本当に大丈夫でしょうか………
-ユークリッドとの一戦を終えたその日の午後-
「で、どうするんだよ。あ?」
冷たい、冷たい声音が執務室に響いていた。額に青筋を立てたレイは目の前の部下に冷たい視線を送る。視線に凶器を付随出来るならその殺傷力はとてつもなく高いだろう。そんな視線にぐっと詰まった第3隊オルソ・エフォールは背を伸ばして言い訳を講じる。
「仕方ないじゃないですか!ミランダと同じ境遇の彼女を見捨てることなんて俺には出来なかったんです!」
「仕方ないですんだら誰も文句なんて言うか!お前がやったのは越権行為なんだぞ!」
部下のふざけた言い分にレイは“バン”と机を叩く。いつもの様に砦の門で捕まえた犯罪者を街に移送しに行っていたオルソからとある少女を連れて帰ったという報告にぶちギレていたのだ。殺気を隠しもしない自分にぐっと震える拳を握ったオルソが更に叫ぶ。
「申し訳ありません!ですが、彼女の力になれるなら後悔はありません!」
「うるせぇ!後悔しろ!」
ぐっと唇を引き締めたオルソの言い訳にレイは“あー”と髪の毛をかきむしる。いくらここでこの脳筋馬鹿を罵った所で事態は進展しない。しないが………。
「この脳筋馬鹿!………ち………仕事をこっちに持って来やがって。次やったらお前をその窓から突き落とした上で、隊長の身分剥奪して、土の中に埋めてやる!」
「以後、気をつけます!」
自分の小言が終わったのを感じとったオルソがピッと背を伸ばすのにヒクリと頬をひきつらせたレイはバンと机を叩く。
「で、終わる訳ねぇだろ!反省書30枚に、減給処分3ヶ月。下の街には半年降りることを禁ずる!」
「あ………」
「なんか異論はあんのか!今すぐ、身分剥奪して追い出してもいいんだぞ!」
「いえありません!」
「二度とこんな事してみろ!お前が口を開く前に殺してやるからな!」
そう叫ぶとレイは前触れもなくやって来た厄介事に遠い目をした。
「私は拐われて来ただけで売られた訳ではありません!調べて頂いたら分かります!」
視線の先で訴える見た目自身と同じぐらいの少女を部屋の扉の影から伺ったレイは肩を竦める。先程のやり取りを終えたその足でレイはオルソを連れて少女の保護された一室に足を運んだのだ。
「あの子の虚言じゃないのか?」
「なんて事を言うんですか!」
団長の発言にオルソはとんでもないと首を振る。
「あんな純粋な子が嘘ついてる訳ないじゃないですか!」
「お前はその沸いた脳みそどうにかしろ」
レイはオルソの言い分をぶったぎり再び少女に視線を移す。栗色の髪に栗色の瞳。顔立ちはまだまだ幼さが残るが体つきはそれなりに成長している。胸についた二つの膨らみはそれなりだが………………。
「まだ処女か………」
「俺のミランダをやましい目で見ないで下さい!」
「はいはい」
むさ苦しい顔を近づけて来たオルソに呆れた顔で肩を竦めたレイは手に持っていた書類を開く。
-ミシェル・ノワール-
記載されたノワールという文字にレイは嘆息する。ノワール地方では時たま干ばつが起きて、その度に身売りされる子供が出る。一家で全滅するか、境遇は違えど食べて生きられる事を理由に子供を売る家が後を立たない。
「で、商人はなんて言って来てるんだ?」
「いえ、特に申し出はありません」
「ってことは商品が逃げ出しても訴えられないぐらいはほの暗いって事………」
ここで商人が出てくれば彼女の訴えが嘘かどうか分かるもの。出てこないという事は………………。
「めんどくせ………うちが貧乏くじ引いただけじゃん」
権限が上の騎士団が彼女を連れ帰ってしまったからには下にめんどくさいからと放りなげる事も出来ない。眉間を寄せたレイは“うぇぇぇ”と呻き声を上げた。
「………では………その方は自分は拐われてきただけで家で家族が待ってると?」
朝に求人広告で喧嘩別れした上司から危急の用件があるから部屋に帰って来いとの連絡を受けて師団から戻ったユークリッドは上司のげんなりとした表情に苦笑する。まだまだ子供なのに先程のやり取りを気にせず、いつもと変わらない態度の相手に感心する。そんなユークリッドの心のうちも知らず、レイは頭を抱えて呻く。
「みたい………あ~、警備隊に借りなんて作りたくなかったのによ!あの馬鹿は!」
一通り事の次第を話したレイは“はぁ~”と深いため息と共にガクリと肩を落とす。実際にはうちがでしゃばった事件だが警備隊からの相談といった形の書状を二人して覗き込みながら嘆息する。二人して読んでいた書状をユークリッドの方に押しやり、レイは肩を竦める。
「どうせ親が売ったんだろ………そんな親から離れなられてよかったと思ったほうがいいんじゃね?」
「でも少女は私は拐われて来たと言ってるですよね?だからこちらに書類が回って来てるのでは?」
「まぁ………そうなんだけどな………」
自分の直感では彼女はこのまま売られた方が真実を知らなくて済む。苦い顔を崩さない上司に少し考えたユークリッドは口を開く。
「では、私が行きましょう」
「は?」
「誰か人を差し向けて調査の必要があるんですよね?」
話の流れからこのまま誰かを調査に差し向ける必要があると進むのが予想できたユークリッドは再度問いかける。ユークリッドの申し出にその人選を相談しようと思っていたレイは目を瞬く。この場所から南東に二十キロぐらいの場所にあるのが彼女の出身地。
「いや、別にお前が行かなくてもいいだろ。アルフがそこの出身だから里帰りもふくめて………」
「なら是非とも私も一緒に行かせて頂けませんでしょうか?」
ユークリッドの強い主張にレイは本人を眺めた後、頭をかく。
「ま、そんなに言うなら行かせてもいいけど。お前が抱えてる仕事はどうするんだよ?」
魔術師団の立て直しに求人広告とユークリッドが抱えている仕事は多種に渡る。“どうするんだ?”と言わんばかりの問いかけにユークリッドは上司をまっすぐに見上げる。
「求人広告に関しては帰ってからきっちり纏めます!実は師団に関しましては一部、団長のお力を借りしたいと思っています」
「ん?」
ここで諦めますという言葉が出るだろうと考えていたレイはユークリッドのお願いに目を瞬く。きょとんとした上司を前にユークリッドは微笑む。
「実は魔術師団と騎士団の事務を同じ部屋で仕事をさせてみたいと思いまして」
「はい?」
ユークリッドの申し出にレイは意図が理解出来ず、全然仕事の方向性が違う二組をどうするんだ?という視線を向ける。その視線にユークリッドはにこやかに微笑んだまま口を開く。
「あれ以来、二つの部署で上手く情報が共有出来る方法はないかと考えてはみたんですが。あまりいい方法が浮かばなかったんです。その時に情報共有が出来ないのなら私と団長のように執務室を一緒にしてみればいいのではないかと思いまして」
「で?」
「いきなりは難しいと思いますので、私の不在を理由に団長にその締め上げを行って頂きたいなと思います」
ユークリッドの申し出に意図を理解したレイは楽しそうな表情を顔に浮かべる。
「それはやりがいがあるな」
「よろしくお願いします」
「任しとけ!」
なにかと壁のある魔術師団と騎士団の事務課の統合案にレイはニヤリと笑った。
-そして3日後-
「本当に大丈夫か?」
勝手に白羽の矢が立っていたために地元に帰ることになったアルフレットは見送りに強制参加させられている面々の顔を確認し、うろんげに上司をみやる。
「ん?」
自分の言葉の意味が分かっているだろうに楽しげに首を傾げる上司はニコニコと微笑む。
「大丈夫だろ。俺の右腕が不在の間、魔術師団の事務課がそれを補ってくれるだろうしな」
ユークリッドがいない間、自分の執務室に出勤させる魔術師団の3馬鹿トリオが青い顔をしているのを横目に執務机に座ったレイはしれっと吐き捨てる。
「………………………………………」
緊張に身を硬くする騎士団の面々はそれでも憧れの団長と仕事出来ることに誇りを感じているが大丈夫だろう。心配なのは青い顔の3人と………。
「副団長!無事のお帰りをお待ちしてます!」
副団長の不在を不安視する3馬鹿トリオの部下一人。騎士団長室で繰り広げられる漫才のようややり取りはそのままに………。
「で、副団長………本当に大丈夫ですか?」
自分と一緒に旅装に身を包んだユークリッドにアルフレットは視線を移す。
「ご心配ありがとうございます。 大丈夫ですよ。こうみえて健脚ですから!」
「………………………………………」
輝かしい笑顔で告げられた言葉にアルフレットは遠い目で天井を見上げた。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。
誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
リアルが忙しく投稿が遅れました。申し訳ありません。
さて、ようやくアルフレットとユークリッド。二人の旅路が始まります。少しでも楽しんで頂ければ幸いです




