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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
105/406

105木下家の秘事、佐吉、京へ行く(左近のターン)

 カポ~ン!


 とうとう、左近は、半兵衛に身を守る木刀を弾き飛ばされた。


 半兵衛は、腕に渾身の力を込め、左近の脳天を叩き割らんばかりに振り下ろした。


「この稽古そこまでじゃ!」


 ピタリッ!


 半兵衛が、今まさに、左近の頭蓋を叩き割らんばかりの時に待ったがかかった。


 半兵衛の木刀は左近のその前髪を揺らしただけで止まった。


 左近は、寸前のところで命を救われた。


 待ったをかけたのは「渡辺勘兵衛を殺せ!」と、半兵衛に告げた張本人の木下藤吉郎その人である。


 左近が、声を追って木下藤吉郎の方を見ると、子供のくせに、この木下の家にしては珍しい、身なりを綺麗に整えた小僧がついていた。


「すまぬ、渡辺勘兵衛殿、ワシの座興がすぎたみたいじゃ。この佐吉が助言してくれねば、もう少しで、ワシは取り返しのつかないことをするところであった。勘兵衛殿許してくれ」


(佐吉……木下殿は、今、佐吉と申したか……)


 木下藤吉郎が紹介した佐吉という少年こそ、将来の左近の主、石田三成である。しかし、まだ、この頃は、他の木下家の子飼いの虎之介、市松、安治、助作、孫六、権平たちとともに、教育係の竹中半兵衛につけられて、朝夕は、剣術、槍術の武術の稽古。昼は、武経七書(孫氏、呉氏、尉繚子うつりょうし六韜りくとう、三略、司馬法、李衛公問対りえいこうもんたい)で武将としての思考、身の処し方を学び、半兵衛と寝食をともにすることで、武将としての英才教育をこの天才軍師から十把一括じゅっぱひとくくりに学んでいる。


 だが、佐吉は、学問は誰よりも利口に上達するのだが、剣術、槍術に至ってはからっきしダメだ。最近では、生真面目な半兵衛でさえ、佐吉にムリに虎之介たちにまじって剣術、槍術、武術の稽古に参加は強制しない。


「佐吉、お主は、頭が剃刀のように切れるゆへ、朝夕は、殿(木下藤吉郎のこと)に侍って、武術の代わりに処世術でも学ぶのがよかろう」


 と、木下藤吉郎の直属の小姓にしている。


「佐吉のやつ、うまくやりやがって」


 どちらかというと学問が苦手な虎之介、市松などは、佐吉をあからさまにやっかみなんで、不満をもらすことも多い。


「コラ! 虎之介、市松。お主たちは武術が得意であろうが、学問は、もう一つじゃ。佐吉は、学問の上達は、早いが、武術はからっきし。人にはそれぞれ得手不得手えてふえてがあってな、世の中を生き抜くにはそれぞれが、得意、不得意を、補い合って、支えあって回っておるのだぞ」


 と、半兵衛は、わんぱく坊主たちの憤懣を窘めている。


 それでも、わんぱく坊主どもは、半兵衛の目の届かないところで、佐吉の頭をゲンコでぶん殴って憂さを晴らそうとするのだが、佐吉は佐吉で、


「虎之介、市松、オレを殴りたければなぐればいい。お主たちは侍大将にはなれようが、オレはいずれ、殿の御側近くに仕え、竹中半兵衛殿を越える軍師になるのじゃ」


 と、やり返すから始末が悪い。


 そうなると、元々、血の気の多いわんぱく坊主は「なにを!」と、もっと、ゲンコを食らわす。


 佐吉は、力では敵わないのでやられっぱなしになるのだが、嵐のようなイジメがすぎれば佐吉はきっちり半兵衛に告げ口してやり返すのだ。


 半兵衛は慣れたもので、佐吉をみんなでイジメた裁きは、飯抜きで、いっそう激しい稽古をわんぱく坊主たちに食らわせる。


 わんぱく坊主も、この高潔な半兵衛先生の生徒たちである。いくら気に入らないとはいえ、イジメはイジメ、過ちは過ちである。素直に、非を認め、半兵衛先生の処罰をうける。


 佐吉が、執念深い性格なら、この半兵衛の処置は甘いと思うかもしれないが、佐吉も、わんぱく坊主たちも、この半兵衛の処置を適当ちょうどいいと思っている節があって、あくる日には皆、ケロとしている。


 主の木下藤吉郎も、「さすがは、半兵衛じゃ」手放しで称賛して任せている。




「半兵衛、ちと、こちらへ」


 と、藤吉郎が手招きした。


「実はの、信長様の提案で、家中の若者で、吏僚の才のある者を集めて、京都所司代の村井貞勝殿へあずけて、将来の織田家の吏僚仕事を円滑にこなせる者を増やしたいそうだ。ワシの従兄の虎之介と市松はどうじゃ?」


 半兵衛は、顎を傾向け、


「虎之介は、家中の少年たちのまとめ役なれば、このまま、家中において置き、私の手元で一角の侍大将に育てとうございます」


「ならば、市松か」


 半兵衛は頭をふって、


「市松は、とても、短気ものにて吏僚には向きませぬ。行かせても、喧嘩をして、数日で連れ戻されることでしょう」


「うむ、ならば、安治、助作、孫六、権平はどうじゃ」


 半兵衛は静かに、声を落ち着かせて、


「殿、いくら佐助が身の回りに置いておくと、目先が利く重宝ものとはいえ、小姓に置いておくよりも、適任者は佐助にございます」


「しかしの佐助は、ホンに重宝者なのじゃ。こないだなど、ワシがコレ(小指を立てて)と、町で会っているところを女房の寧々(ねね)の腰元に見つかり告げ口されたのじゃ。ワシが、寧々にとっちめられておるところを、佐吉のやつが、頃合いを見計らって、『殿、大殿よりの使者が来ております』とやりおって、ワシを救い出す配慮を示したのじゃ」


「佐吉のやつは機転が利きますからな」


「そうなのじゃ、これからも、ワシの浮気が寧々に知られたらワシの身がどうなるか知れたものではない。佐吉は手放しとうはない」


 半兵衛は頷いて、


「なおさら、佐吉が適任であることがわかりました。佐吉の後の小姓は凡庸ぼんようなれど、助作あたりを侍らせておけば身の回りのことはまかなえましょう」


 藤吉郎が半兵衛に小指を見せて、


「これはどうなる?」


「それは、助作には務まりますまい。それぐらいご自身で対処なされたらよろしいござる」


「半兵衛、そう、冷たいことをいうな。知恵をかせ~~」


 と、半兵衛は稽古に戻っていった。



 半兵衛は、渡辺勘兵衛こと、左近に近づいてきて、


「渡辺殿、お聞きになられましたか? 先ほど、われらが渡辺殿の才を恐れて誅しようとしたのは事実。どう、詫びてもお許しいただけぬであろうゆへ、木下家の秘事をお見せ致しました。我が、木下の家は、京都に、佐吉を送ります。渡辺殿も明智に戻られましたら、京へしかるべき方をお建てになることと存じます」


「いいや、半兵衛殿、今日の稽古は、久しぶりに生きた戦場の稽古ができたと感動致しております。その上、あの天才軍師と名高い半兵衛殿と面識ができたことは幸いに存じます。かたじけのうござる」


 半兵衛は、うんうん、頷いて、


「うん。斎藤利三殿は、良い家臣を見つけられた。また、どこかで会いましょう渡辺勘兵衛殿」


 と、左近へ深々と頭を下げた。






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