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世界之守護者-world keeper-(旧)  作者: 土反井木冬
第2章 迫る悪意と試される力
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16 最悪の知らせ

 全てがスローになった世界の中で、ウォロはその光景を目にしていた。空に浮かぶ人影から放たれた膨大な魔力を凝縮させた魔弾。それが真っ直ぐに心臓に向かってきているのを、彼は驚きと焦りを感じながら見ていた。


———クソッ。まさかここで現実になるなんてっ...


 後悔の念が浮かぶ彼の頭には、先程までの状況が走馬灯のように駆け巡っていた。



     ***



 ラドルへと放った〝風槌剣(ストームインパクト)〟の余波で舞い上がった粉塵が収まり、状況が把握できるようになったウォロの目に飛び込んできたのは、彼の少し前方を起点にしてできた大きなクレーターだった。その中心に居たであろうラドルの姿は跡形もない。どうやら消失したようだ。


「はぁっ、ガフッ...」


 緊張が解け、体から力が抜けるウォロ。何とか体勢を整えたが、〔魔力燃焼(オーバーヒート)〕の酷使により体にかなりの負担がかかっていたようで、血反吐を吐く。


「...よく持ったな、俺の体は」


 思わずそう呟いたほど、彼の体は満身創痍だった。


 陥没した地面から這い出て、〔鷹眼(ホーク・アイ)〕を発動して状況を確認するウォロ。どうやら、ウォロが死闘を繰り広げている間に四方のほぼすべてが安全を取り戻していて、掃討戦へと移行しているようだ。グレンも無事龍人族(ドラゴニュート)を倒したようで、ウォロの方向に向かって歩き始めている。ミラシータ達の方もどうやらひと悶着あったようだが、既に終わった話だ。


 能力を解除し、辺りを見回す。こちらでも強い個体はすべて倒されているため、街の衛兵や冒険者たちがとどめを刺しながら素材を剥いでいた。普段滅多にお目に掛かれない「猛獣地獄」〈マレタクル森林〉の魔物は質が良く、傷物であってもそこらの魔物の素材よりよく売れることがあるようだ。


 後で俺も剥ぐか...と考えながらその場で回復に努めていると、後ろから声が掛けられた。


「ウォロさーん」

「ウォロ!」


 門からこちらに駆けながら手を振っているのは、朱の髪を三つ編みにしてたらしている少女と、長い金髪

とオッドアイの少女だった。ミラシータとロヴェリーだ。その後ろから、ミディーナも付いて来る。その横からは、グレンもこちらに向かって走ってくる。


 彼らの無事な顔を実際に見て安心したウォロは、彼女たちに返事を返そうと剣を杖替わりにして立ち上がる。その瞬間だった。


「ウォロっ!」


 突然ロヴェリーが立ち止まり叫んだ。彼女の指差す方へ振り向いたウォロは、その光景に目を瞠る。


 彼の頭上に、先程までいなかった人影が浮かんでいる。その人物がこちらに向けた手のひらには、黒く染まった球体があった。それは一瞬で極小サイズに縮まると、ウォロの心臓目掛けて放たれた。



     ***




 一直線で向かってくる魔力の弾丸を目に、ウォロの心は焦燥感に狩られていた。彼の頭に浮かんだのは、前回の戦いの前に見た光景と、ウロボロスの言葉だった。


『———分からんのだ。大戦の時の自分ならいざ知らず、封印から解かれたばかりの我には視た未来より先のことが全くな。全盛期ならある程度分かったんだが....』


 時主のその言葉を思い出し、彼は合点がいった。


———あの時はまだ力が定着していなかったから分からなかったが、今なら理解できる。あれは事実であり、事実ではなかった。まだ絆が不安定だったあのときに見た未来は、完全ではなかったんだっ


 驚きで体が動かせない中、魔弾だけが止まることなく向かってくる。だが彼の目線の端には、必死にこちらに手を伸ばす者達も映っていた。彼等の顔を見た瞬間、ウォロの心に炎が燃え上がった。


———そうだ。俺はこんなところで終われない。こんなところで、死ぬわけにはいかないんだっ!


 ウォロは心を奮い立たせ、必死に体を捻る。思いのほか素早く動くことが出来ていることに気付かず、魔弾の弾道から体を外した瞬間、


———バァアン!


その着弾の音で世界の速度が元に戻った。


「おいウォロ!大丈夫かっ!」

「...ああ。危なかったが、なんとかな」


 駆け寄ってきたグレンにそう答え、空の人影をにらむ。謎の人物は、何かを呟いたと思ったら、次の瞬間には姿を消していた。


「ふぅ...」


 迫っていた危機が去ったことで張り詰めた緊張が解けたのか、そのまま倒れ込むウォロ。その体を咄嗟に抱えたグレンは、そのまま彼を座らせる。そこに、ミラシータ、ロヴェリー、ミディーナが駆け寄る。


「ウォロさん、大丈夫ですか?」


 ミラシータの声に、震える手で大丈夫だと答える。しかし、彼はかなり衰弱していて、息も弱々しい。


 どうしようか迷っている一行に、突如近づいてくる1人の少女。


「ちょっとどいて」


 ぶっきらぼうに言い放ち輪の中心に入ったその少女は、ウォロの手を取ると眼を閉じる。


「ちょっと貴方。いったい誰ですか」

「少し黙ってて」


 相手が王女であることに気付いていないようで、冷たく言い返す少女。


「...魔力枯渇。それと筋肉の酷使による裂傷、右腕から肩の骨にかけて所々ひび。後は体力の消耗と言ったところか。それじゃあ...」


 少女はぶつぶつ呟くと、手を放し両手をウォロに向ける。


「〝ここに癒しの光を 癒光万天(オールヒール)〟」


 その言葉と同時に、彼女の掌に温かな光が生まれる。それはウォロの体に広がり、あちこちにあった傷を瞬く間に修復していく。


「す、すごい...」


 今まで一行を癒していたミラシータが思わずそう呟くほど、その魔法は洗練されていた。


「〝魔力譲渡〟」


 続いて、少女の右手からウォロへと光の筋が出来る。その神秘的な光を一行は固唾をのんで見守っていた。




「ん、んん...」


 数分後。ウォロはそう唸りながら目を開けた。辺りを彷徨っていた視線は、彼の顔に影を落とす少女に焦点が合わさると、彼は何か合点が言ったかのように微笑を浮かべた。


「さっきも会ったね」

「っ...ええ。さっきはありがとう。おかげで助かったわ」


 少女は苦笑を浮かべると、その場を立ち上がり、一行から少しばかり距離を置く。そして、今まで顔を隠していたフードをおもむろに外した。


「おおっ」

「綺麗...」


 羨望の眼差しを向けるミラシータはまだしも、朴念仁であるグレンも思わず声を上げるほど、その髪は―――日光を反射し煌めく蒼髪は美しかった。


「私の名前はソフィア・カーレン。我が一族の言い伝えに出てくる"特異点"、つまり貴方に会いに来たわ。ウォロ・カルゴン」


 戦いの終わった戦場に風が吹く。その風が運んでくるのは、希望か、それとも―――




     ***




「お久しぶりでございます」


 洞窟なのだろう、辺り一面土で覆われた暗がりの中、男が眼前に立つ男に跪きながらそう言った。彼――カフェリスに向かって、男は聞く。


「確認は取ったのだな」

「はい。私の〝不可視の魔弾(インビシブルブレッド)〟を避けました。まぐれではなく、確実に」

「そうか。お前のそれは私でさえ避けるのが難しいからな。証拠として十分か」


 男はカフェリスに目を背け、頭上の壁画を見る。そこには、ひと振りの剣とそれに絡まる一体の龍が描かれている。


「因子の定着を確認。これより、計画名〝ワールドキーパー〟を第二段階(セカンドフェーズ)へと移行する」


 そう言って、男はちらりとカフェリスを見やる。


「カフェリス、ばれないように彼らを監視、護衛しろ。場合によっては、お前の部下を呼んでもかまわない」

「了解しました、レイヴェル様」


 男——レイヴェルに了承の意を示し、彼は影に消えていった。


「我がマスターよ。動き始めました―――」


 レイヴェルは思いを馳せる。今から300年前。彼が魅せられ、契約を結んだ男に。



***



「さて、これからどうするか」


 今までずっと監視していたというソフィアに助けられ、体の調子が戻ったウォロは、今後の行動に悩んでいた。


 選択肢はいくつかある。一つ目は、王都へ向かい、クリード達の援護を行う。二つ目、この場に残り後処理を手伝う。三つ目。《ヘリツィア王国》へロヴェリーを連れていく。主にこの三つだ。


「私はできれば王都に行きたいです」


 ウォロにそう次げたのは、ロヴェリーだ。今までは目の前のことでいっぱいだったが、こちらの危機が去った今、家族のことが心配でならないのだろう。その目は不安に揺らぎ、何処か必死さが漂っている。


「お前らはどうだ?」

「私はウォロさんに任せます」

「俺もだ。あのカルザーって野郎をぶっ潰さねぇといけねぇしな」


 ミラシータ、グレンはウォロに委ねる。


「私はロヴェリー様の護衛。この方が行くというのであれば私も従うまで」


 ミディーナはロヴェリーの気持ちを尊重するようだ。そして。


「私もついて行っていいかしら?」


 そう言ったのはソフィアだ。


「本気で言ってんのかお前」

「ええ。元々貴方達の仲間に入るためにここに来たんだもの。私がついて行かなくてどうするのよ」


 グレンの喧嘩腰の言葉を軽くあしらいウォロに告げる。


「どう?私も仲間に入れてくれないかしら」

「...どうすんだ?」


 二人の言葉に少し考えるそぶりを見せると、ウォロはソフィアの眼を覗き込む。そこに確固たる意志と決意があることを確認すると、ウォロは一つ頷く。


「分かった。これからもよろしくな、ソフィア」

「ええ、こちらこそ」


 そして、二人は固く握手する。そして、これから準備を始めようという所で、門から駆け寄ってくる人影を見つけた。


「ウォロ殿!大丈夫か」

「ジールさん...ええ、俺は大丈夫です。いったいどうしたんですか?」


 肩で荒い息をつき、どこか緊迫した表情のジール。そこから漂う不穏な空気に無意識に身構えるウォロ達に、今一番聞きたくない言葉が放たれた。


「王都が...〈王都ファラメル〉が、陥落したそうだ」


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