3話 改めて
再び目を覚ますと芹那は寝心地の良いベットの上だった。
(…ここどこ?)
体を起こして辺りを見回すと、足に痛みが走った。
そこで私は自分に起きた奇想天外なことを思い出した。……頭も痛くなってきた。
窓から光が漏れている。
もう朝なのだろう。
(あの口の悪い天使はどこに行ったのだろう…)
足はまだズキズキと痛んだが、かけられていた毛布を羽織って部屋を出た。
*
扉を開けた芹那の目に入り込んできたのは、揺れるたびにきらきらと輝く銀髪。
銀髪が振り返る。
そこには美しい青年が立っていた。
「ああ。やっと起きたか」
「えっと…すいません。ここで寝かしてもらってたみたいなんですけど…あの腰くらいまでの金髪で貴方みたいな深い青色の瞳をした天使みたいな女の子……貴方の妹さんか何かですか?」
「それは多分俺のことだろうな」
「えっ?いやさっきも言った通り腰くらいまでの金髪で…え?いやでも背ももっと小さかったと思うし…」
「お前は気が動転していたし、屈んでいたからそう思っただけだろう」
まあその格好だったらなんだし、着替えてから話そう。そう彼は言って私をチラッと見た。
(そういえば裸なんだった…)
途端恥ずかしさがこみ上げてきた。
これに着替えろ。と渡されたものは中世ヨーロッパの服装のイメージに近かった。
(私の勝手なイメージだから実際は全く違うのかもしれないけど)
なんせ見たことも着たこともない服だ。
それに私には少し大きかった。着るのには少々手こずった。試行錯誤しながらやっとの思いで着ると、いい匂いが漂ってきた。
野菜の入ったスープと黒く平べったいパンという質素な(と言うと失礼かもしれないが)ともかく2人分の食事がテーブルに置かれ、ひとまず食事を勧められた。
一息ついてから、青年は今に至った経緯を教えてくれた。ここはウガネラ森という危険な森でまず街のものは近づかないということ。助けてと言う声が聞こえて向かうと森を裸で爆走してる私を見つけたということ。私が追われていたのは、フェンリルという猛獣であること。私が気絶したので仕方が無く、森の中にあるこの隠れ家に連れてきたということ。
きっとそうなのだろう。確かに私は助けてと叫んだし、こんなことを嘘ついても仕方ないだろう。
でも、あの美少女がこの青年だというのが未だに納得できない。確かに端正な顔立ちだけれど、そもそも髪色も長さも違う。服装だって違う。
私が釈然としない顔で考えていると、まだ信じていないのか?と青年は呆れた顔をしてちょっと待ってろと奥の部屋へ入っていった。
それにしても銀髪なんて初めて見た…。
漫画やアニメの世界でしか居ないと思っていた。
あの髪色や服装、そしてフェンリルと言う猛獣からして私は所謂異世界に来てしまったんだろうなと漠然と思いをめぐらせていた。
ガチャっと扉の開く音が聞こえ振り返るとあの天使…もとい美少女が立っていた。
想像より背は高かったけれども…。
「なっこれでわかっただろ?」
声は、さっきの青年の声だ。
納得するしかなかった。
「て言うかなんで女装!?」
素朴な疑問がつい口から出てしまった。
「こんなに美しいのに何か問題でもあるのか?」
(……いや問題はあるだろ。)
でも確かに男とわかった今でも見惚れるほど美しい。
とりあえず、ツッコミは心の中に留めておいた。
「話は戻るがお前、助けてくれって言った時なんでもするって言ってたな」
「その節は本当にありがとうございました」
私は本当にあの瞬間、死を覚悟した。
それはどれだけお礼を言っても足りない。
命の恩人だ。
「私が出来ることでしたらなんでも言って下さい」
「なんでも…約束だぞ」
「もちろん」
その瞬間、青年は口角を上げた。
「俺は、このサセックネス王国の第二王子、ディビッドだ。お前、俺の妃になれ」