表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/7

新しい世界と学園生活

退院の日の朝、深月は病院の窓から冬の澄んだ空を見上げていた。 彼女の手元には、かつての自分を知るための持ち物は一つもなかった。新しい門出に今まで苦しんだものはいらないという那月の思いからだった。


「深月、お待たせ。お迎えに来たよ!!」


病室の扉を開けて現れた那月は、今日から深月が通うことになる私立『白耀はくよう学園』の制服を手にしていた。眩しいほどの純白のブレザー。それは、泥にまみれた過去をすべて塗りつぶすための色のようだった。


「那月ちゃん……。私、本当に行ってもいいの? こんなに良くしてもらって……」


「何を言っているの? 深月は私の『家族』になるんだよ?これからは、誰も深月を傷つけない。今までのことなんて忘れて、新しい世界で楽しく、最っっっ高に幸せになるんだから!!」


那月の抱擁は温かかったが、その瞳は深月の背後にある「過去」という名の闇を、一欠片も残さず焼き尽くそうとするような鋭さを秘めていた。


病院を出た深月を待っていたのは、自衛隊の公用車ではなく、早苗が手配した最高級のリムジンだった。 到着したのは、都心の喧騒を忘れさせる広大な敷地に建つ苅田家の邸宅。 玄関では、父・宗一郎が軍服を脱ぎ、穏やかな「父」の顔で出迎えた。


「本当に良かったのかい?家に住んでくれてもよかったんだよ?」


私は申し訳なさそうに言った。


「自分の名前も思い出せないような私が、那月ちやんたちの優しさに甘え続けるのは……怖いんです。これ以上、あなたたちに迷惑をかけたくないんです。申し訳なくて、すみません。」


私は少し俯きながらそう言った。

そうすると、宗一郎さんが


「そうか……わかった。だけど、困ったことがあったら私達に頼りなさい、いつでも私達は深月の味方だ」


翌日。深月と那月は揃って『白耀学園』に初登校した。 ここは政財界の子息が集まる超名門校であり、宗一郎が多大な寄付を行い、早苗が理事会に深く食い込んでいる場所だ。


「今日から編入してきた、苅田深月さんです。那月さんの親戚にあたります」


担任の紹介に、教室がざわめく。 『落合』ではなく『苅田』。那月が独断で、しかし両親の全面協力のもと用意した新しい姓。 記憶のない深月は、新しい名前に戸惑いながらも、隣の席で微笑む那月の存在に救われていた。


「深月、困ったことがあったら何でも私に言って。何かあったら私達が”対応”するから」


那月の言葉は、深月には心強い味方に聞こえたが、それは同時に、深月を傷つけるものは許さないという宣言であった」


休み時間。中庭で那月と一緒に温かいココアを飲む深月。 「……私、前の生活のこと、何も思い出せないけど。でも、今がすごく幸せ。那月ちゃんに出会えて、本当によかった」


深月の屈託のない笑顔。その純粋な光を見つめながら、那月の心には黒い悦びが満ちていく。


(ええ、そうよ。思い出さなくていいの。あなたは私の作った箱庭の中で、一生、可愛らしい小鳥として笑っていればいい)


その頃、邸宅の書斎では、宗一郎と早苗が向かい合っていた。 机の上には、深月の実の両親である落合夫妻の、惨めな現状を示す報告書が置かれている。


「宗一郎さん。娘たちの学園生活も落ち着いたようですし……そろそろ『ゴミ捨て』の時間かしら?」


「ああ。深月が新しい生活に馴染むまでの猶予は終わった。……あの者たちには、私の娘を傷つけたことを死ぬまで後悔してもらわねばならん」


窓の外では、再び雪が舞い始めていた。 深月の新しい生活という「白」が深まっていく一方で、加害者たちに下される「血」の報復が始まろうとしていた。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ