿が一等旨いと思う料理はなんじゃ? 」


 ここまで左近が無邪気だと月代もだんだん可笑しくなってきた。


「そうね。ワタシはどちらかというとスイーツかしら?」


 左近は、クソまじめな顔してたずねた。


「スイーツ?! なんでござるか、スイーツとは獣肉(けものにく)にござるか?! 」


「ウフフ、獣肉ってカケルくん冗談ばっかり、甘いお菓子よ」


「おお、ワシも甘い物は好きにござる教えて下され」


「こないだ東京の大学へ推薦入試の面接へ行った終わりに時間があったから銀座のエッグスセカンズってパンケーキのおしゃれなお店へ入ったの」


「東京? 銀座? 入試?……」


「そこのパンケーキは、三段に山と積んでグルグルと生クリームをインドのターバンみたいに盛って、季節のフルーツ、バナナ、イチゴ、リンゴ、ブルーベリー、ラズベリー、キウイ、アプリコット、バニラをおしゃれに飾ってるの、味もまた美味しい! 」


 左近は、月代の話す言葉が横文字だらけで目眩(めまい)がしそうになったが、必死でこらえた。バナナ、イチゴ、リンゴは母の清美が朝食に出して教えてくれたからなんとかわかったが、あとの「ブルーベリー、ラズベリー、キウイ、アプリなんたら……」は瞬間で覚えるのも限界だ。要は、パンケーキとやらに果物がたくさんのっていて美味しいのだな。それより、気になるのは、月代が前置きに言った「入試で東京とやら……」


「月代殿は、東の都へ寺かなにかの大学へ修行に旅立たれるのかな?」


「あっ!」となる月代。ついつい、左近が心安くくて、ついしゃべり過ぎてしまったと口を塞いだが後の祭り。ま、いいかとあきらめた。


「ほら、家は先祖代々、医者の家系じゃない。ワタシひとりっ子でしょ。誰かが北庵病院を継がなくちゃ患者さんが困るからお父さんが医者になれってうるさくてしかたなく……」


「女医にござるか! それならば、ワシの妻と同じ道にござる。あやつはそれは良い医者で御座った。二人の出会いもワシの命を救われた所から始まり申す。月代殿、それは良い! それは良い考えで御座るぞ! 」


 と、左近は月代が困っているのを感せず、手をブンブンつかんで喜んだ。


 月代は複雑な顔をして左近に尋ねた。


「カケルくんは進路どうするの? 大学は行くんでしょう。このまま関西、それとも同じ東京へ出るの? 」


 まるで複雑な女心を匂わせる謎かけのような月代の問いかけである。こんなの男には分からない。左近は、キッパリと、


「知り申さん!」


 と(おとこ)らしく深々と頭を下げた。


 月代は、ビックリして、


「知り申さん! って、将来を決める大事な進路をまだ決めてないの?! 」


 左近はまじめに困った顔をして、


「それがの、ワシはカケル殿であって、カケル殿でないから、進路をどうしたいかカケル殿の本心は分からぬのだ。その質問に答える術を今のワシは持ち合せておらぬのじゃ。そうじゃ、母上ならば知って居るやも知れぬ。帰って、母上へ尋ねてみよう」


 そう言うと左近は、月代に今日の看病への感謝の頭を深々と下げてさっさと帰ってしまった。


 残された月代は、色んな気持ちが置いてきぼりになったが、寂しく手を振って勢いよく帰って行く左近を見送るしかなかった。





 つづく


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