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目指すものはきっと……

アルフレットはとある物を片手に階段を登る。


ーあれから二週間ー


ノワールでの捕り物も終わり、第5竜騎士団に戻って四、五日の間の不在でも貯まっていた仕事を片付け、ようやく連れて帰って来た子供達も落ちついてきたのがようやく今日だった。今の時間、直属の上司が部下の教育のために執務室にいないと知っているから行こうと決めた。目当ての部屋の前に立ち、アルフレットは大きく深呼吸する。何度も開けて来た扉を前に緊張する自分に微苦笑する。ノックをすれば入室を許可する声がかかる。


「仕事中に悪いな」


そう言って顔を覗かせるとそこに居るのは第5竜騎士団副団長ユークリッド・コンフリートだ。


「お疲れ様です。団長なら今、訓練に出てますよ」


「知ってる。今、様子を見てから来たしな」


その言葉にアルフレットは肩を竦めるながら部屋に入るとユークリッドのところに迷う事なく歩を進める。


「お前と話がしたくて」


「私で良ければ」


自分の指名に不思議そうに目を瞬く相手にアルフレットは手に持っていたものを差し出す。


「これをお前に使って欲しいなと思ってさ」


「拝見しても?」


「ああ」


ユークリッドが自分の差し出した幾冊もの冊子に手を伸ばすのを横目にアルフレットはこれを託そうと決めた二週間前の出来事を思い出す。



「止まりました!」


馬に簡易な農具をつけて馬車のようにして現れたユークリッドは躊躇う事なく魔術を使い馬車の速度を落とした。その言葉と裏腹な残念な出で立ちに遠い目をしながらも馬車の前に馬を回したアルフレットはそこで踞る二人の男に話かける。


「投降して、大人しくしろ」


「わ、分かった!」


手綱を握っていた男が両手を上に上げる。その横に座る初老の男性は一気に老けこんだ様子で座り込んでいる。


「お前もだ」


そう言って睨むも初老の男性はこちらを力なくみやって、俯いた。その様子にアルフレットは虚をつかれる。話に聞く奴隷商とは印象が違った。それに戸惑っていると農具から降りて幌馬車の中を確認していたユークリッドが顔を覗かせる。


「アルフレット、子供達は大丈夫ですよ。ちょっと打ち身がある程度です。馬車が揺れた時にぶつけたみたいですね」


「わか「子供達は大丈夫ですか!?」


返事をしようとしたアルフレットの声を掻き消した初老の男性が先ほどとは裏腹に必死に聞いてくる。その声にユークリッドも御者台まで歩いてくると目を見張る。これから自分に待つのは死刑か重罰だろうに心配しているのは子供達。その奴隷商とは名ばかりの反応にユークリッドとアルフレットは顔を見合わせる。先に口を開いたのはユークリッドだった。


「馬車がかなりのスピードで走った時に壁にぶつけたくらいで大きな怪我をした子は居ませんよ」


「……良かった……」


その言葉に心底安心した様子を見せる男性の印象が極悪な奴隷商から好好爺に変わる。そんな様子に何を思ったのかユークリッドは男性を見つめて口を開く。


「子供達はあなたに自分からついて来たと行ってます」


ユークリッドの言葉にアルフレットは目を見開き、納得する。自分が屋敷の地下で感じたことは間違えではなかったのだ。奴隷を保管する場所として地下牢ではあったが糞尿はなく、子供達は劣悪とは裏腹な環境で保管されていた。ユークリッドの問いかけに肩を落とした男は自嘲気味に呟く。


「私が何もしてくれない国の代わりに子供達を救ってやりたかった」


その言葉に二人は押し黙る。ノワールの悪習をずっと見てみぬふりしてきたのは国。


「劣悪な環境に置かれ、満足に飯を食べることも出来ない子供達を奴隷かもしれないが生きていけるようにしてやりたかったんです」


男の語る言葉に何も言えない自分を他所にユークリッドは前に進み出ると男に微笑みかけた。


「遅くなってすいません。ですが、これからは第5竜騎士団があなたの思いを引き継ぎます」


ユークリッドの言葉に初老の男性が顔を上げる。


「子供を救いたいあなたの気持ちは受けとりました。ですが、人身売買は犯罪です」


「はい……」


「あなたのしたことは間違ってます。ですが、それによって救われた子供がいたことも事実です。だから言わせて下さい。ありがとうございます。あなたが救われた子供達の代わりに」


ユークリッドの言葉に初老の男性は顔を覆って泣き出す。その嗚咽を聞くことなく身を翻したユークリッドの背を見送ったアルフレットは間違った方法でも子供達のために何かを成そうとした男の肩を叩いた。



「これは?」


「レイが俺のために作った教本」


その声に現実に戻って来たアルフレットは自分の渡した教本を前に不思議そうな顔をするユークリッドに向き直る。


「お前がやりたいことの足しになるかは分かんないけど、使ってくれ」


ユークリッドが自分の言葉に驚いたような表情をするのにアルフレットは照れたように笑う。


「読み書きが出来るようになれば色んな道を選択出来るようになるだろ」


「……ありがとうございます。ありがたいです」


竜騎士達の識字率向上を目指していても何を題材すればいいか分からなかったユークリッドにとってアルフレットが自身に託してくれたものがどれだけの価値を持つものかが分かる。


「おう。じゃあな」


面と向かって礼を言う事は出来なくても彼が目指す道を支える事は出来る。それが自分には過ぎた地位にいる俺に出来ることだ。軽く手を上げて身を翻したアルフレットにユークリッドは自分に託されたものに視線を落として微笑む。


「ユークリッド」


「はい」


手の中の希望を眺めていたユークリッドは部屋を出ようとしたアルフレットの声に顔を上げる。そこにはこちらに背を向けたアルフレットの姿がある。その背を眺めているとアルフレットがこちらを振り返る。


「お前が作ろうと思ってる求人広告でなんでレイが通勤時間を駄目って言うのかは一緒に飯を食いに言ったら分かると思うぞ」


ニヤリと笑うアルフレットにユークリッドは微苦笑する。帰って来てから貯まっていた仕事の傍らに仕上げていた求人広告の文言に悩んでいた事を見抜かれていたユークリッドは有り難くその助言を受け入れる。


「今日にでも一緒に行かせて頂きます」


「そうしろよ」


「はい」


そう言って部屋を後にしたアルフレットを見送り、ユークリッドは天井を仰いだ。


いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。


さて次でやっと二章も終わりです。初老の男性 はただのおじさんのままでしたが、彼は捕まっても彼らしい気がします。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです


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