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褒めてねぇよ

カラカラと音をたてて馬車は石畳の上を走る。微かに揺れる振動はあるものの作りのしっかりした馬車は乗り合い馬車のようには揺れない。そんな馬車の中で上司と向かい合うように座っていたユークリッドはそう言えばと口を開く。


「今さらですが団長がアルフォード家の姿を見せない後継者だったんですね」


「何?お前、今気づいたの?」


ユークリッドの問いかけに行儀悪く窓枠に手をついていたレイは呆れたように視線をやる。その反応にユークリッドは苦笑する。アルフォードの名を持つものは多く、目の前の少年がその噂の人物だと思っていなかったが今日、その意匠が刻まれた馬車を目にしてようやく気づいたのだ。


「すいません、アルフォード公爵家はわが家にとって雲の上の存在でしたので」


二年前、失踪した嫡男に代わりとある少年が後継者としてアルフォード家に養子に迎えられたという噂は聞いていたがその姿を見たものはいないと。だからとり潰しを警戒したアルフォード公爵家の悪あがきだとも言われていたが目の前の人物こそその跡取りなのだ。自分の指摘に上司が苦笑する。


「ま、そうだよな……」


ユークリッドに言われるまでもなく、自分はアルフォード家として夜会に出たことがない。それで知っていろという方が酷だ。


「確かにアルフォード家の跡取りとしては出たことないな。第5竜騎士団団長としてはよく出てるけど」


上の人間は自分がアルフォード公爵家の後ろ楯があることを知っているのでわざわざ聞いてもこないが自分の存在を知らない人間は一致しない筈だ。ユークリッドの反応に薄くレイは笑う。


「ユークリッド、お前は俺の事どこまで知ってる?」


そう薄く笑いながら聞かれたユークリッドは頷く。


「大まかな経歴は。二年前、当国の受かる者は全員変人とまで言われる途中入団試験を最年少で突破し第5竜騎士団配属。その半年後に起きたミカエル団長の裏切りにいち早く気づき団を救ったと……」


第5竜騎士団に着任する前に調べた内容を話すと目の前の少年はうろんげな顔をする。


「お前、上司に向かって変人って……」


「変人でしょう。永世中立国を謳う我が国は入団試験は他国と同じでしょうが、途中からの入団試験は他国に類を見ないほど難しい」


前世にも永世中立を謳う国はあったがこの国で育つ中で、永世中立を貫く事がどれだけ大変かを痛感した。他国との同盟を結ばず、他国の侵略を打ち払うには他国と同等かそれ以上の軍事力が必要になる。そのため他国からの侵略を防ぐ意もあってか当国では途中入団試験がある。受けるためには推薦してくれる貴族の後ろ楯にギルドライセンスC級以上。また他国籍でないことにバカ高い試験料を支払う必要がある。そこまでして途中入団試験も第1竜騎士団と第1魔術師団の実力者との立ち合いに筆記試験。応募する人も少ないが受かる者も皆無といった試験なのだ。


「それを見事突破してみせた貴方は紛れもなく変人です」


「お前な……」


ユークリッドの迷いない断言にレイは口元をひきつらせる。その表情にユークリッドは更に口を開く。


「ですがどんな出自であろうが我らが尊敬する第5竜騎士団団長には変わりありません」


そう笑って見せると目の前の少年は目を見開いた後、深いため息を吐く。


「お前って本当にぶれないな……」


「お褒めに預り光栄です」


「褒めてねぇよ。むしろ呆れてるわ」


ユークリッドの輝かしい笑顔に突っ込むとレイは窓の外に視線をやる。そこから見える王宮にはまだ距離がある。そして今日、ユークリッドを迎えに行った本題を口にする。


「ユークリッド、誰からか聞く前に先に言っておくが俺は紛れもなく正当な血を引くアルフォード家の孫息子だ」


「ということは……」


「うちの下半身馬鹿が漆黒の姫と呼ばれてたエルバート国の姫と通じあい孕ませて生まれたのが俺」


「……一気に下世話な話になりましたね」


隠すつもりはないのかあっさりと自分の出自を話してみせたレイにユークリッドは率直な感想を漏らす。アルフォード公爵家が将来有望と呼ばれた竜騎士の息子を勘当した理由にユークリッドは苦笑する。


「でもその姫君には他国の王家との結婚が決まっていた。そんな姫君が孕んだってことで王家は大混乱。俺を下ろせと迫られた女は頑として聞き入れなかったらしい。母さんは俺を産んでくれた」


そこまで話し、レイはユークリッドをみやる。ここまでは上層部の人間も知る公然の秘密だ。ユークリッドも他言しないだろう。だが、ここから先を知ればまず間違いなく自分の事情にユークリッドを巻き込む。


「この先も聞くか?」


その問いかけにユークリッドは迷うことなく頷く。


「よろしいのでしたら」


こちらをまっすぐに見つめるユークリッドにレイは続ける。


「俺の母さんは元々は王家には珍しいほどの莫大な魔力を持つ魔術師だった。だから姫でありながらめ下半身馬鹿な親父を護衛に戦場に足を運んでいたらしい」


そう話ながらレイは父の傭兵仲間が語ってくれる母の話を思い出す。


「漆黒の魔女と呼ばれた姫君は周囲から恐れられていた。でも親父はその姫君を恐れることはなかった」


「二人は惹かれあったと……」


「俺を孕んだ母と父は引き離され、俺を産んでくれた母は幽閉される予定だった」


莫大な魔力を持つ姫君とその息子はこの国には必要不可欠だった。


「母が俺を連れて幽閉される塔に向けて揺られてる時、襲撃されて母は死亡。聞きつけて駆けつけた親父が俺を連れて逃走」


「ああ……」


一気に雲行きが怪しくなったユークリッドは遠いところを見る。レイも顔を覆い隠す。


「元々、貴族には向いてないんじゃないかと周囲から思われてたらしいんだけどさ……なんでそんなに考えなしなんだと……」


疲れたようにレイは吐き捨てる。もう自身の過去が肩にずっしりと食い込んで重い。だから王都は嫌いなのだ。自分の過去が自分の意思とは裏腹に独り歩きする。


「俺がこの国の途中入団試験のために伝を頼ってじいちゃんとばあちゃんに会った時なんて“あの下半身馬鹿”が苦労をかけたと泣いて謝られるしさ」


「…………ああ……お疲れ様でした」


「おう」


生まれる前も波瀾万丈だが、その後の波瀾万丈度を目の前の少年の顔に浮かぶ表情が見事に物語っている。最年少でA級ライセンスを取得するに至った経緯が忍ばれる。だが一つ気になるのは……


「孕ませたのはその姫君だけですよね?」


「だったら結婚出来てただろうな……」


ユークリッドの質問にレイはその疑問を肯定する。


「優秀だったけど、親父は最低なぐらい下半身が緩い」


「それは……ご苦労お察しします」


ユークリッドにも公爵夫妻がなぜ泣きながら少年に謝罪したのか即座に理解した。


「英雄は色を好むとは言いますが……」


「なにそれ?」


「強い方は色欲が強いという例えですが……」


「俺としては息子が異父兄弟の存在数にげんなりする未来をどうにかして欲しいわ」


「……ですね」


ユークリッドはどこか遠い目をする上司に目を伏せる。そのユークリッドの反応にレイは視線をユークリッドから外に移す。


「で、お前はその話を聞いても第5竜騎士団副団長でいられるか?」


「どう言った意味でしょう?」


目を伏せていたユークリッドはその言葉に顔をあげて驚く。そこでは普段見せないほど冷たい表情をして上司が外を見ている。


「俺は明らかにこの国では異分子だし、不要な存在だ。嫌なら今ならお前を第1に戻してやれるぞ?」


「そのお言葉をお返しします」


その言葉に反応してこちらに視線を戻した上司をユークリッドはまっすぐに見返す。たったそれぐらいの秘密で逃げ出すような人間だと思われたのが心外だ。


「どういった経緯があれ、子供は生まれてくる場所も親も選べません。そこでされる評価なんて意味がない」


そこで言葉を切り、ユークリッドは勝ち気な笑みを浮かべる。


「評価されるべき場所は何をなしたかでしょう?」


「……やっぱりお前も変人だ」


「お褒めに預り光栄です」


「褒めてねぇよ」


ユークリッドが満更でない表情で頭を下げるのにレイはくしゃりと笑った。


いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字脱字がありましたら申し訳ありません。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


さてこの話は労働問題の解決が最優先されるお話です。こんな深い過去があっても王家の陰謀には巻き込まれません

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