ひとまず証拠物件を
「では、ひとまず証拠物件を抑えに行きますか」
「そうですね」
アデルの言葉にユークリッドは頷く。そして竜騎士に拘束されているユーティリににっこりと笑う。
「ご案内お願いしますね」
その言葉にガックリと肩を落としたユーティリを連れて全員が客間を後にする。執事だけは別の竜騎士に連れていかせる。
「それにしても君はあんな面白いことをよく思いつきましたね」
地下牢に向かってユークリッドの横を歩きながらアデルは話しかける。アデルの言葉にユークリッドは瞬きする。
「思い付くことは色々あります。ですが、実際には実行する事は難しいと思います」
今回の事にしても前例のない取り組みになる。面白いだけではやっていけない。
「でも、こんな風に一緒にやって頂けるという事は私と同じように皆さんもノワールをどうにかしたいと思っていたのだと思います」
ユークリッドはそこで言葉を切り、アデルに微笑む。
「ファミリア様を含めて」
その言葉にアデルは肩の力を抜く。
「君は人を落とすのが上手い」
苦笑しながらそう口を開く。目の前の男は何でもないように言っているがこの取り組みがどれだけノワールに生まれる子供を救うだろ。
「君は本当に面白い……」
それだけがアデルに言える最大の賛辞だった。
「じめじめしてますね」
地下牢に足を踏み入れたアデルはカビ臭い臭いに眉を潜める。
「地下牢ですからね。ほらさくさく歩く 」
ノロノロと歩く男を急かしながらカイルはアデルに応える。そのやり取りにユークリッドはクスリと笑う。この二人を見ていると正反対の性格だから上手くやって行けるのだと思ったのだ。
「何か?」
「いえ、何でもありません」
それに目敏く気づいたアデルがこちらを見上げるのにユークリッドは生真面目な表情で首を振る。時たま会話をしながらも奥まった場所にある地下牢に向かって歩き続ける。
「ここ……ですか?」
ユークリッドが案内された地下牢を前に言葉を失う。アデルも不機嫌にユーティリに視線をやる。
「た、確かにここだ!」
「言葉に気をつけてくれる?うちの団長にたいして」
アデルの問いかけに焦った表情で身を乗りだそうとするユーティリの後ろ手に拘束した腕を引きながらカイルが冷たい視線を向ける。
「本当にここなんだ。嘘はついてない!」
カイルの言葉にユーティリは必死に訴えるも目の前にあるのは空っぽの牢。その言葉にそれまで黙って後をついてきていたアルフレットは鍵のささったままの扉から頭を下げて中に入る。確かに地下牢としてじめじめしており、カビ臭い臭いはあるが地下牢の中はそこまで悪環境ではない。糞尿もなく、悪臭はない。
「……………」
どういう事だと眉を潜めたアルフレットに後を着いてきたナイルは耳元で囁く。
「どういう事でしょうか?」
「さあな……」
ユーティリの反応を見る限りではここに子供達がいたのは確かだ。アルフレットが僅かな痕跡でもないかと目を光らせていると同じように痕跡を探していたナイルはそう言えばと口を開く。
「関係ないとは思いますが、裏口に馬車が止まってました」
「ん?」
「いえ、第2師団が徴収してると思いますが第5から来た時に見えたので」
ナイルの言葉にアルフレットは顎に手をあてるとカイルに視線を移す。
「カイル」
「何?」
年も近いため気軽に話せる間柄のカイルを呼ぶと自分の手にあった荷物を部下に押し付けて地下牢の中に入ってくる。
「結構、綺麗だね」
「ああ。ナイル」
「隊長に代わりご報告させて頂きます。第5からこちらに来た時に裏口に馬車を見かけましたが徴収は済んでますでしょうか?」
「馬車?いや、聞いてないな。確認する」
「頼む」
「ああ」
それだけを告げるとカイルが厳しい表情で近くにいた部下を一人手招いて確認に行かせる。
「ここから逃げるとしたらパード方面の国境を抜けて隣国ですかね」
「そうだろうな」
この近辺で密輸される時は第5竜騎士団と第2魔術師団の管轄が絡みあう分団の砦を使われる事が多い。お膝元を抜けるよりも管理者の目が緩い。
「誰かに行かせますか?」
「ここからだと森の街道を抜ける事が予想される。上からだと見落とす可能性がある。何人か地理の詳しいやつには先回りさせろ。俺が下から追いかける」
「隊長が?」
「ノワールは俺が一番詳しい。だろ?」
アルフレットの言葉にナイルは目を瞬いた後、ふっと笑う。
「ですね」
出会ってからずっとその傍らでアルフレットの努力を目にしてきたナイルは頷く。平民でノワール出身だと蔑まれて来たアルフレットが自分なりに自分の過去と向き合うと決めたその背を押してやる。
「こちらは安心して任せて下さい。隊長」
こちらの方に慌ててやってくる竜騎士の姿を視界に入れながらナイルはその背を叩いた。
「俺が行く」
「は?」
第2魔術師団の竜騎士が息を切らしての報告が終わった途端に手を上げたアルフレットにユークリッドは目を瞬く。馬車がないという報告を聞いた途端のアルフレットの言葉に全員が注目する。
「俺はノワール出身だ。だから一番ノワールに詳しい」
「それはそうですが……」
「構いませんよ。行きなさい。うちの馬鹿が見落としたんです」
アルフレットの言葉を聞いたアデルは即座に促す。ノワールは幾筋もの街道に分かれており、出身者でないと道に迷う可能性もある。それをノワール出身のアデルもよくわかっているのだ。
「ありがとうございます」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
それだけを言うとアルフレットは地下牢から身を翻す。
「アルフ」
「ユーグ」
自分の背を追いかけてくるユークリッドにアルフレットは口を開く。
「ノワールを救ってくれて助かった。ありがとう」
「ん?」
「俺達はノワールの悪習を嫌っていながら仕方ないと諦めてた」
顔を見ないならすらすらとユークリッドに対する感謝が口から零れる。アルフレットの背を追いながらユークリッドは目を瞬く。アルフレットの言葉を遮ることは出来ない。
「諦めたらそこで終わりだ。俺達が新兵に最初に言う言葉なのに。俺達は最初から諦めてた。恥ずかしいよ」
アルフレットの紡ぐ言葉を聞きながらユークリッドはノワールの悪習が多くの人間の未来を奪っていたのだと痛感する。
「だから俺が行ってくる。お前にだけ頼ってたら恥ずかしいだろ?」
地下を出て領主館の厩舎に近づいて馬を見繕うと手綱を噛ませて跨がる。
「行ってくるわ」
それだけを告げてアルフレットが前傾姿勢で馬を走らせる。
「………………っ……」
「あなたも最後まで責任を見届けたいなら行って来てもいいですよ。ここには私が居ますから」
いつの間にか後ろに近づいて来ていたアデルがその背を目でおうユークリッドに微笑みかける。
「最後まで見届けて来なさい」
「ありがとうございます!」
アデルの言葉に追うべきかと悩んでいたユークリッドは自分も厩舎の中に足を向けた。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
さて、残念ながらネット小説大賞は一次選考で敗退してしまいましたがまだまだユークリッドの話は続いて行きます。総評をよみ、t様のおっしゃられるように私の小説には読みにくさなど多々、問題点があったのだと思われます。ですが、t様にもアドバイスを頂きましたのでこれを機に更によくなるようにしていきたいと思います。これからもよろしくお願いいたします。
また息抜きに現実世界の恋愛
「私の彼と私の住む世界は物理的に違う」
も始めています。どうぞお読み頂けましたらと思います。




