第七話
突然の爆発によって舞い上がった粉塵が、マギーを砂嵐の中に閉じ込める。
カインの右手には、筒状の鋼鉄が握られており、その長細い先端からは、黒い煙が立ちのぼっている。
信じられない光景を目の当たりにしたナアマは、とにかくカインから離れた。今のカインが正常とは思えない。
「これは挨拶代わりだ。立て、マギー。どうして俺の邪魔をした?」
ゆっくりと剥がれ落ちる粉塵。砂嵐の壁が薄くなり、向こう側の景色が見え始める。マギーはそこに立っていた。
「あたしが邪魔をした? 何のことだかさっぱりだね。しかしまあ、挨拶はきっちり返さないとな」
手のひらに拳を打ちつけ気合いを入れ直す姿は、さながらスポーツの準備体操。
「あ、提案なんだけど、そこのちび助を外野席に案内したらどお?」
マギーはナアマの顔を見てそう言った。逃げろという合図なのかもしれない。ナアマは戸惑った。マギーは悪い奴ではない。それはもう分かったが、反対に兄を悪者にしたくない。
「ナアマ、ここにいろ。俺があの化け物を退治するのを見てろ」
カインは再び、マギーに武器を向けた。武器の中腹にある縦軸が、鈍い金属音を立てて回る。
「回転式弾倉銃、リボルバー。お前に通用するかどうか、楽しみだ」
カインは無邪気に微笑んでいた。ナアマは確信した。村が破壊し尽くされた原因、多くの人が一瞬にして死んだ原因は兄、トバルカインだ。その動機は考えるまでもない。
復讐。
しかしこれはただの復讐なのか? どうして父と母まで殺した? あんなに優しかったのに。カインを愛していたのに。カインはいつから壊れていた? ナアマの頭は、限界まで混乱していた。
「なんのつもりか知らんが、こいつはやりすぎだ。カイン、お前にはそれなりの償いが必要だろう」
Άμμο που δεν σταματά
謎の言葉と同時に走り出したマギーは、カインに向かって突進する。その体は螺旋状に回転する砂煙に包まれ、隙間なく守られている。
「相変わらず、教科書よろしく土の魔術に拘ってるのか。単純な奴だ」
カチッ。
はじめに極小さな音があった。そして瞬きする間もなくマギーの体が爆発し、炎に包まれる。
回避不可能としか思えない攻撃を受けたマギーは、しかし立ち止まらない。全身を覆う螺旋回転が瞬時に炎を消火したのだ。
戦況は一変。カインは後方高くに飛び退いた。一定の距離を維持し、遠距離攻撃を仕掛けるカインと、それを愚直に追いかけるマギー。
彼女が纏う螺旋回転は、接触した物体を跡形もなく粉砕する破壊力を持っているが、それも結局、当たらなければ意味がない。
倒壊住宅の屋根を蹴り、宙をかけるカイン。マギーはその背後をとることに成功する。しかし、カインはいち早く危険を察知、体を捻って攻撃を回避、更にリボンバーを向き直し、自ら攻撃に転じる。
この至近距離で攻撃を受ければ流石のマギーも耐えられまい。少なくとも今の彼女にそんな余裕は感じられない。
それを証明するように、マギーは優先してカインの武器を狙い、握り潰した。
空中で無防備になったカインに対して、渾身の一撃を狙うマギーの眼前に、消滅したはずのリボンバーを突きつけるカイン。
渇いた破裂音がして、マギーは地面に落下した。
「見ていたか? 化け物退治は終了だ」
へたり込んでいたナアマは、その時見てしまった。兄が家族写真を踏みつけて歩く瞬間を。
初めて描いたバトル描写にしてはまあまあ、60点くらいだろか。
魔法はギリシャ語です。