感動的な名場面は 人の努力の賜物です
アルフレットは前傾姿勢で馬車が通ったであろう街道を全速力で追いかける。まだ馬車の姿は見えないが先行するために部下らしき竜騎士が幾人が頭上を飛んで行く。轍と馬車が通れる道幅を考えればこの道しかない。
「逃げられてたまるかよ」
馬を走らせながらアルフレットは叫ぶ。今までどれだけの子供達がノワールの悪習によって命を落としたり、不遇な環境で辛酸を舐めてきたか。そんな状況から子供達を救えるのにその子供達を連れていかせる訳にはいかない。
「いた!!」
子供達を乗せて重みを増した分、速度を上げられない馬車がそれでも必死に逃げていく。
「振り切られてたまるか!」
前傾姿勢になり、かなりのスピードで走っていく馬車を追いかけながらアルフレットは舌打ちする。第5竜騎士団の管轄から出られたら証拠物件にならない。前を走る馬車に距離は近づいていくがそれでも今にも壊れそうな音をたてて走っていく馬車の方が気になる。車輪が石に乗り上げても構わずに走っていく馬車にアルフレットは唇を噛み締める。
“俺が魔術師だったなら”
走る馬車に魔術をかけて食い止めるとも出来ただろう。初級魔術は使えてもこんなに思考が纏まらなくてはどうにもならない。そこでユークリッドが居ればと考えてアルフレットは自嘲する。結局は何ひとつ自分の力で何もしていない。強制捜査も全てユークリッドの貴族という後ろ楯を利用してだ。今は自分しかいないと覚悟を決めたアルフレットが更に速度を上げようとした時にその声は届いた。
「アルフット!」
振り返るとそこには居てくれればと願った男の姿がある。普通なら頭に被っているはずのローブでは脱げ、見事な銀髪は風に煽られている。だが、情けないことにアルフレットはその出で立ちに一瞬、言葉をつまらせた。
「遅くなりました」
その言葉と出で立ちのあまりのギャップに言葉を失ったアルフレットはどこか遠い目をしてから突っ込む。
「お前、なんで農具を馬車みたいにしてんの!」
よく来てくれたとかそんな言葉の前にアルフレットは盛大に突っ込む。自分が気づいた事で更にスピードを上げて並走して来たユークリッドは農具の御者台の僅な段差に足を置いて器用に立ち姿勢を保って馬を走らせている。そんなユークリッドは自分の疑問を他所に感動的な場面を作り出す。
「アルフレット、あなたは私の事を何でも出来ると思ってませんか!」
「今では思ってたけど、今ではただの馬鹿なんじゃないかと思い出したわ!」
馬車を追いかけながら何をしてるんだと言いたいが二人は言葉を交わす。実際、アルフレットが先ほどまでユークリッドに抱いていた劣等感はその出で立ちに吹き飛んでいる。なんで農民が使う農具として馬や牛に繋いで使う簡易な馬車の上に馬を繋いだ状態で立ち、凄まじいスピードを出せるのか………地味に単騎で駆けるより難しいだろう。いつもながらのユークリッドの斜め72.3度ぐらいの思考に目眩を覚えながらもアルフレットは前に向き直る。
「とりあえず、教えてくれ。なんでそんな状態なんだよ!」
そんな状況ではないとわかっていても胸に沸き上がる疑問は止められない。そんなアルフレットの視線にユークリッドは意を決して叫ぶ。
「アルフレット、私は馬に乗るのが苦手です」
「なっ……!」
ユークリッドの言葉にアルフレットはそれどころじゃないのに告げられた言葉に絶句する。そんなアルフレットの沈黙にユークリッドは悲しげに微笑む。
「決して馬に乗れない訳ではありませんが、生きている暖かさが苦手です。儀礼的には動かせますが、そんな速度では乗れません」
「いや、そんな重大な事今言うなよ!」
アルフレットはユークリッドのまさかの発言に気が遠くなる。第5竜騎士団の副団長が馬に乗れない事実はなんて重いのか……。今、誰かと共に分かち合いたいと切実に思った。だが今はそれを気にしている場合ではない。
「……ユークリッド」
「はい!」
「とりあえず、話は後だ。今はあの馬車を捕まえる事だけ考えよう」
「はい、任せて下さい」
自身のトーンが下がった事には気づかず、ユークリッドは自分の秘密を暴露して満足気だ。一つため息を吐いてアルフレットは目の前を疾走する馬車を冷静に目標と定める。
「行くぞ」
「はい」
その言葉だけを交わすとユークリッドとアルフレットは馬車に追い付くべく速度を上げた。
ー後にー
“ノワールの奇跡”と呼ばれ、劇になったのを見たアルフレットは渋い顔をしていたという。全員がその表情に疑問を抱いたというが彼は断固としてその表情の理由を話さなかったらしい。
そのため、劇中でユークリッドの役をやった男は颯爽と馬に乗って現れたという。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
少し字数は少ないですがキリが良かったのでここまでにさせて頂きました。
さて、皆様の答え合わせに正解はありましたでしょうか?
コメディを目指しているわけではないのにコメディ要素満載の小説です。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。




