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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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114三方ヶ原の戦い9 三河武士の夢(カケルのターン)

 徳川の兵を掻き分けるように、抜刀した白髪交じりの上泉伊勢守が剣を振るう。この年、還暦を優に越え、六十四歳になる老人の伊勢守は、バッサバッサと徳川の兵を切り分けながら息も荒げず、鳥居四郎左衛門の前に躍り出た。


「その剣の太刀筋、もしや、お主は上泉伊勢守!」


「ほう、ワシを存じておるか、ならば、切り捨てる前に、お主の名前を聞いておこう」


 すると、鳥居四郎左衛門は、頭の上で小枝を振るうように、頭の上で槍をグルグル回して、


「やあやあ、我こそは、徳川家家臣、鳥居四郎左衛門なり、剣聖、上泉伊勢守なれば、相手にとって不足なしかかってまいれ!」


 乱戦になった戦場にポツンと輪ができた。その中心に、刀を構える上泉伊勢守と、槍を構える鳥居四郎左衛門があった。


 キリッ! キリッ!


 上泉伊勢守は、足元を寸分の動きで摺り固めつつ間合いをはかる。


 対する、鳥居四郎左衛門は武勇に鳴らし意気揚々と槍を振るった。


「なんだ、剣聖と呼ばれる上泉伊勢守の剣の評判もこけおどしであったか。ならば、こちらから参るぞ!!」


 すると、鳥居四郎左衛門は、上段、中段、下段の三段階を巧みに使い分け乱れ突いて来た。


 それを上泉伊勢守は剣でうけとめようとはせず、ポ~ン、ポ~ンと、身体を真綿で包むように円の軌道で、槍を受け流す。


「なんじゃ、こやつは!! まるで、柳を相手に槍をふるっているようじゃわい。しかしのうここは戦場じゃわい道場剣法がこの戦場ではいかに無力かを教えてやる」


 と、鳥居四郎左衛門が云いおえるやいなや、槍の穂先で地面の表面を薄く履いで撒き上げた。目つぶしだ。


 指物、上泉伊勢守も、この攻撃には思わず目をつぶらずにはいられなかった。


 刹那!


 ヒュンと鳥居四郎左衛門の鋭い突きが上泉伊勢守の肩口を襲った。


 視界を奪われた上泉伊勢守は、なんとか、紙一重で躱すのがやっとである。


「どうした、どうした。剣聖と謳われる上泉伊勢守の剣技を見せてみよ。オラオラオラァ~!!」


 すると、上泉伊勢守は鳥居四郎左衛門の槍を大きく跳ね上げたと思うと、スタンと、飛び退さった。


「ほう、ワシの間合いから逃げたか」


 上泉伊勢守は、目を拭って、視界を取り戻し、


「侍同士の一騎打ちに、卑怯じゃぞ鳥居四郎左衛門!」


「卑怯じゃと、馬鹿を申せ上泉伊勢守よ。剣術修行と申して、諸国漫遊しておる間に、戦場の厳しさを忘れたか愚か者め! それ、皆の者、上泉伊勢守は袋の鼠じゃ、円を狭めて槍衾やりぶすまを食らわせて討ち取れ!!」


 鳥居四郎左衛門の号令で、上泉伊勢守を取り囲む兵たちが、槍を構えて方円を狭めた。


「それ、突き刺せ!!」


「おーー!」


 上泉伊勢守目掛けて一斉に四方から槍が飛んで来た。


 上泉伊勢守は静かに目を閉じて、


「新陰流奥義、まろばし!」


 と、呟いた。


 四方から飛んでくる槍に、目を閉じた上泉伊勢守は、まるで、心穏やかに髪を薙ぎ、風を受けるように、槍のわずかな乱れ、寸分の遅れに、刀を滑りこませた。そこへ身をねじ込むと、ピョンと、下がった槍を踏み台に飛び上がった。四方の槍の上を走って取り囲む槍隊の首をバッサバッサと跳ね上げた。


 そして、上泉伊勢守は、スタタと、鳥居四郎左衛門の胴を抜いた。


「ヌヌヌッ! まさに、無双の剣聖よ!!」


 四面楚歌の状況から、刀一本、死地をひっくり返した上泉伊勢守は、鳥居四郎左衛門を討ち取ると、ピュンと、刀の血しぶきを払って、刀を腰の鞘へ納めると、まるで、役目を終えたように、クルンと背を向けて内藤昌秀の待つ陣地へ引き上げて行った。




 上泉伊勢守が引き上げるあいだ、大将を失った左翼の陣は、右翼に兵を向けた内藤昌秀と入れ替わりに、津波の如く攻め寄せた青い鎧で固めた馬場美濃守信春の軍団により掃討された。




 鶴翼の陣の徳川軍は、右翼、左翼の両翼を潰され残すは、正面で踏みとどまる本多忠勝と本陣だけとなった。


「ぐぬぬ、信玄坊めよくも、よくも」


 徳川家康は、軍配を叩き捨てんばかりに激高と落胆が脳裏に押し寄せた。武門に優れこれと頼んだ、中根正照と鳥居四郎左衛門があっけなく討ち取られたのだ。残すは親衛隊の本多忠勝がどこまで持ちこたえるかで、家康の命運はかかっている。


「ええい、ワシの命運はここまで腹を切るぞ!」


「なにをおっしゃいます殿! 殿はまだお若い。こうなれば、殿軍しんがり(最後に残って敵の追撃wに立ち塞がり、撤退する者を逃がす命を捨てる覚悟の一軍)とこの陣はワタシが引き受けまする。殿は、浜松城にお逃げください」


 と、徳川家康と面持ちが似通った夏目吉信がいった。


「いいや、織田殿の援軍が当てにならない以上、ワシの命運はここまでここで腹を切らせてくれ!!」


 すると、夏目吉信が眉間にシワを寄せ目を吊り上げて、徳川家康を殴り飛ばした。


「殿、心を強くお持ちなされ。どんな時も、大将たる者は、最後のときまで、勝利をあきらめぬもの、すべてを投げ捨てあきらめた時、大将は死ぬのです。よいですか殿、ワシら三河武士は、弱小ゆへ、織田と今川に挟まれ日和見な立場を強要された。しかし、殿の作る新しい徳川の未来を我ら、三河武士は信じて命をかけているのです。まだ、正面には、殿を信じて命を張る本多忠勝、榊原康政、酒井忠次がおり、側近には、本多正信もおります。彼ら、若い者が生き残れば何度でも徳川は立ち上がれます。なにとぞ、ここは、お逃げください」


 そういうと、夏目吉信は己の甲冑を脱ぎ捨て、家康の日輪の如く輝くシダの葉の前立ての兜の紐をほどき、恭しくいただき、己はかぶり直しキュッと兜の紐を絞めた。


「殿、ワタシが、殿の影武者を承りました。次に、会うときは殿が天下人になって、天に召されるあの世ですぞ。どうか、しぶとく何があっても生き残られよ。さらばにござる」



 つづく





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