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次代開きの大祭り  作者: 荒野銀


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6/7

(5ー1)

長いので分割

 衝撃の祭器布告よりひと月。ついに子の月、12月がやってきた。で、今日は最終確認、水の宮での合議の日。

 未明から七輪だの氷だのと、準備に奔走し、午前には不凍のみぎわーーぼやの起こった因縁の原ーーに、水の宮の全員が集結した。本日、ここで、祭器の大々的なお披露目がおこなわれる。5宮すべての神々様が集結し、祭器を繰る、実演と細部の最終調整をかね。本来11月に行われる慣わしだけど、今次はまあ、語ってきたとおりだから。

 合議と同じ配列、5色の灯火のもと、起立のまま他宮を待つ。

 黒陽は北天の山かげに入り、モノクロの残照が、山の端をグレーでふちどる。全地全天、闇のなか。草木は眠り、星湖は凪いで、5色のたいまつが5色の火を立てる。後方の各所からヒソヒソ声。聞く能わず、でもその題目は、多色の灯火で照らされた、アルミシートに伏された小山のなか。この銀箔のシートの下にこそ、この半年間、5宮の御方がたが心血そそいで生成した集大成が、期待と不安のうち、その登場を控えている。

 で、祭器の側に伸びる側溝があってーー、これは何に使うんだろう、コマの中身を捨てるのかな?

 そう考えていると、後ろからわびしい笛の音が。チラと見ると、遠方に、白炎を猛と焚き、白い液汁を垂らしたみたいに、一端をド派手に染める銀のかげろう。金の宮の御方々だ。

 笛の音が段々と近づいてき、「よく参られた、金の宮の御方がた!」出迎えの声がきこえると、鎧のカッチャカッチャという音が近づいて、通りすぎていく。続いて、なんだオメェは? と、所かまわずねめつける居丈高な御仁たちも。

「なんじゃ、もったいぶって」とヒダ殿。「まだ披露せんのか?」

「式次があるんですよ、式次が」とインバ殿。「拙速は失敗のもと」

「うーむ」と少時思案。のち「まあ、そうじゃの」で、背後に一段低い声で「おい。子分どもを大人しくさせとけ」

「へい」で振り返り「おい、テメェら! 騒ぐんじゃねえぞ!」

「「「うぃーす!」」」

 続いて地揺れ、地響き。金の御方がたに隠れて見えなかったが、黄炎を掲げた一団が、すぐそこまで近づいていた。土の宮の御方々だ。トライアングル鳴らしながら自然な足取り、到着後も小さな咳払いのほか、目立つ動きは見られない。それは静思にしても。ただ待つ、そんな印象。スサ殿も高い地点で腕を組み、何やらつぶやきながら、真面目な顔して銀のシートを見つめている。ちょっと、唇を読んでみる。

「ぎんぎんと そそり立つ山 銀の皮 めくり表わる 金の玉 硬のぎょく

  磨して拉して いちとせば マラの頂き 女神そびやかすかも

 最後は「女神 桃花なすほほ」の方が実体に則しているのでは? うーむ、どうしたもんか......」

 しょーもな!

 つぎ、小気味良い小太鼓のマーチにのって、漸近する一糸乱れぬ行進の足音。そして、一帯を紅く染める紅炎、火の宮だ。我らの背後を回り、金土の御方がたの背後を回り、その際も、ビートはおろか掲げる炎の高さまで狂わない。定位置に来てもマーチ止まらず「ぜんたーい!」で予告して、「止まれ!」で停止。足踏みもきちんと2度、ちゃんとそろう。マーチングバンドも同時にだ。で、気をつけの姿勢のまま緊張を保って、かと思ったら「休め!」の号令で、半歩開きにそろう音。ちなみにミワ殿は、血管うき出た筋肉もりもりの赤毛の馬に乗ってきた、もちろん、背後で手綱にぎるチホ殿に介助され。で、下馬しないままのミワ殿が、スサ殿からの「助言」で光度を下げる。これもまた、いつも通り。

 最後は木の宮の御方がた。琵琶や三味線かき鳴らし、前衛の御方は回っては花、翻っては花と、花弁をしきりにふり撒いて、まるでお祭り騒ぎの様相で近づいてくる。我らの背後をとおる際には、昵懇の神様がたの名をよび、笑顔で手を振る御方まで。まるでパレードだ。で、定置に着いたらついたで、こんどは我々に挨拶、火の宮にも挨拶、もちろん、お辞儀しながら目をそらさず、なかば強引に、会釈を返させるやり方で。「ミワ殿、おおきに」とウカ殿。「ミヌマ殿もおおきに。あ、ミヌマ殿、酒肴たりとります? えぇ漬物できたんですよぅ、なんと、あの黒稲! あの黒稲の酒粕で、長瓜を漬けたんどす。そしたら、これまた絶品に仕上がってなぁ。味は奥深く、歯応えもパリポリでええ音だすやろ、ほんで、なによりあの香味! あの美酒のかぐわしい香味が、瓜と絶妙にからみあって。あの名酒だけでも至福やいうんに、そこにあの美酒の香気かもす瓜が加わったらーーどうなるゥ思います? もう天国ですよ、天国! さらにィですよ! これは水の宮の御方はんで楽しむ一品にとどまりまへん。他の宮の参詣あったときも、秘蔵の逸品として自信もって出せますゥ、喜ばれること兼ね合いどす! 一貫どうどす? いや一貫といわず二貫でも! あ、でも二貫までで頼みますよ、今年はあんまし作ってないしィ、他の宮の分もありますさかい。ただ、ご贔屓いただいてるミヌマはんだからこそ一番に、いちばぁーんに! ご相談させてもらお、思てな」

 するとインバ殿は即時かんらく。扇で顔をかくしたあと、我らにいとまを告げ、ウカ殿のもとへ。もちろん小走りでだ。するとすぐ、狂喜に目を見開き、大業なしたと言わんばかりの大股で、大手を振って帰ってきた。背後に「おおきに」と深々と頭をさげるウカ殿を残し。で、そのウカ殿が、頭を上げて後ろの官僚団につぶやく。笑みの消えた口の動きが見える。「完売や」

 5宮会同し、満場しずかになる。なにか始まる予感が満ちにみち、私語の波が凪いでいく。

 するとインバ殿が楽隊に目配せ。拍子木が5度打ち鳴らされ、

「本日はご参詣いただき、誠にありがとうございます。水の宮の副代表、インバです」両手ひろげ、中央に進みいでながら。「このあと殿内にて代表団の合議が予定されておりますが、皆様ご存じのとおり、今年は祭儀が綱引き祭りに変更になりました。本日は(そのとき火の宮から「口上結構! はよ祭器みせい!」「そうだ、祭器だ!」そして始まる「さーいーき! さーいーき!」のコール。それが4宮に伝播しひろまり、インバどの、周囲顧眄し)雷に天。大壮ですか。はぁー。しょうがないですねぇ。それでは、子羊ちゃんたちにでっかい車、披露して差し上げましょうかねぇ。では危、虚、壁、室。カバーをはいで」

「ハッ!」そして、四隅の御方がアルミ箔をめくっていき、表れる巨躯なる車。

「「「「「おおー!」」」」」

 それは巨大なベーゴマを中央に配し、四隅から生えた曲がる銀の松で天幕を張った、移動式屋台ともいうべきものだった。まずリアカー。車輪なんて僕の胸ほどもあるし、剥き出しのフレームなんか、金銀まだらで、ギラつき、我こそがこの祭のぬしだと言わんばかり。荷台の広さにいたっては、スサ殿用にキングサイズのベッドをこしらえたかのよう。そして、その上には、荷台をすっぽり覆うほどの巨大な円盤が、動力を失った宇宙船のごとく力なくうなだれている。もちろんコマの4維から生える髭のような四色の綱も、ぐったりだらりだ。そしてそのコマを身かわし生える、湾曲する松。幹は銀箔で染色され、横枝はすべてカット、針葉は、頭部にしか残ってない。で、この4本の幹に極太の茅の輪がかぶさって、円形の屋根の梁となっていた。で、この梁にさらに綱が幾本も巻き付けられ足場ーーつまり屋根だーーになり、でもスッカスカ、なんの意味が? しかもなぜか、二層ある。

「当祭器について説明いたします」とインバ殿。「皆々様、どうか周流しながら御観覧なさってください」と祭器に寄りながらテキスト読み上げる。「あ、ミワ殿! ミワ殿だけこちらへ。どうぞ。そう、祭器の前へ。よろしくお願いいたします。(が、火の宮から「もしや照明に使うつもりじゃあるまいな?」「なに! 不敬ぞ! ミワ殿は照明ちゃうぞ!」「威光しらすべし! 遼威畏れるべし!」)それもそうねぇ、誰が書いたのかしら、このテキスト(イワヌマ殿なんだよなぁ、が、イワヌが華)大変失礼いたしました、では全員ーー、ぜえいんで! ご周流なさってください」

 隊が祭器を回るように移動していく。僕も横の御方にならって眺めつつ歩き、

「それでは説明いたします。万年氷をたいて精気奉納する方針に変更なくも、国ぜんたいの労力ぶそくで、祭式が、温泉祭りから綱引き祭りになりました。これは5宮執政の承認をえた総意であります。この祭式となった要因は四つ。一つ、土器製造のための粘土量に上限があること。二つ、土器の形状は円柱でも円錐でも熱の伝達に不都合が生じること。三つ、溶けた万年氷が粘度たかいゲル状になり、かき混ぜるのが容易でないこと。四つ、貨車の形体は、変更できないこと。以上により、コマをくりぬき、なかに氷を入れ、たきながら綱を引いて中身の循環をはかる祭式、綱引き祭りが採用されましたーーというのが、こたびの経緯になります」

 僕は知っている、内情を。特に二つ目と三つ目。二つ目については、円柱だと炭を追加するスペースが得られず、倒立円錐では底部と炭が乖離しすぎて熱伝導に支障がでる。ボツ。扇型の円柱にすれば?も、三つ目をクリアできず。この三つ目というのが、存外の暗剣なのだ。悠久をへて凝結した氷は重く、焚くも割るも容易でないうえ、溶けたら溶けたで溶岩みたく重く混ざらず、粘度が高い。これが激烈にやっかいで。ちょっとやそっとの怪力では、この量の粘液、かき回せやしない。伝説にきくナギ殿くらいじゃないか。その昔、ぬぼこで沼をかき回し、中津国の原型を造った御方ーー星湖はそのコオロコオロの跡だと伝えられる。ともかく。膂力にしろ、かき混ぜ棒にしろ、足場にしろ、考慮し用意するくらいなら、いっそ綱で引いて混ぜてしまえとなったのだ。

 説明は続く。

「貨車は加工しやすい真鍮と剛強な鉄のあいのこ。荷台には窪みのある土器を敷きつめ、炭を置きつつ貨車に直火が当たらないよう工夫しました。また、荷台の中央に油をぬった鉄の椀を配置し、上にのるコマが滑らかに傾斜するようにしてあります。コマは下半分が土器、上半分がこぼれ防止用の返しで、上部だけ木でできています。これは粘土量の制約と祭器の軽量化を考慮した結果です。コマの周縁に蔓植物を植栽し、蔓を束ねて生きた綱としてもちいます。荷台の四隅に銀の松の木、これは引火防止のための措置で、精水銀をぬってあります。これを屋台骨とし、上から茅の輪をかぶせ、梁とし、上階を形成します。上階二層はコマ内の監視や氷の補給、5宮の指揮者が立つブリッジのためのものです。二層目が氷補給のためのフロア、最上階が指揮者のフロアです。ここからでは見えませんが、最上階には指揮者のつかまる欄干もあります。各フロアには、はしごで昇降します。松の木に沿って生える竹が、そのはしごです」

 付記するとすれば、上階のフロアも貨車の荷台も、縦の結節点8、横の結節点8で、交点の数は、ともに64ーーそうか! 上階が方円で天であり、荷台が方形で地、そのあいだで傾き、精気をまわすコマの象。まさに、この世!

 周回して全体が元の位置に。

「以上が説明となりますが、質疑はいったん置いといて、まずは実演に移りたいと思います。質疑は実演のあとの合議にて、不具合なども合わせてしていただければと。それでは木の宮の御方がた。若年の御方から祭器の後ろにどうぞ。......そう、車の前部についてる蒼く塗られた取っ手のところです。そうです。どうぞ。横二列になって! ......そう、それで結構でございます。残りの木の御方がたは蒼い綱のところへ。......そうです、車の左前方に伸びている綱です、綱につかまれなくなるまで。......あ、もう結構でございます。では残りの御方は、後ろにうちわを用意してありますので、取りに来てください。(いつのまにか木の宮の背後に人身ほどもある大きなうちわが)取られましたら車を囲むように四散していただければと。......はい、......はい、それで結構でございます。では次! 火の宮の御方がた! 火の宮も木の宮と同じく若年の御方から祭器のところへ......」

 こうして各宮に役割が伝達された。それは車を押し牽きする役、綱を引く役、炭に風をおくる役、炭を焼く役、コマ内に氷を放る役など、4宮さまざま。ただ土の宮だけはそうではない。車を押し牽きする役と綱を引く役で二分され、車の方はさらに二分して、押す役ひく役りょうほうを担当しーー他の宮は押すかひくかの一方ーー、綱にいたっては、4宮の綱すべてに配置される。結果、車は後ろから土・金・水・車・木・火・土の順にならび、綱は車のななめ線上にはみ出し伸びて、右前方から右回りに木土、火土、金土、水土の割り当てになった。各綱への員数の割当ては、4宮の御方々が3分の2、土の御方々がのこる3分の1だ。

 説明は続く。

「コマは3周まわして1セットとします。1周目、まずは水の御方々が1の力で綱を引き、それから火の御方々が......(まとめると以下。本筋に関係ないから、読みたい人だけ読んでね)」

 1周目:

  北方:水の宮だけで1の力で引く

  南方:火の宮だけで2の力で引く

  東方:木の宮だけで3の力で引く

  西方:金の宮だけで4の力で引く

  四方:四方の土の御方々が同時に5の力で引く

 2周目:

  北方:水の宮と土の宮の合同で6の力で引く。水の宮が1の力、土の宮が5の力

  南方:火の宮と土の宮の合同で7の力で引く。火の宮が2の力、土の宮が5の力

  東方:木の宮と土の宮の合同で8の力で引く。木の宮が3の力、土の宮が5の力

  西方:金の宮と土の宮の合同で9の力で引く。金の宮が4の力、土の宮が5の力

  四方:綱を引かない(0の力で引く)

 3周目:

  北方:水の宮だけで5の力で引く

  南方:火の宮だけで3の力で引く

  東方:木の宮だけで9の力で引く

  西方:金の宮だけで7の力で引く

  四方:四方の土の御方々が同時に1の力で引く

「では、実践してみましょう」

 格子に組まれた幾本もの炭の塔に火がつけられ、黒い骨格すける焔の塔の一角ができ、これでコマを焼く準備はよし。次に氷。貨車の四隅の竹から水の御方がよじ登ってーー竹にはつま先を掛けられる切り込みが入っていたーー、上階の二層目のフロアでいったん待機。そこに、金の御方が氷の入った籠を籠ごと放って、水の御方が見事キャッチ、振り向きざまに氷を落とす。で、コマに小山ができるまでこれを繰り返した。これで氷の準備もOK。楽隊、牽引隊、綱引き隊も配置につき、炎熱にほてった炭が、七輪で運ばれ荷台に撒き散らされ、コマの底面に赤熱のふきで物が発生して、氷の小山がしだいに低くなっていく。そしてついに、黄緑色のつぶ混じる湯けむりが発生しはじめた。それはまるで線香の煙のように繊細で、逆巻き渦巻き、粘体のように糸を引いては千切れ、溶け消え、微小の質量を感じさせつつも決して落ちることがない。昇り続ける、まるで天の所有物と言わんばかりに。そしてコマの直上に位置する上層二枚ともが、緑の霧に包まれた。ここに5宮の御当主たちが昇段する、精気の霧にかすみつつ、地上を守護するの縮図のように。

 ここまでおよそ三時間。ほとんど氷の溶解を待つ時間だった。周囲の御方がたが口々に私議するのが聞こえる。

「こりゃこぼしたら大惨事だぞ」

 演習はつづく。

「それではまず、コマを回す練習です」と進行役がかわってシオガマ殿。「4綱の御方がた、先ほど申し上げた加減で綱を引いてみてください。3回まわします。それでは1周目、まず水の宮から。いきますよー、せーの!」

 綱が張りつめ、でも、金局付近で寝転んでいたコマは、水局方面に時計まわりに鈍く滑ったていど。

「次々、いきますよー。はい、火の御方がた。せーの!(引き戻し、今度は反対方向へ。やはり鈍い動き)はい次。木の御方がた、せーの!(今度はゴゴゴッと勢いづいた)ではつぎ。金の御方がた、せーの!(するとまた時計回りに切り返し)1周目の最後です、土の御方がた、一斉にどうぞ!(4綱がピンと張られ、コマが直立でないにしろ立ちあがった。「おおー!」と歓声が)さあ2周目いきますよ。水土の御方がた。合力で、せーの!(「えいやー!」の掛け声が出始め。拘束解かれたコマが水局に倒れこんで)次、火土の御方がた。合力で、せーの!(またも「えいやー!」の掛け声。うき上がったコマが勢いよく時計回りに滑り出す)次、木土の御方がた。合力で、せーの!(観衆までも混じって「えいやー!」それと共に、木局に向かっていたコマが強烈に引き寄せられ)次、金土の御方がた。合力で、せーの!(「オラァー!」と掛け声荒々しく、歓声わいて、火局に向かうコマが瞬間移動したみたいに金局に張りついた)2周目最後、土の御方がたはお休みいただいて、では、3周目ですよ。水の御方がた、5の力で、せーの!(「えいやー!」コマは勢いそのままに、水局をすばやく通過)次、火の御方がた、3の力ですよ、せーの!(「えいやー」掛け声もそっと。コマはやや勢い失いつつ木局へ)次、木の御方がた、9の力、目一杯引いてください、せーの!(「おんどりゃー!」気前のいい掛け声。「ええぞ木の若人!」「キ張れネ張れ!」の声援出て、会場わき、轟音たてつつコマはぶっ飛び、火局へ)次、金の御方がた、7ですよ、程々に引いてください、せーの!(「どおりゃー!」。慣性移動していたコマが、一気に金局になだれこむ。中の氷もガラガラゴロゴロ凄まじい轟音)最後、土の御方がた、1の力で止めてください、せーの!(掛け声なし。コマは速度緩めマイルドに。ただ減速によって中身の乱流達せられたようで、湯けむり増える)本来はこのあと1周目に戻って、ふたたび水の御方がたの出番となりますが、今日はここまで。続いて車牽きの練習に入ります。まずは楽隊の御方がた、演奏の準備をしてください。用意はいいですか? では、ミュージックスタート!」

 その号令とともに、5宮の楽隊が高雅な演奏をかなで始める。金の宮の神楽笛や笙、木の宮の琵琶、火の宮の三ノ鼓に、土の宮の鉦鼓、水の宮の拍子木。それまで部品であった楽音が交錯して、みやびな雅楽のしらべをうたい出す。祭り! 祭りが始まるんだ。その認識に、いやが応でも高揚する。

「それでは車を牽いていきましょう。では牽いてください、せーの!」

 すると貨車がゴリペキとじゃりを踏みつぶし、微速前進をしはじめた、巨大な船舶のように、ゆっくりと。が、すぐにつんのめるように加減速を繰り返すようになった。観れば、お役の方たちは、つっかえたり暖簾押しになったりと、歩度がまったくそろってない。すると普段の精励のたまものか、「妙技」をその身に刻印されてきた金の御方がたが

「野郎ども! 我ら金の宮の掛け声に従えーい! いくぞ!」

 で、始まったのは、白銀の御殿で見た歯車回しの異様な光景。あえぎにも、自己催眠にも聞こえる「せーい! せーい!」の低い唸り、摺りあし歩行だ。でも、歩度は安定した。

「そこまで! もう十分です。もう止まって! ......はい。はい。では次。次は総合演習です。車を押しひきしながらコマを回していきましょう。楽隊も湯気維持隊も随行してください。それでは皆様、ご準備はよろしいですか。いきますよ、せーの!」

 そして始まったのは、典雅、奔走、忍苦と躍動いりまじる、奇妙な脳筋アルゴリズム体操。楽隊が一糸乱れぬ奏楽をかなでる傍ら、湯気維持隊が首にさげた七輪で炭を焼いては荷台に撒き、あるいは、氷不足の発声に、急ぎ駆け寄り、でも氷渡すタイミングまちがえ苦情言われてたり、またあるいは、うちわの風で舞う消し炭に、水の御方が不平をかこったり。一方、そんな群像、意に介さぬといったぐあいに「せーい、せーい」と不乱の唸りで、腹にひき棒食い込ませ、車を牽いてく御方たち。そして、リズムに乗って、天幕より下る当主の「今!」の号令で身を倒し、巨大なコマを傾斜させる若頭しゅうの反り返り、嬉々ふくむ掛け声。しかもすべて、移動しながら、コマに貨車に、密集しながらだ。書記たる僕は、その混沌のシュバルツシルト面から、だいぶ離れて万象を銘記していた、世の巡りそのものみたいな、神様がたの為すその精気の坩堝を。

 予定では蓬莱の入口でUターンだった。でも実績は、復路につくこと能わずだった。道中に深いぬかるみあって、車輪が沈んで抜け出せなくなったのだ。演習は中止。動かせなくなった祭器は、その場に放置された、片輪だけぬかるみに沈んだ状態で。

 帰路、こんな問いが漏れるのを聞く。

「こんなんで祭り、やりきれるんかのう」

 こんなぼやきに足音でしか答えを返せない時点で、事態の深刻さは瞭然たるものだった。

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