13.秋子の困惑
(困った…)
その頃、秋子は困り果てていた。
今日は外に出てから、ずっと後ろに付いてくる人物がいるのだ。
正体は誰だかわかっている。秋路のストーカーだった女の子だ。
そう、秋路を助けてからストーカー少女のターゲットは完全に秋子になってしまっていた。
(ここまで追ってくるか…。これじゃ鮎川君に会えないな…)
ここ数日も秋路から外で会う誘いはあったのだが、秋子は逆に自分がストーカーされてしまっている事を彼に知られたくなかった。
(格好つかないよな…助けた自分がストーカーされちゃってるなんて…。でも、鮎川君とはずっと話してみたかったし…。あのトイレで会った時はチャンスだった。調子にのって格好つけるんじゃなかったかな。だけど、あの子のおかげで鮎川君と付き合えた。だから邪険にもできないしなぁ…。バイトも休みをもらったし、その間になんとかしないと……)
などとうだうだ考えながら、秋子は外を当てもなくふらふら歩いていた。
なぜなら、ストーカー少女に自宅がバレているので、家にいても落ち着かないのだ。
しかしそんな時、後ろの方から男の子の大きな声と女の子の変な声が聞こえてくる。
「美々子!いい加減にしろ!」
「やん!」
秋子は足を止めてなにかと振り返った。
「こら、また補導されたいのか!?」
「だって、とっても素敵な人なんだもん!」
「迷惑なんだ!」
声の主は、ストーカー少女とその知り合いであろう男の子だった。
「ほら、まだその人いるか?謝ってこい!」
ストーカー少女は、はぁい、と素直に返事をすると、少し離れたところから見ていた秋子のもとへ歩み寄ってきた。
近寄ってくるゴスロリのストーカー少女はちょっと迫力があり、秋子は少し後退りしてしまう。
女の子は秋子の目の前に立つと、ペコッと頭を下げた。
「あの…。追いかけちゃって、ごめんなさい!」
その後ろについてきた男の子がストーカー少女の頭をさらに下げさせながら、自分も深々と頭を下げた。
「あなたでしたか。本当にこいつがご迷惑をおかけしてすみませんでした!俺からキツく言っておきますから、許してやって下さい!本当にコイツ、バカなんです」
男の子はさらに深く頭を下げた。
「いや、別に大丈夫だから…」
秋子はいきなりの展開に戸惑いながらも慌てて答える。
すると、女の子は男の子の真剣さを感じ取ったのかしゅんとして泣きそうになってしまう。
「あ…本当にごめんなさい…」
(反省してるみたい…泣かせちゃうのはちょっと可哀想かな)
秋子は微笑むと優しく言った。
「私はもう気にしてないから、泣かないで。でも、他人にもだけど、何よりもう彼に迷惑かけちゃダメだよ?」
「…はい」
返事をした女の子は潤んだ瞳で秋子を見て少しだけ微笑んだ。
「…あの~すみません。鮎川君のお知り合いの方ですよね?」
すると今度は背後から声をかけられた。
「はい?」
振り返ると、長い髪と眼鏡が印象の女性と可愛らしい少年がいた。
「あの、私鮎川君と友達で会社の同期の渋沢由子といいます。はじめまして!」
渋沢由子と名乗った女性はペコリと頭を下げた。
「…はじめまして、片桐秋子です」
「え…?あっもしかして…!?」
「由子さん?」
由子は秋子の名前を聞くなり秋子をまじまじと見つめ出すが、隣の少年が声をかけたことで彼女はハッとする。
「あ!すみません。あの私の連れが、あの女の子の彼氏さんとお友達で、なんか大変そうな状況だったので、彼氏さんを呼んで解決してもらったんです。だから、もう平気だと思います!」
由子はワタワタと説明してにっこり微笑む。
「…そうでしたか、ありがとうございます」
なんだかよくわからないが、助けてもらった様なので秋子はお礼を言ってつられて微笑む。
(あ…!)
そこで秋子はしまったと咄嗟に思った。
何故なら、旧知の仲以外の女性とは関わらない様にしていたのに。ましてや微笑むなんてしないようにしていた。それこそ、相手はストーカーになりかねないのだ。
「ん?どうかしましたか?」
「あ、いえ何でも…」
(あれ?でもこの子…)
しかし目の前の彼女にとくに変わった様子はなかった。
さらに、そういえばさっきのストーカー少女にも微笑んでしまった事を思い出す。
(今さら遅いか…笑わなくてもストーカーされてたら意味ない…)
「あきちぃ…じゃなくて、鮎川君こっち来るみたいですよ」
そう言って彼女はにっこり微笑んだ。
「え?」
「一応鮎川君にメールしたら、すぐに電話が来て場所を聞かれたので…」
「…秋子さん!」
すると話の途中で秋路の声が聞こえてきた。
声の方を見ると彼は走って来ていて、秋子のもとまでくるとガシッと彼女の肩を掴んだ。
(…!)
「秋子さん…。最近会えなかったのは、もしかしてこれが原因ですか?」
秋路は近くで叱られているストーカー少女を確認すると、秋子に困った表情で言う。
「…ごめん」
秋子と秋路の間に沈黙が流れたが、それは女の子が奇声をあげた事により打ち破られる。
「あ!あの人!」
女の子は秋路を指差す。
「美々子!あの人も追っかけまわしてたのか!」
女の子の指を下ろさせると、男の子は彼女を問いつめた。
「ひーん!ごめんなさい…京ちゃん」
女の子は男の子のげんこつを恐れてか頭を庇う。
女の子を叱るのを中断した男の子は、秋子と秋路に向き直るとまた深々と頭を下げた。
「あの、本当にすみませんでした!よく言っておきますので!」
「あ…うん、そうしてもらえると助かるよ」
秋路は男の子に同情しつつも苦笑しながら冗談混じりに言った。
「はい!では失礼します。…ほら、美々子行くぞ」
男の子は女の子の腕を引っ張りながら、何度も頭を下げつつ、その場を後にした。
「…大変そうだね、あの彼氏君…」
小さくなる二人の姿を見ながら由子は呟いた。
「あぁ…そうだな。由子、連絡くれてありがとう」
「いえいえ。あきちぃ早かったね?」
「あぁ、飛んできたからな。…それで、今日はこんな状況だからお互い紹介は今度にしないか?」
「あ、うんそうだね。また今度改めてだね。今度を楽しみにしてるよ」
由子はニマニマと笑って言った。
「助けてもらったのに悪いな。彼にも宜しく言っといてくれ」
そう言うなり秋路は秋子の腕を引っ張って歩き出した。
「ちょっと、鮎川君…!」




