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最高ではなく目指すのは最善です

第5竜騎士団の事務課職員と団長が新しい価値観に驚喜している………そんな頃………。


第5竜騎士団副団長ユークリッド・コンフリートはノワール領主館の客間でくしゃみをしていた。


「誰か噂をしてるみたいですね」


「風邪、うつすなよ」


鼻の下を擦るユークリッドの横に座るアルフレットは嫌そうに顔をしかめる。それにユークリッドはくすりと笑う。


「すいません、こう見えて頑丈ので大丈夫ですよ」


「知ってるけどな………」


ユークリッドの笑顔にアルフレットは呆れた様子で肩を竦めながらクッションの良いソファーに座り直す。


「それにしてもやけに簡単に入れたな」


「それは私もそう思いましたね」


アルフレットの突っ込みにユークリッドも頷く。奴隷商を装い、領主館に来たら門前払いされるのが当たり前。実際に取り次いでもらう事も出来そうになかったので咄嗟に家名を出したのだ。


「ユークリッド・コンフリートです」


印籠のように家名を出すと渋い顔をした執事は屋敷の主に指示を仰ぎに行き、客間に自分達を通した。


「こういう時に貴族だと助かりますね」


「お前………」


確信犯の笑みに最初から家名を出す覚悟があった事を知り、アルフレットは頬をひきつらせる。その様子に口元を緩めながらも手を組む。


「これは私ではなくコンフリート家が買うんですよ。もし、私の案が通らなくてもコンフリート家が責任を取ります。父が後見人になればひとまずは子供達の働き先は確保出来るでしょう」


アルフレットの視線にユークリッドは真顔で言い切る。


「常に最善を尽くしながら最悪を考えてなければ事態には対応出来ませんから」


「………………………………」


アルフレットはユークリッドの考え方に感嘆した。一つの案が駄目でもその案が駄目な事も見据えて手を打つ。それは戦場での自分達に近い考え方。一つの作戦が上手くいかない事なんてよくある事。ならその場合はどうするかを一緒に考えておけば最高は無理でも最善は尽くせる。


「お前は面白いな」


知らず知らずアルフレットはそう呟く。その言葉にユークリッドは肩を竦める。


「頑固なだけですよ」


自分が後悔したくないだけなのだからそう応えた後、ユークリッドは自身がいる部屋をくるりと見回す。


「それにしても無駄に豪華な部屋ですね」


「ん?」


「金しかかかってない部屋です」


部屋の基調は茶色。琥珀色した机にあうソファーと全体的には纏まっているが、棚に無造作に載せられた芸術品がこれでもかと雑多に置かれている。これでも24年貴族として生きて来たらその価値は一目見ればだいたい分かる。ユークリッドの言葉にアルフレットも自分が感じていた違和感を言葉にする。


「要は悪趣味って奴?」


「ま、そういう事になりますね。価値が分からない癖に買ったものを並べたんでしょう」


国宝級の芸術品がある横によく分からない芸術品。価値が分からない男が金に物を言わせて買ったものを見せびらかしてるだけの部屋なのだ。これが子供を売った金の使い道だとしたら許しがたい。ユークリッドとアルフレットはそこで口を閉じる。近づいてくる足音に扉に視線を向けた。


-ガチャ- 


ノブの回る音がして男が姿を現す。


「これはこれはコンフリート様。いかが御用事で?」


いかにも人が良さそうな笑みで入ってきたのはまだ30半ばほどの男。小太りでいかにも小物感が漂っている。正直、この男一人での売買とは思えない。それでもその後ろに先ほど自分達をこの場所に案内した執事らしき男が付き添っているのでこに現れた男が紛れもなくこのノワール領主館の代行者ユーティリ・サミットだとは分かる。そんな男の言葉に立ち上がったユークリッドは優雅に手を差し出す。アルフレットも並んで立ち、軽く顔を伏せる。


「こちらこそ突然立ち寄りまして失礼しました。ですが、とある噂を耳にしましたので。是非お譲り頂きたいと思い立ち寄らせて頂きました」


友好的に握手を交わし、進められるままに席についたユークリッドはユーティリに本題を切り出す。それに顔色も変えずユーティリは肩を竦めてみせる。


「何の事やら………」


この国では人身売買は禁じられているので迂闊に口にする事は出来ないと互いが分かっている。その無駄な慎重さに嘆息しながらユークリッドは微笑む。


「私はただこちらで質のいい下働きを手に入れたいと思いまして」


「副団長様ともなれば下働きの一人や二人はつくのでは?」


「そうなんですが、気が利かなくて。だから個人的に欲しいなと思います。お譲り頂く事は出来ますか?」


困ったように肩を竦めればそんなユークリッドにアルフレットは内心で遠い目をする。ユークリッドは困ると言ってはいるがこのお貴族様は非常にタフだ。着替えや食事に身の回りの事は一通り自分でやる。むしろ新兵の貴族出身者の方が覚束ないぐらい。戦場に出た時に生き残る確率が高いのも副団長だろう。そんな逞しい男が今さら下働きが欲しいなんて思わない。だが、そんな事を知らないユーティリは顎の下をなぜながら得心いったように頷く。


「分かりますよ。武骨な竜騎士団では望まれるような下働きは手に入らないでしょう。どんなのがご所望で」


「特に希望はありませんが………」


「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました」


ユークリッドが希望を伝えたところで屋敷のメイドがお茶を運んでくる。恭しくお茶を給仕した女性がお茶を置いて去っていくのを待ってカップに手を伸ばしたユークリッドは指にあたる感触に視線を落とす。そこには奴隷の有無や数。監禁場所が書かれている。それを確認し、ユークリッドは優雅に口に運ぶ。一口飲み、口元に微笑する。


「美味しいですね」


「でしょう。隣国の有名な産地からわざわざ仕入れたお茶ですから」


ユークリッドの賞賛に気をよくした男は何度も頷く。アルフレットは高価な陶器にビクビクしながらも口に運んで納得する。高い茶葉はやはり違う。ユークリッドの賞賛に気をよくした男はいやらしい笑みで二人を眺める。


「ですが、やはりお一人をお譲り出来ますが………」


「値段に糸目はつけません。一人でなくて結構です。近いうちに寮を出ますので出来るだけ人数が欲しいと思います」


「ほう………人数が欲しいと?」


「愛でる花は多い方が生活が潤うでしょう」


何に使うかと言わなくてもこう言えば大概の人間は誤解する。現に執事が自分の発言に微かに嫌悪感を出している。そんな視線を無視し、ユークリッドは自身の身に付けていた宝石を一つ前に置く。


「これで買えるだけ頂けますか?」


元々の価値は金貨5枚ほどの宝石ではあるが、今は更に魔力を込めてある。


「私の魔力が籠っていますので価値は金7枚ほどかと」


「………ふむ」


いきなりやって来て買えるだけの奴隷を買うという申し出は胡散臭い。執事も同じ事を感じたのかその顔を伺うと微かに眉を寄せている。


「そもそも何故、平民を?」


コンフリート家ならば同じ貴族から選ぶことも出来る。その視線にもユークリッドは微笑みを浮かべながら口を開く。


「噂になるでしょう?」


『………………………………………………』


ユークリッドの堂々とした発言に疚しいことしか想像が及ばない。横でおとなしく黙っていたアルフレットは床の模様を数えながら現実逃避する。自身の上司に幼女趣味というレッテルが貼られたら、全力で否定しようと………。ユークリッドのニヤリとした笑みに男は少し悩むものの目の前に置かれた魔石の価値に心が傾く。


「………連れてこい」


「ユーティリ様!!」


執事が叫ぶのを睨みつける事で黙らせたユーティリは更に言葉を重ねる。


「いいから連れてこい」


「………畏まりました………」


ユーティリの言葉に執事は頭を下げると部屋を後にした。





「ノワール領主館、見えました!」


風切り音に負けない声で放たれた言葉に最高速度で竜をかっていたカイルは点である領主館を目にし遠い目をする。


「第5竜騎士団に連絡届いてるかな………」


キリッと音を立てる胃を押さえながらカイルは見えてきた目的地に現実逃避をした。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字かありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


期末………分裂しても堪らないぐらいに仕事が積み上がってます(笑)

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