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冒険者通り十三番!  作者: 鼠色猫/長月達平
第一章  『土地ひとつだけ、主は五人』
3/21

『いざ入国の新天地』

 自分を危機から救ってくれた少年――アルを連れてティファは街道を歩いていた。


 山中を抜けてしばらくお姫様だっこは続いたのだが、森の切れ間からマンティコアの悔しげな遠吠えが聞こえたのを皮切りに、駆けっこが終わりを告げたからだ。

 チンピラたちとの邂逅も含め、恩返しを申し出たティファにアルが要求したのは、彼女の住んでいる都である王都までの道案内という欲のないものであった。

 ただ、街道に出れば王都までは道なりに進むだけ。安上がりなのが逆にティファの良心を痛ませた。せめてちゃんと礼がしたいと何度も申し出て、その結果――、


「じゃあ、田舎から出てきて間もない俺に、王都のことを聞かせてくれないか?」


 と、アルはこれもまた恩返しとしては欲のない要求をしてみせたのだった。


 色素の薄い茶髪は前髪が眉にかかる程度に伸び、琥珀色の瞳は好奇心の強さを反映するように輝いている。顔立ちは精悍と純朴の間に揺れる幼さを残して整っていて、背丈は平均的な人間族の青年より少し高い。着ている衣服は簡素なもので、あちこち草や泥で汚れている。腰に備えつけた道具袋以外の荷物は持っていない。それがアルの特徴だった。


「王都のことって聞かれても、何が知りたいのかわからないと話しようがないけど」

「俺は王都なんて行ったことない田舎っぺだから何でもいいんだけど……じゃ、王都ってどんだけでかいんだ? 噂じゃ、普通の町とは比べ物にならないんだろ」

「それはもちろん。どこの町と比べるかにもよるけど、都なんだから規模が違うわよ。少なくとも南北二つの大陸の南側、あたしたちの暮らすミドガルド大陸じゃ一番ね」

「ミドガルド大陸で一番ってことは、人間族の集落で一番でかいってことだよな」

「サイズ的な問題なら西の巨人族の都の方が大きいかもね。でも、人口って意味じゃ王都に届かないし……世界全体からしても人口上位に入ると思う。北の神族が暮らしてる創世期時代の都が、サイズ的には最大になると思うけどね」


 別の種族を前置きした上で頷き、ティファはアルの質問を肯定する。


「東も東のジパング以外は国主を務めてる人間族もいないし、人間族の都としては王都エルベルムが世界最大だと思うわ」

「世界最大かぁ……わくわくするな。麓の村の何倍くらいあるんだろう」

「麓って……二日はかかるダールビークのこと? 一番近いから比較するのもいいけど、あんな小さい村と比べてもダメよ。あそこは人口二百ぐらいの小さな村じゃない。王都は人類種の坩堝っていわれてて、人口は百万を超してるんだから」

「ひゃ、百万!? 百万って、一万が百個あって、一が百万個ぐらいあるやつ!?」


 途方もない数字を聞いたと、アルは両手を挙げて驚いている。期待通りすぎるリアクションは実に話し手冥利に尽きる。


「もうそこまでくるとほとんど想像もつかないな……ん、人類種の坩堝?」

「そうよ。王都エルベルムを統治されている女王様の方針でね。女王様は世界中の種族の共存を掲げて、王都の門を開いているの。その方針に従って、王都には人間族以外の“人類種”も積極的に受け入れられているわ。七十万は人間族だけど、残りの三十万ぐらいは人類種が一緒に暮らしていると思っていいわね」


 人類種はこの世界に生きている人型の種族の総称だ。正式には『人類種人間族』などと呼ぶのが正しく、この呼び方が広まるまでは亜人族と呼ばれていた種族も多い。亜人族で最も有名なのはエルフ族だろう。ドワーフやホビットが後に続くだろうか。今では亜人族とは呼ばず、人類種エルフ族などと呼ぶべきなのだが、人間族が人類種と話すときは基本的に人間族を除外した他の人類種のことを示している。


「創世期時代、人類種は人間族との戦争で大陸を割ったって言われてるでしょ。もう千年以上も前の話だけど、それが原因で人類種を毛嫌いしてる人間族は多いわ。特に偉い立場の人ほどそう感じるみたい」

「へえ。でも、そういう意味じゃトップの女王様が博愛主義なのは珍しいんだな」

「もともと王都エルベルムはその傾向があったらしいんだけど、ここまで思い切った方針になったのは先代の王様からなのよね。魔王軍の脅威が迫ってる状況で争ってる場合じゃないっていち早く気づいたのよ。……二、三百年前に気づけって話だけど」


 ピンチが目の前まで来ないと気づかないのは歴史が証明している。権力者ほど頑なに自分の足場にこだわるものよね、とティファは先入観で考える。


「王都では見慣れた光景だけど、外から来る人は慣れない場合も多いわ。あたしは生まれたときからだから気にしないけど……人類種は嘘もつかないし、お金払いはいいし、寿命のおかげで長期的な常連になるし、上客よ。あまり驚かないようにしてね」

「後半は商魂たくましかったな。でも、その辺りの心配はいらないよ。人間族以外が多いってんなら、俺の故郷も似たようなもんだから。兄弟みたいなコボルトもいるし」


 コボルトは犬の顔と体毛を持つ人類種だ。愛くるしい姿と愛嬌のある性格のものが多く、王都でもその存在を多く見かけることができる。


「へえ~、人類種と人間族がまともに共存してるのなんてエルベルムくらいかと思ってたけど……世界は広いのね」

「ケット・シーとかク・シーの友達もいる。ピクシー一家も近くに住んでたよ」


 堂々としたアルの言葉は不意打ちに近くて、思わずティファが笑ってしまう。

 彼が言った名前はそれぞれ精霊種の名前だ。人類種であるエルフやドワーフなどよりさらに人間にとって馴染みの薄い妖精族。主に北側の大陸であるアスガルドに少数で暮らしている種族だ。それと共に暮らしていたなんて、夢とロマンに満ちた嘘だった。


「あ、その笑いは信じてないだろ」

「ふふっ、そんなことないわよ。それで他の知り合いは? 魔王軍の影より来る尖兵、バグベアなんかも知り合いにいるのかしら」

「俺の知ってるバグベアは気のいい奴だから、尖兵とか言われてもピンとこないけどな」


 全身に黒い毛を生やし、見上げるほど大きな体に真っ赤な瞳。その巨体の半分はある大きな口に鉄の牙を並べ、好んで子どもを食べるという妖精族の嫌われものだ。

 今度こそティファは声を上げて、堪え切れずに大笑いした。


「べっつにー。信じられないほど田舎の話だから信じてもらえなくてもいいけどさ」

「ごめんごめん。別にバカにしたわけじゃないんだって。ところで、王都には何の用があって出てきたの? 差し支えなかったら聞かせて?」


 笑いすぎて浮かんだ涙を指ですくって謝ると、問いかけにアルは少し悩む。それから太陽の位置を確認して、天体とティファとを一直線に結ぶ場所に回り込んで、


「俺は王都に出て、夢を……そう、でっかい夢の一番星を叶えにきたのさ!」


 白い歯がキラリと光り、アルの瞳が夢と希望と無鉄砲に輝いた。

 ツボに入った。



※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 王都エルベルムを取り囲む防壁の中央に構えるのが、正門にして入国窓口である。

 都を隙間なく囲む長大な城壁には、四色のいずれの魔法にも対応した防護用の魔法陣が刻まれており、あらゆる脅威から王都を守護する防衛拠点だ。


 門番詰め所も兼ねた窓口は正門の隣に設営され、甲冑を着込んだ門番達が不審者に備えて日夜使命感を燃やしている。といっても四六時中その勤務態度が続くわけもなく、ましてや大事件と縁遠い王都で緊張感を維持しろというのも酷な話だ。

 案の定、ティファとアルの二人が街道を抜けて窓口に着いたとき、詰め所の中の六名の門番はカード遊びをしていて、まともに門番をしていたのは門扉に寄り掛かる二人だけだった。その二人も、相手の尻文字を追いかける言葉遊びに夢中な始末。


「いやー、すみません。王都に入る馬車の時間はとっくに過ぎてたし、昼時も回って都を出ようって人もいないもんですから退屈で退屈で。アメジスト」


 職務怠慢を見られた門番が照れ笑いし、入国手続き用の魔法台帳を取り出す。


「とりあえず、王都の住民でいらっしゃれば登録証をお見せください。トロール」

「はい。あたしはティファ=ティアハートです。王都の冒険者通りの住民です」


 首に下げた小物入れから銀色のプレート、登録証を門番に渡す。それから十桁の番号を口頭で伝えると、魔法登録帳の該当ページが開いた。その内容を見て門番が頷く。


「はい、確かにティファ=ティアハート様を確認しました。三日ぶりの無事の帰還、何よりです。何か大事はありませんでしたか?」

「いえ、特に何もありません。ありがとうございます」


 用意していたすまし顔で答えると、後ろのアルが不服そうな顔をするのがわかった。そのアルに振り返り、優雅にスカートを翻して順番を譲る。


「次は彼です。彼は王都の住民じゃないので、入国手続きになりますから」

「ああ、えっと、はい、そうです。よろしくお願いします。ルナドロップ」

「混ざるなっ!」


 殊勝に下げた後頭部を小突くと、それを見た門番が小さく吹き出す。それから頬を染めるティファに咳払いして、先ほど引っ込めた書類を再度差し出した。一緒に羽ペンをアルに手渡し、「必要事項を記入してください」と求める。

 途端、険しい顔をしたのはアルだ。その苦悩の表情は並々ならないもので、唐突な脂汗がぐっしょり首元を濡らしている。その懊悩する顔のまま、掠れ声でアルは言った。


「すみません。俺、アルケス文字が書けません」


 項垂れるアルの言葉にその場の全員が言葉を失った。不自然に黙り込んだ窓口を見ていた詰め所の門番達も含めて、誰もが開いた口が塞がらない。

 識字率が非常に高いミドガルドで、世界共通言語であるアルケスが読み書きできないというのは本来ありえないことだ。人類種族は全種族がこの文字を使用している。


「そ、そんな馬鹿な。アルケスが書けないなんて……プロミネンス」

「前代未聞だ。ど、どうするべきなんだ……スレイプニル」

「えっと、そんなまずいこと言ったのか、俺? ルーンスタッフ」

「とりあえず、即時その言葉遊びをやめなさい一同っ!」


 後ずさりさえする門番達より早く立ち直ったティファだったが、驚きの勢いがあまって困惑するアルを激しく揺さぶる反動が出た。


「アルケス書けないってどんな状況よ! そもそも読み書きできなくても言葉は使えてるじゃない! アルケスと係わり合いのない場所で生まれ育ったとでもいう気!?」

「い、い、い、いやいやいや、そんなこと言ってないだっろっ! ちょっとストップ! 落ち着いて、舌を噛みますですっ! いだぁっ! 遅かったぁ! 噛んだぁっ!」


 だばだばアルが流血するに至って、ようやくティファも衝撃から立ち返る。自分のはしたなさに思わず羞恥が上るが、顎まで血まみれのアルは傷口に触りながら、


「俺の育った場所は田舎だって何度も言ったろ。長いこと自治区ってことにされてるから、アルケスとも馴染みが薄いんだ。別のキタルファって言語なんだよ」

「キタルファなんて言葉、聞いたことない……じゃ、アルケスを話せるのは?」

「勉強して、会話は不自由ないようにしたんだ。ユーモアには溝があるみたいだけど」


 心配する部分は別にあるだろうと思いつつ、場所を譲れとアルを押し退ける。


「門番さん、あたしが代筆します。あんたは質問に答えなさい」

「お、助かるな。浮世の義理人情が肌に沁みるぜ。ありがとよ、ティファ」

「借りもあるし、これぐらいはね。えっと、名前はアル=アヴァル……年齢は?」

「今が熟れ頃の十七歳。華の十七歳ともいう」

「只の十七歳よ。人種は……人間族よね。聞くの恐いけど出身は?」


 未知数の言語を使っている場所だ。一地方の少数部族出身だといわれても驚かないだけの心構えを作っておく。近所には人類種も多いし、どってことないんだから。


「そんな期待されても応えられるかどうか。リュングダールってとこから……」

「リュ、リュングダール!?」


 心構え粉砕。声に驚いたアルが壁に後頭部を打ったが、それ以上の衝撃を受けたのはティファの方だ。門番達も耳にした単語が聞き間違いではと目を白黒させている。


「リュングダールって、ミドガルド大陸最南端のリュングダール!?」

「ずっと北に向かって歩いたからその認識で正しいと思うけど……何で皆さん、そんなに驚いていらっしゃるんで?」

「……あ、あんたがあんまり田舎者だから驚いてんのよ」

「え、これがカッペに対する都会人の態度!? うわぁ、マジでカルチャーギャップ!」


 深刻さの足りない動きで頭を抱えるアルだが、ティファの心中は混迷を極めている。


 “リュングダール”といえばミドガルド大陸の南部、高山地帯に国交を断絶された未開の地だ。その名称と存在は誰もが知りながら、その内情は誰も知らない地。

 北のアスガルド大陸を中心に侵略を続ける魔王軍。その侵略地域と対極に位置するリュングダールには様々な噂が付きまとう。魔王軍との争いに無関係な楽園だとか、魔王軍とは別の邪悪が蔓延る悪夢の帝国があるとか色々だ。他にも魔物だけの国があるとか、夢魔だらけのハーレムランドがあるとか、黄金郷が待ってるなんて夢の噂もある。


「OK、事実かどうかはともかく受け入れた。次に行くわよ、田舎者。入国目的は?」

「信用値低いな! 入国目的は、そう……夢を叶えにきたのさ!」

「まあ、王都にやってくる人の中じゃ少なくない動機よね。戦士志望とか?」


 山中で男達を叩きのめした腕前から推測。ただ、アルは武器を持っていない。


「いや、夢とか女の子に語るのってなんか口説いてるっぽくない?」

「入・国・目・的を答えなさい。とっとと」

「王都には出店目的で参りました! いわゆる、商売人デビューであります!」


 姿勢を正して敬礼するアルの言葉をそのまま書き込み、細々とした事項を埋めて代筆を終了。危険物の持ち込みがないかが魔法で確認され、あっさり入国許可が出た。


「どうぞ、王都の素晴らしさをご満喫ください。フレイムタン、はっ!」


 言葉遊びが切りよく終わり、生温かい視線に見送られるアルを連れて王都に入る。

 途端に雑踏の騒音が鼓膜を直撃した。活気に満ち溢れた雑音の数々は、人が作り出す営みから生じる音律だ。右へ左へ、多種多様な種族が大きな道を触れ合うほど詰めて行き交っている。コボルトの商人が獣人の一団に声をかけ、荷馬車の御者台にはドワーフと人間が並んで腰掛けている。


 この騒がしい大通りを、王都の正門を指して『扉通り』と呼んでいる。


 「エルベルムへようこそ!」と挨拶番のホビットがティファとアルにも声をかけた。彼らは朝晩問わず、扉通りを通る全ての人類種に挨拶する立派な職業労働者だ。ティファも幼い頃に手伝ったことがあるが、数時間で喉から血を吐いて大泣きギブアップした。

 ふと隣を見ると、道行く人々を眺めるアルは感動に全身を震わせている。涙で滝を作っている感動ぶりは新鮮で、王都育ちの自分とはどう違って見えているのかなと思う。


「そだ、アル。感動中に悪いけど、外のお金があるなら両替しなきゃダメよ」

「苦節十日やり遂げました、アル=アヴァル! って、え? ああ、金なら大丈夫。共通通貨はダールビークで使い果たして現品しかないから」


 笑ってアルが掲げるのは、腰に付けていた魔道具袋だ。魔道具袋は規定数以内なら物のサイズは問わずに何でも入る優れものだ。生物はダメだが、動物の死体は肉にカウントされるので、ハンターが転んで大量の剥製が通りに転がって事件になることもあった。


「現品って、お金じゃなく品物? 店次第じゃ新参者はかなり足元見られるわよ」


 金銭も持たずに換金目的とは見通しが甘い。読み書きできないのも含めて、カモられ要素が満載している。悪いこと言わないから回れ右して帰れと提案したい。しかしあまりにもキラキラと夢に満ちた瞳が言葉を詰まらせるのだ。これを問題の先送りという。


「リュングダールじゃ希少価値あるし、流れの行商人さんも高値で取引されるって話なんだけどダメか? これを当座の生活費と貯蓄に充てようと思ってたんだが」

「流れの行商人って、怪しげなジョブランキング上位常連みたいな人にほいほいと……」


 ストレートに騙されてるんじゃないかという疑問の中、「これなんだけど」とアルが袋から何かを取り出した。親指と人差し指で作った輪ほどのサイズの赤い宝石を間近で見せられ、その正体にティファはぽかんと口を開けて唖然としてしまう。


「あ、赤の原石……?」

「そうそう、そういう名前の石だ。リュングダールでもこの大きさは珍しくてレア物だぞ。普段は白季に備えて村の倉庫に仕舞うんだけど、ちょろっと拝借して……」

「そんなもん町中でほいほいと出すなんて何考えてんのーっ!」


 咄嗟に出た右フックがいい感じに顎を捉え、ぐるりとアルの視点が回る。同時にその手からぽんと飛び出した宝石を慌ててキャッチして、ティファは安堵からその場に座り込んでしまった。


「無事? 大丈夫? 何ともない……? あぁ、よかった」

「うぁ、今のは効いた……急に何すんだよ。それにそんな場所で、お尻汚れるぞ」

「黙んなさい。あたし今、ぱーぺきに怒ってるわよ」


 事の重大さを理解していない阿呆面を指差して、


「これは赤の原石って、そりゃもう超弩級の危険物なの。四色の魔法の中でも赤は火と攻撃性を意味するでしょ? 赤の原石はその魔力の結晶! 大いなる神アルファズルが人類に与えた三つ、世界と生命と魔法の根源の一つなんだから!」

「ええっと、それってアルファズル教の一節だよな」

「流石にそれくらいは知ってるのね。ミドガルドじゃ知らない人のいない教えよ。魔王が台頭する世の中だもの。神様が救いの道を示してくれるって信じる人は少なくないわ」

「神様の救い……ねえ」


 どこからしくない笑い方をするアルに、とにかくとティファはさらに詰め寄り、


「この原石は魔力の根源、大魔道に匹敵する赤の系統魔力の塊。しかも普通に発見されるのは砂粒ぐらいでそれでも希少なのに、このビッグサイズはありえないわよ」

「つまり……百万長者か!?」

「落っことして踏んづけたりしたら辺り一面火の海ってことよっ!」


 袋を奪い取って宝石を厳重に封印。それから危険物を扱う心構えと命の大切さ、死生観やお金の力などをとつとつと説いて説教から解放する。

 微妙にげんなりしているアルの前で腰に手を当て、ティファは小さな胸を反らして、


「そういえば、あんたは王都に頼りがあってきたの? 知り合いとか」

「ゴールド……ゴールド……あれ、ちょっと正気揺らいでた。えーっと、知り合いとは違うけど話を通す相手はいるゴールド。急いではいないゴールドよ」

「何その素敵な語尾。ま、いいや。時間があるなら今はあたしについてきて。ちゃんとお礼がしたいからお店に案内するわ」


 スカートの裾を翻し、同意を得る前に歩き出す。その隣に慌てて並ぶアルが、


「ここまでで恩返しには十分だよ。道案内と代筆の件で量的にはティファの勝ち」

「これぐらいで恩返しした気になるほどあたしの貞操観念は軽くないの。質的にはアルの圧勝なんだから、恩返しされてあたしの感謝の根深さを思い知りなさい」


 恨み言みたいだな、と思って少し頬が赤くなる。実際、ティファはあの程度では全然まったく物足りないほどアルに感謝しているのだけれど。



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