デイビッド視点
「誰かああ……助け…て!何でも…言うこと…聞くからぁ…もうムリ…助けてぇ!!」
女の叫び声が聞こえる。
何事かと剣を構え声のする方へ急いで向かった。
200mぐらい先に女が裸で倒れていた。
痴女か?
来た道を戻ろうとした時、フェンリルが女の方へめがけて走っているのに気がついた。
ああ。フェンリルに追われて逃げていたのか。こんな森に入るからだ。バカな女め。
この状況、どうしたもんやら。
助けるか?そう言えば、助けてくれたらなんでも言うこと聞くとか叫んでいたよな。
ちょうどいい。
ラッキーだったな。
そう呟いて女の方へ向い、フェンリルの首を切り落とした。
*
「おい。大丈夫か?助けてやったぞ。」
女に声を掛けるが一向に返事が返ってこない。...ん?気絶してるのか?
「起きろ。おいっ!おいっ起きろ!」
大きな声でモーニングコールをするが返事はない。
「おいっおいってば!」
今度は頬をかるく叩いた。
「おい。死んでいるのか?」
そろそろいらついてきたので頭を殴った。
女はやっと目を開けた。
瞳の色は漆黒。その色は吸い込まれそうなほどに深く美しいと思った。
黒髪黒眼。まずこの辺りでは見ない。
こんな森に入るぐらいだ。余所の国の旅人か異世界人なのだろう。
「やっと起きたか。随分遅いお目覚めだな!」
皮肉で笑みが零れる。
「おい。その汚い顔をどうにかしろ。」
本当に汚い。余程怖かったのだろう。涙と鼻水と土でぐちゃぐちゃだ。
「そんなことを言われてもどうすることも出来ません。私の顔なので。」
何を言い出したのかと、一瞬理解出来なかった。どうしてそう言う言葉の捉え方をする。
苦笑するしかなかった。
それにしても、女の喋りには少し驚いた。訛りがなく、上流階級の発音だった。これは、嬉しい誤算だ。使える。
まあ、それはさておき
「違う。その顔についた土や涙や鼻水をどうにかしろと言ったんだ。」
言葉と共にハンカチを放ってやった。
「おい。なに浸っているんだ。目が覚めたのだから、そろそろひざからどけよ。」
ひざの上に頭をおいてやっていたが、もうそろそろいいだろう。
女は立とうとして顔を歪めた。
足を痛めたのか?
「仕方のないやつだ。」
ゆっくりと起き上がらせてやった。
女は周りを見渡して目を見開いた。
「っっ…ここ天国じゃないの!?」
「はっ!?何を言っているんだ?ここはウガネラ森だぞ!どうみても森の中だろう!」
こいつ、頭でも打ったんじゃないか?頭大丈夫か?それとも元々なのか?
「えっ。えっ?だってあなたは天使でしょう?死んだ私を迎えに来た。」
ダメだこいつ。
「どんな発想してるんだ。とにかくここは天国でもないし、私も天使ではない。ついでにお前は死んでいないぞ。」
「えっえっえー!?なんで、私は狼みたいなヤツに食われたのよ!?生きてるはずがないじゃない!!」
混乱してるようだが、こっちが混乱しそうだ。どうやらフェンリルに殺されたと思っているらしい。
「お前はそもそも食われてない。」
苦笑するしかない。
「はぁ?だって私のすぐ近くまで来ていたのよ!?あいつは何処へ行ったって言うの!?」
「ほら」
そう言ってフェンリルの首を突き出した。
………また気絶してしまったんだが。
しょうがない。部屋に連れて帰るか…