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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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108三方ヶ原6 いざ行かん!(カケルのターン)

 徳川家康が出陣したのは、昼をとっぷり過ぎた昼下がりだ。


「そんな、はずはない……」


 家康は、三方ヶ原から下りの犀崖さいがけへ差し掛かる頃合いをはかって討って出たはずだ。


 なのに、三方ヶ原に、霧がかかった――。


 徳川軍には武田軍が三方ヶ原を折れ、三河へ向かったという、情報以外は、この突然の霧が視界を隠して伝わってこないのだ。


「きっと、武田は今頃、犀崖の一本道を長蛇の列で進んでおる。いまこそ、そこを突けば信玄の首は我がものとなろうぞ! 者どもつづけ!!」



 一陣の突風が吹いた――。


「殿! 三方ヶ原に赤備えが見えますぞ!!」


 武田への奇襲に成功を確信していた徳川家康は、伝令の「赤備え!」の言葉に耳を疑った。


「まことに、武田の赤備えか!!」


「はい、あの赤地に白桔梗しろきっきょう幟旗のぼりばたは、正しく、武田の先鋒、山県昌景隊の物でございます」


(しまった! 我らは武田の陽動作戦にまんまと城中から釣りだされてしまった!!)


 家康は、悔しさで苦虫を噛みつぶしたような表情を見せ、


「ええい! こうなっては城への退却もままならん。この上は、玉砕覚悟で武田信玄の素っ首、討ち果たすまで、本多真勝、忠勝隊を右翼に、酒井忠次、榊原康政隊を左翼に、鶴翼に展開し迎え撃つ!! 者どもかかれ!!」


 家康の激が飛び、本多忠勝、榊原康政が馬に鞭をくれた。




「うへ~~! 霧が晴れたら、徳川軍が現れた」


 と、武田軍の最後尾の嶋左近と魂が入れ替わった現代の高校生、時生カケルが、驚きの声をあげた。


 カケルと、巨大な愛馬、霧風に、山県昌景の娘で女武者の山県虎が駒をならべかけて、


「左近、我ら、武田軍でも、こたびのような大戦おおいくさを知るは、上杉謙信との川中島決戦を経験した歴戦の四天王のみだ。我ら、若い衆は、このような大戦は初めて、腹の底がブルブルと震えるようじゃ」


「大丈夫だよお虎さん。この戦、誰より先に、俺が(霧風の首をなで)こいつと、先陣を切るよ。だから、お虎さんはここで、俺と、みんなが戻るのを待ってってよ」


 だらしない男だとばかり思っていたカケルの思いがけない勇気ある言葉に、山県虎は思わずほほが蒸気する思いがした。


「馬鹿者! お主のような未熟者に一番槍を託して、私が、後方へ控えて居るなどできるものか!!」


 カケルは、お虎の言葉に、不思議そうな表情を浮かべて、


「そうかな、お虎さんだって、女の子なんだし、どうせなら、お姫様みたいにキレイな着物を着て、お城で、春の黄色い菖蒲の花なんかを愛でて暮らしたいんじゃない。女の子は、その方が平和でいいよ」


 お虎は、顔を真っ赤に蒸気させた。


 それを見ていた奥三河三方衆の菅沼大膳が、


「ほほほ、これはお虎様も、左近殿の言葉に、顔を真っ赤にされておりますな、ほほほ~~~!」


「これ、止さぬか大膳!」空気を読まない、大膳のデリカシーのない言葉に、隣の父、正忠が窘めた。


「なにを、止さぬかでござるか、父上、戦人いくさにんは、槍に命をかける男道。一度、戦場いくさばに駆け出せば、どこで、野垂れ死のうと、後悔をせぬように努めるがかんようじゃと父上が申したではござらぬか。だから、ワシは、ウツラウツラしている左近殿と、正直になれないお虎様のかわりに、正直に申したまでじゃ」


「大膳、それは、そうじゃが、なにも、皆の面前で声を大にしていうことはあるまい」


 そこへ、トロトロと、ロバのような小さい馬に乗った奥平貞能が、近づいて、


「これだから、武骨者は困るのだ。よいか、大膳、女心というものは繊細なものだ。お主が、明け透けに、お虎様の左近に対するほのかな思いを大声で皆に吹聴するものだから、ほれ見よ、お虎様が困惑しておるではないか!」


 慌てて、、奥平貞能の隣の嫡子、昌信が、


「父上、お控えください。それでは、大膳様の言葉を丁寧に上書きされたことになりますぞ」


 そこへ、ポクポクと、のんびり菅沼昌貞がカケルへ馬を寄せて来た。近づいた昌貞は、懐から、いつ摘んだのか黄色い菖蒲の花束を鎧の胸から取り出して、「これを」と、左近へ突き出した。


 左近は、昌貞から突き出された黄色の菖蒲の花の意味がわからずキョトンとしていると、つづいてやって来た菅沼昌貞の叔父の満直が言葉をつぎ足した。


「昌貞殿は、左近殿からその花を、お虎様へ渡すよう申しております」


 言葉を継いだ満直の言葉に、昌貞はコクリと頷いた。


 カケルは、昌貞から黄色の菖蒲の花束を受け取ると、素直に「ほら、これ、お虎さん、みんなから――」と、なんともいえない爽やかな微笑みで、お虎へ渡した。


 黄色の花菖蒲の花束をを受け取ったお虎は、カ~っと、耳まで赤くして、ポツリと左近に、


「左近、必ず、生きて帰れよ」


 すると、カケルは、涼し気な微笑みを浮かべて、「もちろんさ」と頷いた。


「お~~、お~~、お~~、きたぞ~~、きたぞ~~!」


「なにが、来たのじゃ大殿?!」


「来ましたぞ父上、腹の奥底からデカいのが!」


「まさか」×7



 バフッーーーーーーーー!


 放屁一発、カケルとお虎の甘い空気も、一瞬でぶち壊しになった。


 しかし、熱い、熱いの~~。父上、ワシも、この戦が終わったら絶対に、嫁を段取り下されや。絶対ですぞ、天地天明に誓って約束ですぞ!」


 その大膳の言葉を聞いたお虎は、冷静を取り戻し、さっと、仮面をかぶって表情を隠し、


 ドンと、大膳の腹を槍の背で突いて、腹を押さえて苦しがる大膳をかたわらに、


「よし、準備は整ったぞ。左近、皆に、号令を!」


 左近は、右手に握った大千鳥十文字槍を天に向かって突き上げて、


「よし、みんな、目指すは徳川家康のみ、まっしぐらに馬を走らせ、一番手柄をつかみ取るぞ。いくぞ、者ども、かかれーーーーー!!」



 つづく

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