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133絶体絶命! 石田佐吉の信じる者(左近のターン)

「なに?! 京都所司代の手の者だと!!」


 狐火の新次の一言で、子狐一家に紛れて、天道の勇次郎の隙を見定めていた、京都所司代若手組は一気に取り囲まれた。


 渡辺勘兵衛こと嶋左近、柴田勝定、石田佐吉、江口正吉、未来を期待される織田家の若い家臣たちは

 絶体絶命の危機に陥った。


 鷹山の太刀ノ介が進み出て、


「これから、京都所司代と戦の出陣式だ。どうせ、このあと京都所司代と戦をして血を流すんだ。手始めにこいつらから血祭りにあげようじゃないか。ねえ、兄貴!」


 しっかり腕を組んでいた大門の哲五郎が進み出て、


「いや、この様子じゃ、オレたちの計画はすでに京都所司代に筒漏れのようだ」


「なんだって、じゃあ、兄貴、どうすりゃいいんでぇ」


「この先の仕儀は、大親分の心に従うよりしかたねぇ」


 樽の横に陣取って子分どもへ別れの杯をともしていた天道の勇次郎が立ち上がり、京都所司代若手組で一番年長の柴田勝定に睨み上げて、


「おい、お前! オイラの子分子狐の伝造はどうなった」


 天道一家の大親分の迫力に、さすがの柴田勝定も縮みあがって、


「あやつ自己から、京都所司代へ密告へやって来たのだ」


「なに?! 子狐の野郎は昔から心の底で何を考えてるかわからねぇ男だったが、大恩のある大親分、一世一代の計画を、売り払おうとしやがったのか!!」


 と、鷹山の太刀ノ介が、唾を飛ばして悔しさをにじませ激高した。


「オイラが聞いているのは、子狐の伝造がどうしたかじゃなくて、どうなったかだ。その質問に答えちゃくれねぇかい?」


 と、天道の勇次郎は、柴田勝定を見定めた。


「いや、そのことはワシは知らん。詳しいことは石田殿へ聞いてくれ」


 と、最年少の石田佐吉へ話を振った。


 それを、聞いた杏林の寛吉が、


「おい、そんな、前髪落としの小僧に何がわかるっていうんだ。お前ぇ、大人の癖に、責任を洟垂はなたれ小僧にあずけるったどういう了見だ」


 小僧も何も事の発端は、子狐の伝造から、天道の勇次郎の計画を聞いた石田佐吉が、否応なく、伝造の息の根を止めたのだ。そこから、坂道を滑り落ちるように話は進み、ことここに至っている。責任は間違いなく石田佐吉にある。しかし誰が見ても保護者たる柴田勝定にあるように誰の目にも見える。柴田勝定にしてみれば、「オレは巻き込まれただけでワシャ知らんで」ある。


「子狐の伝造はワタシが刺殺しました」


 と石田佐吉が表情一つ変えず涼し気な眉目のまま答えた。


「なんだと、お前が?! ガキッ、つまらねぇ冗談言ってるとただじゃおかねぇぞ!」


 と、鷹山の太刀ノ介がドスの利いた顔を近づけた。


 石田佐吉は、キリリと見返して、


「あやつは親子の杯を交わした親をも裏切る裏切り者ゆへ、天下国家の役には立ちますまいと考え処分いたした。なにか、文句でもござろうか?」


 と、聞き返した。


「うるせえ! なにが天下国家だ、オレたちのような庶民を食うや食わずの貧乏な暮らしに追い込んで置いて、てめぇらは、オイラたちから掠め取った米を食らってヌクヌクと暮らしやがって、分かったような口を聞くな!! おめぇみたいな侍のガキは世の中の役に立たねぇ、この場で叩き殺してやる!」


 と鷹山の太刀ノ介は石田佐吉を子狐の伝造の敵討ちに刺し殺そうと懐からドスを抜いた。


「待ちねぇ、鷹山の、そのガキの話をもう少し詳しく聞いて見ようじゃねぇか」


 と、天道の勇次郎が太刀ノ介を止めた。


「きかせてくれぇ、お前さんの天下国家ってやつを」


「わたしの目指す天下国家は、大一大万大吉だいいちだいまんだいきち。一人が万民のため、万人は一人のために尽くせば、天下の人々は幸福になれる。それにございます」


「ほう、おもしれぇじゃねか、では、その大一大万大吉の世の中をどうやって作る?」


「それは、農民から身を起こした羽柴秀吉様が作る天下です」


「なんだって、織田信長じゃなくて農民から身を起こした羽柴秀吉?!」


「そうです羽柴秀吉様です」


「その羽柴秀吉ってやろうがどんな天下を作ろうってんでぇ」


「羽柴秀吉様は、庶民が笑って暮らせる天下を作ろうと思っておられます」


「笑って暮らせる天下かい?」


「オレたちのようなヤクザ者、河原に暮らす人間も救ってくれるのかい?」


 佐吉は首を振り、


「いいや、本願寺のように、あの世の救いなんて求めません。生きている今生で実現しようとしています」


「そりゃ、おもしろいや。その羽柴秀吉って農民上がりの侍大将を応援すれば、小僧、お前の言う大一大万大吉の世の中が作れるのかい?」


 と天道の勇次郎は石田佐吉の目を真っすぐ見つめた。


 石田佐吉は、天道の勇次郎の目を真っすぐ見つめなおして静かに「そうです」と答えた。佐吉の言葉には曇りがなかった、純粋に、まっすぐに、羽柴秀吉の天下を信じている。それが、死期迫る天道の勇次郎には眩しかった。


「よし、わかった。おめぇの言葉を信じよう。おめぇたち、京都所司代を襲撃する計画は無しだ。それに、今日本日をもって、天道一家は解散する」


 動転した鷹山の太刀ノ介が、天道の勇次郎に尋ねた。


「大親分、これから、オレたちはどうするんでぇ?」


「いいか、おめぇたち、オレたち天道一家は、今日よりこの時より、この羽柴秀吉を信じる石田佐吉殿へ仕える。これから、命がけで働くんだ!」



 ピュルル~、ピュルル~。


 天道の勇次郎の心が定まった時、屋敷を取り囲むように、捕り物の笛が鳴った。


 若い子分が駆け込んで来て、


「親分、京都所司代のとりものでぇ、ここは、すでに取り囲まれている!」




 つづく


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