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150化け狐(カケルのターン)

「伊織と利平治は出来ている」


 お虎は、女の勘でピンときた。利平治が伊織の従兄ってのは真っ赤なウソで、二人で企んで、世間知らずなおぼっちゃまの富太郎を騙して金を絞っているのだろう。


 お虎は、試しに富太郎に尋ねてみた。


「富太郎よ、わからぬのか?」


「なにがですか?」


 お虎の突然の質問に、富太郎は、人を疑うことの知らない善良な丸顔を一層丸くして質問の意味がまったく分からいような素振りだ。


 つづいて、お虎は、試しに、カケルに聞いて見た。


「左近、お主はわかるか?」


「え?! うん、わかるよ」カケルは、口元は緩んでいるが、目元は泳いでいる。


(左近め、まったく分かっておらんな。これだから、男は……)


「ならば!」とお虎は、ポンと膝を叩いて立ち上がり、ツカツカと伊織と利平治が話し込む表戸へ手をかけた。




 お虎が、表に出ると、人目を少しでも避けようとしてるのか、伊織と利平治の二人はいない。お虎は、あばら屋のぐるりを回ると、ちょうど表戸の裏に二人はいた。まるで狐の夫婦が仲睦まじく寄り添っているようである。お虎はいきなり声は掛けずに、身を隠して様子をうかがうことにした。


 壁にもたれた利平治のはだけた胸に、伊織は指先を立てて、利平治の筋肉をたどるように遊んでいる。


「利平治さん、あたしゃ、あんなアンポンタンなボンボンと付き合うのはもう嫌だよ。はやくあんたと一緒になって大きな町へ出て所帯をもちたいよ」


 すると利平治はなだめるように伊織の髪を撫でてやり、


「すまねえ、伊織、もう少しの辛抱だ。しっかり金を溜めたら、二人で井ノ口(岐阜県岐阜市)へ出て、飯屋でもしよう。そして、かわいい子供をこさえて幸せに暮らそうじゃないか」


 伊織は、澄んだ目で利平治を見つめて、


「ホントかい、あんたも、そう、おもってくれるのかい?」


 と、利平治の胸に頬を寄せた。


 利平治は、伊織を引き寄せて、


「ホントさ、伊織。オレはおめぇを一目見た時から、こいつと一緒になるって感じたんだ」


「ホントに、ホントだね利平治さん」


 利平治は、冷めた目で伊織の手を握って、見つめ返して、


「オレを信じろ伊織」


「利平治さん、あたしゃ、あんたと一緒なら、地獄の果てまでついて行くよ」




 しばらくすると、あばら屋へ伊織が戻って来た。お虎も、それより先に戻ってきて、何事もなかったように着席している。


 カケルと、富太郎は、お虎が、かわやへ立ったものとばかり思っていた。


 戻って来た伊織は、富太郎の隣へちょこんと座って、元通りもたれかかった。


 すると、富太郎は優しく、伊織の手をとって、


「伊織、利平治さんに銭は預けてきたかい?」


「あいよ、富太郎さん、利平治さんにしっかりお金を預けて来たよ。一日でも早く借金を返して、富太郎さん一緒になろうね。だから、なんとかお金を準備して会いに来てね」


「うん、おら、そうする」富太郎は子供のように素直に頷いた。


 黙って伊織の話を聞いていたお虎は、「そういうつもりか、ならば、そろそろ帰るか!」と、何事もなかったように促した。


 カケルは、びっくりして、「え?! え?! 帰るの??」と目を丸くした。


 お虎は、キッパリとした口調で「帰るのだ。ほれ、富太郎も準備を致せ、白花温泉へ帰るぞ」


 それを聞いた伊織は何とはなしに、ようやくめんどくさい仕事が終わったかのように、あっさりと、富太郎から身を離して、「ほら、立って」と、富太郎を促し、着崩れた衣服を整えて、「ポンッ!」と腰帯の辺りを叩いて、


「また来ておくれよ」


 と送り出した。


 富太郎は、まだ、名残惜しそうにしていたが、お虎に、


「富太郎、帰るぞ!」


 と厳しく促され着いて出た。それでも、富太郎は未練がましく、閉められた表戸に手を当てて、


「伊織、必ず、オイラが救ってあげるからね……」




 白花温泉に富太郎を連れ帰ったお虎は、いきなり、手代、番頭を呼び止めて、「近隣で、霊験粗方な坊主を呼べ」と命じた。


「霊験粗方な坊主を呼べとは何事ですか」


 と慌てて女将が飛び出して来た。


 するとお虎は、まじめ腐った顔で、


「富太郎は、人の皮を被った化け狐に化かされて居る。化け狐を追い払うには、富太郎の全身に経文を書いて、三日三晩部屋に閉じ込めておかねばならぬ。その間、誰が会いに来ても誰ひとりとして、合わせてはならぬ。それは、たとえ、母子の女将であってもじゃ」


「なんと、富太郎の入れあげる女は化け狐でございますしたか」


「化け狐は二匹おってな、二匹で悪だくみをして、富太郎を化かしておる。化け狐を懲らしめるためには、こうするよりほかはないのだ」


「分かりました。大事な一人息子のためです。すぐさま手配いたします」


 女将はそういうと、手代、番頭を四方へ走らせて、近隣で有名な坊主を連れて来た。


 お虎は、坊主を見つけると、なにやら耳打ちをした。坊主は、話を聞いて、最初は驚いたような顔をして聞いていたが、話の最期には、「かしこまりました。お任せ下さいと引き受けた」


 そこからは、早かった。富太郎を否応なしに丸裸にすると、坊主は、富太郎の全身に、経文を書き込んだ。そうして、部屋の一室に押し込めると、三日分の食料だけ残して、閉じ込めた。さらに、部屋の入口出口すべてに化け狐を避ける護符を貼った。


「どうしてだよ、どうして、こんな事されちゃあ、おらぁ、伊織に会いに行けないじゃないか……」


 富太郎の哀れな声がこだました。

今回で、年末年始の毎日更新は、一旦終了です。

次回の更新は、日曜日、0時です。

再び、週一連載になりますが、応援よろしくお願いします<(_ _)>〈 ゴン!〕


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