4話 自己紹介
「...............ん?」
聞き間違いだろうか。
「おーい。聞こえてるか?俺の妃になれと言ったんだぞ?」
よほど怪訝な顔をしていたのだろう。自称第二王子はわざわざ二回も言った。二回もだ。大事なことは二回言えと私も教わっている。
だがしかし、私はそんなこと二度も聞きたくなかった。聞き間違いで済まそうと思っていたのに。
「ヘルプ、ヘルプミー。おまわりさんこいつです」
「おまわりさん?なんだそれ」
「…えっ警察っていうか…えっとここって警察いたりする?」
「ああ、自警団とか衛兵のことか。…ってこら!俺のことを誰だと思っているんだ!」
ちょっと顔が怖いんだけど、何なのこいつ泣いてもいいかな?
「私を嫁に貰おうとしてる女装家変態自称第二王子」
「おい、しばくぞ。俺は女装家だが正真正銘この王国の第二王子だぞ。お前だって俺の妃になれば得すると思うぞ?何でもするって言っただろう?」
やっぱ女装家なんだ。そうなんだ。そうやって認めちゃうんだ。イケメンだからって何でも許されると思って。イケメンなんて滅びたらいいんだ。
「えっちょとワタシ異世界人ダカラナニイッテルカワッカリマセーン」
「喧しいわ!言葉通じてんじゃねーか!」
「えっほんとだ。何で!?っていうか異世界人って珍しくないの!?」
「今更かよ」
滅茶滅茶苦笑いされた。ムカつく。
「異世界人ってのは珍しいが全くいないわけではないんだよ。数年に一度空間に歪みができるみたいでその割れ目から異世界人が迷い込んできたりするぞ。国によって違うが異世界人は未知の世界を知っている文化人として保護されるのが基本かな。言語については…まあアレだ。あれがこうであーなってそうゆうわけで言葉には苦労しないんだ。多分空間を移動してる間に脳の言語設定がシフトしてるとかそういうのだろ多分」
「テキトーかよ!!そんなんでいいの異世界トリップ!そんなに軽いものなの!?じゃあ私もしかして元いたところに帰れる?」
「あーそれが空間が割れる年も時間も場所も不定期で元いた世界に戻った話は聞いたことないな。でも、それこそ俺の妃になれば権限使って好きなだけ調べたらいいし元の世界に戻るまで働かずに何不自由なく暮そていけるぞ?この国にいきなり来て勝手がわからず大変だろう?それに俺に大きな恩があるよなあ?」
「……っく。天国のおとーさーん、おかーさーん。お元気ですか?私は今異世界で見知らぬ第二王子の妃にされようとしていまーす」
芹那は遠い目で天国のお父さんとお母さんに話しかけていた。
「でお前名前は?」
「綾波 芹那」
「……………セリーナ」
こいつ、諦めたな。
こっちには馴染みの無い発音だったか。
「で、あなたはディビッドだっけ?呼びにくいわ」
「デビでいい。近しいものからはそう呼ばれている。これでもう知り合いだな」
「......そうね。で私はどうしたらいいの?」
もはやヤケクソだった。
「妃と言っても本当に結婚するわけじゃ無い。今年十八で成人してから結婚しろと言われていて。側室も取っていないから余計にうるさくて。取り敢えずセリーナに側室になって貰ってしばらく誤魔化したいんだよ。俺自身まだ結婚する気は無いんだ」
「本当に結婚する必要はないのね?……ちょっと肩の荷が下りたわ。というか、あなた十八!?すごい若いのね。それなのにもう結婚って。……そうよね、王族だものね。それにもしかしたらこの世界も江戸時代みたいに………」
「何をもごもご言ってるんだ?それに若いってセリーナもそんな変わらないだろう?俺より若いくらいだと思っていたが」
「私二十三歳よ?」
「に、にじゅうさん……いや、すまない。それはさぞかし辛かっただろう。俺が責任とって貰ってやるから安心しろ」
同情した目で見られた。
「ちょっと!ちょっと待ってよ!行き遅れてないんかないからね!?向こうの世界じゃまだ全然若い方だからね!?結婚してなくて当たり前だから!!」
「そうか。すまなかった。うちの父上も結婚は遅めだったんだがな。幸せそうだからお前も気にするな」
私の抗議がさらに必死で滑稽に見えたのか何故か哀憐の瞳で慰められた。
芹那がこの国での女子の結婚平均年齢が十五六と知ったのはもう少し後のこと。