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次代開きの大祭り  作者: 荒野銀


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5/5

(4)

 残務ひきつぎで5日を過ごし、今日はここ、水の宮で連携役の初顔合わせ。5宮のお役が一堂に会す。遅参ならぬと意気込んで、装束すがたで門戸に立つ、刻限よりだいぶ前に。で、イワヌマ殿はもちろんいない。すると、

「たのも~!」と、滝の向こうにゆらぐ人影。なにやら頭部のみ肥大し、頭頂ながく、深く二股に分かれている。「土の宮の連携役、ウサであるぞ。こたびは連携役の会合でつかまつった」

 つ、土の宮? やばい、もう来た。イワヌマ殿はーー後顧しーー、無理か。ともかく例式どおりに。

「よ、ようこそいたしった! ど、どうぞお進みくだされ!」

「なんじゃ? ずいぶん若い声やね、噛みよったぞ」水流の向こうでほがらかな笑い声が。で、影が動き、水壁が切れ、現れたのは極彩色の呉服を着た兎。まるで春光の中にいるようで、唐紅がキラキラとしており、手は士魂の表れか帯剣の白つかに置かれている。少し後ろに、コンクリート色の全身タイツの従者。従者は僕と同輩、でも兎の御方は、若草色のやわ毛を風になびかし、春のいぶき吹き渡る大地のよう。春極まる手前といった様子。でも、なぜこんな大層な神様が? 土の宮、だよな? ともかく、お出迎えしないと。

「ようこそいらしった、土の宮の御方がた」ひしゃくを上げてこうべを下げる。が、続きは? イワヌマ殿がまだだが、ええと、合議の間に通していいんだっけ?

「イワヌマ殿は」と兎の御方、いや、ウサ殿か。「見えんな。寝坊かの? ホッホ、相変わらずのんびり屋さんじゃな。よかよか」

 イワヌマ殿を知ってる、ってことは、やはり由緒ある神様か。きざはしの前に誘導しながら「イワヌマ殿は、その、雑件? がございまして、遅参であります」

「嘘つかんでよかとよ。イワヌマ殿とは旧知の仲。春なかまぞ」

「あらやだ!」すると背後で喚声が。「もういらしてたんですか。って、ウサ殿!」上半身を振ってチョコチョコ走ってくる。イワヌマ殿だ。

 走り寄ると小憩し、「知らせにはハクト殿とありましたのに。あ、それよりもお久しゅうございます。あらやだ、挨拶よりお詫びの方が先だったかしら? あでも、会議の間にもお通ししなくちゃ」

「よかよか。待つ待つ。あと伯父貴どのじゃがな、ワシは代理ぞ。ほれ、伯父貴どのは舟乗れんから」

「あら~。まだワニが怖くていらっしゃる?」

「まいばんな『ワニがぁ~、ワニが挟むぅ~』と、寝言で言うとうよ」

「あらぁ~。難儀ねぇ」

 で、くつくつ笑い合いーー。なんだろう、このお二方の周囲、草はえそう。

 すると門から「たのも~」の声。「金の宮の連携役、ミシマである」男神、なのか? 妙に甲高い。

「あらやだ、お出迎えしないと」

「あ、僕いきますよ」で、門戸に向かい「ようこそいらしった! どうぞお進みくだされ!」

 で、滝切って現れたのは銀のながーい三角コーンをかぶった背の低い、けれども重量感のある防塁のような御方。男神だ。全身を金属の甲冑でおおっており、でも小手や具足に統一感はなく、左右でも違い、小手だけでも諸種の金属を継ぎ合わせたような、まだらの模様。しかも、たんに平滑な多色の甲冑というのでなく、虫食いのように窪んだ部分に別の金属片がのぞきーー。ああ、そうか。たぶん、金や鉄やヒスイといった別種の鉱石でできた鎧を、幾重にも装着してるんだ。で、まだらに見える。でも、なぜこんな華飾を? まるでこの御方が陥落すれば、その装備を産み出す源泉そのものが消滅してしまう、それを警告するためだけの重ね着に見える。本来はもっと、素朴な神様なのでは? ともかく、案内だ。

「どうぞきざはしへ。イワヌマ殿がお待ちです」

「うむ」

 その声は三角コーンの先からくぐもって聞こえーーって、よく見れば、コーンの先っぽは、天を見上げる鷲の頭。その嘴からだ、お声は。どうやって前を見てるんだろう?

 お付きの者は両の肩当てと兜だけ。光彩を昌石に閉じ込めた感じから、ダイヤかな。

 続いて来着したのは火の宮の御方がた。

「たのもう。火の宮のキタカミです。5宮連携役の会合で参りました。開門しても?」

「どうぞ」

 で、水流切って現れたのは、痩せこけて頬骨の突きでた蒼白の男神。猫背で、黒衣の上に深紅の水沢ダウンを着ており、右手のハンカチで、額やうなじ、水紋の刺青入った首筋を、押すようにぬぐっている。

「ようこそいたしった、火の宮の御方がた」

「ふう、北局は幾分ましだな。涼しい」そんな独り言が。「きみ一人? 姉さんーー、イワヌマ殿は、遅参かな?」

「いえ、あちらに」きざはしに手を延べる。

「おおっ、いた!」

 まるでいないのが平生のよう。「では失礼するよ」で、通りすぎ、足音が遠ざかり。しかし、ちょっとの間の後、「ヒッ!」といった叫び声が。「き、狐! と思ったら、兎か。なんだ。しかも白くもない。って、ウサ殿でしたか、こりゃ失礼、暑さで参っておりまして」白い狐ーー、西からの狐かな? お付きの者は右半身が象で左半分が虎。う~ん、どちらも素晴らしく、甲乙つけがたい。

 最後は木の宮の御方がた。

「たのも~。5宮連携役で、参り、ましたぁ。ナグです」

 水壁の奥にウグイス色のドレス、両腕にからまり双肩より立ち昇る桃色の輪。ドレスが宙に浮き、何か抱える体勢は胎児のように丸くなっている。声は消え入らんばかり。

「ようこそいたしった。どうぞお通りくだされ!」

 すると水がとぎれ、姿が示顕し、そこにおわすは、まぎれもない天女。地面から七十~八十センチ、大きな甕を抱えた横臥の姿勢で、ゆっくり宙を横転している。広いドレスの裾や羽衣が深海のクラゲのように波打って、なのに、衣擦れは葉のこすれ合う音。それはまるで田園に安まる稲葉のようであり。そして手は安眠のお供たる甕を抱き抱え、さも心地よさそうに蓋に頬をつぶしている。とうぜん、目なんて開いていない。

「ウチで、最後?」

「あ、はい」

「イワヌマ、殿、は?」

「きざはしの上で待機しておられます」

「引いて、くれる?」

「は?」

「あ、いいです、いいです。こっちの話ですから」

 と、お付きの方。若神様で、からだは百穀実って充実なのに、頭部は黒より赤に多く染まっている。で、ナグ殿の腰のした辺りを掴むしぐさ、つづいて彼の歩度で、ナグ殿も横滑りしていく、まるで幼児に引かれる風船みたく。よく見ればナグ殿のふくよかな腹に、絹糸のきらめく一筋だ。

「ごめんね、ノウチュ」

「いいですから。寝ててください、醸造進みませんよ」

「あり、がと」

 そして寝息が聞こえーー。ともかく、これで5宮そろったわけだ。

 イワヌマ殿に引率され、北斗六室の武曲星へ。ウサ殿に配慮し、真北の七室は避ける。

 水の宮は斗型の尾根と麓の氷河、それに尾根の屈曲地に掘られた7つの氷室からなる祭場でできていた。室には役割があり、六室は氷河の破砕場。この氷河というのが精気の凝集体でーー詳説は後述ーー、この融水を配管に乗せ、各宮に流すのだから、砕いた氷塊ももちろん財資になる。で、この氷を取っておくのが六室。つまり、六室は精気の保管庫ってこと。あと、砕氷部隊の居室でもあり、僕もかつて、ここに起伏していた、代表団の一員となるまでは。

 「今日は私服でいいのよ、合議じゃないから」なんてからかわれつつ、六室へ。室のまえは雨どいと垂れる雫のカーテン。この雨どいの底に穴が空いていて、流れくる融雪の水滴を漏らし続けている。イワヌマ殿が雨どいを石で塞ぎ、水を遮り、先行して入る。振り返りほほえむ。

「どうぞ」

 一同つづく。するとそこは、燭光と星雲の広い間。中央に緋の太いロウソクが無言で灯り、それが鉱石を多く含む天井の岩盤を照らして、天球が光輝散乱する、まるで精緻な宇宙の転写図のように。それは青黒い粒まじる静謐の氷ブロックのなか、灯のゆらぎを増幅して返照する唯一にして明確な動。既視とはいえ、思わず見とれてしまう。

「すごかの」ウサ殿の感嘆。ミシマ殿は見上げずにーーいやしてるのか?ーー賛嘆している。

「あの」と、若神様は困惑の顔色。「真っ暗ですが」

 あっ、そうか、夜目! 僕だけだ、水系なの。若人で。

「ちょぉっと、待ってね」とイワヌマ殿。袖から黒燭とライターを取りだし、点火。「じゃ、行きましょ」

「なんでライターなんて持ってるんです?」と火の若神さま。

「あら。だって便利じゃない」

「無粋じゃのう」

 ね。

 室内は深閑とした無人の倉庫。青黒い氷のブロックがむき出しのまま整然と積まれ、まるで氷の居城といったふう。

 イワヌマ殿の先導で進むと、氷塊のかげから光るつららの壁が現れた。四柱に岩を積み、支柱間に穴のあいた雨どいをかける。で、融雪を流し込んでおけば、しみ出した水が白濁のつららを形成してくれる。個室を作る典型的やり方だ。で、なかに畳を敷く、灯りを置く。まあ通常、灯りはつけないけれど。

 つららの生えてない箇所から入り、黒い燭光を囲んで着座する。合議と同じ位置取りだ。

「本日は遠路はるばるご参集いただき」と、イワヌマ殿が三つ指ついて挨拶。「ご苦労様でございました。ではさっそく現状の報告と課題ですが。オモノくん」

 オ、オモノくん?「はい」

「桶用意してあるから映写して。説明の進行に合わせてね。あ、桶は入り口にあるから」

 入り口ーー? 確かに立て掛けてある。「わかりました」

「桶をどうするんだい?」とキタカミ殿。

「まあ、ちょっと見てて。すごいのよ、便利で」

 桶を取ってきて手持ちの水を静かに注ぐ。かなり薄いが水の多寡は問題じゃない。指先を入れ、「えっと、なにを映せば?」

「じゃ、水門でお役の御方がたをお迎えしたところを映して」

 指示どおりにする。で、波紋広がり、写った瞬間、おお~! と、感嘆の声。

「ワシが写っとる」とウサ殿。唖然の表情で、顔がこちらと桶をいったりきたり。「音は? 音は出せんのか?」

「できます。でもーー」

「音声はオモノくんのになっちゃうんですよ」

「ふむ。ちょっとやってみてくれんか?」

 指示どおりにする。が、出力の途端、ああ~。

「ホホッ。よかよか。それよりワシの声と流水の音が同時に聞こえとるの。どうなっておるんじゃ?」

「知覚できないくらい細かく音を出すんですよ、交互に」

「つまり、ウサ殿の声を極短時間だして、次に流水の音を極短時間だす。これを連続して高速に行う。だから本当は断絶してるんだけど、あまりにも短い断絶だから、知覚されず、ウサ殿と流水の音が同時に発生しているように聞こえる。ということかな?」とキタカミ殿。

「そうです」

「はあ~。すごかの。信じられんと」

「お主、名は?」と腕組みのミシマ殿。

「オモヒトノカガミです」

「ヒトの生みし神か?」

「はい」

「殺をどう捉える?」

 殺?「えーとーー」

「殺を乗りきれそうかと聞いとるんだ」

 えっと、つまりヒトが殺気で、どこまで枯れるかってこと?「わかりません」

「まあまあミシマ殿。まだ若いんだから。無理ですよ」とキタカミ殿。

「だがな、ヒタカミのせがれ。ここにいるジュウコもだが、度が過ぎてるぞ、何事も。秋深まれば精気漸減する。精気漸減すれば、枯渇するもの増えて、少しでも良いものをと、無駄を敵視するようになる。豊満な晩夏への懐旧も手伝ってな。これが義の生じだ。すると今度は逆に不義に敏感になり、不義を許せなくなる。季節すすみ、秋風に後押しされるかたちで義はどんどん固く先鋭化するから、そちこちで対立うまれるぞ。対立できたら、つぎは分裂する。ついには、互いの義を押し付け合って、誅伐に明け暮れだすのだ。その過程で金は湧くさ、もうザックザクだ。それはいい。従革だからな。実を成し、枯死するは世の摂理。だが、度が過ぎれば、世の仕組み、おかしなるぞ。そもそもだなーー」

「まあまあミシマ殿。ほら、ナグ殿! ナグ殿、起きて! ミシマ殿にお酒だしてあげてーー」

 そして、五分後。てっぺん向いた鷲の頭から喜悦の声が。「よい酒じゃ~! あっ、ほれ、万歳! 万歳! ほれ、拍手~!」雀躍たる小踊りとともに。


 こうして始まった連携役の集会だったけども、ただの報連相の場で、詳記すべき点はない。七曜のうち四曜をもって各宮実見、五日目で自宮の最新情報を得て、集会に参加。で、状況と課題を共有して、報告書をまとめて上達する。すると、上の者が意思決定して断案くだり、それをまた共有してーー。この繰り返し。つまり、集会とは文書での5宮合議であり、連携役とは各宮の視察と報告書作成係なのだ。

 これら経緯をつぶさに見て僕は、土器がフラスコか瓢箪型になると私案していた。でも、そうならなかった。先達の御方がたはもっと遥かに、予想を越えて偉大だったのだ。もちろん、多種の意味で。

 それがわかったのが亥月11月、金の宮での合議。

 水の宮の門前に定刻集合、最後尾につく。提灯ともし、拍子木うって、さあ出発。もう11月、黒陽は、マットな光沢で燦燗を微にし、もはや四六時中日蝕といった案配。見上げる虚空はおろか、見下ろす湖畔まで暗影に没したかのよう。ふだん乳白色した女神の御手まで、黒粉まじりに見える。参道に並び立って、モノクロの火を巻く灯籠と、星湖に浮く精金、参列のともす提灯だけが、光源といえば光源か。ま、我らは夜目きくんだけど。

 黒燭ともした舟にのり、星湖周覧の短い旅へ。戌すぎて、葦たちはまさに死滅のみぎり。退色の骸が、いたるところに。少しでも暖を取りたく咲かした穂の頭巾も、吹きすさぶ寒風にまるで役に立っていない。それどころか、一方的に剥ぎ取られるありさまで。他方、湖底では、緑雲まとって余裕かましていた地球も、今や金の宮の「奮闘」の賜物か、血みどろといっていい枯れ具合に。時折、シリウス色の瞬きがあり、そのたび僕はーーどうも代表団では僕だけらしいーー、意識が遠のく。もしかして、これ、前兆か? 消滅の。

 舟は黄金の小島を左折し、西方へ。薄明の湖面に、まるで満月の海にいるような、白い波頭が散乱している。それは最初、まんべんなく不規則に生滅していたが、実は湖面の輝きは銀の背鰭もつ魚の群れでしたといわんばかりに、西の水平線に向かって、白い切れ目が集中していく。ついには白い橋となった。そしてその末端、西のかなたから、圧倒する全天の闇を持ち上げ、押し戻し、白い電光をまとって浮上してくる白銀のキューブ。まるで満を持して現れた銀の盟主といわんばかり。それは超高密、超高圧のエネルギーを凝集して、禁忌の物質をうみだす実験施設のような、発する雷電がなにかの鋭い悲鳴のよう。これが金の宮の御殿。なかはーー、知っている。荒れくれ者どもの巣窟だ。

 船着き場に着き、下船。縦隊を組んだら、拍子木なるのを待って前進。御殿までの緩い登坂をする。

 参道には危険がいっぱい。精金川で鋤き取られた精金が、水車によって絶えずコンベアで輸送されるが、しかし、この地は川辺で本来は葦たちの楽園だから、そのままだとコンベアに無邪気に絡み付いてきたり、蒼穹みたさに天蓋たるコンベアを突き破ろうと不遜な挑戦をしてきたり、精金の運搬に支障がでる。で、この運行に仇なす葦たちを、征伐する必要がでてくるわけだ。その因由から、金の宮の外苑は、巨大なT字型の鎌ゆれる葦たちの処刑場となっていた。鎌はゆれる、神意を解さぬ野放図な伸び方をした葦たちをこらしめるため。鎌はゆれる、精金を気に変える、その従革の神意を、義とも思わぬ不埒なやつばらを排除するため。迷惑なのは、鎌の軌道が参道にまではみ出てるってこと。烏帽子に風圧を感じたり、圧倒的物量の凶刃が、ものすごい勢いで迫って来ては浮き上がる、金属のきしみをたてて。もしこの鉄の塊を吊る鎖が破断したらーー。そう思うと、何度もヒヤッとした、連携役の訪問時など、特に。スサ殿なんてどうするんだろ? 地揺れで鎖をたわませるのかな?

 でも参道自体は他と一緒。花崗岩が敷かれ、両袖にはやはり花崗岩の灯籠が立ち並ぶ。渦状の灯火は、もちろん白い炎ーー少女の喜びのような可憐な白だ。

「ドワッ!」

「ヒエッー!」

「なんなんもう! 堪忍してェ!」

 など、おののく声が。前を行く木の宮の御方々だ。水系の僕でさえ肝を冷やすのだから、木の御方々なんて言わんやをやだ。

 登坂おわって、いしゆみを持ち、背を向けた物見やぐらの御方と門前の礼。曰く「たのも~」「ようこそ」、で、開門へ。門は4柱のやぐらから垂れる薄いアルミシートでできており、上部にどでかいアルミロールがあって、それが足元まで届くといったもの。これを傍にある鉄火の石剣で切って開とする。なお、門も垣根も、鉄剣をいつぶしてできたものらしく、9メートルを少し越えるほどの高さで、重なった切っ先の隙間から、本殿の閃光が漏れる。そして内にむかって反り返り、壁の内側や上部には、波紋もいまだ鮮やかな白刃のむしろが、出るなとの警告を発している。まるで闖入者より脱走者こそ標的、そういうように。理由は知っている。要因は、内苑にある。

 剣の重みで危なっかしいインバ殿からバトンタッチ、今回もシオガマ殿が開門する。で、拍子木なって宮中へ。門の先から緑の光が漏れてきて、くぐるとそこは日本庭園のごとき精金の砂原。垣根を越えたコンベアの頂上から、こぼれくる精金が山となって、参道の両端に降り積もり、絶えず注がれ絶えず崩れ、金の波紋を奥へ奥へと伸ばしていく。それは、まるで精金となるまえの生、肉体下での喜びの増幅と拡張と性質を同じくするようで、殺伐たる金の宮の内宮に、生の喜びたる緑の波紋を広げている。が、これに対する中津国の回答はスコップだ。この生の喜びの輪唱を、生命の結晶たる緑の金の波紋を、金の宮の御方々はいとも無残に鉄器で刺していく、まるで泥土を運ぶがごとく事務的に。で、つらい顔して一輪車で運ぶ。ちょっとでももたもたするとすぐ怒喝だ。

「おい、二百三十七番! てめぇ仕事なめてんのか、このボケぇ! あ? なんじゃ、その目は?」

「す、すいやせん、アニキィ。許してくださいィ」

 ときには鉄の笏で腿への「教育」も。受けた方はうずくまり、一輪車の荷は散らばり。これがまた実に辛そうなのだ。で、精金もって、脱走する者があとをたたず、この抑止のため、刃の障壁が必要なのだ。

 御殿が近づき、参道に金の宮の代表団の御方々が物々しく並ぶ。笏は腰帯にしまい、手は前組みの姿勢。ゆかりの品なのか、各人が違ったつるぎを帯刀している。いやに迎賓の御方々が多い。

 進むと、右端の御方が、

「お勤め、ご苦労様です!」それつづいて「ご苦労様です!」の野太い一斉掛け声。しかも、軽く低頭するだけ。手は組んだまま、足だって盛大に開きっぱなしのままだ。で、とおりすぎると頭を上げ、何やら横目に密語の雰囲気。礼遇ムードじゃないな、これ。

 動じない気配の先達の御方がたに続き、雷光を天に突きだす銀のキューブへ。正方形の入り口で、今日は合議だからか全開らしいーー普段は鉄格子が半分おろされ、腰折ってくぐらねばならない。これもまた脱走の防止策。入り口から数歩の暗い洞をぬけると、そこはいちめん、獄舎の世界。四隅に銀の鉄格子でできた巨大な「居室」があり、中はさらに鉄格子の檻で、住居者がふんどしいっちょで役務に労している。大きな歯車を9人がかりで押していたり、ふいごで風を炉に送っていたり、緑の火影を浴びながら、鉄火の塊を鍛えていたり。なかでも歯車のやつは壮観だ。監守ーー笏を警棒みたく扱うーーの見張りのなか、関取の足腰おもわす巨躯の御方々が、せーいせーいと言いながら、歯車を押し続けている。そしてそのたび浮上していく小部屋ほどもある白銀の塊。なんでも、これを引き上げ落下させ、そのとき発生する電力でもって精水銀ーー精金と辰砂の合金ーーを産み出すんだとか。で、そのとき閃光が発生する。産出された精水銀は社殿の中央にあつめられ、まばゆい銀の粘体となって、宮の外ーー北方ーーに流れ出す。で、これが国の西北で池となって、戌亥の殺気で気化する。そして水局で、雪にまじって降り積もるのだ。これが精気。万物の根源たる気。つまり水だ。

 正面には両腕を開く、歓迎の様相のヒダ殿。後列は、銀の装束に身を包む出迎えの御方がた。やはり手は前組みし、爪先も外向きを崩さない。

「ようこそいらしったの、水の宮の御方がた」とヒダ殿。

 が、インバ殿が返事するまえに、右側で「うわぁ」と男たちの叫び声。つづく鉄鎖の走る音。

「おいおいおーい、なにやってくれてんだ? あ? 三百二十一番! テメェか!」

「す、すいやせん、汗で滑っただけなんです。勘弁してくだせえ、アニキ」

 遠巻きにそんなやり取りが。

 あの笏を掌でパンパンしている監守、見たことがある。たぶん、代表団の御方だ。

「おい」と、ヒヤっとするほどの低い声。ヒダ殿だ。騒ぎの主を異様な剣幕でねめつけている。「しつけてこい」顎をしゃくる。すると、伺候の御方が辞儀後、憤激の様子で走り飛んでいき、笏を抜いて「しつけ」とやらを腿に食い込ませていく。近づくなりいきなり、2発も3発も執拗にだ。で

「おい」息を切らし「今日は、なんの日だ、あ? 答えてみィや!」

「うぅ。ご、合議の日です。すいやせん、アニキィ」

「わかっとんならオヤジに恥かかすなや、ボケが!」

 そんなやり取りが。

「どうもすみませんのぅ」と、にこやかな調子のヒダ殿。「若手を教育するのも一苦労なんじゃ。まぁ、どの宮もそうじゃと思うがの。ささ、こっちじゃ」で、何事もなかったかのようにくびすを返しつ、我らを先導する。がに股歩きの威丈高な御方がたを従えて。

 向かう先はひときわ美麗な独房だった。他より一段高く、きざはしで続くその先には、鉄格子で縁取られた深緑のステンドグラスの巨大なキューブが、金属片たる銀のラメを随所に瞬かせ、鎮座している。それは正立方体にしろ、グラス、金属片にしろ、構成されるすべての物が直線と直角の複層四面体でできており、なにか宇宙をさまよった末に発見した、超古代の呪術的遺物、それを回収し祭り上げた、そんなふうに見える。

 きざはしを登り、ヒダ殿に促されつつ、倉の入口のような扉から、キューブの中へ。そこは銀盤しかれた合議の間。

 我ら以外すべての宮の御方々が揃いぶみだ。床は透明なガラスで、中央の窪みに流入した精水銀の重いうねりが、よく見える。その銀のたまりの中心に、夢幻の眠りをただよわし、重力を排して咲くハスの花一輪。ま、精気の池だからね、生えるとこには生える。

 定置に着座し、会場沈静、ヒダ殿の祓えの儀へ。

「ようこそお越しめされたの、皆の衆。金の宮代表、ヒダじゃ。では、さっそく」

 で、極太の両の腕を中間まで開き、一息に閉じる。反響ない一拍。次に、目一杯開いての強烈な一拍、ゼロの拍、また弱の拍と強い拍。5度くりかえされ、

「終いじゃ。本会は祭器について話し合いたいの」

 で、着座し、四偶に控える金の御方が、船旅おもわす寂れた笛を奏で始める。

「では」と、ここはやはりインバ殿。「まずこのひと月の進捗と課題を共有しましょう。我ら執政官は概況を知ってますが、他の方々は断片的にしか知らないはず。整理をかねて現況を確認したく」

「そうじゃの」

「ならばワシから」とスサ殿。「我が宮から報告するぞ。目下、最大の課題を抱えるのは我が宮であろうからな。(「なにをー!」「我が宮の惨況、目に入らんか!」「もう腿も仕事もパンパンぞ」と金局から芝居じみた悲痛の叫びが。失笑でる)すまん、ワシが言葉をたがえたの。金の御方々、それから他の宮であっても忍従のさなかにあるのは皆おなじ。あい済まん、失言じゃった、お詫び申し上げるぞ。(で両手を膝につき、背を丸め低頭。場、鎮まる)さりとて話を前に進めねばならん。まず前の合議のおさらいからじゃ。先回は祭式を塞ノ祭りから温泉祭りに(そのとき火の宮から「温泉祭り違う!」「煮ごおり祭りぞ!」「言葉正確に!」の撤回要求。で、土の御方々から「神経過敏」「枝葉で炎上すな!」の応酬、両者ヒートアップ)あー、もう話進まんでないか。わーったのぞ、『煮、ご、お、り、祭り』な『煮、ご、お、り、ま、つ、り』。これでよいか?(火の宮沈静)よし。では、煮ごおり祭りになったはいいが、付随して祭器の修正、必要になったのぞ。我が宮はお焚きの岩盤を精気盛れる椀にせんといかんくなり、金の御方がたは氷積む分、貨車の強度を上げる必要がでた。で、それに伴い、水の御方は氷けずる作業と精気の増産。木の御方は火種つくる作業。火の御方は木炭つくる作業。我らは土器製造に不足する土の生成と金の御方にお渡しする鉱石の生成で、金の御方は貨車の修正と精金の増産じゃ。ここまでが前回の合議じゃぞ。が、聞いてわかるとおり、我が宮、水の御方、金の御方は既にオーバーワークじゃ。もう火の御方がた、木の御方がたの応援あっても、どうにもならん。人手が足らんから、計画倒れぞ。といって放擲するわけにもいかん。煮ごおり祭りでいく方針不変としても、祭りの細部、再考する必要でたのぞ。で、我らとしては金の宮にお渡しする鉱石を優先するため、あ、これは貨車なくば祭器運べず、祭器なくば蓬莱での祭り実施あたわずの念からじゃ。で、金の御方がたへの鉱石優先すれば、土の生成、間に合わんくなる。なので、今ある土で済むよう、祭器の形、変更したくての。と、ここまでが連携役で伝えた内容じゃ。どうなるかはまだ決まっておらん」

「土の宮としては」とインバ殿。「員数不足で土石を増産できない。そういうことですか?」

「合ってるが間違ってるぞ。根本は5宮全体での人手たらんことぞ。土も石も気が生じて物と成り、極まって初めて用に足るぞ。これはミヌマ殿もご存じのとおりじゃ。じゃが、気の生じには精気いるぞ。その精気は、元は水の御方々のご苦労の賜物であり、さらに遡れば金の御方々の精金抽出に(ここで「これ以上は薬酒あっても無理ぞ!」と金の宮から衷心からの叫びが。しかも執政官。なお、薬酒とは麻薬のこと)、というわけじゃ。これ以上は無理ぞ。幽鬼、見ることになるぞ」

「わかりました。やはり粘土量の制約は消却できない、というわけですね」

「うむ」

「スサ殿」とヒダ殿。「話は終いか?」

「言いたいことは山とあれど、話すべきは終わりぞ」

「では我が宮の番とするかの。といっても、スサ殿の話で概況はつかめとると思うが。この一月は氷を積み増すだけの貨車の再設計に加え、精金の増産を行っておる。貨車は再作製でなく、補強の算段じゃ。というのも、再作製には手も石も炭も足らんからの。まあ、他に方法がないわけでないがーー。(ここで金の宮から「ないぞ! ないからな!」の激した声。笑い)で、土水の連携役から聞くに、貨車改変はなんとかなりそうじゃの。ただし、それも今の方針ならばじゃ。今から方針変えるといっても、もう間に合わん、追加要件は断る。他でなんとかするんじゃな。ただし、削減ならば考慮する」

「例えば」とインバ殿。「車輪の支柱を少なくしてほしい、とかですか?」

「いかにも。ただ、支柱削れば剛性落ちるから、その要望は現実的でないがの」

「わかりました」

「で、精金増産じゃが。宮中の様子のとおりだの。みな疲弊しておる。心配なのは子分たちだけじゃのうて、取れる精金が激減してる点じゃ。湧出そのものが減っとる。ま、取りすぎじゃの。まだ外宮に確保した金がゴロゴロしとるが、これが尽きたら持久戦になるぞ。水の宮の蓄えでしのぐしかない」

「ミヌマ殿」と凛としたお声。ミワ殿だ。「精気の備えは万全ですか?」

「ぬかりなく。財庫に3年、7星に1年分ずつ、蓄えてあります」

「わかりました。ありがとうございます」

 が、それっきり。精気抽出には言及なし。スサ殿もだ、両脇をしめるように腕組みして、難しい顔して黙したまま。それに気とは、生じて、成って、極まることで、初めて反転の機会を得るんじゃ? 各5年とすれば、最後の5年は不足しそうだけど? 過渡で、神々様がお隠れになる心算だから、15年持つのか?

「現状と課題の報告は以上じゃな」

「では次はわたくしが」とインバ殿。「我が水の宮の担当は万年氷の採掘と精気の増産です。万年氷の掘削計画と試掘、溶解の試みが済み、これから採掘、破砕、運搬に取りかかる段階です」

「いぜん試掘で大丈夫か?」とスサ殿。「祭りは来月ぞ。猶予なしぞ。じゃが、余裕は要るぞ。氷は祭りのかなめ。才子おおき水の宮であるから、算術に疎漏なしと思われるが、余白だいじぞ。余白、十分に十全たるか?」(土の代表団から「公正大事!」「ブラックボックス厳禁!」「黒塗り禁止ぞ!」の声。一方、我らから「廟まで連れてったるわい、ビクビクすな!」「温柔に従っとけ!」の雑言)

「せ、い、しゅ、く、に!」インバ殿が振り返って喝。「まだ報告の途中ですよ」で向き直り「大丈夫、考慮済みであります。というのも、これは精気増産にもからんできますが、まず精気の増産を前倒しで完了させる算段なのです。つまり、ほんの一部の者で行う氷採掘計画立案と試掘のうらで、それ以外の者とご援助いただいてる木の御方がた総出で、氷河の破砕を先行する。で、次に万年氷の掘削に集中する。万年氷の採掘ははじめてです。想定外のことも多々起こるはず。なので実行性ある計画をたてるには、試掘は必須と考えます。そして試掘後の氷の分析も必要なのです、なぜなら掘削する総量を決めるうえで、万年氷に含まれる精気の量を知ることは、必須となるから」

「つまりぃね」とウカ殿。「均等に作業するぅいうんでなく、計画や試し堀りしてる間に進めれるとこ進めてしまって、計画できた後で総力あげて万年氷掘るいう話やな」

「補足ありがたく。ウカ殿」

「大き見返り、期待してますよ」(「万年氷の横流し、お願い!」「いや、それは駄目だろ」の木の御方がたでのやり取り。笑い)

「それで」とインバ殿が続ける。「年越しの分までの精気は準備できました。万年氷の採掘計画もおおむね完了であります。しかし課題はあります。万年氷の精気凝縮率が想定以上のため、問題が。ひとつ、溶解に多大な炎熱を必要とする。ふたつ、溶けた後に粘体となり、そのままでは湯面に被膜ができて、沸騰を妨げる。なので、薄める作業と混ぜる作業が必要になる。なので、課題としては、万年氷を継続して溶かせるだけの黒炭を用意できるかと、溶けた氷をどのようにして、かき混ぜるか。黒炭の用意は火の宮と、かき混ぜる手法は土器担当である土の宮と、相談しつつ策定中であります。ま、ボールは両の宮が握ってる認識ですが」(「近日公開、こうご期待!」と土の宮。これに対し「硬軟攻守、陰陽併存の妙手、期待しとるぞ!」の我が宮の声)

「わたくしからは以上になります」

「ほなら次はウチらの番やね。ウチんとこは火の宮に卸す薪をこしらえてます。それと若干名、水の宮のお手伝いに貸し出しとります。(「利子高し! 十一覚悟!」)はいはい、利子の話は後でぇな。で、薪の収穫なんやが、作業自体は順調です。ただ、木ィの生育に問題が発生してるいう話でなぁ。たぶん、精金の乱伐が影響してるんやろが、木ィの幹に空洞ができて、結果、それで作る木炭にも品質の劣化が見られるいうクレームを火と金の宮から聞いてます。まあ、右から左にスッポスポやけども。(「聞き捨てならん!」「聞き流すとはなにごと!」「いまこそ危急存亡の秋。わからんか!」と金の宮の激語)あー、ほれほれ、これですよ。こんな調子の文句がぎょうさん来とるんですって。だって、しゃーないやろ、原因は精金の取りすぎなんやから。木ィかて呼吸しとるんやで? 精金取りすぎれば大気の精気薄なって、それ吸って育つ木ィも、いうたら全生物が精気不足でおかしなるんは自明の理やんか。だからウチらかて余分に多く薪こしらえて送っとるやろ? 苦胆飲み込んでな。(「そうだぞ」「苦を喜べ、9こそ金の本分なり」の援護あり。対して「そんなことより酒造りどうなっとる?」「そうだぞ。酒の苦味ならとことん付き合うぞ!」)はいはい、酒もちゃーんと仕込んでますよって。(「おおー!」「でかした!」そして、なぜか、紙吹雪巻き上げる御方まで)ほんに、浮き沈み激しいんやから、金の御方は。ま、ええわ。ウチの宮に大き課題はありません。報告は以上になります」

「チホ殿」とミワ殿。

「ハッ!」

 一呼吸で起立、気をつけの姿勢に。

「我が宮の現状と課題を報告してください」

「ハッ!」

 すると袖から巻物を抜き出し、スルスルと横開き、賞状でも授与するかの姿勢で、はつらつと読みあげる。

「我が火の宮の現勢について。一。我が宮の御神、部隊再編ののち、土の宮、金の宮に2割を割きたり。両宮に編入のち前線へと配置、死力を尽くすも、敵勢大、味方僅少なれば、損耗大におよび、戦況の好転、期しがたし。予備役との交代にて戦線維持に務むのみ。二。銃後の御神、昼夜の刻苦に耐えに耐え、敵塁陥落せり。目標達成とす。されど余力なし。願わくば、これ以上の援助要求、断られたし。瓦解眼前にす。次、火の宮の課題について。特段の懸案なし」そしてスルスルと巻物を丸め、そでに仕舞い「以上であります!」

 場内、停止。沈思よりか、困惑の停止なのだ。内容の晦渋さもさることながら、まずどう反応すべきか。すると、

「スサ」凛としたお声。珍しく視線まで動いて「噛み砕いて話して」

「ええ。なんでワシ? 火の御方に頼ればーー」

「得意でしょ? 噛み砕くの」

 しばし、間。圧。

「わーったのぞ」そしてため息。髭さすり。「姉ちゃんだって丈夫な歯、持っとろうにの」

 が、急にカッと目を見開き「お、おお? きたきたァー」と、いつもの歌舞伎のポーズ、飛び出して

「ハァー!

 刃の宮で 白刃くだく 歯はあれど 言の葉くだく 舌はなきはも

(「いよっ! 歯に衣着せぬ名調子!」「どうじゃ火の御方がた! 歯噛みしとるか?」「ははははは!」の土の応援団)よぉーし、やる気でてきた! 解釈、仰せつかったスサであるぞ。やるからには十備なすようにやるからな。で、火の御方がたのお役じゃが、火の御方がたは他宮のお手伝いと自宮での通常業務、炭焼きとかじゃな、この2つがお役であるぞ。で、先回の合議で姉ちゃんが宣したとおり、我が宮と金の宮にそれぞれ2割りずつを決死隊としてさいたのじゃ。じゃが、この御方がたは苦戦しとるようじゃのう。一歩、この室を出ればわかる。外は焼尽の原じゃ。金の御方がたもそうじゃが、ちらほら見える火の御方がたも、限界近しと見えるぞ。特に火の御方がたは、憔悴しきっとるではないか。休ませねばならんが、休んではならん。火急じゃ。分水嶺でもあるぞ。息継ぎの間もないのは皆おなじ。じゃから、派遣された火の御方は、通常業務の火の御方と交代しながらお役を維持するぞ。これが初めの報告。次が通常業務の御方がたの報告であるぞ。通常業務は問題なく回っておる。じゃが、過少人員で昼夜の区別なく働いての現状維持じゃから、まさにギリギリ。辛勝ぞ。じゃから、これ以上の人員は割けん。これが二つ目の報告。あとは課題じゃな。特段なしとのこと。これで細大漏らさず訳したはずじゃが、火の御方がたよ、なんぞ異見あるか?(「ある! 我らの窮迫ぐあい、詳解たらんぞ!」「西部戦線異常あり!」「幾百総ひのたま!」。それに対し「灰塵となったら土の宮を訪ねてござれ。灰にしかできん仕事、たんと積んでおくぞ!」。さらに火の宮返し「死灰までも利用するか~!」「わたしはカイになりたい」など)ない、でよろしいな? よし。以上ぞ」

 そのあとも細々問答あった。でもそれは、縷述すべき大事じゃない。結論はいまだ時日を要する、保留、調整中である。これに収斂した。


 で、三日後。我らーー代表団だけでなく、水の御方がた全員だーーは、水の宮の合議の間に集められ、断案された祭りの仔細が、執政官たちのもと高らかに宣告された。

 インバ殿と執政官たちが前に立って、威圧の語調で宣言する、なにか後ろめたさを隠蔽するように。

「こたびの祭りは綱引き祭りとする! みなの者、心して準備に当たられよ!」

 そして図入り要項が配布され、そこにあるのは独楽。ベーゴマみたいな平べったい、そして途方もなく巨大な独楽型の土器だ。で、取っ手に当たるところに綱が接続し、土器に氷水いれて、火にかけ綱を引き、中身の混合をはかる。

 これを貨車に載せ、車を牽きつつ、綱を引きつつ、あの急峻な蓬莱を踏破する?

 冗談だろ?

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