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十話 エイリアン|ω・)<チラッ

 説明回が存在する事自体小説としてあまりよろしくないと思ってるんですが避けられなかった(´・ω・)


 目が覚めたルピタにルフェインの言葉を使えると、ルピタは素直に喜んでいた。

 俺は喜べない。指を噛むスッポンを離した代わりにサメに噛まれた気がしてならない。ルフェインに良い様に転がされたような。


 毛並みをぐしゃぐしゃにして、ぐったりヨレて逃げてきたラティに聞いてみる。


「お疲れラティ。今ルフェインに話つけてルピタの追手を止めてもらったんだけどさ」

「ほう? あの差別主義者がよく了承したものだ」

「エイリアン討伐に参加するって言ったら即OKだった。それで今更なんだけどな、エイリアンって何なんだ? 何か知らないか」


 魔神ルフェインが主義を曲げる対価にするほどのものらしい、エイリアン討伐。よく考えなくても嫌な予感しかしない。

 ラティは難しい顔で尻尾を揺らしながら答えた。


「いや、知らないな。私が鼠になった後に発見されたか創られた存在だとは思うが。カースに討伐を頼んだのか? ルフェインが?」

「頼んだというか、誘導されたというか」

「ふむ。解せんな。まさかルフェインの手に負えないものだとも思えん。ルフェインが討伐できないならカースにも当然無理だ」

「何か俺にルフェインの持ってない特別な力があるとか」

「ちゅちゅちゅちゅちゅ!」


 思いっきり笑われた。


「カースは肉体的にはヒト族最高スペックだが、特別な能力はない。ヒト族が使える普遍的な力のみだ」

「笑う事ないだろ」

「いや、自分を特別なものだと思いたい願望は若さの印だ。それが懐かしかったのだ」

「ラティの予想だと、エイリアンの正体は?」


 ルピタが話を戻す。ラティは後ろ足で頭を掻きながら適当に答えた。


「どうせロクなものではない。今から魔神の誰かが語るだろう」


 ラティの言葉を合図にしたように、講堂の明かりが落ちていった。ざわめきが引いていき、立っていた人達は手近な席に座っていく。いつの間にかはぐれていたヴァイン兄貴はよくつるんでいる上半身裸の男魔物ハンター二人に挟まれて少し離れた席に座っていた。


 講堂の明かりが完全に落ちると、代わりに教壇に明かりがついた。

 そこに立っていたのは金髪碧眼の、これといって特徴の無い男。つまり、亭主さんだった。


「どうも皆さんこんにちは。本日は御足労頂き誠に……面倒なので挨拶は省略で。ども、ロバートです。魔神やってます。じゃあエイリアンについて話していきますね」


 威厳を投げ捨てさくさく話を進める亭主さん改めロバートさん。

 あの人も魔神だったのか。

 意外……でもないな。むしろそれ以外にない。あのギャグ時空やホラー時空は魔神の力で演出していた訳か。よくやる。


「その前にまず事の経緯を少々。これを話しておかないとエイリアンについて理解できない方も多いと思うのでね。えー、ごほん。我々魔神は数百年前から宇宙開拓を進めてきていました。我々が住んでいるこの星の外、夜空に光るあの星々に、空を飛んで宇宙を超えて探検していたんですね。目的は生存圏の拡大であったり、学術的好奇心を満たすためであったり。数百年の開拓の内に何度も事故や技術革新があったり、銀河団を一つ消滅させてしまったりとまー色々あったわけですが、」


 ラティが居心地悪そうにポケットの中でもぞもぞした。


「一ヶ月前、我々は知的生命体を発見しました。それまでに知性の無い原始的生命体は見つけていたんですが、知的生命体は始めてでして、魔神の間では結構な衝撃でした。発見した知的生命体は全身を魔法物質で構成された球体の生命体で、十二億光年……途方もなく離れた星に住んでいるんですね。我々は彼らをスペーラと名付けました」


 亭主さんの前に立体映像が投影され、サッカーボールぐらいの金属っぽい球体が現れた。球体の表面ではさざなみのように色の波紋が浮かんでは消えている。


「スペーラとの意思疎通の手がかりをつかむまでに十日ほど。幸い彼らは友好的で、我々を歓迎してくれました。意思疎通ができるようになった後、さっそく国交を開き、小規模な交流が始まったんですが。交流が始まって三日後、今から十五日前ですね、問題が起きました」


 十五日前というと、ルーンハルト・ルフェインと戦った日だ。

 そういえばあの日、亭主ロバートさんは宿を留守にしていた。その「問題」のせいか。


「その時私はスペーラと交易品目の確認をしていたんですがね、突然スペーラが『×××がまた来た。君も×××しろ』と言って消えました。まだ細かい言い回しや特別な単語の理解までは進んでいなくてですね、何を言ったのか全ては分かりませんでした。分かっていても結果は同じだったかも知れませんが、数秒後、スペーラの星にいた我々はエイリアンに襲われました。こんな奴らです」


 サッカーボールのような球体、スペーラの隣に黒い穴が投影される。穴はぐにゃぐにゃ動き、大きさと形を不規則に変えていた。穴の中から何か出てくるのかと身を乗り出してみるが、そんな様子はない。


「えー、これがエイリアンです。黒い穴のように見えると思いますが、穴ではありません。このエイリアンは光を含む全ての電磁波や魔力波、音波などを100%吸収する性質を持っていてですね。その結果真っ黒を通り越して黒い穴に見えるわけですね。このエイリアンは群れを成して次々と我々を襲いました。

 で、逃走も抵抗もダメだったんですね、これが。空間転移をしても追ってくる。こちらの兵器は全く効かない。ビッグバンを起こして巻き込んでもダメージなし。そのクセ向こうはこちらの防御を全て貫通してくる。逃げられない、倒せない、防げないの三拍子揃った災害のような奴なんですよ」


 淡々と語る亭主さんとは裏腹に、内容は常軌を逸している。

 なんだそのエイリアン。ビッグバンを起こせる魔神もヤバいが、それに巻き込まれてダメージ無しのエイリアンはもっとヤバい。


「冗談だよな?」

「あれは本気だ。マズいな、最悪の予想よりもっと悪い」


 小声でラティに確認すると、緊迫した声で返してきた。マジか。

 ルピタを見ると、半分理解できていない様子だった。半分理解できているだけ大したものだが、何の救いにもならない。


「それでひたすら撤退しながら蹂躙される内にエイリアンの特徴が分かってきまして。奴らは魔法物質を食べるようです。魔神の体は基本的に魔法物質でできているので、奴らには餌に見えたのでしょう。エイリアンは魔法物質を侵蝕・同化、消化します。我々はこの事からエイリアンを侵蝕者と仮称しました。

 他にも情報はありますが、皆さん混乱しているようなので重要な部分だけにしておきますかね」


 亭主さんは、神妙にしている魔神達と、一部の絶句している魔族と俺、そしてまるで理解していない大多数を見回した。


侵蝕者エイリアンは現在この星から三千光年ほどの距離までやって来て、今もじわじわと近づいてきています。この星にやってくるのも時間の問題でしょう。長くて半年といったところですかね。つまり我々と魔族諸氏の寿命は最長半年という事です。魔族諸氏の体には魔法物質の臓器がある。侵蝕者は攻撃しない限り非魔法物質に興味を示しませんが、魔族が体をぶち抜かれて臓器まほうぶっしつを貪られたら当然死にます」


 講堂がざわめいた。俺も息が止まりそうになる。

 魔法物質の臓器。

 俺の体にはロトカエルの魔導炉しんぞうが入っている。条件は魔族と同じ――――残りの寿命は半年だ。魔神が成す術もない奴らから逃げられる訳が無い。

 それでそんなものを討伐しろってのか。正気じゃないぞ。逃げたい。ああでも逃げられないんだ。畜生!


「希望は一つ、スペーラです。彼らは侵蝕者の襲撃を感知し、何らかの対処をしていた。対抗策を持っているんですよ。『また来た』と言っていたし、何度も襲撃されて、対処してきていた事は確定的に明らか。我々はそれが何か知る必要がある。再びスペーラの星を訪ねる必要がある。空間転移は侵蝕者が嗅ぎつけて襲ってくるので、宇宙船を使った航行で移動します。船はこちらで用意しますが、魔神だけでは人手が足りない。そこで今回こうして情報公開を兼ねて募集をしている訳です。

 さて。

 みんなァァァァァ! 宇宙へ行きたいかァァァァァ!?」


 突然亭主さんは拳を突き上げて声を張り上げた。

 魔神達が拳を突き上げ、やけっぱちな歓声を上げて応えた。他は困惑して周りを見ながら控えめに追従している。


「はいどうも。そういう訳で、死にたくない魔族と好奇心旺盛なヒト族は是非十二億光年の旅へ参加して下さいね、と。ああ魔神は強制参加なので。参加希望者は前の方にどうぞ。以上終了! ご清聴ありがとうございました」


 亭主さんが一礼して教壇を降りると、講堂に明かりがついた。魔神達が真っ先に前の方に群がり、残りは困惑してざわざわと言葉を交わしている。俺も事情を飲み込みきれていない内の一人だ。


「ラティ先生、三行で」

侵蝕者エイリアンが侵攻してきている。

 対抗策を手に入れるために宇宙船に乗って十二億光年先へ。

 放置すると文明が崩壊する」


 簡潔にまとめてくれたが、イマイチ実感が湧かない。状況はかなりマズそうだ。しかし他の国で起きている核戦争の話を聞いたようななんとも言えない他人事感が拭えない。

 魔神という連中は「神」だ。実態はどうあれ、少なくともそう名乗るだけの力はある。その魔神が一方的に敗北する侵蝕者エイリアン

 これはもう神話じゃないですかね。パンピーの出番では無い気がする。


「でも俺も当事者なんだよな。心臓ハツ食われて死ぬのは御免こうむる」

「ルフェイン様と約束してるしね」

「そうなんだよ……」


 ルフェインにはもう参加すると言ってしまった。ここで前言撤回すれば、あの人智を超えた殺気からして小指の先でルピタもろとも消し飛ばされる。

 宣誓通りに参加すれば、魔神が手も足も出ないような超存在エイリアンを相手取る事になる。どちらに転んでも死だ。

 実際はスペーラとかいう連中に対抗策を聞きに行くだけ。戦う事が目的ではない。しかし旅の間に侵蝕者エイリアンを相手にしないとも思えない。ルフェインもエイリアン「討伐」と言っていた。最終目標はそうなのだろう。


 人手が足りないから募集をかけたと言うが、宇宙船の操縦やら整備やらにそのへんの魔物ハンターを捕まえてきて役立つはずがない。

 国が戦争に農民を徴兵し、ロクに訓練せず戦場に送り出す時、死亡前提の捨て駒以上の意味を持つ事はまず無い。

 魔神が人手を必要としているという事は、つまりそういう事だ。


「逃げても立ち向かっても死ぬのか」

「どうする?」

「どうって、重要なのは一つだろ? いつも通りだ」

「そうだね。ラティ、宇宙の食べ物って美味しい?」

「味は保証しよう」

「決まりだ」


 どうせ死ぬなら少しでも旨い物を旨く喰って死にたい。なんなら侵蝕者だって喰ってやるさ。エイリアンなんて早々食べれるものではない。


「気は進まないが、諸々の要素を鑑みるに行かない訳にはいかないだろうな。魔神が鼠の手も借りたいほど切羽詰っているとなれば、前向きに考えれば生還した時の報酬は期待できる」

「満漢全席とか?」

「庶民が考える精一杯の高級料理イメージに涙が出そうだ。そうだな、テラフォーミング済の恒星系の三つや四つは貰えるのではないか? 管理設備付きで」

「ふぁっ!?」


 恒星系? 太陽系とか、あの?

 待て待て待て話の規模がいきなり飛躍し過ぎてないか?

 ……し過ぎてないか。

 魔神と魔族を救って恒星系を手に入れる。妥当だ。妥当か?


「あるいは魔神になるとか。私の場合は恩赦で元に戻る形になるが」

「魔神ってなれるものなの?」

「元魔族やヒト族の魔神は多い。現に魔神の半数以上はこのミスカトニック大学出身だと記憶している。魔神が目を付け、魔神の知識と技術を教え習得させればそれは新しい魔神になる。魔神は種族というよりも桁外れに高度な科学者集団と考えるべきだ」

「ははぁ、なるほどね。夢が広がったのか狭まったのか分からん」


 要するに、魔神は縄文時代で戦車を乗り回し抗生物質をバラ巻いて人工衛星とスーパーコンピュータを使いこなすアインシュタインのような奴らなのだ。神の如き力があるように見えても、実際は優れた頭脳で遥かに進んだ技術を使っているだけ。だけ、と言っても隔絶し過ぎていて、最早神と名乗らない方が違和感がある訳だが。


「ラティが戻ったら鼠耳のお姉さんになるの?」

「どうしてそうなる。この姿はロバート、上役の魔神の刑罰であって、私の元の姿とは関係ない」

「尻尾は?」

「尻尾もない」

「毛皮は?」

「毛皮もない。見た目は普通の容姿端麗頭脳明晰才色兼備白髪紅眼美女だ」

「そう……」


 ルピタは無表情でガッカリしていた。ケモナー属性でもあったのか。俺にはよく分からない性癖だ。でもルピタのケモミミならちょっと見たいかも。


 実質選択肢は無く、俺達は順番待ちの列に並んで十二億光年宇宙の旅の参加登録をする。 ち ょ っ と 規模が大きいだけで、やる事は単なるお使いクエスト。恐れる事はない(震え声)。

 意外なのはヴァイン兄貴も参加登録をしていた事だ。不思議に思って聞いてみる。


「兄貴はヒト族ですよね。行く理由無くないですか」


 侵蝕者は魔法物質を喰うという。魔法物質を持たないヒト族は侵蝕者のターゲットにならない。侵蝕者とやらがこの星までやってきても、滅びるのは魔族と魔神だけで、ヒト族は相手にされず生き残る。魔法物質を使った肉体改造によって強大な力を手に入れた魔族と魔神が、その強大さ故に滅びかけているというのは皮肉な話だ。


「魔法物質を食い荒らす奴を放っといたら俺達飯の食い上げだろ。魔物狩りで食ってんだからな」

「あー」


 なるほど、そういう考え方もあるのか。その理屈でいけば魔物ハンターの参加者は多いかも知れない。遺留品ドロップという形で魔法物質を遺す魔物は侵蝕者の格好の餌食になるだろう。魔物ハンターにとっては絶対に勝てない商売敵。潰せるなら潰しておきたい。

 元々魔物ハンターは死の危険がつきまとう職業である事も、兄貴を参加に踏み切らせた理由と無関係ではないだろう。命懸けは今更だ。もっとも今回はかなり分の悪い賭けだが。


「あと悪い、ラティの話盗み聞きしちまった。報酬目当てってのも正直デカいな」

「一発当たればひと山っていうかひと星系ですからね。いいんじゃないですか」


 ラティの言う通り本当に星がもらえるなら過剰報酬と言えるぐらいだ。リスクは大きいがリターンも大きい。この仕事は充分命を賭けるに値する。人にもよるだろうが。


 参加手続きは簡単なもので、リストにサインするだけで終わった。ヨツン=ヴァインの下にカルナマゴス=ウタウス、ルピタ=ルフェインと並び、最後にラティが前脚にインクをつけてラティと書く。


「その名前でいいのか?」

ラットの雌だから、なんて安直な理由で付けられた名前でも、私は気に入っているんだ」


 そう言って前歯を剥き出して笑うラティはどう見ても鼠だったが、不思議と魔神の風格がある気がした。


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