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グロ小説シリーズ

英国紳士の甘い罠

作者: 綾小路隼人
掲載日:2026/02/03

イギリスの冷たい霧が、高層ビルの窓ガラスを白く撫でている。

24歳の新米OLジュディはデスクで小さく溜息をついた。

シルクのように滑らかな赤毛が肩から零れ、淡褐色の瞳が疲労で少し曇っている。

彼女は社内でも誰もが振り返るほどの美貌とプロポーションの持ち主で、桃のように豊かな曲線を描く美尻と、ブラウス越しでも形の良さがわかる上向きの胸は本人の意図とは裏腹に常に男性達の視線を集めていた。


「ジュディ、そんな顔をしていたらせっかくの美人が台無しだろ?」


甘いバリトンボイスに顔を上げると、そこには若い指導係の先輩ユージーンがいた。

輝くような金髪に、深い知性をたたえた緑の瞳。

その上ギリシャ彫刻を思わせるハンサムな顔立ちで、彼はいつもジュディをお姫様のように扱った。


「ユージーンさん……すみません。」

「謝らなくていい。君の美しさが、無能な連中の嫉妬を買うのは仕方ない事だからね。」


ユージーンはジュディの肩を優しく叩いた。

その手の感触は温かく、安心感を与えるものだった。

だが、そんな穏やかな時間は決まって2人の人物にぶち壊される。


「ジュディ、またユージーンに色目使ってるでしょ! そんな暇があるなら仕事に集中して頂戴! 常に私の目の届く所でね!」


キンキンと響く怒声と共に現れたのは、お局上司のメリッサだった。

彼女はシンデレラの継母さながらにジュディを監視して、隙間なく仕事を押し付けてくる。


「この書類、今日中にやり直しなさい。それから倉庫の整理も……ああ、またユージーンから差し入れが来たの?」


また、メリッサはユージーンがジュディに差し入れした高級菓子や飲み物を一目見るなり汚物を見るような不機嫌な表情を浮かべ、毎回無慈悲に捨ててしまうのだ。


「まったく……仕事中に甘いものは不要よ。」

「そんな……いくら何でもひどすぎますよ……」

「お黙り!! あんたはユージーンに甘えすぎなのよ! 突っ立ってないでさっさと取りかかりなさい!」



ユージーンが差し入れてくれた高級チョコレートを捨てられて涙を浮かべているジュディの元に、彼女のもう1人の悩みの種である同僚の男性ロンが寄ってきた。

パサパサの茶髪に精彩を欠いた灰色の瞳を持ち、馬のような風貌の彼は隙あらばジュディのすぐ横に近寄り、しつこく話しかけてくるのだ。

その上自炊して昼食を自分で持ってくるよう勧めて、終業後はいくら断っても半ば強引に車で家まで送迎するロンをジュディは疎ましく思っていた。


「ジュディ、また怒られたのかい? 昼休みになったら僕と休憩室へ行こう。君のためにヘルシーな野菜スープを作ってきたんだ。ユージーンと外食に行ってばかりいないで、自炊して栄養を管理しないと体に毒だぞ。それから、今日も帰りは僕の車で送るよ。」

「ありがとう、ロン。でも、大丈夫だから……」

「何言ってるんだ。もし君に何かあったら困るだろ?」


メリッサとロンの存在はジュディにとって窮屈な枷でしかなく、社内の誰もが2人を「偏屈者」と嘲笑し、ユージーンを「完璧な王子様」と信じていた。



「おいで、ジュディ。レストランに行こう。」


ある日の昼休みに、ユージーンはジュディを街で指折りの高級レストランへ連れ出した。

バターたっぷりのステーキと、濃厚なフォアグラと、生クリームが山盛りのデザート。

ユージーンは、ジュディがそれを食べる様子を陶酔した表情で見つめていた。


「君は痩せてるから栄養を摂って体力を付けないと。もう少しふっくらした方がもっと魅力的だよ。」


ユージーンの優しい言葉に甘え、ジュディは高カロリーな食事を胃に流し込んだ。

彼に見つめられると、自分が特別な存在になったような錯覚に陥る。

しかし、オフィスに戻った彼女の背後でメリッサとロンが鋭い視線を送っている事には気付かなかった。


その日の午後2時に、ユージーンが席を外している時に彼のデスクに残された革手帳をジュディは偶然目にする。

ユージーンに届けようと手に取った際にページに挟まっていた数枚の写真がパラリと床に落ち、それを見た彼女は凍りついた。

そこに写っているのは隠し撮りされた自分だった。

それも、ブラウスを押し上げる彼女の胸と、タイトスカートが張り詰める肉感的な尻のクローズアップばかりだ。

震える手でページをめくると、そこには几帳面な筆跡で狂気じみた言葉が綴られている。


『今日もジュディは、綺麗な乳房と尻を揺らしている。あぁ、なんて素晴らしい肉付きだ。あの柔らかそうな肉に早く歯を立てたい。』

『あともう少しだ。最高級のバターを塗るように、彼女に栄養を注ぎ込み、最高の脂を乗せなければならない。』


そして最後のページには血のように鮮やかな赤インクで、ページを突き破らんばかりの筆圧でこう綴られていた。


『ジュディを食ってやる』



「……っ、おえっ!!」


ジュディは猛烈な吐き気に襲われた。

ユージーンは最初からジュディを「極上の食材」としか見ておらず、これまで彼が甘い菓子を差し入れたり外食に誘って豪華な食事をさせてきたのはジュディを美味しく太らせるための飼育だったのだ。

メリッサが差し入れを捨てて隙間なく仕事を押し付けていたのと、ロンが自炊を勧めていたのは、彼らがユージーンの本性を見抜き、ジュディを少しでも痩せさせるため。

彼らは嫌がらせをしていた訳でも何でもなく、彼女を餌食にしようとする怪物から守っていたのである。

ジュディは給湯室に駆け込み、昼休みに食べた料理とデザートを全て吐き戻した。

嘔吐の苦しみと、それ以上の恐怖で涙が溢れる。


「おやおや、そんなに吐いたらせっかくの栄養が台無しじゃないか。」


磨かれた革靴の音と冷徹な声が背後で響き、振り向くとユージーンが立っていた。

物腰柔らかい紳士の仮面をかなぐり捨て、緑の瞳は血に飢えた猛獣のようにジュディの体の曲線を舐めるように見つめている。


「ユ、ユージーンさん……これは、何かの冗談ですよね……?」

「本気さ。頭のキレるメリッサとロンが邪魔で仕方なかったよ。あのババアは僕が君に食べさせるはずだった薬物入りの差し入れを全部捨てていたし、馬面男のロンは君を僕から物理的に遠ざけようと必死だった。だが、君は愚かにも僕の方に懐いた。僕が裏で何をしてるか知ってもいないのに。」


ユージーンは一歩ずつ、腰を抜かして座り込むジュディへ歩み寄っていく。

そして彼女の赤毛を優しく掬い上げ、その香りを深く吸い込んだ。


「怯える事はない。君のその素晴らしい乳房も、柔らかな尻も、僕の一部になるんだからな。その方がロマンチックだと思わないか?」


ジュディの震える首筋にユージーンの手が添えられる。

その指先は、今から彼女を調理し始める包丁のように鋭く冷たかった。

絶望がジュディの視界を真っ暗に染めようとしたその時、蹴破られるような音と共に扉が開かれた。


「そこまでよ、ユージーン!」


鋭い怒号と共に現れたのはメリッサだった。

彼女の手には護身用の催涙スプレーが握られている。


「メリッサ……さん……」

「ジュディ、こっちへ!」


間髪入れず、馬のような長い顔を歪ませたロンが割って入った。

彼は必死の形相でジュディをユージーンから引き剥がし、自分の背後に隠した。


「ユージーン、観念しろ! 手帳の中身も、デスクの下に仕掛けた小型カメラも、警察に通報済みだ!」


ユージーンは忌々しげに舌打ちをして逃げようとしたが、逃げられなかった。

既にビルの廊下にはメリッサが事前に手配していた警備員と、駆けつけた警察官達がひしめき合っていたからだ。

ユージーンはその場で現行犯逮捕されて即刻解雇となり、その後の捜査で判明した事実はイギリス中を震撼させた。

彼の自宅からはおぞましい調理記録と、過去に行方不明になっていた数人の女性の遺体がバラバラに切断された状態で発見され、部位ごとに丁寧にラベリングされて冷凍庫に入れられていたのだ。

彼は気に入った美しい女性を言葉巧みに太らせ、最高の状態で食す事を至上の悦びとするシリアルキラーだった。

事件後、やつれたジュディを抱きしめたメリッサの瞳にはかつての厳しさはなく、母親のような慈愛が満ちている。


「今まで辛い思いをさせてごめんなさい、ジュディ。あの男の異常さに気付いていながら、確たる証拠を掴むまであなたを厳しく監視して遠ざける事しかできなかったの……」

「メリッサさん……私、あなたの事を誤解していました。あの差し入れを捨てていたのも、私を守るためだったんですね。何も知らずにメリッサさんを恨んだりして、本当にすみませんでした……」


涙を流しながら謝罪するジュディの肩をメリッサは不器用そうに叩き、「いいのよ、あなたが無事なら」と優しく微笑んだ。

その隣ではロンが心配そうにジュディを見つめている。


「ロン……あなたも、私のために自炊を勧めてくれたり毎日送迎してくれたり……私、あなたを鬱陶しがっていたのが申し訳ないわ……」

「いいんだ、ジュディ。君が何事もなく生きていてくれるなら僕は何と言われようと構わなかった。君を守るためなら何でもするよ。」


ジュディは溢れ出す涙を拭い、外見の美しさに惑わされて本当に大切に思ってくれる人が誰なのかを見抜けなかった自分を恥じたのだった。



事件から数ヶ月後。

ジュディはロンからのプロポーズを受け入れて結婚した。

ロンは相変わらず馬のような顔で、お節介で少し不器用だが、彼の愛はユージーンのような「消費するための愛」ではなく、ジュディを人間として慈しむ本物の愛だ。


更に時が経ち、霧の晴れた公園でジュディはロンの傍らでベビーカーを押していた。

ベビーカーの中では、赤毛をふわふわとさせた元気な女の子の赤ちゃんが父親譲りの灰色の瞳を輝かせて笑っている。


「見て、ロン。メリッサがまた笑ったわ。」

「本当だ。名前の通りに芯が強くて賢い女の子に育ちそうだね。」


2人は、命の恩人であるメリッサへの心からの敬意を込めて娘にその名を授けたのだ。

ジュディの豊かな曲線は今や誰かの餌としてではなく、新しい命を育み、愛する人を抱きしめるための幸福の象徴となっている。

かつての恐怖は温かい家庭の幸福によって上書きされ、ジュディは夫が作ってくれた愛情たっぷりの手料理を頬張りながら、自分を救ってくれた本物の愛を噛み締めるのであった。

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