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【改題】嶋左近とカケルの心身転生シンギュラリティ!  作者: 星川亮司
二章 激突!武田vs徳川 三方ヶ原の戦い
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100三方ヶ原の戦いその2(カケルのターン)

 徳川との決戦を前に、山県昌景から風林火山”風”の隊の最先鋒、一番隊を外された左近隊は、最後尾に位置する武田信玄のそのまた最後尾に着けられ差配も信玄配下となった。


 武田信玄の陣屋へ向かうカケルは、不満気な山県虎をなだめながら並んで馬を歩ませる。


「まあ、そう、怒っちゃいけないよお虎さん」


「何を申す左近よ。大事な徳川との戦において、先鋒の名誉を失うのだぞ、これが悔しくなくてなんとする!」


 と、お虎はピシャリとカケルをたしなめた。


 カケルと一緒に、嶋左近隊としてついて来た奥三河の山家三方衆の田峯城の城主赤鬼、菅沼定忠、息子で青鬼、大膳と揶揄される巨体の親子は、この仲の良い痴話げんかを繰り広げる若夫婦のようなカケルとお虎を可愛らしい物でも見るように目を細めて眺めている。


「父上、左近殿はあれでどうして隅にはおけませぬな」


「そうよのう大膳、あの武田の赤備えで近隣にも名の知れ渡る山県昌景殿の娘御が連れ添いなれば、あの左近殿もいずれは一軍の将になりうる器量を見出されたのやも知れぬ」


「父上、ワシも左近より年長でござれば、この徳川との戦が終われば、このワシにもそろそろ縁談なりを世話してくださいまし、ワシは、左近殿とお虎様が羨ましゅうございます」


「そうじゃのう。大膳、お主の器量なれば……(カケルの馬の鼻緒を掴んでいた望月千代女を指差して)あの多少年増ではあるが、あの如相はどうじゃ?」


「父上、あの女は忍びでございます。いつ何時、寝首を搔かれるかもわかりませぬ。もっと、こう、野辺の花のように、可愛らしゅうて、戦を終えて家へ帰ったら、温かい味噌汁と、さわらの塩焼きと、うまい飯を炊いてまってるような娘がようございます」


 それを、聞いた。嶋左近隊の同じ山家三方衆の作手亀山城の城主で策士の異名をとる奥平貞能が、小憎らしく口を挟む。


「田峯の菅沼大膳よ。お主は蜂の巣大膳の異名をとる顔じゃて、せいぜい、田峯領内の村娘を無理やり嫁にするしかあるまいよ、わっはっは~」


 すかさず、息子の奥平昌信が、


「父上、いくらなんでもそれはお言葉が過ぎますぞ」


「おお、我が家は先祖代々の器量ゆへ、田峯と違って、徳川殿に早くに目を掛けられ、その娘御を貰い受ける段取りになっていた。それが、今は敵味方ゆへ縁談は中止になっておるが、ワシらがこの戦で勲功をあげれば、おそらく、武田の重臣の目にとまり、またぞろ良縁が飛び込むやも知れぬ」


 奥平貞能の放言を聞いていた後に連なる、同じ、山家三方衆の長篠城の菅沼家の若き城主、菅沼昌貞に代わって、叔父の菅沼光貞が口を挟む。


「奥平殿、お主は策士ゆへ、我ら田峯、長篠の武骨者の菅沼とは違って、力にすり寄るのが巧じゃからのう。我らもその爪の垢でも煎じて飲まねばなるまい」


 しっぺ返しをくらった奥平貞能は、クククと、


「長篠の菅沼昌貞殿は、器量が良いゆへ、我が嫡子、昌信に来た縁談に余りがあれば、同じ、山家三方衆ゆへ回してやらんでもない」


 それを聞いた菅沼昌貞は戦の最中だというのに、のんびりのほほんとした微笑みを浮かべて、奥平貞能の皮肉を聞いてやおらずか、スルスルスルと、馬を先頭のカケルのところまで並びかけて、


「左近殿、あちらの台地に、菜の花が咲いておりますぞ。どうでしょう左近殿、少しここらで足を止めて一服致しませぬか?」


 と、一方を指差した。



 菅沼昌貞が指さした菜の花の咲く台地こそ、これから、武田、徳川の戦で名高い”三方ヶ原”である。


 この三方ヶ原台地は、東西に二里半、南北におよそ三里の見渡す限りの荒れ地である。土は樹木の育ちにくい赤土で、足の低い雑草が生い茂るのみだ。三方ヶ原から織田信長を目指す武田軍は、ここを恐らく通って、三河へ入る。しかし、この三方ヶ原から三河まで向かう犀崖さいががけの台地の裂け目を通らねばならない。この断崖の五町(約五〇〇メートル)は下りだ。


 もし、武田が、浜松の徳川軍を無視して、下り坂のここを通れば、高低差は徳川有利になる。さらに、軍隊の精強を誇る山県昌景は先頭にいて、軍を巻き戻して再展開するにはこの断崖は狭すぎる。風林火山、疾きこと風の如く山県昌景、徐かなること林の如く内藤昌豊、侵略すること火の如く馬場信春、最後列に動かざること山の如し武田信玄が並ぶ。


 武田がこの順番でこうぐんするのであれば、徳川軍はピンポイントで大将首を狙うことができる。


 まさに、この展開が徳川にとっては千載一遇の好機であるのだが、指物武田信玄にあって、大事な京都の都上洛の途である。わざわざ、自己を危険にさらす行軍などせず、きっちりと、徳川を平らげて、後方の憂いを断つ進軍をするであろうことが誰の目にも明らかであった。



 スルスルスルと、山県昌景隊を離れ、後方へ向かう嶋左近隊三〇〇〇は、最後方の武田信玄の隊まで下がって来た。


「あれ? 小荷駄隊が本隊より先にいる??」


 カケルは理由はさっぱりわからぬが、物資を供給補給の小荷駄隊は山県昌景の隊でも見知っていて最後方に居るものと暗黙の了解で思っていたしかし、いつもとこの戦いは違うことになるのかもしれない。と、異変を感じ取るには十分であった。



 つづく

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