ネジの外れた人形
翌朝。馬車は森に入った。
昨晩アランとジルが打ち合わせをしたミナトへの試験はこうだ。アランが前に出てモンスターの大群を蹴散らし、意図的に一体だけ抜けさせてミナトが倒すというもの。
ミナトが何分何秒でモンスターを倒せるのか、という試験だ。
「ジルさん、あれは」
ミナトは道の行く手にいくつもの影を見て呟くように言った。
「この森、というか全世界に生息するモンスター。オニメツキだね」
ジルは表情を崩すことなく返すが、ミナトは初めて見るモンスターに恐れに近い感情を抱いているらしい。
「アランさんは大丈夫なんでしょうか」
「心配ないよ。アランは強いから」
ミナトは一人でオニメツキの群れを相手にするアランを心配そうに見つめる。ジルは見慣れた光景なので余裕で見ていられるのだが、慣れない人が見たら危険極まりない行為だ。
モンスター、オニメツキ。
全国的に生息する植物型モンスターであり、1メートル~2メートルにもなる。横長の楕円の球体に単眼と短い足が二本、頭の上からヒイラギをはやした姿をしている。
どこにでも生息しているからこそ、旅をするのならオニメツキを倒せる実力が必要最低限となる。
「ミナトくん。仕事の時間だよ」
「はい」
「今アランがオニメツキを狩っているのはわかるよね。でも数が多いから少しは抜けてくると思うんだ。それを殺ってほしい」
「了解です」
ミナトは揺れる馬車の上で立ち上がった。
「今アランの討伐ペースにあわせて減速してるけど、これ以上減速させたくはない、可能な限り早く殺るように」
「わかりました」
ミナトの準備が整ったのを横目で確認したアランは意図的に一体抜けさせた。抜けたオニメツキは馬を捕食しようと馬車に向かって進む。
「きたよ!ミナトくん!」
ジルは試験開始の合図と言わんばかりに声を張った。そしてシューターだとわかっているミナトの攻撃を見るために、両手に意識を向けた時のことだ。
「ポリゴンキューブ展開」
ジルは見た。
一辺が3メートルはある巨大な白い塊を。
「発射」
そしてその塊はミナトの指示通り高速でオニメツキに向けて飛ばされ、一瞬で大穴を空けた。
オニメツキは緑色の液体を撒き散らしながら肉片へと変わった。
――なんなんだこの子は!?
ジルは目を丸くして先程の信じられない光景を振り返った。
一度に放出できるポリゴン量というのは個人差がある。しかし一般的にシューターが作るポリゴンキューブは一辺が30センチあるかないかだ。
ポリゴンキューブの大きさは火力に直結する。先程のミナトは凄まじい瞬間火力を誇っていただろう。凄まじい程のオーバーキルでもあったが。
なかなかやるじゃないか、とジルはミナトに目を向けると、ミナトは倒れていた。
「ミナトくん!意識はあるか!」
「はい」
ミナトはうつ伏せのまま返事をした。
とりあえずあお向けに直し、ジルはミナトが倒れた原因の結論まで一気にたどり着いた。
「……もしかしてミナトくん」
「なんでしょうか」
「保有ポリゴン全部使った?」
「はい」
「はぁ」
なんて馬鹿げた話だ、とジルは呆れてため息を吐く。
確かに可能な限り早く倒してくれと言ったが、これではもう使い物にならない。やはり常識的な理屈をまだ理解できる域にないらしい。
「ミナト!」
オニメツキの相手をほったらかしてアランが前線から駆け寄ってきた。
「アラン。もうミナトくんは使えないようで」
「そうか!無理はするなよ。後は俺に任せておけ」
「すいません」
アランはミナトの様子だけ見て、清々しい顔で前線へ戻っていった。悩みがスッキリと晴れたような気分だろう。アランは戻っていく途中でジルにガッツポーズと笑みを見せた。
「屁理屈か!」
確かに打ち合わせをした試験の条件だけで判断したら合格だ。推測だが記録は一秒少しのはずだ。
だが違うだろうと。
もうミナトは使い物にならない。これでは瞬間火力だけのロマン砲ではないか。
「はぁ」
再びジルはため息を吐いた。
冷静になって考えると自分も悪いところはあったと認めたからだ。常識が通じないミナトに対して細かな設定をしなかったのはジルのミスである。ミナトは言われたことをやっただけだ。
「あー、わかったよ。約束だからな」
この瞬間的ポリゴン放出量はどこかで役に立つかもしれない。
ジルはそう自分に言い聞かせて諦めた。
こんばんは。読んでいただき感謝です。
なんかポリゴンアタックをする話になりましたね。
このサイトは順調に私の妄想はけ口として機能していただいております。
後書きなんですが、7回も書いてると内容がなくなりますね。
明日あたりから日記になる可能性があります。
それでは失礼します。お疲れさまでした。