様々な思惑
【 職員会議中 】
私立マージナル専門学校(以下略"マージナル")の会議室。
上座となる1番後ろに座っている紫のロングウェーブの女性が口を開く……
「明日からの新入生はどう?」
「はい、校長。今年の新入生は84名。内訳といたしましては、46名が精霊枠、33名が人族、名家の御令嬢や御子息ばかりです。残り5名が異世界人となっております。」
「5名か………例年より少ないな。」
「神官達は何をやっとるんだ。自らの職務も全うできないとは………」
「何でも、西の果ての魔族討伐に勇者連合と共に出撃し中々手こずっているそうだぞ。」
「まぁ、神聖魔法や回復魔法は奴等の得意分野だからのぉ………。しかし、その場にいる勇者達も大体の者が"ウチ"の卒業生ではないか?」
「こちらのことも考えてもらわないとこまりますな……」
"5名"と聞いたとたん様々な野次が飛ぶ。その野次を無視するかのように校長と呼ばれた女性が問う。
「それで、その5人はどう?」
「はい。4名に関しては"異界の門"を通った際に確認がとれています。ステータスに関しても例年より平均以上。固有スキル並びに称号も保持しておりました。勇者になりうる資格は十分持ち合わせているかと。」
「残りの1人は?」
「残念ながら、ステータスは平民以下。固有スキルは"unknown"となっており確認できませんでした。過去の例から見て覚醒する可能性は極めて低いかと……。称号は1つだけございました。」
「その子は厳しいわね………補給部隊に回した方がいいかもしれないわね。」
「それが、その………」
「歯切れが悪いわね。どうしたの?」
「……………その称号について御覧いただきたいのです。その為に、今回皆様に集まって頂いたのですから。」
前方にあるボードに履歴書が投影され、その横にはステータスと固有スキル、称号が浮かび上がる…………
─ 神河 啓祐 ─
─ 称号 《 欺瞞の王 》 ─
その場にいる全ての者が驚愕する中、白衣の幼女だけが不適な笑みを浮かべていた…………
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「こりゃあ、スゲェな………」
学生寮はありえない程の大きさだった。
某ネズミの王国の城が3個程入りそう。後から聞いた話では、4階建ての作りになっており各部屋に2人の居住が可能だそうだ。
俺達2人は指定された待ち合わせ場所である学生寮の正門の前で10分程待っている。
あーーー腹減った。
こっちに来てから、何も口にしていない。むこうとこっちの時間は同じようで日が暮れてきている
。と、なると朝飯を食べてから何も食べてないって事になるよな…………。
早く、寮の部屋に入りたい……
ご飯食べたい……
寝たい……
……
…
「すまん。少しおそくなった。」
ユラリと俺らがいる正門の後ろの影の中から現れた白衣の幼女。
((ビクーーーッ))
この先公は、何て登場の仕方をするんだ。
見ろ!茜がビックリしすぎて胸を押さえてうずくまってるじゃないか。
何でもありにも程があるぞ!
「茜は何をしておるんじゃ?変なものでもつまみ食いしたのか?」
?マークを頭の上に浮かべるパラケスス。
この幼女とは一度話し合う必要があるようだ。
「問題ないようなら、時間もないし行くぞ。」
そう言ってパラケススは寮の門から逆方向に進んで行く。
「えっ!?この寮に入るんじゃないんですか?」
「いいからついてくるのじゃ。はようせんと夕飯の時間になってしまうじゃろうが。」
「はい!色々説明とかあってもいいんじゃないですか?」
「却下!」
理不尽に負けそう…………
…………
………
……
パラケススが連れてきたのは明日から通うことになる"マージナル"だった。
寮にも負けない大きな門を潜り抜けるとそこには夕日に照らされてキラキラ光る桜並木。
白がかったピンクの花びらとオレンジの光が合わさりとても幻想的だった。
どこの世界でも桜の綺麗さは変わらない。
ふと、目の前を落ちていく桜の花びらの向こう側に2つの人影が見えた気がした………
そして…………
ーー わぁーっ、綺麗だねー。 ーー
ーー わらわは、桜は嫌いじゃ。 ーー
ふとそんな会話が聞こえてきたような、昔聞いたような……なんか不思議な感覚に陥る。
「兄さん?どうかしました?」
立ち止まってしまっていたようだ。
「ごめん、ごめん。何でもないよ。」
パラケススはそんな俺の様子をじっと見ていた。
そんなこんなで校舎に到着し、またまた驚愕する。
「なんかデジャブだな。」
先程の学生寮よりさらに巨大な建造物だった。
細部まで細かい装飾が施されており、何やら所々光っている。パラケススに聞いたところ、何重もの防御結界が施されているそうだ。
「ここにはヴィルゼバウムのお偉いさん方のご子息やご令嬢も通っておるからの。テロ対策じゃ。」
俺がもしテロリストならここまでされたら絶対に突入しないと思う。
校舎に入り、エレベーターらしきものに乗り最上階の"特別教室"とネームプレートに書かれた部屋に入る。
部屋の中は何も置かれていない広い部屋だった。
ただ広いの意味が違う。360度どこまでも続く部屋、同じ景色。ここは学校の最上階の一室だったはずだ。
ふと、視線の先に1台の学習机が目につく。その上にはA4サイズのコピー用紙の束が積まれてあった。
「入学前の最後の準備じゃ。机の前まで行き、紙の上に手を置け。そして"ステータスオープン"と唱えるのじゃ。」
そうパラケススに諭され、俺と茜は机の前まで進む。
正直、何がなんだかわからないがやらないことには何も始まらないと思う。
ステータスオープンって何となく意味はわかるけどね。
こうなりゃ自棄だ。俺は紙に手を置く。
"ステータスオープン!"