110決戦! 三方ヶ原の戦い7家康の反撃!(カケルのターン)
「この音はなんじゃ?」握り飯を食らう徳川家康の耳に、馬群の音が近づいてくる。
「ドッドッ! ドッドッ! ドッドッーーー!
「殿!! 霧の向こうから馬の蹄の音が聞こえて参りました」
そう、側近の本多正信に告げられた徳川家康、とっさに、顔色が青ざめた。
「まさか! いかぬ、これは武田の奇襲じゃ、忠勝! 本多忠勝はおるか!!」
「おう!」
緊急事態を告げる家康の言葉に、槍を柱に、不動の構えをみせていた本多忠勝が、一歩、進み出た。
「よいか、忠勝、この蹄の音は武田じゃ。すぐさま叔父御の忠真と共に駆けつけ、前線を立て直せ!」
「おう!」
「次に、康政! 榊原康政はおるか!!」
「こちらに!」
家康の言葉に、榊原康政が進み出た。
「康政、お主は、前線を支えに向かった忠勝と入れ替わりに、新手として敵の騎馬隊の側面をつけ!」
「おう!」
「次に、忠次! 酒井忠次はおるか!」
「殿、いかようとも申しつけ下さりませ」
「忠次、ワシは、夏目正吉を影武者に本陣を離れるゆへに、ワシに成り代わり、采配をふるえ!!」
「ハッ!!」
「よし、未だ武田は三河路よりの進軍の態勢は出来てはおらぬはずじゃ、いざ、者どもすすめ!」
――同じ時刻12:00。
真紅の鎧につつまれた騎馬隊が、漆黒の巨馬にまたがる大男、嶋左近こと現代の高校生、時生カケルを先頭に砂煙あげて、駆けて、駆けて、駆けて、駆ける!
「おう、あれに見えるは徳川の先陣、本多家の家紋、丸に本の文字だ。かかれーーーーー!!」
カケルを先頭に、真紅の騎馬隊三〇〇〇が放たれた弓矢のごとく勢いを増し、黒で統一された徳川の先鋒本多隊を切り裂いて行く。
「左近! あれに見える、向こう傷は本多忠真ぞ!」
と、菅沼大膳が、カケルに言った。
「よし!」
静かに頷いたカケルは「せいや!!」愛馬、霧風の腹を蹴り加速度を増し、槍を構える本多忠真をすれ違いざまに、一合のもとに跳ね上げた。
カケルは、そのまま本多忠真の首は後陣に任せて、さらに、駆けた。
騎馬を駆ける徳川家康の元へ伝令が走る。
「殿、本多隊が武田の赤備えに突き崩されましてございます」
「なに、もうすでに、山県昌景が動いたと申すのか!?」
「いえ、こたびの先鋒の赤備えを率いるのは嶋左近と申す者にござります」
「何者じゃ?! そやつは、詳しきことはわかりません。ただ、一言坂において本多忠勝様と互角の戦いに及びかかれ!! かかれ!! と……」
「まさか、あやつか! イヤじゃ、あの声は、もう聴きたくない」
と、徳川家康は顔をしかめて、一言坂の戦いおいて、「かかれ!! かかれ!! かかれ!!」の声に追い詰められ、命からがら逃げだした悪夢を思い出した。
家康は、ヒステリックに取り乱し、
「だれや、あの嶋左近とやらを討ち取って参れ」
「おう!」
声の主は、先の二俣城の城主で山県昌景によって頭を剃られふんどし一枚で、牛舎にゆるりゆるりと運ばれて戻ると言う屈辱をうけた中根正照が名乗りをあげた。
「殿、ここは、某にあの嶋左近にうけた雪辱を晴らす機会をお与えくだされ!!」
「おお、中根正照か、早う行ってここに嶋左近の首をもってまいれ!!」
それでも、家康の震えはとまらない。
「他に、たれぞあの嶋左近が首を上げに名乗り出る者はおらぬか!!」
「おう!」
「おお、そなたは鳥居四郎左衛門忠広。家中随一の武勇で鳴らしたお主が行ってくれると心強い。今すぐ行って嶋左近が首を撥ねて参れ!!」
真紅の嶋左近隊が駆ける!
そこへ、黒い鎧の大男が立ち塞がる。
カケルは、愛馬、霧風の腹を蹴り疾風の如く切り抜けた。
今度の男は、本多忠真のように簡単にはいかなかった。
ピタリッ!
真紅の騎馬隊の足が止まった。
「ひゃ~っ! さすがは本多忠勝。あの、一言坂の一騎打ち以来だね」
「おうとも、嶋左近。お主には我が叔父忠真が討ち取られたと聞いた、叔父の仇として、ここ三方ヶ原で戦塵に散ってもらおう」
「いいよ~、戦国最強本多忠勝と、戦の鬼嶋左近の一騎打ち最高じゃないか」
「ほう、嶋左近よ、まるで、他人事のように話すな、さすがは、ワシが、認めた男よ。その肝っ玉やよし! だが、お主にはここで死んでもらう」
本多忠勝は、そういうと、「ソリャッーーーーー!」豪槍、蜻蛉切を振り回して、向ってきた。
カケルは、それをうけて、「オウとも!」気合をいれて立ち向かう。
「皆の者、忠勝殿につづいて押し戻すのだ!!」
と、忠勝配下の梶勝忠が号令をかける。
梶勝忠の号令に従い、配下の都築秀綱、河合政光が槍を振るってつづく。
「左近殿を敵中で孤立させてはならぬぞ!!」
田峯城の赤鬼菅沼忠正、青鬼大膳の親子が、迎え撃つ。
先端は嶋左近ことカケルと、本多忠勝の一騎打ちによって膠着した。カケルと忠勝は、互いに、突けば払い。払えば突きの一進一退の攻防を続けている。つづいた本多忠勝の家臣、梶勝忠と菅沼大膳、都築秀綱と菅沼忠正の攻防もしかりである。
「おお、間に合ったぞ! これで、形勢逆転じゃ」
そこへ、徳川家康が差し向けた刺客、中根正照と、鳥居四郎左衛門が駆けつけた。
つづく




