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双倭学園恋愛奇憚

お約束的な話に挑戦してみました。

作者: 藤堂阿弥

「素晴らしいですわ、華苗さま。全問正解です」

「ありがとうございます。先生」

「次のお時間はピアノのレッスンでしたわね。それまで、好きにお過ごしになってくださいませ」

「それでは、図書室に参ります」

「承りましたわ。本当に、ご本がお好きでいらっしゃいますね」

「はい。失礼いたします」

ぺこり、と頭を下げ、扉を開ける。右に開く引き戸は、まず左手で少し開け、残りを右手で開ける。…お茶室の作法を日常でやらせる幼稚園って。






そう、幼稚園なのだ、ここは。


正確には『双倭学園 幼稚舎』大学院まである、学校法人双倭会が経営する、巨大学園である。

そして、ライトノベルにも関わらず、小学生から主婦層にまで幅広く人気のある「双倭学園シリーズ」の舞台でもある。


賢明な皆様は、もうお気づきであろう。



ここは、小説の中の…いや、小説の舞台となった学園が現実にある世界なのだ。



ライトノベルやネット小説では、ジャンルとしてこういうのだろう。

「転生」「パラレルワールド」と。




「こういうのもライバルキャラっていうのかしらねぇ」

…いかん、思わず『素』がでてしまった。そっと周囲を見回すが、一般的に「授業中」幼稚舎と初等部専用の図書館に人気は殆どない。

フィクションだから許されるような場所が現実にあるというのは、ある意味恐ろしい。


学園都市。小説内でもあったが、地方の小都市分の敷地面積を持つこの場所は、全て学園関係で占められている。中等部以上は全寮制となっており、その気になれば、大学院卒業まで一歩も敷地から外に出なくても、何一つ不自由がない、商業施設は言うに及ばず、娯楽施設も完備されていし、遠方の親族の為にと、宿泊施設もあったりする。

…ある方向の娯楽施設はないけれど、そこは、まぁ、げふん、げふん。



先程の様子からも分かるように、この学園の教育方針は半端無い。学力、身体能力、礼儀作法に色々な場面での身の処し方に対処法。

言ってはなんだが、さっき私が教室でやっていたのは九九だ。断っておくが、身体年齢は幼稚園児だ。

しかも、年中さん…しかし、この学園ではレベル的に、できて当たり前なのだ。

子供の脳って凄いと我ながら思う。スポンジが水を吸うように…それ以上にぐんぐん知識を吸い込んでいく。『記憶年齢』があるとしても、それこそ前世じゃ考えられないほどの知識が、今の私の中にある。

…チートって、作られるものなのね。でも、この学園の中じゃ普通のレベルなんだけどさ。

ふと、見知った顔と目が合って、軽く会釈する。手を振る、とかじゃないよ。会釈だぜ、会釈。幼稚園児がする動作としては異様だろう。でも、ここでは…以下、略。


ちなみに、学園の「外」の一般社会は前世の世界と大差ない。幼稚園児は、歌を歌い、友達と遊ぶ。九九は小学二年生。…一部、お受験的な私学を除いてだが、ここまで進んでいるのは普通は、無い。




「談話室まで付き合ってもらえないか。先生には許可はいただいてある」

「はい、喜んで」

近づいてきていたのは気づいていたから、手早く読んでいた本を片付けてその後に続く。喜んで、なんて言ってはみたが、正直少しも嬉しくない…表に出すほど馬鹿じゃないけどね。

談話室――ちょっとした、カフェになっている――に着くと、専属の職員が椅子を引いてくれる。頼まなくても、飲み物はでてくるが、成長過程に合わせてあるので、果汁100%のジュースが基本だ。言えば、他のものも出てはくるが、ミルクとか、ミネラルウオーターが関の山。…ああ、お子様用のスポーツドリンクもあるにはあるね。後、野菜ジュースとか。



「先日の話だが、進めても構わないか?」

「はい、父からも尋ねられましたが、私は構いません。ですが、上総様はよろしいのですか?」

「問題ない。血筋も財力も釣り合う相手など、国内ではお前の家くらいだし…それに」

にやり、と笑う幼稚園児…彼の性格に似合ってはいるが、正直なんだかなぁ、だ。

「外見的にも申し分ない。華苗は可愛いからな」

「恐れいります」

俯いて、少し恥ずかしげに答える。ワタシハジョユウ、ウフフ。

しつこいようだが、幼稚園児の会話です。私の場合、「素」の年齢があるから、気持ち的に問題なく話せるけど…目の前の相手さえ目に入れなかったら。



そういう当の本人も、将来が期待される風貌をしている。よく、子供の頃は可愛くても…って、あるけれど小説の記述を信じるなら、先々の心配は全く無い、誰もが振り返る美丈夫に育つはずだ。

ちなみに、私自身も、同様の成長をするはずだ。客観的に考えると、これほどの優良物件を振るわけだ、この男は。


八島 上総。日本…いや、世界有数の財閥の御曹司である彼は、親が決めた才色兼備――うぷぷ――の婚約者がありながら、高校からの外部入学生の少女と恋に落ちる、悩めるヒーローなのだ。






「しっかし、なぁ」

一日のカリキュラムを終えて、家に戻った私は、自室のソファで、ウサギのぬいぐるみを抱え込んで一人考える。

ちなみに、こういった家柄の子供にありがちな、習い事とかは一切無い。これも、学園の教育方針で必要な事は、全て学園内で済ませる。と、いうものだ。だから、私の幼稚舎のカリキュラムの中には、ピアノと日舞、お茶とお花が入っている。これは、本人が望めば、高等部まで続けることが可能だ。勿論、お免状ももらえる。



それは、さておき。

「登場シーンは、ヒーローの回想…もしくは、ヒロインや親友との会話のみ…全く表に出てこないキャラクターなのよね、私って」

よく考えれば、同じ学園内である、シリーズ中の一冊とはいえ、決して薄くは無かった小説内で一度も出てこなかった、しかも位置付け的にはそこそこ重要なキャラだったにも関わらず、である。

それに。

「奨学生制度ってなかったわよね、うちの学園」

レベルの高さもさることながら、授業料が高いことでも有名な学園だ。それはそうだろう、商業施設を除いた学園内の飲食は全て無料。初等部以上は別途料金は取られるが、「習い事」の為の多くの専門課程の指導者、加えてその設備など、通常の学校では考えられないくらいの維持費が掛かっているのだ。



「一般的な私立の数十倍って噂されているのも嘘じゃないかもしれない」

それでも、倍率は二桁…年度によっては三桁にもいくといわれている。勿論、国内外を問わずに入学者がいるのだ、下手なインターナショナル系の学校よりも人種は多彩だ。だから、初等部以降は、学園内での共通語は英語、それもクィーンズになる。幼稚舎の内に徹底して叩き込まれ、日常に困らないようにされるのだ。勿論、私もこの年齢で、すでに英語、フランス語、ドイツ語は日常会話は不自由しない。


因みに、先程の八島上総は、それ以外に、中国語に韓国語、アラビア語…何故かラテン語も出来たりする学園でも指折りの「天才」だった。正直、そんな男と夫婦になりたいか、と問われると微妙だ。


こうなると、カテゴリは「SF]「異世界」が追加ですか?



「だから、あの男が誰とくっついても問題はないんだけど…」

この年で、あそこまで割り切る男なのだ、たとえ初恋で舞い上がっていたとしても、後先考えずに…一応、小説内では、本人なりに苦悩しているが…いくら、頭が良くて、能力的に高くても、一般的な庶民を選ぶのだろうかと思う。


「別にいいけどね。せっかく健康で五体満足に生まれたんだし、環境にも恵まれているんだから、できるだけやりたいことやりたいし」

前世の私は、原因不明の病気で、病院の外を殆ど知らなかった。色々な事情で親元を離れ、研究施設のなかで過ごしていたが、ストレスを与えないためか、他の理由か、金銭的な不自由…お金で解決できるわがままは殆どかなえてもらうことが出来た。

読みたいだけの本、ゲーム、パソコン。ありとあらゆるものが、病室の中には揃っていた。…時として、息をするのも辛いくらいの苦痛と引き換えであったが。

別の言い方をすれば、「オタク」が育つには、充分な環境だったといえよう。

パソコンの、特にインターネットの使用は、秘密保持の為、制限は掛かっていたが、普通に遊ぶ分には問題なくて、こちらの情報は与えることはできなくても、世間一般の情報は知ることが出来た。


痛くて、悔しくて…涙を枕に吸い込ませる日は数え切れなくあったけど。




いや、そんな前世の話は兎も角。

「傍観者を決め込みたくなる、転生の主人公の心境って、こういうものなのかしらね」

出来れば、恋の一つもしてみたい。これほどの家に生まれたからには、相応に課せられた義務も理解はしているけど。せっかくなら、親の決めた婚約者に縛られること無く、青春を謳歌してみたい。


「願ったり叶ったりの展開だしね」

ぬいぐるみに顔を埋めて笑う幼稚園児は、傍から見たら不気味だろうが、幸い周囲に人は居ない。使用人の皆さんも、家の教育方針で必要以上に手を貸さない、構わない事になっている。

…風邪なんか引いたら、一騒動になるんだけど。

小説通りの女の子なら、一途で可愛くて、思わず手を貸してしまいたくなるようなタイプだが、それは私の仕事じゃない。

「頑張ってくださいね、上総様。ライバルは多いですわよ」

あくまで、あの小説でいくなら、ヒロインの周囲に狼さんは沢山いらっしゃる。他の学校に通う幼馴染。シスコンの弟、同じクラスの委員長に隣の席の男子生徒、同じ外部入学の男の子。

クラス以前に学年が違う、ヒーローはヒロインより一つ上の先輩。



どこの乙女ゲーの主人公だよ、と思っていたら、しっかり乙女ゲームになりました。しかも、弟の設定が両親が再婚同士の血のつながりの無い…うふふ、王道、って笑っちゃった。

でも、ライバルキャラの存在としての「私」はいない。上総ルートを選んでも、嫌がらせをするのは、同学年の女のコ達。いわゆる、上総の「親衛隊」と称するメンバー。



因みに、私と上総は同じ学年だ…余談だけど、私は早生まれなので、一時期を除いて彼が一つ年上になる。正直、全く関係の無い話だけど。



「学年も違うし、係わり合いになることも無し、私から関わる気も無いから、頑張ってね、ヒロインちゃん」

なんて、傍観生活を夢見ていられるほど、現実生活というのは甘くない、と思い知らされるのは十余年先の事。



色々ご指摘ありがとうございます。

可能な限り修正いたしました。10/22

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告です。 ×だから、おの男が誰とくっついても問題はないんだけど… ○だから、あの男が誰とくっついても問題はないんだけど… [一言] ランキングから続編に飛べたのでこちらに着地し…
[一言] 『ハングル』は文字の事で言語の事をいっているなら、韓国語か朝鮮語か適当かと
[一言] 今でこそ不甲斐ない上総に、周囲は少々お怒りの様子ですが、この ままだと無関心になるまで後少しですね。 気になるのはヒロイン。魅力的(高スペック)だからこそ、好きに なったわけだから、他にも魅…
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