主人公って、こんなのじゃねぇえええ!
本文中に、禿げをバカにするような記述がみらますが、作者にその気はありません。物語の設定上、そのような描写が必要でした。そのような描写で気分を害する可能性のあるかたは、お控えください。
今日から日記を書き始める。でも、日付なんて書かない。
この日記には、まだタイトルがない。俺の物語が完結した時にタイトルをつけて、ひとつの噺のようにしようと思う。
そう。これは、俺の物語になる。まさに“日記”というより、“小説”と言った方がピッタリかもしれない。
俺が日記をつける事の目的は
―――主人公になるため―――
そのために俺は日記をつける。自分の物語を生み出すために。
俺は、幼い頃から主人公に憧れていた。どんな主人公でも良い。
誰よりも強い主人公、誰よりも賢い主人公、誰よりも努力家である主人公、非日常に巻き込まれる主人公、平凡な日常を謳歌する主人公、天才としか言いようのない主人公、頭の悪い主人公、また、誰よりも弱い主人公。
物語の数だけ主人公がいる。マンガ、アニメ、ドラマ、小説どんなものにも主人公はいる。
俺は、主人公とは、「物語の中だけの生き物」そう思っていた。
でも、それは間違いだった。中学の同級生にも主人公のように生きている人たちがたくさんいた。
部活に真剣に取り組み、全国大会で優勝した友達がいた、 長年の片想いの末、見事結ばれたクラスメイトがいた、 いろんな人の相談に乗り、何人も笑顔に変えてしまう学級委員長がいた、 どんな時も明るく、クラスを盛り上げたお調子者がいた。
皆、代わりのいない、周囲から必要とされる人だった。まるで物語の主人公のように。
でも、俺は、いてもいなくても変わらない、俺の代わりはいくらでもいるような存在だった。
中学での俺は、まさに「背景の人達」だった。
でも、俺がそんな存在だったのも先月まで! 明日から始まる高校生活で、俺は絶対主人公になるんだ!!
…っと、まぁ、記念すべき最初のページはこんなもんでいっか。
次回!! 入学した魔法学校で起こる最初の事件! 謎に満ちた入学式! どうもクラスの様子がおかしい! クラスで一番可愛い子の突然の告白に戸惑う俺! そして現れる黒幕――!
知恵と魔法が熱き火花を散らす! 俺の物語~魔法学校入学編~
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今日、入学式があった。今日から俺は高校生だ。それもただの高校生ではない。魔法を学ぶための学校の高校生だ。
あ、昨日書いた次回予告は嘘です。大嘘です。ちょっと大風呂敷を広げすぎたな…。
事件なんて起こりませんでした。入学式も至って普通でした。クラスの様子?おかしいとこなんて何一つねぇよ。おかしいのは昨日、日記をつけてたときの俺の頭くらいだよ。でも、クラスで一番可愛い子には、「ねぇ、ちょっといいかな…?」って声かけられたけどね! 告白かと思って緊張してたら、「ちょっとそこ通してくれない?」だってさ! 教室の扉の前で突っ立ててすいませんでしたね!
まぁ、俺の高校ライフはそんな感じのスタートでした。
他に書くこともねぇから、今日の入学式で聞いた魔法と魔法学校の歴史でも書こうかな。
魔法は、長い歴史を持つ。古代より使われていた魔法。それを使える人は大勢いた。
しかし、呪文や魔方陣を学ぶのはとても大変だ。また、魔法使いは、数百年前まで、魔法の知識がない人々に差別されていた。
そんな経緯で、魔法使いの数は年を重ねるごとに、大幅に減っていった。
このままでは、魔法という文化が途絶えてしまう。そんな時、魔法文化を途絶えさせないために魔法使いを育てようという運動が起こった。その運動の一環として、魔法学校が世界各地に新設されたのだ。今では、魔法使いと無術人(魔法を使わない人々をそう呼ぶ)は協力しあい、平和な世界を作り上げている。
そんな話を聞かされた。
あ、ちなみに、俺がこの学校を受験したのは、言うまでもなく、
「魔法を使うって、なんか非日常っぽいじゃん! 魔法使いって、なんか主人公っぽいじゃん!!」
そう思ったからだ。
今日の日記はこんなもんでいっか。
明日から授業だ! 明日はどんな日記になるのか自分でも楽しみだ。
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今日から授業。俺のクラスの今日の日課は、
1時限目:国語 2時限目:数学 3時限目:魔法学 4時限目:地理 5時限目:英語 6時限目:術学 7時限目:総合 の7時間授業だった。
魔法学校も、一般の高校と同じ内容の学習をするし、テストもある。他の学校と違うのは、魔方陣に用いる言葉や記号を学ぶ“魔法学”と、 呪文を唱え、実習的な学習をする“術学”のカリキュラムがあることだ。そのため、毎日7時間授業だ。金曜日に至っては8時間授業。さらに、毎月、第一土曜日は午前授業がある。正直しんどいが、主人公になるためと思えばこれくらい余裕だ。
今日の日記は、それぞれの授業内容でも書くとしよう。
1時限目(国語)――――自己紹介
2時限目(数学)――――自己紹介
3時限目(魔法学)―――自己紹介
4時限目(地理)――――自己紹介
5時限目(英語)――――自己紹介
6時限目(術学)――――自己紹介
7時限目(総合)――――自己紹介
飽きるわ!!! 何回自己紹介させんだよ! 教師からしたら一回ずつでも、俺らからすれば7回なんだよ!
最初の国語の自己紹介で、ちょっとネタ入れて笑い取りに言った俺の気持ち考えろよ! 二回目の自己紹介でのクラスメイトの期待の眼差し。でも、ネタが思いつかなくて普通に自己紹介してガッカリされた俺の気持ち考えろよ! いたたまれない気持ちになった俺を、かわいそうとは思わないのかよ!
気分悪いから、今日の日記はここでやめる!
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ヤベェ!! 危うく3日坊主になるところだった!
久々の日記です。 最後に日記つけた日から、40日たちました……。
完全に日記の存在を忘れてた……。
この40日間で俺は、出席番号が俺よりひとつ前の“水館 隼太”とかなり仲良くなった。
さらに、両腕の力を増大させる呪文と、テレポートの魔方陣を覚えた。日を重ねるごとに、俺は主人公に近づいている気がするぜ!
俺はまだ一つの呪文と魔方陣しか使えないが、隼太みたいな頭の良い連中は、5、6個の呪文が使えるそうだ。
でもまぁ、使い道がわからないヤツばっからしい。例えば、喉仏を紅く発光させる呪文とか。
どこで使うんだよ!? そんな呪文、需要ねぇだろ…。絶対、無駄な呪文だ…。
そういう意味では、使い道のわかり易い術を使える俺の方が、隼太たちより魔法の力は上かもしれない。そうに違いない。そう思いたい。
次は、防御に使う呪文の練習でもしてみようか。
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今日は特になにもない一日だった。
それくらいしか書くことないから、自分の中の“理想の主人公像”でも書くとしよう。
日記を書き始めたころ、俺は、「どんな主人公でもいい」そう思っていた。
でも、最近になって、段々と自分の目指したい主人公像が明確になってきた。
俺が目指したいのは、やはり、“王道”だ。今日の日記は、王道の主人公の特徴について書き連ねていこうと思う。
まず、王道主人公の条件―――
●やたらモテる!
●ルックスは良い方!
●正義感が強い!
まぁ、こんな感じだろう。これについては、半分以上を満たしていると思う。
俺のルックスは良い方だと思う。集合写真なんかだと、画質が悪いせいで、俺のカッコ良さがいまいち伝わりにくいが、自分の家の鏡に映る俺は、正直、イケメンだ。だから、俺はきっと写真写りが悪いだけなのだろう。
それに、「正義感が強い!」の項目も満たしているだろう。
偶然、銀行強盗に遭遇したとき、俺を含む一般人は人質にされてしまったが、俺は強盗どもの目を盗み、人質を解放し、強盗に奇襲をしかけ、見事勝利したという妄想を常日頃からしている俺は、正義感が強いに違いない。
そして、俺はモテる!
実は俺、幼稚園の頃、女の子に「優しいね」って言われたことがあるんだぜ?
その時は気付かなかったから返事はしなかったが、あれはきっと告白だったのだろう。気付かなかったとはいえ、酷いことをしてしまったものだ。次に同じ事があったら、すぐにキスをしてあげよう。
さらに、小学生の頃は、『あなたのことが、大すきです。わたしとつき合ってください。』と書かれたラブレターを拾ったりもした。あれはきっと、直接渡すのが恥ずかしかったから俺が通る道を予測して、手紙を置いておいたのだろう。すぐにOKするつもりだった俺には、差出人の名前が書いてなかったことが残念で仕方がなかった。
ようするに俺には、王道の主人公の素質はあるのだ。あとは、周りの条件がそろうだけだ。
次に、周りの条件とは―――
●事件に遭遇する!
●誰かを救うために俺が立ち上がる!
●強敵が立ちはだかる!
主にこの3つだと思う。
この条件がそろう時、それは、俺が主人公になる時だ。
なんの根拠もないが、条件がそろう時は近い……。そんな予感がする。
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また新しく呪文を覚えたぜ!
今回の術は、ズバリ「防御」だ!!
数日前から練習してたのが、やっと使いこなせるようになったぜ!
今回覚えた呪文は、シールドを出現させるというものだ。そのシールドは、まるで岩のようだ。褐色で、ゴツゴツしてて、大きい! 防御もできる俺は、さらに主人公に一歩近づいたと言っても過言ではないだろう。
ただ、この術には、欠点が一つだけあるんだ。
それは―――強度だ。
見た目は、カンペキに岩の壁なのに、強度は、ビスケット並みだった……。親指で強く押すと崩れます。
使えねぇぇええええ!!!!! 完全な見掛け倒しじゃねぇか!!
……………ま、まぁ、何でも、できないよりは、できた方がいいからな。うん。バリエーション豊富なのは良いことだし。
今回習得したのは、見掛け倒しの術だったわけだが、次はきっと強大で難易度の高い術を使えるようになってやるぜ。そうだなぁ…、次は、召喚獣を呼び出す魔方陣にでも挑戦してみるか。
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召喚獣は、今、練習中だ。もうすぐマスターできる気がするぜ! もうちょっとだけ待っててくれよ!
今日は、この日記につけるタイトルの話でもしようかな。
タイトルは、俺の物語が完成したとき、つまり、俺が主人公になれたとき(←自己判断)につける予定だ。
俺は、俺の本音をタイトルにしたいと思ってる。例えば≪ドラゴンが強かった!≫みたいな感じで。
そんなタイトルなら日記に合ってるし、内容もわかりやすいだろう。
≪○○の○○を○○したら○○が○○しました。≫みたいなタイトルも嫌いじゃないんだが、日記に付けるには長すぎると思う。
かといって、ひらがな4文字のタイトルも、カッコ良い俺の物語には不釣合いだろう。
だから、俺は、俺の本音をそのままタイトルにする予定だ。
今日は、このへんで書き終えて、召喚獣の魔方陣の練習をしてくるぜ! じゃあな!
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ヤバイ! ヤバイ!! ヤバイ!!! ヤバイ!!!! ヤバイ!!!!!
大変な事になっちまった!!
召喚獣のユニコーンを呼び出す魔方陣を試していた時のことだ。
魔方陣を書き終えた俺は、ユニコーンが出てくるのを待っていたんだ。だが、どうも様子がおかしい。待っても待っても、一向にユニコーンは姿を現さない。不思議に思った俺は、書きたての魔方陣を覗き込んだんだ。そして、垂れた前髪が魔方陣に触れた瞬間、魔方陣から緑色の閃光が吹き出たんだ!
なにが起こったかわからなかった俺は、とりあえず、隼太を呼んだ。
隼太曰く「魔方陣の書き間違い」だそうだ。
どうやら、俺は召喚獣ではない魔方陣を完成させてしまっていたらしい。
じゃあ何の魔方陣だったのか聞いた所、魔法学の教科書を眺めていた隼太は、こう言った。
「これ…、細胞を死滅させるための魔方陣だよ………」
ヤバイ……。俺は、これを頭に浴びてしまった。つまり、俺の頭皮の細胞は死滅してしまうということだ。即ちそれは………… “禿げる” ということだっ!!
俺は、禿げをバカにするつもりはない。だが、もし、俺が禿げてしまったら、それは主人公としての人生を断たれるという事なのだ。まだ高校生なのに禿げていると、きっと「主人公の条件」のうちの、「やたらモテる!」と「ルックスは良い方!」を満たさなくなるだろう………。そうなったら、もうお終いだ……。
だが、隼太が言うには、まだ希望はあるらしい。どうも、この魔法に即効性はないらしい。効果が出るまでに1週間かかるそうだ。
そして、魔法の解き方もいくつか存在するとのことだ。
明日、早速、俺に降りかかった魔法を解く作戦を立てようと思う。ありがたいことに、隼太も協力してくれるそうだ。
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隼太との話し合いの結果、魔法を解くための手段は意外とスンナリ決まった。
魔法の解き方は、いくつかあるが、今の俺たちには難しいものばかりだった。魔法を無効化するための呪文は、俺が習得するのに1週間以上かかる可能性があるし、市販の育毛剤が魔法に対して効果があるとは思えない、魔草(魔法に対して効果のある植物のこと)を食べるという方法は、必要な魔草が今の時期は手に入りにくいため断念した。
最終的に俺たちが選んだ手段、それは、
魔法無効化作用のあると言われる、ケルベロスの牙で作られた粉を煎じて飲むというものだ。
本当の消去法でそう決まった。
ケルベロスなら近場にいる。
学校の裏手には山がある。その山は、学校が所有しているもので、生徒の立ち入りは自由らしい。流石に一年生で立ち入った者はいないが、上級生になると、自分の魔法の力を試すために足を踏み入れる者がちらほらいるそうだ。
その山は、校長を始めとする、うちの学校の教師が訓練用に召喚獣を放っているそうだ。
ケルベロスも放たれている事を、今日、担任に確認した。
このケルベロスは岩場にある洞窟の奥で眠っていることが多いらしい。
ソイツが寝ているうちに、気付かれないように牙を折って持ち帰る。それが俺たちの作戦だ。
触れたものを折る呪文は、隼太が使えるらしいから、頼りにさせてもらおう。
実行は明日! 俺にはあまり時間がない。一発で上手くいく事を祈ろう。
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今日、経験した事を書いていくぜ。ちょっと長くなりそうだが、ついてきてくれよ!
今日は金曜日。8時限の授業をうけたあと、俺は隼太と裏山へ向かった。すでに日はオレンジに色づき始めていた。
あらかじめ用意しておいた地図で、洞窟の位置を確認した俺たちは、洞窟の下へと走った。
洞窟は、ここから200mほど登った地点に存在しているそうだ。上を見上げると、ゴツゴツとした岩の飛び出る崖がそびえている。洞窟があるのは岩場というだけある。
予想以上に崖が険しく、登るのは困難かと思われたが、隼太のアイデアが俺たちに希望をもたらしたんだ。
「テレポートの魔方陣を使おう!」
ナイスアイデア! そう感心した俺は、すぐに魔方陣を書こうとした。だが、俺は書くものを持ち合わせていなかった…! 俺は、鉛筆の1本くらい持ってくるべきだったと後悔したが、隼太には抜かりがなかった。ポケットから白のチョークを取り出したのである。
「ナイス隼太! でも、なんでチョーク持ってんだ?」
「ここに来る直前に、教室から盗ん……パクってきたんだ!」
言い直した意味なくね!?
そう思ったものの、ツッコミはしないでおいた。
テレポートの魔方陣を完成させた俺は、チョークをポケットにしまい、両腕の力を増大させる呪文を唱えた。テレポートを実行するには、予め魔方陣を2つ以上用意しておく必要がある。テレポートは、魔方陣から魔方陣にしか移動できないのだ。
腕の力が数十倍になった俺は、軽々と崖を登ることができた。
200mほど登ると、少し広い岩場と、禍々しい雰囲気の洞窟を発見した。そして、俺は、すかさず地面にテレポートの魔方陣を書きつけた。
完成した直後の魔方陣から隼太が出てくるのを確認するとすぐに、俺は洞窟に駆け出した。
洞窟は深く、日の光はすぐに届かなくなった。
真っ暗で何も見えなくなった俺の耳に届いたのは、隼太が呪文を唱える声だった。
直後、洞窟内が紅い光で明るく照らされた。光源は―――隼太の喉仏だった。
この呪文の使い道あったよ!! 無駄な呪文とか言ってゴメンナサイ!
視界が確保されたのは、非常にありがたい事なのだが、俺たちの目に映ったのは、非常にありがたくない光景だった。
眠っていること前提だったケルベロスさんが起きていらっしゃった。
ヤベェよ! 今は、頭をこっちに向けていないが、3mはあろうかという巨大な背中が見えた。「どうか、こっちを向かないでくれ……!」そう思った直後、ケルベロスが振り向いた。もうね、「終わった」って思ったね。バッチリ目が合ったもん。
ケルベロスが低くうなる。俺たちの出方を窺っているようだった。
無言の時間が続いた。
それを崩したのは、俺とケルベロスのどっちであったか、はっきりとはわからない。
ほぼ同時に出された叫びと咆哮が洞窟で轟き、反響する。
「に、逃げろぉぉおおおおお!!!!!」
慌てて洞窟の外に転がり出た。さっきまで俺たちが立っていた場所は、巨大な爪で抉られていた。逃げるのが数秒遅れていたら、俺たちの命はなかったかもしれない。
「こんなこともあろうかと、昨日習得しておいたんだ!」
そういうと、隼太は呪文を唱えた。すると、隼太の右手から何かが飛び出し、ケルベロスに向かって飛んでいく。
ケルベロスは飛んできた物を軽々とかわした。しかし、その直後、ケルベロスは隼太の出した“何か”を追って、洞窟に戻っていった。
「肉片を出現させて、飛ばす呪文さ」隼太が解説する。“何か”は肉片であったらしい。
一日で呪文を自分のものにしてしまうとは、さすが優等生の隼太だ。
正直、微妙な呪文だが、この状況下では最高の呪文に思えた。
が、安心もつかの間。肉片を食し終えたであろうケルベロスが再び、洞窟から出てきたのだ。
再び、隼太が呪文を唱え、肉片を飛ばす。今度は、崖下に向かって。
ケルベロスは、一歩動いたが、肉片が崖下に向かって行くのを見ると、深追いはしなかった。
「チッ、ダメか……」
隼太は、ケルベロスが肉片を追って、崖下に落ちていく事を期待していたようだ。
だが、さすがに、ケルベロスも足場が有るか無いかの判断はできるみたいだ。
だけど、俺たちがケルベロスを倒す方法は、ヤツをこの崖の下に落とす事しかなさそうだ……。
ケルベロスが飛びかかってくる。俺たちは慌てて飛びのく。
また、ケルベロスが飛びかかり、俺たちが避ける。その繰り返しだ。
このまま、俺たちの体力が切れてしまったら、俺たちは、生きて帰れないだろう。
何かいい方法は……………?
その時、俺はひらめいた。
「隼太! もう一度、肉片を飛ばすんだ!! ケルベロスをこの岩場から落とすぞ!」
「どこに、飛ばせばいい!?」
俺と一度目を合わせると、隼太はそう尋ねた。
きっと隼太は、「勝算はあるのか?」「本当にできるのか?」そんな事を聞きたかっただろう。でも、何も言わずに俺を信じてくれた。本当に良いヤツだ。
俺は、小さく息を吐くと、ケルベロスの突進を避けながら、叫んだ。
「そこだ!」
「了解した!」
すぐに、隼太が呪文を唱える。そして、俺の指差した所へ、肉片が飛んでいく。
俺が指差した場所、それは、崖の端だった。
落ちるか落ちないかの位置に肉片が着地する。
ケルベロスは、狙いを、俺から肉片へと変えた。そして、肉片に向かって、ゆっくりと歩いて行く。
直後―――
ケルベロス周辺の足場が、崩れた!
―――まるで、ビスケットのように。
足場がなくなったケルベロスは、大きな咆哮をあげながら、崖下へと落ちていく。
やがて、地面にぶつかったのであろう、重たい音がした。
不意に訪れた静寂。崖の上には、呆然とする俺と、呆気にとられる隼太だけ。
俺が水平に出したシールドを、岩場と勘違いして踏み抜いたケルベロスは、もういない。
勝ったんだ。ろくな魔法も使えない俺たちが、ケルベロスに勝ったんだ…!
大仕事を成し遂げたような余韻の中、俺たちは、魔方陣で崖下に移動し、地面にのびているケルベロスの牙を折り、持ち帰った。
・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,
こうして、俺の毛根の細胞は死を免れたのだった。
今、自分の日記を振り返ってみると、なんか、俺、主人公っぽくね?
●事件(=毛根死滅の危機)に遭遇する!
●誰か(=俺)を救うために俺が立ち上がる!
●強敵(=ケルベロス)が立ちはだかる!
うん。主人公になれたと思う。上の条件満たしてるし。……うん。
こうして、俺は、晴れて主人公の仲間入りをしたわけだ。……一応。
まぁ、腑に落ちない点は多いにせよ、ようやく俺は、主人公になれたわけだから、この日記にタイトルつけよう。うん、そうしよう。
では、今の正直な気持ちをタイトルにして、俺の物語を完結させたいと思います―――
―――そうして、俺は、日記帳にタイトルを書きなぐった。
主人公って、こんなのじゃねぇえええ! 完
こんにちは! “めたらしだんご”です。 今回は、ファンタジー(になってるかな?)を書いてみました。楽しんで頂けたでしょうか?
今作は、あえて、主人公の名前をつけていないので、“自分”として呼んでいただけると幸いです。
主人公の『俺』は、若干中二病ですね。きっと、作者が若干(?)中二病なので、勝手に反映されてしまったのでしょう。ファンタジーって難しいですね。
そんな作者が書いた、こんなお話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
ご読了ありがとうございました! 次回もまた、お会いできる事を願っています。