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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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107京都所司代、村井貞勝(左近のターン)

 ――京都――


 京の町の大通り、一匹の野良犬が肉を咥えて走って行く。


 明るい昼日向から軒を連ねた大店は暖簾を下ろし、戸を閉め、大通りには人っ子一人居ない。


 そこへ旅支度の現代の高校生、時生カケルと魂の入れ替わった嶋左近こと、明智光秀家臣、渡辺勘兵衛と、木下藤吉郎家臣、石田佐吉。それに、同じく信長の面接に合格した、織田家の重臣柴田勝家家臣、柴田勝定。丹羽長秀家臣、江口正吉えぐち まさよし。が、娘支度のくノ一、すずめに道案内されやって来る。


 野良犬を見送って、最年長の三十路をまわった柴田勝定が口を開いた。


「花の都、京の町とは申せ、野良犬が生肉を咥えて往来を走るなぞ、京はどうしたのじゃ?」


「それに、大店はどこもかしこも戸を閉めて、賑わいは、どこ吹く風、いったい、都はどうしたのでございましょう」


 と、まだ、若い青年の江口正吉が応じる。


 たんたんと、道案内するすずめが、


「京の都は、ただいま、流行り病で、外出禁止令が出されておりますので、皆、このように用心に務めておりまする」


 と、そこへ、


「どこへ、行った野良犬! おっとうの腕を返せ!!」


 棒切れを振り回して、まだ若い娘が血相変えて野良犬が駆けて行った方角へ追いかけていった。


 しばらくすると、娘は、頭から血を流し叩き殺された野良犬を抱えて引き返してきた。


「まて、娘、ぶっそうな物を振り回したどうしたのじゃ」


 と、柴田勝定が目を向いて呼び止めた。


「なんだ、侍、文句でもあるのかい。この、犬っころは、育ててやった恩もわすれて、おっ父がお死ぬと、その右腕を引きちぎって逃げやがったから、叩き殺してやったんだ」


「まてまて、娘、話がよく呑み込めぬぞ」


「犬は、畜生だからよ。恩も義理もなく、腹を空かすと、死んだ人間を食らうんだよ」


 柴田勝定は頭をふって、


「そんなはずはない。ワシも国許に犬、力丸を飼っておるが、人によく懐いて賢い犬だぞ」


「侍、おめぇ、頭はだいじょうぶか? 犬はな、人に従うのは人間が力が強くて元気な間だけだ。あの畜生は、人が衰えると、人間が死んだらどこから食らおうか、よだれを垂らして待っておるんだわ」


 柴田勝定は、信じられないと言った表情で、江口正吉の顔を見た。


「いいえ、私は、存じ上げませぬ」


 柴田勝定は、今度は、左近をみて、


「渡辺殿、ご存知か?」


 左近は、そんな話を、昔、負け戦で農村から駆り立てられた足軽から聞いたことがある。その話は、犬ではなく、食うに困ると、貧しい農村では、弱い者から肉になると聞かされたことがある。そんな、鬼畜な話があるくらいなのだから、犬なら尚更だろうと思った。が、実際に、目にした話ではないので、


「存じ上げぬ」


 と、返事をした。


「そうか……」


 柴田勝定が、詮索をあきらめて、娘の処遇をどうするか思案していると、石田佐吉が冷めた口調で口を開いた。


「犬が人の腕を咥えて走り行くのを柴田殿、見たでしょう。現実とは、そのようなものです」


 と、石田佐吉が、二十歳程、年長の柴田勝定をやりこめた。


 このままでは、柴田勝定と、石田佐吉の口論になると見た左近は、佐吉を窘めるように、


「石田佐吉殿、お主は、最年少ですぞ。大人に口答えするようでは、あなたが、あの犬っころのようになっても我らは手助け致しませぬからな」


 と、ピシャリと釘をさした。


「ムムム……」


 こうなっては、今にも拳を振り上げようとしていた柴田勝定も矛を収めるしかない。


 左近は、険悪な雰囲気をかえようと話題を転じて、そうそうに、娘に銭を掴ませ「これで、父上の供養をしてあげよ」と、犬の処分は問わずに行かせた。


 江口正吉が、慎重に柴田勝定と、左近こと、渡辺勘兵衛の処し方の違いにうんうん頷いて納得している様子だ。また、左近に窘められても、悪びれもせず、聞き流した石田佐吉に、一瞥くれて、次の瞬間には、笑って対応していた。


 それを、黙って見ていた左近は。


(石田三成殿、いや、佐吉は、年少の頃から、日に衣着せぬ悪弊があったのか。柴田勝定殿は、親切なれど、武断派の柴田家の家風なればしかたがないこと。しかし、この丹羽家より来た、江口正吉なる者、なかなかに利口者やも知れぬな)


 と、同行する織田重臣家の選りすぐりの人物に思案を巡らせた。



 ――京都所司代・代官所――


 京都所司代とは、織田信長が、足利将軍、足利義昭を庇護した時に、京との治安維持のために設置した代官所である。


 信長は、足利義昭と幕府を監視する役割と、この時代の日本最大の都市、京都を管理すべく、その任に、今年五十二歳になる髪に白い物が目立つ吏僚の村井貞勝を据えた。


 村井貞勝については、先に述べたように、武力で立身出世に這い上がる戦国時代にあっても、現代の官僚的な吏僚の身分にあって、頭と機転で、この地位にまで登り詰めた男だ。


 貞勝の政策は、大店、大寺院の宗教勢力に税をかけ、その力を削ぎ、織田家の力に転嫁する政策をとっている。


 このことによって、大店には、目の上のたん瘤と煙たがられ、隙あらば、その命すら狙われかねない立場だ。


 しかし、貞勝は、己の出仕。貧しい農民から這い上がった経験から、商人の狡さ、宗教勢力がいかに、庶民の心の弱さをついて、上手に銭をせしめているかを知って、知って、知り抜いている。


 貞勝は、己のような苦労をする人間は、未来の世代にはせずともよい未来を願っている。だから、立身出世の道具。己の行政手腕を、出し惜しみすることなく、自ら信長に願い出て、家中より、選りすぐりの知能を集めて、己が配下に置き実践をもって教育しようというのだ。


 私欲の無い村井貞勝は、”高潔の人”である。



 つづく


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