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136関所破り、美濃鶴ヶ城城主、河尻秀隆(カケルのターン)

 突然、カケルの阿保が、女に骨抜きにされた白花温泉の息子、富太郎に同情して、いやいやながら、事の仕置きをすることになった一行は、富太郎の女、伊織がいる細久手ほそくての町に入った。


 後の江戸時代、江戸から京都へ向かう中山道の四八番の宿場町だ。


 しかし、この世、戦国期の細久手町は、岩村城の武田家秋山虎繁と、織田家の精鋭部隊、黒母衣衆くろほろしゅう筆頭で、この度、最前線の鶴ヶつるがじょうの指揮官に大抜擢された河尻秀隆かわじりひでたかが睨みをきかせている。


 河尻秀隆は、四五歳。気難しい信長に認められ長年その親衛隊の筆頭に据えられるだけあって、槍を持たせれば家中でも一、二を争う剛の者で、中でも、馬上槍を遣わせたら家中随一の呼び声も高い。


 秀隆は、食料の問題でそれほどの身長は見込めない戦国期にあっても頭一つ頭抜けて高い。およそ、六尺(一八〇センチメートル)の大男だ。四〇を越えて、さすがに、顔にシワが目立つ年齢になったが、若い頃は、二重の大きな瞳と、精悍な顔つき、戦場で鍛えた筋骨隆々の体躯をほこり、戦から帰ると女たちが皆、気色ばるほどの美男子であった。


 しかも、信長の一番のお気に入りである。武勇だけではなく、機転が利いている。戦場で物見として偵察の任につくと、一見で、敵の急所を見抜いて、信長の戦術に要点だけを報告する鋭利な頭を持つ。


 そんな男が、細久手の町の入り口に城を構え見張っている。



 大和の国へ帰る北庵法印の連れとして、旅の一行に加わった武田家の重臣、山県昌景は、細久手町が見えてくると、ココは危ないと感じた。


 織田信長は先進的な経済政策として、市中で誰でも商売ができる楽市楽座政策を執っている。これは、楽市によって、人の出入り、流入を活発にするための政策だ。合わせて信長は人の流入をより促進するため国境の関所を片っ端から廃止している。それは、遠く離れた敵国の武田領内にも噂として、いや、もはや、常識として広まっている。


 しかし……。


(細久手には、関所があるではないか!?)


 これは、おそらく、信長の指示によるものではない。最前線を任された河尻秀隆が、独断で、武田との国境に関所を作ったのだ。


 理由は、武田は、草の者を使って、敵の内情をつぶさに調べ上げるからだ。


 カケルと共に、奥三河攻略戦で活躍した武田忍、透波者、加藤段蔵、望月千代女は、先の活躍で、影のように現れ影のように消え、陰ひなたに、武田家の攻略作戦に協力する姿が描かれた。


 兵馬をぶつける、いざ、戦となれば、その活躍の機会は減少するが、槍や刀を構えない緊張状態の最前線においては、本領発揮の部隊となる。


 その草の者の暗躍を水際作戦で押さえようとするのが、この関所だ。


(困ったことになった。体を検めておる)


 北庵法印の連れとして、薬箱を抱えた政吉として変装している山県昌景ではあるが、衣服を一枚脱げば、そこは歴戦の侍である。刀傷は元より、先ほどの戦で、未だ、治り切っていない刀傷もある。後ろについてくるカケルにしても、菅沼大膳にしても同じことだ。しかも、あの二人は、この戦国期には珍しい大男である。しかも、二人だ。もしも、関所に、目ざとい河尻秀隆の家来など居れば、一発で、変装を見破られてしまう。

(やや!? あの大男はもしや!!)


 関所の陣屋の中央に、華美な装飾の手槍を構えた背の高い美男子の大男がみえる。関所に、切れ者で名高い河尻秀隆恩自己から、検閲しているのだ。

(これは、大変なことになった!!)


 山県昌景は、武田信玄の遺言を守って、近江国(滋賀県)瀬田に、武田家の御旗を立てる使命がある。こんなところで見つかって死ぬ訳にはいかない。

(いまさら、左近と、菅沼大膳を連れて列を抜けるのも怪しまれるし困った……)


 山県昌景が、思案に暮れていると、関所の検閲を受けている若い男が、「怪しい奴!」門番に棒で棒で組み伏せられた。


 若い男は、自分が捕らえられた理由もわからないように動転するばかり。


「こんな、鉄砲と弾薬なんて、おりゃあ、見たことも触ったこともない」


「ええい、ウソを申せ、岩村へ向かうお主の荷にしっかりと隠しておったわ!」


「おりゃ、知らねえ!!」


 若い男は、陣屋へ連れて行かれ、河尻秀隆自身の検問をこれから受けることになった。


(しめた!)


 北庵法印の連れとして、警備の甘くなった隙を突き検問を突破しようとした時、


「山県殿お早く!」


 忍んだ声でほっかむりの農夫が声をかけて来た。


 ほっかむりを少し顔を見せた農夫は、見覚えのある顔。


「段蔵か!」


「へい、山県様、御急ぎを。今日は、たまたま、陣詰めが、城主の河尻秀隆ではなく、凡庸な、息子の河尻秀長だったから、こんな小細工に簡単に引っかかってくれたから良かったようなものの、これが、親父の秀隆だったら、こうは簡単には参りませんや」


「段蔵、助かる。恩に着る」


「へい!」


 北庵法印の一行として、山県様が関所を潜ろうとした時、関所に向かって早馬の侍が駆けつけた。


「おい、そこの大男二人の一行待て!」


 早馬の侍は、関所を潜る人間に目配せすると、目ざとく、大男二人を連れる北庵法印の一行を呼び止めた。


 加藤段蔵は、なぜだ! という驚きの表情をして、山県昌景に囁きかけた。


「いけねぇ、親父のお出ましですぜ」





 つづく

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