第六話
その衝撃はまず、村のシンボルである風車塔を倒し、爆風を巻き起こした。
強大な圧力を受け吹き飛ばされたナアマを助けてくれたのは、たった今出会ったばかりの女行商人マギー。
彼女は爆風を諸ともせず、ナアマの胴体を捕まえ、引き寄せた。そのおかげでナアマはほとんど無傷で済んだ。一瞬の出来事とは言え、ナアマは自分と彼女の間にとんでもない力量差があることを実感した。
風が止み、マギーの元を離れたナアマの目の前には、想像絶する光景が広がっていた。
「な、なんだよ。これ……」
「さてね、お祭りじゃないのは確かだ。死にすぎてる」
風車塔の転倒によって広場周辺の建物はほぼ全てが倒壊。地面にそって流れた赤い液体が、火事の炎に燃やされて生臭い匂いを放っている。さらに酷いことに、爆発音はまだ続いていた。
「マギーとかいうあんた! この爆発の原因、まさかあんたじゃないだろうな?」
「どうしてそう思うんだい?」
マギーはヤレヤレといった様子で首を振る。ナアマは彼女の所有する馬車を指差した。
「見ろ。村はこんなに無茶苦茶なのに、あんたの馬車はなんともない」
実際それは、あの衝撃をもろに受けたとは思えないほど、軽い損傷で済んでいた。馬に関していえば、マギー同様、ピンピンしている。
「うるせー、企業秘密じゃー。それよりあんた、大切なことを忘れてないかい?」
「大切なこと? この一大事に大切も何も……」
父と母。兄の顔が浮かび上がった次の瞬間、ナアマは血だまりを踏みつけ、走り出した。
マギーの言うとおり、ナアマは一番大切なことを忘れていた。風車塔の残骸を飛び越え、一秒でも早く家に着こうと走った。
そんなナアマの隣をマギーは余裕の表情で併走する。
「まてまて、なんとか君。そっちは危ない」
「ナアマだ。俺の名前はナアマ! 女みたいな名前だって言ったらぶっ飛ばすから!」
「あとで、でしょ?」
ナアマは家を探した。炎の中、十三年間暮らした二階建ての一軒家、小さいながら家族四人が幸せに暮らした家を探した。
しかし、それは見つからなかった。
辛うじて見つかった物といえば、木片と化した思い出と母親だった長い髪、父親だった太い腕。それさえも炎に焼かれて消えてしまう。
ぺしゃんこに潰れて燃え続ける家を前に、ナアマは兄を探していた。
「カイン! どこだ!? カイン! 生きてるんだろ? カイン!?」
「ナアマ、一度安全な場所にいこう?」
その言葉は遠回しに、「もう諦めろ」と言っているようなものだ。ナアマはよけい意地になってカインを探した。
その目には涙が滲んでいた。
「ナアマ、俺なら生きてるぞ。こんな格好で良ければな」
それは間違いなくナアマの兄、カインの声だった。言葉の意味も考えず、ナアマは声のする方向を振り向いた。
カインは全身血濡れ、額の紋章で辛うじて本人と分かるほど汚れ、疲弊しきった状態で佇んでいた。
普段の兄のイメージから、あまりにかけ離れた様子に尻込みするナアマ。
「大丈夫だったか? ナアマ。怪我は、ないか?」
「うん、大丈夫」
少しばかり不気味な格好でも、中身はいつもの優しい兄だと分かったナアマは、カインを抱きしめた。
「あいつが、いや、あの人が助けてくれたんだ。すげー強いんだ」
後方からこちらを見ている長髪の女を紹介するナアマだが、その必要はなかったようだ。
「お前、マギーだな? なるほど、そういうことか。残念だ」
凄まじい爆発音と共に、 砂煙が飛散する。
読んでくれてる人へ。
改稿しまくってこめんなさい