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とりあえず、異世界の労働問題を解決しようと思います  作者: 高月怜
とりあえず、異世界の労働問題を解決しようと思います
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勘違いって恐ろしい


少年から放たれた言葉の意味を理解した途端、一気に顔を青ざめさせたユークリッドは慌てて頭を下げる。


「誠に申し訳ありません!思わず……」


「ああ………」


「本当に申し訳ありません………不躾な物言いを致しまして申し訳ありません」


「まあ………」


「本当に………なんとお詫びすれば………」


「………勘違いってあるからな………」


ー思わず、上司に死亡宣告するぐらいお前は初対面の俺を見て何を思ったのか気になるーと思いつつもあまりにも“申し訳ありません”と頭を下げるユークリッドに毒気を抜かれたレイは曖昧に応じる。“キュイ”と鳴いて浮いていたキウイが自分の肩にとまる。その頭をなぜながらレイは目の前で罰の悪そうな顔をしている青年を正面から見据える。


「………………………………………」


銀髪に蒼い色の瞳に整った顔立ちをまじまじと見つめる。年の頃は二十歳半ば。資料通りの特徴に本人だとレイは安心する。どこぞの馬鹿貴族のなかには身代わりという馬鹿な手段を講じるやつもいる。すぐにバレるのに………。ひとしきりしげしげとユークリッドを眺めたレイはうんと頷く。


「まぁ………若くてぴちぴちしてそうで良かったわ……ちょっと変人臭はするけどな………」


「は?」


「いや………こっちの話」


いっそのこと………仕事が出来るなら足が臭くてもおっさん臭のする奴でも構わないと思っていたが、若くてぴちぴちならいい。


ーこの際、ちょっと変人でも事務能力が高ければ構わないー


そう思えてしまうほど危機的状況にある第5竜騎士団だ。思わず漏れた本音に怪訝そうな顔をしたユークリッドを前にレイは気にするなと手を振って嘆息する。


「いいよ、もう。普段はあんな畏まった口調で喋んないし」


ユークリッドが死にそうなほどに自責の表情を晒すのにレイは苦笑して終わりにする。正直、いきなりの死亡宣告に度肝は抜かれたが。申し訳なさそうな表情を見る限り、故意にやったわけではないのが分かる。………それにちょっと嬉しかったのもある。あんなに心配されるとちょっと自分って頑張ってると思える。


「ちょっとした行き違いはあったが……………この度は異動に応じて頂いて感謝する。今日は休んで明日から、新たな職場でその力を発揮してもらいたい」


定型通りの歓迎の挨拶の言葉を口にするとユークリッドが一歩下がって頭を下げる。


「ユークリッド・コンフリートと申します。若輩者ですがどうぞよろしくお願い致します………先程は失礼な物言いを致しまして誠に申し訳ありません」


自分の勘違いに顔から火が出るんじゃないかというぐらい恥ずかしい思いをしたユークリッドは再度頭を下げる。それをレイは苦笑して流す。


「もう気にすんなって。忙しいとこ悪いけど、アルフレット。寮への案内頼めるか?」


ユークリッドに心配はされたが休む訳にはいかないので、椅子に再び腰を下ろしながら声をかける。わざとらしく咳払いして大爆笑を抑えたアルフレットは一礼する。


「了解です」


アルフレットが自分の言葉に応じるのを確認してから自分の前に立つユークリッドを見上げる。


「って事で。今日は疲れたと思う。ゆっくり休んでくれ。団の主だった面々には明日紹介する」


「………ありがとうございます」


「おう」


ユークリッドが頭を下げるのを確認して再び書類に視線を落としたレイは書類を捲る。目の前では“では、行きましょう”、“はい”という会話がなされるが一向に目の前から気配は動かない。


「なんか他に気になるか?」


アルフレットが促す声に曖昧に頷きつつも自分の前から動かない気配に顔を上げると思い詰めた表情のユークリッドが自分を見下ろしているのが分かる。“まださっきの事を気にしてんのか?”と小首を傾げながらレイは再度問いかける。


「ユークリッド、何か気になる?」


自分の問いかけに非常に迷っているのか幾度か更に視線をさ迷わせた相手はようやく意を決したのかこちらをきちんと見つめて口を開く。


「さしでがましいとは思いますが………」


「ん?」


今度は何を言うのかなと心構えをしながら小首を傾げるとユークリッド・コンフリートは本日三度目の驚愕の言葉を放つ。


「本日からお手伝いさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「………はい?」


ユークリッドの斜め上をゆく言葉の数々に驚愕してばかりいたレイは本日3回目となるが手から書類の束を落とした。


 


ーやらかした………ー


初対面のしかも新しい上司にいきなり死亡宣告をしてしまったユークリッドは内心で深いため息を吐く。パラパラと自分に宛がわれた書類に目を通しながらも自分の勘違いが顔から火が出るんじゃないかと思うほど恥ずかしくてたまらない。


“初対面でいきなりの死亡宣告とか………どれだけ問題児なのかと思われてしまうじゃないですか………”


第5竜騎士団の団長が年若い事は知識として知っていた。だが、あそこまで年若いとは思っていなかった。一昨年から続いた第5竜騎士団の不祥事を解決した功績を認められて団長にと騎士団から打診があり、就任したと聞いてはいたが………。


ー若過ぎるー


せめて自分と同い年か一、二歳年下ぐらいだと思っていた。まさか成人したばかりの子供だとは思っていなかった。前世では20歳が成人年齢だったが今世では15歳で成人と認められる。そんなまだ自分にとってはまだ子供の範囲の年齢の少年が劣悪な環境で働いているという現状に怒りが沸いた。いくら若くても過剰労働は体によくない。明らかに漂う臭いに少年が数日は風呂に入っていない事も分かったし、目の下の隈からまともに休んでいない事は一目瞭然だった。


「ふぅ………」


それでも着任前からやらかした事実は消えない。またそんな事を言った自分が彼よりも先に休むことに罪悪感を覚えた。だから今日から頑張らせてもらうと決意表明した。自分の申し出に驚愕したまま固まった上司をよそに目を輝かせた一番隊のアルフレットが目を輝かせて今、自分が座っている応接セットから書類をどかして団長の周囲に山と積まれていた書類をいそいそと運んでくれた。ちなみに“お茶煎れてくるから”とようやく我に返った団長が“ええ!”と驚愕を顕にする中、彼は部屋を出ていった。山と積まれていた書類を読み進めると同時にユークリッドの眉間には隠しようもない皺が刻まれていく。書類を読む手も震える。


ーこれは………酷すぎる………ー


王都で地方から上がってくる書類の誤字や文法の違いを目にしていたが………大事な事だから二度言おう。


………これは酷すぎる


「お二人さん、お疲れ様~。お茶持って来たよー」


軽いノリで入って来たアルフレットの声にユークリッドは弾かれたように顔を上げる。その形相は険しい。


「ノワール様!申し訳ありませんが、この壊滅的なセンスで飾り文字を使う方を呼んで頂けませんか!」  


『ん?』


短い時間でユークリッドの言動に慣れつつあった二人はその申し出に新しい副団長に顔を向けた。

いつもお読みいただきましてありがとうございます。誤字脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


ユークリッドに異世界の労働問題を解決する傍ら、私の労働問題も解決して欲しいものです。

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