7 鍛冶屋の依頼 後編
鉱石蝙蝠がいた洞窟を出た二人は、元素石と鉄鉱石を置くために一旦村に戻っていた。部屋に荷物を置いて、さあ狩りだ!と村を出ようとすると、グレンの腹から盛大な音が聞こえてきた。
ぐるるるるるるるぅぅぅぅぅぅぅぅ「腹、減ったわ...」
グレンが腹を押さえて呟いたことに、「そうだな」と返すウォロ。空を見上げてみれば、太陽が真上にあり、地表をさんさんと照らしている。よく考えてみれば、朝起きてから碌なものを食べておらず、そのまま動き回っていたのだから当然ともいえる。
「どっかで昼飯にしよう。休憩がてらに」
「賛成だぜぇ....」
二人は、よく行っている店に入る。ドアを開けると、今が掻き込み時なためか、香ばしい匂いがこれでもかと漂ってきて、二人の腹は限界を迎える寸前だ。厨房では、何人かの人が忙しく動きまわりながら料理を作っていた。
「おや、ウォロちゃんにグレンちゃんじゃないかい。いらっしゃい」
席に座った二人に声をかけたのは、この店の店主をしているおばちゃんだ(名前は知らない)。小さい頃から世話になっていて、いつも二人を気にかけてくれている。
「ちっす、おばちゃん」
「こんにちは」
二人は挨拶を返すと、早速料理を頼み始めた。
「俺いつものもりもり定食」
「じゃあ俺はチャハン(チャーハン)」
注文を取ったおばちゃんは、「ちょっと待っててな」と言って厨房に戻っていった。その姿を見送ってから、二人は依頼の話をし始めた。
「元素石と鉄鉱石は集めた。あとは翼竜の翼と魔晶石か」
「そういや、魔晶石はどこで採れるんだ。魔物が持ってんのか?」
「普通、魔晶石は鉄鉱石と同じで採掘する。たまに、ランクが高い魔物から取れることもあるそうだ」
魔晶石とは、その名の通り、魔力を蓄えた石のことだ。この石も様々な用途に使うことができるが、希少なため、日常で使われることはほとんどない。使うのは魔力を消費する魔術師や魔導士の類で、自分の中にある魔力が枯渇した時の補填用にいくつか持っている。それなりに値が張るため、限界の時にしか使うことはない。
「へぇー。で、今回は当てはあるのかよ」
希少なものを探さなければいけないとあって、珍しくグレンが心配な顔で尋ねる。
「ああ。実はな....」
ウォロが話そうとしたその時、「はい、おまちどうさま」と声がして、目の前に美味しそうな料理が差し出された。グレンにはご飯大盛りと肉がたっぷり盛られたもりもり定食、ウォロは細かく刻まれた野菜がたくさん入ったチャハンだ。それを見たとたん、二人の腹から盛大な音が鳴った。
「ふふ。さあ、どうぞ」
おばちゃんが二人に言った。
「いただきますッうめぇ!」
「急ぎすぎだろグレン。もう少し落ち着いて食べろよ」
「|がっへおははふいへるんがもん(だっておなかすいてるんだもん)」
グレンの食いっぷりに思わずため息が出てしまうウォロ。そんな二人のやり取りを微笑んで見ているおばちゃん。
「おばちゃん、ここにいていいのかよ」
「ええ。もう一番忙しい時間帯は過ぎたしねぇ」
おばちゃんは近くから椅子を持ってくると、二人の斜め横に腰かけた。
「そういえばさっき、魔晶石がどうのって言ってなかった?」
「そうだよウォロ。続き話してくれ」
二人に促され、ウォロは続きを話始める。
「ああ。魔晶石の場所だが、これから行く翼竜の住処の奥に洞窟があって、その中にあるみたいなんだ。良質なものが、それなりの量な」
「まじかよ、初めて聞いたぜ。じゃあよ、翼竜の群れをぶっ潰せば行けんだな」
「それは違うわグレンちゃん」
グレンの意見に待ったをかけたおばちゃん。ウォロに確認をするように、
「確か、守護竜みたいな魔物がいるんじゃなかった?」
「守護竜だぁ?」
「そう呼んでいるだけだ。飛竜のボスみたいな位置にいる魔物だな。その魔物の名前は烈風竜。飛竜の上位種だ」
「烈風ってことは、風属性か」
「ああそうだ。お前は相性がいいな、グレン」
「そうだな。フフフ....」
ウォロとグレンがやろうとしていることに気付いたのか、おばちゃんが慌ててやめさせようとする。
「ちょっと二人とも、もしかして烈風竜と戦うつもりなのッ!?」
「「そうだけど?」」
「やめなさい二人とも。烈風竜はBランクの魔物よ。貴方達子ども二人で倒せる訳ないでしょうに」
Bランクがどのくらいの強さなのかというと、〈カリャ〉ぐらいの村が壊滅するぐらいだという基準だ。確かに二人だけで倒せる訳がなく、おばちゃんが止めるのも当たり前だ。しかし、強さについては二人もよく解っていて、
「倒す、とは言ってねーぜおばちゃん。あくまで戦うんだ」
「...え?」
「簡単な話だ。グレンが火属性の元素魔法で牽制しているうちに、俺が洞窟に入って魔晶石を取って来ればいいんだ」
「そゆこと」
二人の作戦に合点がいったおばちゃん。しかし、それでも心配は拭いきれないようだ。
「本当に大丈夫なのかい」
「ああ平気さ。伊達に今まで訓練してきたわけじゃあねぇ」
「うん。それに、バルクさんは予行と言った。魔物の討伐隊に入ることもあるかもしれないから、ランクの高い魔物とも戦っておけということだろ」
「...そうなのか」
「...気づかなかったのか」
会話を聞いて、もう安心だなと思って立つおばちゃん。厨房に戻ろうとする前に二人に言う。
「気をつけて行くんだよ」
「心配すんなって、おばちゃん」
「はい、わかっています」
厨房に戻っていくおばちゃんの後ろ姿を見送りながら、二人もお金を置いて席を立つ。
「じゃ、行くか」
「おうよ」
店を出て気合を入れ直した二人は、森の反対側にある翼竜の住処に向かって歩き出した。
「ガアァ!」
「くッ....」
右から攻撃をしてきた翼竜をぎりぎりのところで避け、その体に剣を叩きつける。
「はッ!」ズパッ
「ゴゥ....」
その翼竜は血を撒き散らしながら絶命した。
「ふう....」
ウォロは、左手の甲で頬の血を拭いながら、息を吐いた。
村を出てから数分後、翼竜の住処に着いた二人は翼竜狩りをして、翼を集めていた。飛竜の翼は武具に使われるものが多く、質が良いとそれなりの値段で売れるため、金に困った冒険者たちは重宝している。なので、普通の住処だったら枯渇していてもおかしくない。しかし〈カリャ〉は王国の端にあるため、冒険者が来ることはほとんどなく、逆に多すぎて困ることもあったりする。その時には、ウォドル率いる衛兵が討伐に行ったり、近くの街〈アルバン〉にある‘冒険者協会’の⦅アルバン支部⦆に依頼を出すこともある。なので、翼竜の数は村に被害がない程度の頭数に調整されている。
ただ今回は、丁度繁殖時期に差し掛かっていることもあり、それなりの数がいて、また気が立っているので、住処にいる翼竜すべてが襲い掛かって来ると言っても過言ではない。数の暴力によって二人の精神は少しづつ消耗していっているのが現状だ。
「ウォロ、大丈夫か」
心配になったのか、ウォロのもとに駆けつけるグレン。彼の服にも血がこびりついており、かなりの数を屠って来たのがわかる。
「ああ、大丈夫だ。でもこの数は流石に....な」
「同感だ。なんだよこの数。めっちゃ疲れるじゃねぇか」
ひとまずあらかた屠ったので、辺りに飛んでいる翼竜の姿はない。
「もう、終わったのか?」
「....いや、まだのようだ。右のほうに反応がある。」
緊張を緩めようとしたグレンに、ウォロが待ったを掛ける。特性〔気配感知〕によって、翼竜の気配を感じ取ったのだ。
「次はもう勘弁だ。あの奴らが来る前に翼を採取して次に向かおう」
「そうだな。もうこれ以上は無理だわ。少し休みてぇ」
二人は疲弊した表情で、しかし素早く翼を採取すると、群れに気付かれないようにそっとその場を後にした。
数分後、二人は件の洞窟の近くにある茂みでじっと何かを見ていた。
「ありゃでけーな....」
「ああ。まさかこんなに圧迫感があるとは思っていなかった」
二人の視線の先には、洞窟の前で魔物の肉を頬張っている烈風竜がいる。高さは10mぐらいあり、大きな翼と鋭い牙が見え隠れしている強靭な顎が見える。その体からは強い存在感がにじみ出ていて、二人は恐怖を覚えていた。
「やべぇ、言葉が出てこねーぜ」
グレンはその大きな体に声を失っていた。おばちゃんが止めたのも今になっては頷けるというもの。実際、森の魔物や小動物たちは危険を察知しているので当然この界隈には虫一匹もいない。洞窟の入り口付近は完全に烈風竜の縄張りと化していた。
「そうだな。だけど、こんなのにビクビクしてちゃこれからどうすんだ。俺らは旅をするんだぞ。慣れておかなくちゃな」
「わかった....よし、もう大丈夫だ、心の準備はできたぜ」
「それじゃ、作戦開始と行くか」
「りょーかい」
二人は静かに剣を抜くと、それぞれ動き出した。
その竜は、目の前にある翼竜の死骸を貪るように喰っていた。竜の寝床にはめったに動物はやってこない。食事はほとんどしなくてもいいのだが、それでも空腹は感じる。なので、いつの間にかその場にあった翼竜の死骸を見たとたん、今まで我慢してきた食欲が解放されて、躊躇わずにかぶりついたのだ。
久しぶりの食事に夢中になっていると、突然火の玉が飛んできた。食事を邪魔された竜は顎を大きく開けると、「グウォォォォォォォォォッッッッ!」と咆哮を響かせた。その振動に当たった火の玉は跡形残さず消え去った。火の玉が飛んできたほうを見ると、
「おい烈風竜ッ、俺と勝負しろ!」
両手で扱う大きさの剣を右手だけで持ち、その剣先をまっすぐこちらに向けている者がいた。その者が食事の邪魔をしたのだと分かった竜は、怒りを露わにしてその者―グレンに咆えた。
「グウゥゥゥゥァァァァァァ!」
「ほらかかってこい!」
竜はグレンに向かって〝突風砲〟を放った。大きく開かれた顎に風の元素が集まり、次の瞬間グレンに向かって真っ直ぐ飛んで行った。それを回避したグレンは、手を烈風竜に向けると「〝フレイム〟ッ」と唱える。すると火の元素が集まり、直径10cmほどの火の玉ができた。
「おりゃぁぁぁぁ!」
掛け声とともに手を突き出すと、火の玉はゴウッと音を立てながら飛んでいき、竜の左目に直撃した。
「ガァァァァァ!」
弱点属性で目をやられた竜は悲鳴を上げると、更に怒りを沸騰させる。
「こっちだ竜!来てみやがれッ」
声の方に首を向けると、森の中に逃げ込んでいくグレンの姿が見えた。竜は復讐に燃えながら追いかけて、森の中に入って行った。
烈風竜がいなくなり、閑散としている洞窟の前に現れた一つの影。もちろん、ウォロだ。彼はグレンと竜が言った森のほうを向くと「気を付けろよ、グレン」とつぶやいて、洞窟の中に入っていった。
洞窟の中は意外と広く、三人ぐらいが並んでいても大丈夫な大きさだ。壁は入口から入ってくる太陽光が反射しているのか所々光っている。近くによってみると、鉄鉱石に魔力が蓄えられてできる魔鋼鉄があった。思わず採掘しようとハンマーを近づけるが、今は急がなければと思い直し、手を引っ込めた。今度採りに来ようと考えながら奥に進むと、目の前に一際光っているものがあった。よく見てみれば目当ての魔晶石ではないか。
「さっさと採掘してグレンのとこに行かなきゃな」
自分に言い聞かせるように言ったウォロはハンマーを振るい、直径5cmほどの塊を取ると、腰の袋にしまい、急いで洞窟の外に出ようとする。しかし、出口まであと5mのところで大きな音が聞こえた。
「まさかッ....」
嫌な予感がしたウォロが洞窟を抜けると、その先には、
「グゥゥゥ....」
「クソッ...」
血が流れている左腕を押さえてうめくグレンと、それを見下ろす烈風竜の姿があった。竜は今にもその大きな顎でグレンを喰らおうとしている。
「グレンッ!」
ウォロはグレンとの距離を瞬間に詰めると、その勢いでグレンごと竜から離れた。
「大丈夫かグレン」
「ああ、大丈夫だ」
「一体何があったんだ」
グレンに問いかけると、彼は呻きながら、状況を語りだした。
「奴を森に誘導した後、少しの間は上手く逃げていたんだがな。烈風竜は翼竜の上位種って言っててだろ、その事をすっかり忘れていたぜ、奴は翼竜を呼び寄せやがったんだ。そいつらと戦ってるうちに奴が近づいてきて攻撃してきた。何とか致命傷は避けたんだが、左腕を掠ってな。後その反動でここまで吹き飛ばされてきて、後は見たとおりだ。いってぇ....」
グレンから話を聞き終わると、ウォロは二人を見失って辺りを見回す烈風竜を見据える。
「グレン、これを持っててくれ」
「魔晶石か。分かった」
魔晶石を預けると、ウォロは竜に向かってゆっくりと歩きだす。竜も気が付いたのか、唸りながら顔を向け、その口元に風の元素を集めだす。ウォロは右手を天に翳すと、一言呟く。
「本当の"龍"を見せてやる」
ウォロは、目の前の竜を睨み付けながら、しかし口元には笑みを浮かべてそれを呼んだ。
「来いッ!ウロボロスッ!」
―――了解した。我が主よ
その瞬間、それは訪れた。突如空間が裂け、その中から巨大な龍が姿を現した。龍は竜を見据え、その口を開いた。自分の体を媒介にして送られる大量の魔力に、ウォロは思わず叫ぶ。
「ウォォォォォォォォッッッッ!」
―――〝壊刻之咆哮〟
烈風竜が〝突風砲〟を放つと同時に、【時主】の口から一筋の光が放たれた。その閃光は風の元素の塊を物ともせずに霧散させ、竜に直撃した。
「グゥゥゥゥァァァァアアア!!!」
烈風竜は悲鳴を上げながら身をよじる。しかしそれは存在を許さぬ無慈悲の光。神の力に竜は為す術もなく、その体を四散させた。同時に巨大な龍もその体を無数の光の粒子に変えた。その粒はグレンの右手に吸い込まれていった。
「はあっ、はあっ....」
「すげぇなウォロ」
息を荒げているウォロに近寄るのは、止血を終えたグレンだ。よくやった、と肩を叩こうとすると、ウォロが倒れそうになる。咄嗟に左手で支えると、ゆっくりと地面に横たわらせる。
「大丈夫かおい」
「魔晶石を。小さいやつが入っているはずだ」
ウォロに言われて袋を探ると、確かに小さいものが入っていた。
「ほらよ。ってか、なんでこれが?」
「こんなこともあるかと思って一応取っておいた」
ウォロはそう言って魔晶石を握りしめる。すると、石が紫に光りだして、ウォロに手の中に吸い込まれていく。消費した魔力を、石に蓄えられた物で補充しているのだ。数秒経つと石は光らなくなった。
「まだ制御はできていない。さてどうするか....」
「ひとまず村に戻ろうぜ。報酬も気になるしよ」
「そうだな」
二人は頷きあうと、村の方向に歩き出した。
村に着いた時には、太陽は地平線に差し掛かっており、家々からは団欒の声といい匂いがしてくる。一度家に寄った後、バルクの鍛冶場に向かっていると思わずグレンの腹の虫が鳴る。
「....なんか食べようぜ。腹減った」
「ひとまず報酬を受け取ろう。父さんがなにか作ってくれていたからな」
「今日のメシは何だろうな。たまには魚食いてぇな」
「そうだな。格闘魚、あれ食べたいな」
「ああ、あのめっちゃ美味いやつか」
そんな会話をしているうちに、二人は目的地に到着した。扉を開けると、そこには椅子に座って休んでいるバルクに姿があった。
「よう、戻ったぜおっちゃん」
「おお、ウォロ坊にグレン坊。依頼の物は持ってきたか?」
「はい。どうぞ」
ウォロは、家から取ってきた鉄鉱石と元素石、先程回収した翼竜の翼と魔晶石をバルクに渡した。
「どうだよおっちゃん」
「....ふむ。よくこれだけ良い質の物が取れたな。いい意味で予想外だ」
バルクは質の高さにびっくりしたようだ。それから、「さて、報酬を渡さなきゃな」と言って金床に置いてある二振りの剣を二人に渡した。キョトンとする二人に頭を掻きながら言う。
「はぁ、おい二人共、旅に出るってぇのにいつまでも鉄製の剣でいいのかよ。流石にそれじゃ持たねぇだろってんで、俺の持つ技術全部つぎ込んで武具一式揃えたんだ。まぁこれは、ウォドルのやつが頼んできたんだがな」
「じゃあ依頼は何だったんだよおっちゃん」
「ああ、それな。お前さんたちは協会に入って依頼を受けることもあるだろう。その予行と、後は在庫の補充だな。結構そいつらに良いやつ使ったからな。材料費変わりだと思ってくれ」
「....見てみてもいいですか」
「もちろんだぜ」
ウォロはバルクに許可を取ると、グレンと目を合わせてから剣を抜いた。シャリン、と小気味良い音を立てて鞘から出された剣は炉の炎の明かりを反射して時折光る。片手剣に分類されるその剣の全長は大体60cmほど。柄の部分は黒い革が巻かれている。刃は透き通った銀で、しっかりとした印象を受ける。
一方、グレンの方は両手剣に分類されるものだ。通称大型剣とも呼ばれるその剣は全長1mほどもありそうだ。両手で扱うものなので柄は少し長めで、ウォロの剣と同じように黒革が巻かれている。剣の幅は広めで、重量感溢れている。こちらの刃は黒っぽい。
「そいつらはどっちも魔鋼鉄製だ」
「魔鋼鉄って、鉄鉱石に魔力が結びついたものだっけか?」
「そうだ、グレン坊。魔鋼鉄は魔力や元素と相性がいいからな。二人共〔元素付与〕を使えるんだろう。少しでも効率がいいようにな」
「すげぇ、さすがおっちゃんだぜ!」
「あたりめぇよ、俺を誰だと思ってんだ。ほれ、こいつらもだ。」
ウォロが腰に、グレンが背中に剣を仕舞うのを見ると、バルクは次に防具を取り出した。固めの長靴、動きやすいズボン、動きを邪魔しない薄めの鉄胴着、強い風を防ぐ長外套、回復薬などを仕舞うベルト等々....
バルクは二人のために、これだけのものを用意してくれたのだ。
「ありがとなおっちゃん。大事にするぜ」
「ありがとうごさいます」
「礼なんざいらねぇよ。俺からの出発祝いだ」
バルクは照れ臭そうにそう言うと、「ほら、もう暗いから帰れ」と言った。ハッとして窓の外を見てみるともう太陽は沈み、暗くなっている。
「本当にありがとうございます」
「じゃあな、おっちゃん」
二人は荷物を持って鍛冶場の扉を開けて言う。
「ああ。また明日」
バルクも二人に返すと、次の仕事に取り掛かった。