厄年問題は後で解決必須
“お前なら出来ると信じてる”
普段なら赤っ恥な台詞を吐かれたユークリッドはストンと自分が冷静になるのを自覚する。アルフレットの言葉に気恥ずかしさを感じつつも、目の前に置かれた書類に目を通す。
「日付は………昨日………遠征に出立する刻限間近。ちょうどバタバタしてた時刻ですね」
記録を指でなぞっていくと王都からの緊急連絡が届いたのと主だった責任者達が遠征出立の出立式に立ち会っていた頃合い。
「ああ。だかな、やはり騎士団に暗号化された書類を届けたという担当者が居た」
まだ二年目と若いが自身の仕事が隊の命綱を握っていると理解している少年は堂々と情報を扱ったのは自分だと申し出てきた。
「王都からの情報は全てとは言わないが暗号化されてる」
アルフレットの指摘にユークリッドも頷く。
「情報の漏洩があってはいけませんからね」
そのため、表向きには団長と副団長の身が暗号解読の方法を口伝で引き継ぎ時に教わる。毎年の割合で変わるらしく、覚えられない年配の方々は腹心の部下に教えている事もあるらしい………本当にこの世界の情報漏洩を無くそうと思ったらまずは認知症対策や記憶力対策が必須だろう。前世の情報の秘匿システムが主に自身に振り分けられた番号と生年月日であることをあんなに素晴らしいシステムだと思った事はない。ただ、生年月日を知られると途端に効力を失うシステムではあるが。
「では、やはり情報はここに届いてると考えるべきですね」
「ああ………ただ………副団長が普段は騎士団長室で仕事をするのだと思っていたから騎士団の事務課に回したらしい………」
「はぁ………で?」
段々と色んな意味で冷静さを取り戻してきたユークリッドは嫌な予感を抱えながらもアルフレットを促す。その促しにアルフレットは半笑いを浮かべる。
「騎士団の事務課の面々は受け取ったはいいが、自身の上司であるレイ宛ではないことに気づいたらしい」
「ええ………」
ユークリッドはアルフレットを促しながらも“嫌な予感”が超高速で走ってくる幻聴を聞く。ユークリッドが机の上で組んだ手が震える。その震えが自身のもたらす残念なお知らせを予想していることにアルフレットはそっと視線を逸らす。
「だが、その時点でうちの事務課ヴァイゼ・オネストに渡ったらしい」
「ああ………」
ユークリッドはアルフレットの告げた絶望的な情報に天井を見上げて喘ぐ。職務には熱心な癖に、事務課職員を出来れば辞めて欲しいと切実に思ってしまうNo.1。そして、自身が着任日に驚愕を受けた報告書を書いた人物である。天井を見上げたユークリッドの耳に“嫌な予感”がやって来て通りすぎた足音だけが響いている。………どうか………出来れば戻っては来ずにそのまま走り抜けて欲しい。少しの間、足音の余韻に浸ったユークリッドは眉間に寄った皺を伸ばしながらため息を吐く。
「……………やはり…………これも厄年だからですかね………」
「とりあえず、やくどし問題は横に避けてくれ」
ユークリッドの計算式では自身も“やくどし”なるものに含まれるアルフレットは心底これ以上厄介事に捲き込まれてたまるかと“やくどし”を目の前からどける。なんとなく意味は分からなくてもユークリッドの言葉の響きから関わってはいけないものだと察したのだ。アルフレットの突っ込みに現実逃避から戻ってきたユークリッドは“そうですね………”と嘆息する。
「要は考え方ですよね。アルフレット。ただ、暗号化された文章が更に暗号化されただけですものね」
「………………………………………」
輝く笑顔で宣ったユークリッドにアルフレットは無言を貫く。ただでさえも暗号化されているのに更に暗号化されたとかどれだけ情報を秘匿するんだと突っ込みたくなる。アルフレットの無言にユークリッドは数秒後には笑顔を消す。
「すいません………」
「いや………お前の気持ち分かるから……大丈夫だ…」
ユークリッドに圧死されそうになった時は分からなかった気持ちが今、アルフレットはよく分かっていた。
ー王都からの暗号が更に暗号化されましたー
そんな究極の報告を上司にしないといけない自分を呪った事は自分の人生を振り返ってみても例はない。というかしたくない。
「とりあえず、情報があるのは分かったからな」
先に口火を切ったのはアルフレットだった。その言葉に穏やかに微笑んだユークリッドも頷く。
「そうですね。情報は届いているんです。ただ、暗号化されただけで」
きっと素敵な壊滅センスで彩られた飾り文字報告書が今か今かと見つけられるのをどこかの部屋で待っているのだ。
『探しましょう《すぞ》!!』
互いに同時に立ち上がると部屋を飛び出す。第一容疑者は“団長室だ” 鬼気迫る表情で部屋を飛び出した二人にそっと擦れ違った面々が道を譲る………そんな中………。
「ユークリッド」
「はい。なんでしょうか?」
アルフレットの呼び掛けに階段駆け下りていたユークリッドは軽く視線を向ける。ユークリッドが自身をみたのに気づいたアルフレットは遠い目をする。
「これが全て片付いたら、腕のいい教会を教えるからさ。俺も一緒に連れてって」
「もちろんです」
アルフレットの懇願にユークリッドは即座に力強く頷いた。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字かありましたら申し訳ありません。
少し間が空いてしまい申し訳ありませんでした。少しリアルが忙しく、更新までに時間がかかりました。次回はもっと早く投稿出来るよう頑張ります。
年に一回、この時期に来る苦しみがようやく終わりました。他社の同じご職業でお悩みの方………来月はこの苦しみからようやく解放されますね!でも、来月からはっちゃけると来年も同じ苦しみが自分を待ってるのが嫌ですね………ああ………。
色々とありますが少しでも楽しんで頂ければ幸いです。




