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九重祭の京都怪人奇譚  作者: 芳川見浪
プロローグ
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プロローグ

 プロローグ


「コーヒー1杯ミルク抜き砂糖マシマシお願い」


 窓際の一際大きいデスクに頬杖をついた彼女は、妙に得意気な顔つきでそう言った。

 肩まで掛かる髪をアップにした彼女の名は九重ここのえまつり、この事務所の所長代理だ。


「何をラーメンみたいに注文しているんですかお嬢」


 紺色のスーツに身を包んだ爽やかな雰囲気を持つ痩身の男性が祭の目の前にコーヒーカップを置いた。


「ちゃんとお砂糖いれて甘くした?」


「ええ、お嬢の好みに合わせてブラックにしました」


「うげぇ。鳥山のいじわる」


 コーヒーを、文字通り苦虫を噛み潰すかのように飲み干して、祭は目の前のスーツの男をギッと涙目で睨んだ。


――――――――――――――――――――


京都北野白梅町きょうときたのはくばいちょう嵐電らんでん等持院駅とうじいんえき竜安寺駅りょうあんじえきとの間。


嵐電の路線を見下ろせる場所にその事務所はあった。


『九重 探偵事務所』


 迷宮入りした難事件をいくつも解決に導いた実績をもつ探偵事務所――になるのが目標の、実際は迷い猫の捜索依頼すらこない絶賛閑古鳥が泣き喚く事務所だった。 


――――――――――――――――――――


コーヒーを入れた男の名は鳥山とりやまあつし、祭のお世話役兼お目付け役。


「そういえばクイゾウはどうしたの?」


「下のガレージでガソリンを飲んでますよ」


「電気にしときなさいよ、最近ガソリン高いんだから」


「言っても無駄かと、本人曰くガソリンはお酒のようなものらしいので」


 意味がわからない。

 はあと祭はため息をついた。


それにしても「暇だわ」


 祭のボヤキを聞いて鳥山の肩がピクっと震えた。それを見た祭は心の中で「あっやばい」と呟いた。


「お暇でしたら学校から出された課題をされてはいかがですか? 今日もだされたのでしょう?」


「うっ」


 祭は女子高生だ。そして女子高生はとても忙しい。課題をやる暇なんてこれっぽっちもない。ああ忙しい忙しい。


「やっ・て・く・だ・さ・い」


「はい」


 鳥山の剣幕に推され、祭は項垂れた。


――――――――――――――――――――


 デスクに学校から出されたであろう課題が教科別に並べられた。その中の一枚、比較的とっつきやすそうな世界史の問題集を祭は選んだ。


 というわけで世界史の問題。


 第一問「第二次世界大戦が終結したのはいつか?」


「鳥山、いつだっけ?」


 給湯室にいる鳥山に聞こえるよう大きな声でいった。


「1192年です」


「なるほど」


 鳥山はカップを洗いながら祭を見ずに適当に答えた。

 祭はそんな言葉を疑いもせずにそのまま解答用紙に1192年と書いた。


 第二問「第二次世界大戦終結直後に色彩戦争と呼ばれる戦争を引き起こした元凶である組織の名前を記せ」


「鳥山」


「死ね死ね団です」


「なるほど……ってそれレイ○ボーマンに出てくる敵組織じゃない! 言っとくけどあたしを騙そうなんて百年早いわよ!」


 鳥山は怪訝な顔で「えぇっ」と呟いた。


「まあいいです。答えは無色の組織です。何物にも染まらず何物にもなれるような意味合いが込められています」


「ふうん、そういやあんた昔そこに入ってたんだっけ?」


 九重は解答用紙にペンを走らせながら聞いた。


「正確には祖父がそこにいました。組織の解体と共に抜けたようですけどね」


 カップを洗い終えた鳥山は、鍋に入れたお湯にそのカップを浸して暖め始めた。


 第三問「無色の組織が主に用いてた戦力は何か?」


「って三問目の問題分に二問目の答え書いてあるじゃない!」


 祭は悔し紛れに机をバンっと力いっぱい叩いた。


「あいったあ」


祭は疼く手を抑えて机に突っ伏した。


「うぅ、一応答えはわかるわ。人体改造を施した種族、怪人よね」


「正解です」


 鳥山は満足そうにうなずいた。


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