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135任侠の漢、天道の勇次郎への裁き!(左近のターン)

前回、公開順を間違えました。入れ替わりがありますが、後日、変更致します。

応援して下さる皆様、申し訳ありません。

 ピュルル~、ピュルル~。


 天道の勇次郎が、石田佐吉の大一大万大吉の世の中の理想に共感しその理想を支える決意を固めた時、屋敷を取り囲むように捕り物の笛が鳴った。


 若い子分が駆け込んで来て、


「親分、京都所司代の捕り物でぇ、ここは、すでに取り囲まれている!」


「親分、このままじゃオレ達ゃ袋の鼠だぜ」


 すると、天道の勇次郎は、ギラっと、目を光らせて、


「いいや、オレの腹はもう決まっている。オレはここに残って、すべての責任を負って腹を切る」


 というと、天道の勇次郎は、さっと半纏を脱いで着流しから背中の太陽の刺青をひるがえしドスを抜いた。


「石田佐吉殿、いいや、ここにおられる京都所司代の皆さま、自分で言うのもなんだが、京の都の天道の勇次郎、一世一代の頼みがある。聞いてくれねぇかい?」


「うむ、よかろう」


 それまで、柴田勝定、石田佐吉とのやり取りに、任侠の大親分の器量と心意気に好感すら抱いていた渡辺勘兵衛こと嶋左近が誰よりも先んじて応えた。


「おう!かまわん、なんなりと申せ!!」


 慌てて、最年長で京都所司代若手組の代表なような立場にあると自覚した柴田勝定が、横柄に言葉を継ぎ足した。


「へい、それなら申します。天道の勇次郎は、天道一家すべての責任を背負って、侍の作法に則って、ここで潔く腹を十字に掻っ捌いて切腹いたすやす。ただ、残った子分たちはオイラに乗せられて付き従っただけでさぁ。お見逃しの便宜を図るよう京都所司代、村井貞勝様へ掛け合っちゃくれねかい?」


 と天道の勇次郎は、こらから潔く果てる漢のすがすがしさをもって、柴田勝定に掛け合った。


「うむ、それはそのなんだ……どうしたものだろうのう江口正吉殿?」


 腕っぷしは立つが、事、責任などを急に求められると決められない男、柴田勝定は、隣にいた機転の利く江口正吉に答えを求めた。


「(小声で、なんで、わたしにきくんですか!)いや、その件は、此度の騒動の発端の一翼を担う石田佐吉殿に直接訪ねた方がよろしかろう」


 そこにいる一同は思った。江口正吉が言うように石田佐吉は確かに責任の一端を作った人間だが、佐吉はまだ十歳を少しばかり越えた前髪落としの鼻たれ小僧である。すべての責任を押し付けられて答えを出す責任者にするには子供すぎる。ムチャな話だ。しかし、石田佐吉は涼しい顔でキッパリと、


「うむ、天道の勇次郎の申し出、残った天道一家の面々の首尾はこの石田佐吉が請け負った」


 と即答した。


「よかった、話の分かるお方がここにいて、さすが、オレが見込んだ漢だ」


 と天道の勇次郎は白い歯を見せた。


「それじゃあ……」


 天道の勇次郎がサラシをめくって、腹にドスを突き立てようとした時、左近が脇差を引き抜いて、そのまま刀すら抜かず持ち手を、槍のようにまっすぐに天道の勇次郎の鳩尾辺りに打ち込んだ。


「うっ……」


 天道の勇次郎は、左近に、いきなり鳩尾を突かれ前のめりに崩れ落ちた。


「てめぇ、大親分に何をしやがる!」


 左近は、今にもドスを抜いて京都所司代若手組を取り囲んで袋叩きにでもしそうな勢いの、天道一家を制圧するような深く落ち着いてそれでいて、腹の底から響き渡るような声で、


「よいか、天道一家の者よ、よく聞け、天道の勇次郎の心意気やヨシ! しかしな、事は京都所司代、村井貞勝様。果ては、その上の大殿、織田信長様に弓引く行為だ。たかが、ヤクザ者の一つの命で片づくものではない。すべての責は天道の勇次郎が背負うとあってもしかりじゃ。ここで死なれては困るのじゃ。仔細一切、石田佐吉殿はじめ、この渡辺勘兵衛、及び、柴田勝定、江口正吉が引き受ける」


 左近がそう言い終えると、屋敷のくぐり戸が蹴り破られ、捕り物の縄や棒を担いだ御用役人が一斉に踏み込んだ。




 ――京都所司代、白洲――


 話が出来ぬように猿ぐつわをされた天道の勇次郎を先頭に、同じく、後ろ手に縄で縛り上げられた、大門の哲五郎、鷹山の太刀ノ介、杏林の寛吉、二ツ星の徳兵衛が連れて来られ、白砂の上に敷かれた蓆の上に座らされる。


 裃に着替えた村井貞勝が、式台に正座して、そのギョロ目を射すくめるように光らす。


 小姓から訴訟状を手渡された貞勝は、パラリと足元まで伸びる長い訴状を開いて、つらつらとよみあげる――。最後まで読み上げた村井貞勝は、黙って、すべての訴状を聞いていた天道の勇次郎に向かって、


「すべて委細ないな!」


 と念を押すように問いかけた。


 天道の勇次郎はすべてを飲み込んで、「委細ございません」と返事を返した。


 それを聞いた村井貞勝は、コクリと首肯して、


「裁きを申し渡す。天道の勇次郎以下子分たち二〇〇名はこの場において打ち首を申し渡す!」


 それを聞いた鷹山の太刀ノ介が立ち上がり、猿ぐつわをはめられたままに、


「(話がちがうじゃねか!)」


 と立ち上がろうとするのだが、二名の役人に左右から首を挟み込むように棒を打たれ制圧されてしまう。


 村井貞勝は、睨みつける鷹山の太刀ノ介を、しかと、射すくめるように見下ろして、


「まずは、そなたから打ち首じゃ!!」


「渡辺勘兵衛これへ!」


「は!」


 着物を襷がけに、額をキュッと鉢巻をした左近が、キリッツ、キリっと作法に則った所作をみせ現れた。そうして、打ち首になるまいと左右から棒で首だけ突き出して組み伏せられる鷹山の太刀ノ介が、縛られた体を必死で揺すって藻掻き暴れている。


 左近が、刀を引き抜く。


 刃紋がキラリと光った。


 次の瞬間、左近の刀は打ち据えられバサリと、鷹山の太刀ノ介の首を跳ね上げた。





 かに見えた。しかし、左近が跳ね飛ばしたのは鷹山の太刀ノ介が後ろ髪に三本、薄皮一枚といったところであった。


 振り落とされた刀にさすがに観念した鷹山の太刀ノ介も薄皮一枚でピタリと止まった左近の刀に、仰天の眼差しで村井貞勝を見返した。


 村井貞勝は、ニヤリと笑って、


「おい、鷹山の太刀ノ介。ヤクザ者としての鷹山の太刀ノ介は、今、死んだのよ。京の都は未曽有の疫病に苦しんでいる。京都所司代は猫の手も借りたいくらいの人手不足だ。これからは死に物狂いで京の都の庶民のために、京都所司代のいぬとして働いてもらうぜ、いいな」


 と白い歯を見せた。



 つづく






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