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九話 堕ちた魔神レナサナ


「ああ、エイリアンですか。エイリアンというのは……エイリアン!?」


 思わず二度見した。ゴブリンとドラゴンの紙に挟まれ燦然と輝くエイリアンの文字。違和感しかない。エイリアンナンデ?


 えー、

 これは、えー、

 だってお前これ、えぇー……

 流石にこれは……んー、

 ……いや。

 そうだな、考えてみればそこまでおかしくもないのか?


 ドレイクの方程式によれば、宇宙には人類とコンタクトを取れる程度の文明を持った生命が存在する惑星が10はあるらしい。

 このファンタジーな異世界で、まさかSF臭漂うエイリアンという単語をよりにもよってこんなところで目にするとは思っていなかったが、この世界にもドレイクの方程式が適用されるなら、エイリアンの一匹や二匹は当然いるだろう。

 たぶん。理論上は。


 色々な疑問はとりあえず脇に置いておき、とりあえずヴァイン兄貴の質問に答える。


「エイリアンというのは敵対的な宇宙生命体の事です。遠くの星に住んでいるヤバい好戦的魔物と思っておけばいいんじゃないですかね」

「分かったような分からんような。この十二オクコウネン~三千コウネンというのは?」

「一光年が光の速さで一年かかる距離という意味なので、十二億光年はそれが、あ、光の速さは、えー、確か秒速三十万kmで、秒速三十万kmというのは、えー、俺が壊力嵐迅で走った時の最高速度が体感時速60~70kmぐらいだから、えー、あー……秒速を時速に直すと……」


 暗算では追いつかず指まで動員して計算を試みるが、単位が大きすぎてこんがらがってくる。

 ヴァイン兄貴がよく分かっていない顔で俺の言葉の続きを待っているが、分かっているはずの俺でさえ分からなくなってくる。


「ラティ、ヘルプ」

「……ん? ああ、よく聞いていなかった。なんだ」

「十二億光年って何km?」

「113がい5296けいkm」

「は?」


 待て、聞いた事ない単位が出てきたぞ。京はなんとなく聞き覚えがある気がするが、ガイってなんだ。理解できないのは俺が馬鹿だからじゃないはずだ。


「すまん、もっと分かりやすく頼む」

「113万5296×一億×一億kmだ。京は兆の上の単位。垓は京の上の単位。カースが不眠不休全速力で走り続けて1851兆4285億7142万8571年かかる」

「……だそうです」

「なるほど、分からん」

「ですよね。まあジョークの類じゃないです? ターゲットも距離も意味不明ですし……いや意味不明過ぎるか?」


 悪戯やジョークにしては分かりにくい。

 一般的にはヴァイン兄貴のように億という単位の理解すら怪しいのだ。エイリアンも光年も伝わる訳が無い。それこそ俺と同じように地球の記憶を持っていなければ。

 この世界の公用語が日本語である以上、過去に|俺と同じような誰か(日本からの転生者)がいた事は間違いない。その「誰か」が同胞を探すために同胞だけに分かるキーワードを使っている、というのは穿ち過ぎか?

 いや、キーワードにするなら「東京」とか「徳川家康」とか、もっと日本固有の名詞を使った方が確実だ。エイリアンや光年だと語彙の豊富な現地人が引っかかりかねない。


 では特に裏事情はなく、真面目に情報を貼り出しているのだろうか。

 改めて掲示板を見てみる。


「ハンター急募:エイリアン、数不明、約十二億光年~三千光年、10シアン」


 ……これを真面目に?

 正気か?


 でも面白そうだ。真面目でも冗談でも。

 遥か遠い宇宙のエイリアンについての情報。そんなの面白いに決まっている。情報料もたったの10シアン。タダみたいなものだ。


「これ買おうかな」

「酔狂だな、気持ちは分かるが。俺はこれにする。頑張れよ」


 ヴァイン兄貴は焼肉の紙を掲示板から剥がすと、俺の尻を叩いて受付に行った。

 俺もエイリアンの紙、正確にはエイリアンの大きな紙の下の封筒にゴッソリ入っていた整理券のような小紙を取ろうとしたが、先ほどから何やら悩んでいたラティがストップをかけてきた。


「待てカース、恐らくこれは魔神からの情報だ」

「あ、そうなのか。へー、魔神って宇宙進出してるんだな……宇宙進出してるのか。凄いな、魔法文明が宇宙進出なんて創作でもあんまり聞かないぞ。それで何か不味かったりするのか」

「面倒事になるかも知れない。魔神には多かれ少なかれ愉快犯的気質を持つ奴が多い。何を企んでこんな情報を出しているのか分かったものではない」


 確かに。魔神は魔「神」というだけあって神のような力を持っているクセに、レーザー式切断魔道具を無意味にチェーンソー型にするような愉快な奴らだ。これも暇を持て余した神々の遊びなのだろうか。


「俺も宇宙の果てにエイリアンハントに行こうなんて思ってないさ。情報聞くだけだけだ。首は突っ込まない」

「……まあそれならいい、か?」


 ラティの同意も得られたので、エイリアンの紙をとって受付に持っていく。

 首を突っ込まないというのは本音だった。ただでさえ厄介な案件を抱えた親友がいるのだ。これ以上厄介事を増やすつもりはない。

 受付は珍しい事に、この情報については情報提供者から直接説明があると言い、10シアンを払うと説明会の場所と日時を教えてくれた。今日の夕方、この街のミスカトニック大学の講堂だ。宿借り亭からそう遠くない。


 ミスカトニック大学の学長は魔神だという噂を聞いた事がある。これはラティの言う通り、本当に魔神が持ってきた情報なのかも知れない。テンション上がってきた。

 果たしてエイリアンの正体は強酸系かケイ素系か。


 それはそれとして、俺は掲示板の前に戻って今日の獲物の情報の品定めを始めた。















「エイリアン? なにそれ」

「敵対的な宇宙生命体。遠くの星に住んでいるヤバい好戦的魔物と思っておけばいい」

「十二億コウネンは?」

「コウネンは光の年と書く。俺が千億回人生を繰り返して走り続けても全然たどり着けないぐらいの距離だ」

「十二億光年先にいるエイリアンの話を聞きに行くの?」

「その通り」

「そんなの面白いに決まってる」


 ひと狩り終えて宿に戻り、ルピタにエイリアン情報を話すと興味津々な無表情になった。


「私も行きたい」

「だよな。でもなぁ」


 ルピタは宿の外に出られない。本人も分かっているようで、すぐにシュンとしてしまう。

 ずっと宿に缶詰めでは気の毒だ。息抜きの意味でも連れて行ってやりたいが、未だ宿借り亭の周りにはロトカエルがうろついている。本当に鬱陶しい奴らだ。


「まあ土産話楽しみにしててくれよ」

「うん……」

「ミス大に行くなら俺が送って行こうか?」


 ルピタを慰めていると、チーズフォンデュを持ってきた亭主さんが言った。


「え、いいんですか」

「構わんよ。私も行く用事があるからな」


 事も無げに言う亭主さん。宿の営業以外で彼が客にサービスするとは、珍しい事もあるものだ。

 亭主さんがボディーガードについてくれればある意味イージス艦に護られるより安心である。ロトカエルも敵ではない。


「ありがとうございます」

「いいって事よ。準備ができたら声をかけてくれ」


 ルピタが深々と頭を下げる。ラティは物言いたげに亭主さんをじっと見ていたが、亭主さんが厨房に引っ込むと肩をすくめてチーズフォンデュのチーズ鍋に顔を突っ込んだ。


 夕食を食べ終わり、俺達は亭主さんに引率されてミスカトニック大学に着いていた。宿を出たと思ったら大学の正門を潜っていたという不思議現象にはこの際触れないでおく。

 事前に聞いたラティ情報によると、ミスカトニック大学の歴史は古く、なんでも千年以上前のエルフの学府を前身とした学校で、何度かの閉校期間や移転、改築などを挟みつつも現代まで続く由緒正しい名門校だという。経済、地理、考古学、農業に科学魔法哲学などなど、教える内容は多岐に渡る。


 講堂へ移動しながら見回してみると、確かにずっしりとした歴史や格式を感じる。大魔法使いの石像に樹冠の傘をつくっている古色蒼然とした大木の幹は俺が五人手をつないでも囲みきれないほど太い。丁寧に敷かれた石畳は色が斑になっていて、何度も補修された事が伺える。石造りの建物はハンター組合よりも大きく、何かの城ではないかと思うぐらいの見上げるほどの高さと威容を誇っていた。窓を数えてみると、少なくとも十二階はあるようだ。この世界では屈指の高層建築だろう。西日に照らされた時計塔の鐘が腹に響く荘厳な音を奏で、すれ違うローブ姿の学生達を急がせる。

 悔しいが俺が前世で通っていた大学よりも立派だ。流石に千年の歴史には勝てない。地球に千年続いた大学なんてあっただろうか。


「懐かしいな」


 本の山を抱えてよろよろ歩いていく学生を見て、胸ポケットの中のラティがぽつりと呟く。


「懐かしい?」

「ああいや、なんでもない」


 言葉を濁すラティ。

 別に秘密を抱えるのは構わないが、匂わせるのは正直やめてほしいところだ。気になって食事が喉を通らなくなったら責任問題だぞコラ。


「里の母校に少し似てる」

「ロトカエルの里の?」

「ミスカトニック大学の分校は世界中にある。ロトカエルの里にもあったはずだ。あー、何と言ったか」

「キングスポート大学」

「ああそれだ。そんな名前だった」

「まて、ルピタは大卒なのか? その歳で?」

「中退した」

「なんで中退……あっ(察し)」

「気にしなくていい。カースは? 前世? で学校に通ってなかったの」

「国立大の、つっても分からないか。そこそこいい大学の出だよ俺は。就職先はトラックドライバーだけどな」


 ぐだぐだ話している内に講堂に着いた。講堂というよりも聖堂に見える。両開きの荘厳な扉とガラス窓に施された細工が見事だ。素人目にも匠の仕事だと分かる。まったく、金かけてやがる。

 講堂の中に入ると、ズラリと並べられた国会議事堂のような机と椅子の群れの半分ほどが既に埋まっていた。翼があったり身長が五メートルぐらいあったり、明らかに魔族な奴らもいれば、身なりの良いスーツ姿の紳士や斧を担いだ推定魔物ハンター、白衣を着た研究者らしい人もいる。

 講堂の中は話し声でガヤガヤと煩い。とりあえずどこか空いている席に座ろうと見回すと、端の方にいたヴァイン兄貴が手を振っているのを見つけてそちらに向かう。


「よう、遅かったな。まあ座れよ」

「どうも。兄貴も結局情報買ったんですか」

「ああ。やっぱ気になるだろ」

「ですよね」


 怪しい情報でも一応はハンター組合が精査したもので、最低限の安全は保証されている。それに情報公開場所がミスカトニック大学となれば、少なくともあからさまな詐欺や犯罪に巻き込まれる事はないだろう。情報提供者はミカトニック大学に場所を借りられるほどの力と信頼がある人物という事である。


「ルピタがなんでいるんだ? 大丈夫なのか」

「それが亭主さんが案内してくれたんですよ」

「亭主さんが!? 珍しい事もあるもんだな。一体どうしたんだ」

「さあ。エイリアン好きとかそんなんじゃないですか」

「エイリアンってのはあの亭主さんが興味をもつ魔物なのか。俄然興味が出てきたな」

「いや適当に予想しただけで実際どうなのかは分からないですよ」

「おっ? 久しぶり! 元気だった?」


 ヴァイン兄貴と雑談していると、声をかけられた。

 そこにいたのは若い金髪の女性だ。平たく言って、美人である。絵画のように整った顔立ちに、さらりと滑らかな黄金の長い髪。キラキラと悪戯っぽく輝く碧眼をまっすぐ俺に向けているが、見覚えはない。誰だ。


「人違いだと思います」


 なぜか割って入ってきたルピタが俺の代わりにキッパリと言う。女性は目を見開き、快活に笑った。


「なになに嫉妬? 可愛いなーもう。私が用があるのはその人間じゃなくてポケットに入ってるレナサナ」

「レナサナ?」

「それそれ、その鼠。次元考古学者レナサナ・ウィンゲート・ピースリーっていうと魔神の間でも有名だよ」

「……悪い意味で、だろう」

「次元発掘中にうっかり銀河団一つ消滅させて、ロバートさんに『畜生道:鼠の刑』喰らった魔神が有名にならない訳ないでしょ。こんなの笑うしかないよね」

「黙れアイリス」


 ラティは忌々しそうに女性、アイリスさんを睨んだ。

 何か色々聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。


「ラティって魔神だったのか?」

「…………」

「今はラティって言うんだ? 魔神の地位を剥奪されてるから正確には元魔神だね。あとレナサナにこのあたりの話聞いてもムダだよー。刑を受けた時に情報規制かけられてるから。喋っちゃいけない事喋ると爆発四散するんだよね」

「アイリス、黙れと言ったのが聞こえなかったか? 余計な、事を、言うな」

「凄んでも鼠だと全然怖くないね。チーズ食べる?」

「くそっ、貴様は全然変わってないな。チーズは食べる」

「食べるの!? 冗談だったんだけど。なんかレナサナ丸くなってない?」

「今はラティだ」


 ラティは前脚でアイリスさんからチーズの欠片を貰いながら、憮然として答えた。

 元魔神だったのか。通りで頭良くて喋るわけだ。


「……すまんなカース。自分でいずれ話すつもりだったんだ。信じてくれ」

「いや話すと爆発するんだろ? 別に気にしちゃいなかったよ」

「しかしだな」

「どうしたアイリス? 誰と話して、ってレナサナ! レナサナじゃないか! とっくに猫に食われたかと思ってた! よく生きてたなお前!」

「なんだなんだ」

「なんの騒ぎだ」


 アイリスさんを皮切りに、ぞくぞくと人が集まってきた。

 いや、人というよりも魔神だろうか。見た目は人間と同じだが、何か独特の風格なようなものがある。魔神に囲まれもみくちゃにされてちゅーちゅー鳴くラティを遠巻きに、ヴァイン兄貴と顔を見合わせる。


「なんですこれ」

「俺が知るか。魔神がこんなに普通の奴らだとは思わなかった。というか魔神なのか?」

「話を聞いてるとそんな感じですけど」

「価値観壊れるなあ」


 全くだ。魔神といえば、人間を魔族に改造し、海を創造し、大地を消し去り、生死を操る超越者。現人神のようなものだ。それが大学の講堂でフランクに話しかけてきて、ワラワラ鼠を囲んでいる。ありがたみというものがない。

 白い目でお祭り騒ぎの魔神達を見ていると、ルピタがびくっとして息を飲んだ。


「どうしたルピタ」

「まさか……ルフェイン様?」


 道端で日課の犬の散歩をしている途中で神託を受けたような驚愕と戸惑いの無表情でルピタの視線を追う。そこには銀髪赤目の若い男がいた。黒の燕尾服にステッキを持ち、ラティを囲む魔神達から少し距離をとって苦笑を浮かべている。


「あの銀髪の奴か?」

「た、たぶん。絵画とか彫像でしか見たことない、けど」


 ほほう。

 あいつが。

 欠陥があるロトカエルを殺すとかいう鬼畜な規則を造った畜生ルフェインか。

 そうか。へぇ……


「ルフェインってのは偉いんだろ?」

「それはもう。ルフェイン様に会える日が来るなんて」

「よしルピタ、一発殴って来いよ。俺はラティの分入れて二発殴るから。全力で」

「ええ!?」

「こっちはあいつのロクでもない規則のせいで死にかけたんだぞ」

「それは……そうかも知れないけど。ルフェイン様に手を上げるなんて」


 ルピタの返事は歯切れが悪い。

 ふむ。ルピタはルフェインを憎んでいるものだと思っていたが、そうでもないようだ。創造主を憎めないように安全装置がかけられているのか、それともルピタの心根の優しさか。

 あるいは、ルフェインに直接迫害された訳ではないから、実感が湧いていないだけかも知れない。

 何にせよ、ルピタが気乗りしないなら俺も別に殴らなくていいか。


「分かった、せめて文句言ってやろう」

「え、えっ?」


 困惑するルピタの手を引っ張り、ルフェインの前に連れて行く。


「ちょっと失礼。ルフェインさんですか」

「ん? ああ、俺がルフェインだ。何か用か?」

「この娘はルピタ=ルフェインと言うんですけどね、遺伝子疾患で心臓が二つあるそうで。ロトカエルから命を狙われてるんですよ。何度か死にかけたし、俺も危ない目に遭ったんです」

「疾患、ね」


 ルフェインの目が細められ、ルピタを見た。

 突然、空気が何十倍にも重くなった感覚に襲われた。全身の血液が氷水に変わったような寒気を覚える。あまりの緊迫に体が止めようもなく震え、冷や汗が止まらない。

 始めて俺は目の前の存在が人智を超えた超越者である事を思い知った。世界全てが敵に回ったような、足元が消え縋るモノ全てを失ったような、形容し難い底知れない恐怖。その根源であるルフェインは、冷め切った目でルピタを見ていた。


 なぜ思いつかなかったのか。ルフェインは疾患を持つロトカエルを殺す規則を創った張本人だ。ルピタに良い印象を抱くはずがない。むしろその手で殺すだろう。

 馬鹿だった。何が一発殴る、だ。お気楽にもほどがある。ルフェインを見た時点でルピタを抱えて全力で逃げるべきだったのだ。


「に、逃げろ!」


 ガタガタ震える手を無理やり動かし、ルピタの肩を掴んで後ろに下げる。たったそれだけで命を使い果たしてしまったと思えるほど体力を消耗する。それほどこの空間の圧迫は異常だった。

 腰を抜かしてしまったルピタを背後に庇い、ルフェインと相対する。

 こうなったら最期に一矢報いて――――


 彼の視線が、俺に向いた。

 頭が真っ白になる。

 体中から液体という液体を噴き出し、俺は呆気なく気を失った。














 起きると講堂の椅子に座っていた。隣に座るルピタは、俺に頭を預けて安らかな寝顔を見せている。

 なんだ? 俺は夢でも見ていたのか。とんでもない悪夢だった。

 ……夢で良かった。


 ラティがもみくちゃにされていたのも夢だったのか、と周りを見回すと、ルピタの反対隣に座っていた悪夢ルフェインと目が合い、魔導炉しんぞうが止まった。


「おっと」

「げっは!」


 ルフェインに胸を殴られ、鼓動が戻る。ちくしょう、夢じゃなかった。

 しかしルフェインに殺気はなく、いかにも紳士といった雰囲気で、軽く頭を下げてきた。


「先ほどは失礼した。不出来な被造物に感情を抑えられなくてね。とりあえず体は清めておいた」

「は、はあ」

「何か俺に用があったんだろう?」

「え? ああ、まあ、はい。えーと、この娘はルピタ=ルフェインと言うんですけどね、遺伝子疾患で心臓が二つあるそうで、」

「それはもう聞いた。今は君に一つ移植してあるようだが。それで?」

「…………」


 一言文句を叩きつけてやるつもりだったが、言ったら今度こそ殺されそうだ。彼に堂々と啖呵を切ったらさぞスカッとするだろうが、それと比較にならないぐらい怖い。

 誰だこんな怪物を案外普通だとか言った奴は。

 ここは適当に言葉を濁してさっさと退散……いや。

 なぜか今は魔神のバーゲンセール状態だが、普通ならこんな機会はない。ルフェインに何か言うなら今しかない。


 言うべき事は文句だけではない。


「ルピタを殺そうとしてるロトカエルを止めてくれませんか。お礼は……旨い飯を奢るので」


 言ってしまってから自分でそれはねーよと突っ込んだ。

 前半は良いとして、後半の酷さ。何が旨い飯を奢るだ殺すぞ。魔神が庶民の考える旨い飯で満足する訳ないだろいい加減にしろ! そんなもので釣れるのは俺ぐらいだ馬鹿!


 ルフェインは俺の言葉に蔑みも喜びもせず、じっと見てきた。

 居心地が悪い。今からでも別の対価を提案するべきだろうか。いや、俺が差し出せるどんな対価を差し出しても彼にとってはゴミのようなものだろう。

 一瞬ラティが思い浮かんだが、ぐるぐる巻きにして重りをつけて思考の奥底へ沈めておいた。一番可能性がありそうだが、お前は出てこなくていい。

 やがてルフェインは言った。


「君達はエイリアン討伐に参加するつもりか?」

「いやとりあえず話を聞きに来ただけ……あ、参加します参加します」


 ルフェインが興味を失ったような表情になったのを見て反射的に言葉を変えた。言った直後にまた後悔するが放った言葉は戻らない。

 くそ、さっきから会話をしている気がしない。怪獣のご機嫌取りでもしている気分だ。


「分かった、ロトカエルには俺から言っておく。では失礼」


 俺の返事を聞くと、ルフェインは満足そうに頷き、優雅に一礼して立ち去った。


 ……ん?

 ……え?

 ……あれ?

 …………。 


 問 題 解 決 !


 やったぜ!

 何か新しい問題を抱え込んだ気がするがきっと気のせいだ!


 理論上の人間の瞬間最高速度は時速64kmだそうで(ウサイン・ボルトの最高速度は45km)。この世界の人類は地球人類と比べて若干優れている事もあり、カースは時速70kmで走れます。即ちマッハ20の超生物の1/343倍の速さ。

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