第二話
日が暮れる前に丘を降りたナアマは、遠目から村の入り口を観察し、これといったタイミングで飛び出した。
『CION』と描かれたアーチ状のゲートを目指してまっすぐに駆ける。バスケットの蓋が開きそうなのを押さえて、とにかく走った。あと少し、もう少しでゲートを潜る。その通り、ゲートに指先が触れた直後、声がした。
「ナアマ。一人で村の外へ行っちゃいけないことくらい知ってるだろう?」
突然ゲートの後ろから現れた短髪の青年。額に紋章のような痣を持つ、流麗な顔立ちの正体は、ナアマの兄、トバルカイン。彼は冷ややかな瞳でナアマを見下ろし、微笑んだ。
「カイン、違うんだ! これにはちゃんとした訳があってぇええ」
団子虫になる勢いで転倒したナアマはそのまま、近くにあった納屋にぶつかった。
「今日はセルグの奴が十三になる誕生日だから、そのお祝いに花を摘みに行ってたんだ」
地面に落ちたバスケットを指差して説明するナアマ。
「セルグって村長の息子のセルグ君かい? 村長の息子の誕生日会に招待されるなんて、大したもんじゃないか」
「そうじゃない!」
兄の言葉にどうしても納得出来なかったナアマは立ち上がり、スカートのような民族衣装についた土煙を払う。
「セルグはもうすぐ俺の誕生日だと知ってる。そこには誰も来ないって分かり切ってるから、わざと俺を誕生日会に呼んだんだ。俺をよけいミジメにしてやろうって寸法だよ」
苦笑いするナアマを置いてバスケットを拾った兄は、その中身を手にとった。
「これはラキシュ。根は強心薬に使われるほど強力な毒素を持ち、花には下痢を起こさせる成分がある。危険な花だ」
「知ってる。前にもカインから教えてもらった。誕生日会にこれを持って行って皆を下痢にしてやろうと思ったんだ! そう、これがセルグの分」
ナアマは兄の持っていた花を少し千切り、かざしてみせた。するとカインはクスクスと笑った。
「そりゃあいい。面白いかもしれん。それで満足なら行ってこい。後は俺が何とかしてやる」
その言葉を聞いた瞬間、ナアマはこの一日の努力がどうでも良くなるほど嬉しい気持ちになり、涙が溢れた。
「もういいよ。セルグのことなんかどうでもいい」
二日に一回くらい書き直してるかもしれない。