聖女である私の使命は年上騎士様に求婚することです!
私めがけて襲い掛かってこようとしていた魔物の首を斬り捨てて、太く長い息を吐いた騎士が、私を振り返ってにっかりと笑った。
「大丈夫か、お嬢ちゃん」
その姿を見て、私は運命に落ちたのだ。
将来結婚するとしたら、これほどまでに強い騎士様と結婚したい。
ただ、それだけを思っていたはずなのに――。
「いくら魔王の討伐を果たした聖女とはいえ、誰がおまえのような行き遅れた女などと結婚するものか。それに私にはもうすでに妻がいる。……だが、そうだな。もしおまえが望むのなら、私の愛人にしてやろう。どうだ?」
目の前で笑っているのは、この国の第一王子だった。
歳は私より五歳年下だったとは思うが、いかんせん七年前に一度会ったきりなので、顔もよく憶えていない。
私は十五歳で聖女の力を開花した。それから訓練を積み重ねて、十八歳で魔王の討伐に駆り出された。たった十数人の兵士だけを連れて。
それから七年魔王を殺すことだけを考えて魔王の住まうところに行き、その首を狩り取ってから王国に帰ってきた。聖女の力はもともと強大なのだけれど、私はその力に驕ることなく厳しい訓練を自分に課して、自分の力をより高めたからできた功績だろう。
まあ、それはともかく、確か魔王討伐の王命を受けて旅立とうとした時に、一人の少年が私に向かって言った言葉は何となく覚えている。旅の途中にどうでもよくなっていたから忘れていたけれど、この王子の言葉を聞いて思い出した。
『おまえ綺麗な顔をしているな。帰ってきたら、私の嫁にしてやる』
ああ、確かそんなことを言っていた気がする。あれって、この王子だったんだ。
王子はまだふんぞり返っている。私は帰還して、国王陛下に戦果の報告をしに来たところだというのに。ほら、王座で陛下が鬼のような形相でこちらを見てますよー。
それを知ってか知らずか、王子は腰に手を当てながら、催促するように問いかけてくる。
「どうだ? 私の愛人になる気はないか?」
「お断りですけど?」
間髪入れずに答えると、王子は激しく狼狽えた。
「なんだと? 私の嫁にしてやるという約束を忘れたのか?」
「それは一方的にあなたが言ってきただけです」
「だが、次期国王の情婦になれるのだぞ。名声が手に入るかもしれないぞ」
「もう聖女の名声があるから、べつに要りませんよ。そもそも帰ってきて早々愛人になれとか、功労者によくそんなことが言えますね? ほら、これをご覧になりますか?」
私は持っていた箱のふたを開ける。その中には、私が打ち取った魔王――と魔物から崇められていた、角が三本生えている雄牛のような頭が入っている。それを掲げると、王子の顔色が一気に悪くなった。
「な、な、ななな」
「これ、私が狩った魔王の首です。任務を遂行したので、この首を陛下に献上するところなのですが、代わりに殿下が受け取りますか?」
「な、ななななななな」
すっかり「な」を連発する魔法人形みたいになっていらっしゃる。
温室育ちの王子様には、少し刺激が強すぎたかな。ごめん。
首を箱に戻すと、私はななな王子の前を通り過ぎて、陛下の前に跪いた。
「謁見をお許しいただきありがとうございます。聖女、ミラ。このたび、魔王討伐から帰還しました」
「面を上げよ。魔王討伐、大儀であった。それと、息子のことは申し訳ない。よく言い聞かせるゆえ」
陛下に魔王の首を献上すると、魔王を討伐した褒章として金一封を承った。これで、生涯お金に困ることはないだろう。
私はあくまでも穏便な笑顔で、静々とそれを受け取り、それから更なる褒美として首都の一等地の邸を贈ろうとする陛下の言葉を断った。
首都に滞在するつもりはない。私はすぐに故郷に帰る。
家族に会いたいし、何よりも、憧れの騎士様に会いたかったからだ。
それに首都のお酒は薄い。故郷のお酒には敵わない。
故郷に帰って酒を飲んで、それから憧れの騎士様に会いに行くのだ。
私はそれだけのために、魔王を討伐したのだから。
◇◆◇
「なぁあにが、行き遅れ女よぉ。こちとら王命で七年間も戦っていたのよお。それなのに、帰ってきてそうそう愛人にしてやるですってぇ? 私は五歳も年下のガキには興味がないのよぉ。あのクソおぅじ!」
ダンッと一気飲みしたジョッキを机に叩きつける。
故郷に帰った私は速攻酒場に行くと、お酒を注文しては何杯も飲み干した。いま飲んでいるのが何杯目かもわからない。
「お嬢ちゃん、それぐらいにしておきな。てかこんなに飲んで料金は払えるのかねぇ」
「金はいくらでもある! それに私はお嬢ちゃんじゃなくって、もう立派な大人ですぅー。二十五歳なんですぅー」
「あー、はいはい。そんなに酔っぱらっちゃって、まるで昔ここにいたあの子のような……ん? あれ、もしかしてミラちゃん?」
「そうですよー。ミラです。お久しぶりですねぇ、店主さん。もう一杯おかわりー!」
ジョッキを掲げると、店主はため息を吐きながらも注いでくれた。
国王からもらったお金はたんまりある。だから何杯でもお酒は飲めるぞ。
「やっと帰ってきたと思ったら、ミラちゃんは変わらないね」
「大人になりましたよー!」
「あー、はいはい」
店主も変わっていない。昔のままだ。
この国では十六歳で成人と認められて、お酒を飲むことができるようになる。
私はよくこの酒場に入り浸っていた。
目的はお酒ではなく、会いたい人がいたからなのだけれど。
でもフラれる度にお酒を飲んでいたら、すっかりお酒の魅力に取りつかれてしまったのだ。
「ミラちゃんは聖女になったんだっけ? 聖女と言えば……なんというかもっとお淑やかで、慈愛に満ちていて……うーん。聞いちゃいないね。酔っちゃってるよね?」
「酔ってなーい!」
「酔っぱらいはみんなそう言うんだよ」
店主の言葉は聞こえているけれど、何やら頭がくらくらしていて、うまく考えることができなくなる。
旅の途中は酔っぱらっても魔法で治していたけれど、いまはもう聖女も引退したし、べつに魔物と戦うわけではないし、酔っぱらなきゃ世の中やってらんないんだから酔っててもいいよねー。
というわけでもう一杯。
ジョッキを置こうとすると、その手を掴んでくる人物がいた。
酔いすぎて頭がぼんやりしているからか、その人の顔はよく見えない。
「ったく、やっと帰ってきたと思ったら、すっかり出来上がってるじゃねぇか。おい店主、もう飲ませんなよ」
「あー、はいはい。ミラちゃんから頼まれると断れなくてねぇ」
どこかで聞いたことのある声だ。
ぼんやりとした視界が目の前にいる人の顔を映し出す。
金色の髪に、茶色い瞳が見えた。そして、あごには無精髭。
もうすっかりおじさんになってるじゃん。いや、初めて会ったときすでに三十を超えていたから、当たり前かもだけど。
でも、ちょうどいいや。
やっと会えたからには、言いたいことがある!
「騎士様ぁ! 私と、結婚してくださぁい!」
「断る」
七年ぶりに聞く、いつもと同じ返答。
酔いすぎた私はへらへら笑うと、そのまま気を失った。
◇
騎士様に出会ったのは、私が十歳の頃だった。
あの頃の私は、酒を飲む楽しみも体を動かす楽しみも知らない、ただの大人しい少女だった。
山の麓にある国境沿いの村で暮らしていた私は、いつものように山に花を摘みに行った。綺麗な花をたくさん摘んで、両親にあげるためだ。
山には深くに入り込むと魔物が出ると言われていたが、入口付近で花を摘むぐらいなら問題なかった。
だからその日もいつものように花を摘んでいたら、突然魔物が出たのだ。
子供だった私よりもはるかに大きな体躯。尖った牙に長い鉤爪。熊よりも巨大な体が目の前に現れて、私は恐怖で動けなくなっていた。
私めがけて襲い掛かってこようとしていたその魔物を斬り捨てて、さっそうと現れたのが騎士様だった。
騎士様は殺気のこもった瞳で魔物をにらみつけ、魔物がもう動かないのを確認すると、それまでの殺伐とした雰囲気を吹き飛ばすようににっかりと白い歯を見せて笑った。
「大丈夫か、お嬢ちゃん?」
腰が抜けて座り込んでいた私に手を差し伸べてくれるその姿に、私は惚れてしまった。
「私と結婚してください!」
「……ん? それは、ちょっと無理だな」
そうして私の初めての求婚はあっけなく断られてしまったのだけれど、それからも私は毎日のように騎士様を見つけ出して求婚した。
結婚してください、という言葉を口にするたびに、騎士様は困ったように微笑んだ。その微笑みは回数を重ねるごとにどんどん呆れ顔に変わっていくのだが、その姿すら胸をときめかせた。
そしてとうとう騎士様に言われてしまったのだ。
「俺の好みは自分より強い女だ。そんなにも俺と結婚したければ、俺よりも強くなるんだな」
幼かった私を諦めさせるための一言だったのかもしれない。
だけどその言葉は、私をたきつけただけだった。
(強くなれば騎士様と結婚できる!)
それから私は鍛錬に励んだ。
十五歳で聖女の力を開花させてからも、私は強くなるために鍛錬を重ねた。
聖女の力は傷や状態異常を治したりする回復能力とか、防御をしたり、攻撃威力を重ね上げることができる。それらを応用しながらも、私はさらに鍛錬を重ねて、一人で多くの魔物を倒せるまでに成長して、ついに魔王を倒したのだ。
つまり、私は強くなった。
騎士様に求婚する条件は、満たしていると思うのだけれど……。
「だめだだめだ。いくら魔王を倒したからと言っても、俺からしたらまだ子供だ。恋愛対象には見えねぇよ」
今日もまた、騎士様に求婚を断られてしまっているのだった。
「どうして、私と結婚してくれないんですか! 私、かなり強くなったんですよ!」
ジョッキをガンと机に置く。今日はまだ一杯しか酒を飲んでいないので酔っぱらってはいない。村に戻ってきた日は、騎士様に逢える喜びから酒を煽ってしまっただけだ。そうに違いない。
「どこが強くなったんだ? 相変わらず腕はほっせぇし、背も小さいし」
「こう見えても百六十センチは超えていますって! 騎士様が大きくて、ガタイがいいだけじゃないですかぁ。……あ、ちょっと腕の筋肉触らせていただいてもいいですか?」
「鼻息荒く触るな」
騎士様の筋肉がついた腕最高と触っていたら、すぐに振り払われてしまった。残念。
「ともかく、俺からしたらまだおまえは子供だ。妻に迎える気はない」
「じゃあ、どうしたら私と結婚してくれるんですかぁ! 結婚してくださいよぉ!」
「断る!」
私の求婚をすげなく断る騎士様の姿を横目に、私はついぐびぐびと酒を飲む。ぐびぐび。おかわりして、ぐびぐび。
目の前で、騎士様が呆れ顔になっている。
「本当に飲みすぎだ。誰が教えたんだ」
「騎士様ですよ?」
私がお酒の味を覚えたのは、十六歳になった時だった。
騎士様のいる酒場に入る口実がほしくて、少し背伸びをして騎士様と同じジョッキを頼んだ。そのころにはもう、私が騎士様に求婚しまくっていることは村人の知るところで、店主も快く出してくれた。
一口飲んだ酒は苦かった。匂いもきついし、とても飲めたものではない。
それでも私は騎士様の好きなものが知りたくて、目をつぶり一気に飲み干した。
当時の私はもうすでに聖女の力を開花させていたけれど、神殿を抜け出しては酒場に入り浸り、騎士様に求婚した。
毎日毎日求婚して、決闘を挑み、それで負けて――鍛錬をして、求婚して決闘を挑み――と何度も繰り返した。
あの頃の私は剣での打ち合いも、純粋な体力勝負でも騎士様にかなわないひよっこだった。
だけど、王命で魔王討伐に赴くことになり、それを好機と鍛錬を重ねた。本来なら五年もかからずに終わる旅を、強くなるために強敵と戦いからと日数を伸ばし、ただがむしゃらに魔物と戦った。
約七年魔物と戦い、さらに強くなって、兵士が疲弊していたから私一人で魔王の首を狩り取ったのだ。
つまり、私は相当強くなっている。
その経験を騎士様は知らない。いくら口で説明しようとも、実力を証明しなければ信じようとしないだろう。
それなら、戦えばいいんだ!
「といわけで、戦いましょう!」
「どういうわけだ。俺は酔っ払いと戦う気はない」
「それなら明日、山で戦いましょう。村の中で全力を出したら、村が吹っ飛ぶかもしれませんから」
「吹っ飛ぶ?」
「そうと決まれば、もう一杯おかわりー!」
今日は楽しく騎士様とお酒を飲むに限る。
そして一日休んで、身体を浄化してから騎士様と戦うのだ。
私の強さを見せて、今度こそ求婚を受け入れさせてみせる!
◇
私の故郷の村は国境に面している土地で、すぐそばに魔物が出る山がある。
そのため、国境と村を守るための兵士として、騎士様が派遣されてきたのだった。
騎士様曰く、飛ばされたということだけれど、詳しい事情は教えてくれなかった。他の騎士や兵士たちの会話から察するに彼は元貴族らしいけれど、ぞんざいな言葉遣いに、暇さえあれば昼間でも酒を飲む姿からはとても高貴な貴族には見えなかった。村人ともすぐに打ち解けていた。
輝く金髪は短く刈り込んでいて、褐色の瞳はいつもぼんやりとやる気ないように細めている。
でもいざ敵を前にすると、その細められた瞳がキリッとしてカッコよくなるのだ。
いま、目の前で私に剣を振るってくる騎士様みたいに。
ずっと、この顔を向けられたかった。彼の真面目な顔は、魔物や強敵にしか向けられない。
それがいま、自分に向けられていることに私は喜びを感じていた。
持っていた剣に魔力を込める。
純粋な筋力では騎士様には敵わない。
それなら聖女の力をフル活用して、とりあえず力の限り戦えばいいだけだ。魔王もそうして倒したのだから。
「はっ、強くなったな」
「はい! 騎士様と結婚するためですから!」
こんなに全力で剣を打ち合うのはいつ振りだろう。
魔王は魔物を束ねる姿からそう呼ばれていたけれど、所詮は知能の低い魔物でしかなかった。だから実力は拮抗することなく私の方が上回っていて、五分もかからずに首を狩ることができた。
それが、どうだろうか。
騎士様とだと、全力を出しても足りない。それが楽しい。
たぶん騎士様なら、あの魔王と戦っても圧勝できたのではないだろうか。
こうして鍛錬を積み重ねて、実力をつけたからよくわかる。
騎士様は強い。たぶん並の騎士や傭兵よりも。
私と同じで一騎当千の力を持っているのに、どうしてこんな辺境にいるのか。疑問が浮かぶが、考えている余裕はない。
とりあえず、剣を振り下ろす。
すると、その攻撃を騎士様が剣で防ぎ、跳ね返す。
「やっぱり楽しい!」
「……はあ、久しぶりにここまで力を使ったが……なんて無茶な戦い方をしやがるんだ」
もうすでに周囲は見えていなかった。
私に見えるのは騎士様だけ。騎士様の無精ひげのご尊顔を拝みながら、こうして戦えるなんて夢みたいだ。いつもぐうたらしている騎士様の真剣な瞳を見れば、村の女性たちも放っておかないのではないだろうか。
「でも、結婚するのは私だから!」
「しねぇよ」
すげなく断られる。
でも、勝つのは私だ。魔物に怯えていた十歳のあの頃とは違うんだから。
そのまま戦い続く。
両者の実力は拮抗していて、どちらが勝つか先は見えなかった。少なくとも、私はそう思っていた。
でも何度目かの打ち合いの後、騎士様の淡々とした声が聞こえてきた。
「いくら強い力を持っていたところでな、戦い方がなっちゃいないぞ。剣筋がぶれていて荒いし、力技で相手を叩けばいいってもんじゃねぇ。魔物ならそれでどうにかなるかもしれないが、人間相手には通用しねぇぞ」
剣と剣がぶつかる。また弾き返されるかと思ったが、まるで吸い込まれるかのように剣ごと体が前に傾いでいく。足で踏ん張ろうとするがうまくできずに、バランスの崩した私の身体は、そのまま地面に倒れた。
「まだまだだな。いつになったら、俺と結婚できるんだろうな」
騎士様の瞳から緊迫感が抜けて、彼はふっと歯を見せて笑った。
その笑顔に昔の想い出が重なって、私は衝動的に口走っていた。
「私と結婚してください!」
「断る。俺と結婚したかったら、もっと強くなれ」
「けち」
あっははと、騎士様が笑う。その姿に胸の奥が疼き、もう一度「結婚してください」と呟いたが、その声は騎士様に聞こえていないようだった。
騎士様は険しい顔で私を――いや、私の背後を見ている。
背筋にゾッと嫌な感じがした。
魔物や魔王と対峙した時と同じだ。
いくら強い力を持っていたとしても、死地に立っている時は常に嫌な感じが付きまとってくる。
さっと振り返る。そこには、魔物の群れがいた。
魔王を倒してから、魔物の数は減った。
それでもいないわけではない。
統率者がいなくなり、魔物が集まらなくなっただけで、まだこうして魔物は存在している。
「……とりあえず、倒しますか」
「おまえは力を使いすぎただろ。だから下がっていろ。これぐらいなら俺一人で充分だ」
魔物に向かって走っていく騎士様。
そんなかっこいいこと言っているけれど、私と同じで力を使っているはずだ。
それに、私はいつまでも守られているだけのか弱いお嬢さんではない。
騎士様が魔物を倒す。一体、二体、三体と。
その姿にまた惚れ直す私。
でも胸をときめかしてばかりはいられない。
魔物の数は思ったよりも多かった。
木の影から新たな援軍がやってきて、背後から騎士様を襲おうとしている。
私は全身に聖女の力を漲らせて、その魔物に剣を振り下ろした。
驚いた顔で騎士様が振り向いて、ニヤッと笑った。
「そういえば強くなったんだったな」
「はい! だから私と、結婚してください!」
「断る!」
背中を合わせて、剣を振るう。
魔物の群れは、五分もかからずに掃討できた。
これも、夫婦としての一歩なのかもしれない。
「式はいつにしますか?」
「早まるなよ、俺は結婚しねぇぞ」
「でも、私にときめきませんでしたか? 私、かなり強くなりましたから」
「あー、はいはい。子供が何言ってるんだか」
騎士様はそんなことを言っているが、私は気づいていた。
騎士様の耳が赤くなり、それを隠すようにそっぽを向いたことに。
きっと私の強さに、惚れたに違いない。
「やっぱり結婚しますか?」
「しないしない。何回言うんだ」
「結婚してもらえるまで!」
「それなら早く俺よりも強くなれ」
「……強くなったら、結婚してくれるんですよね?」
「…………俺に勝てるわけねぇよ、このひよっこ」
「少しは、騎士様好みの強い女になれましたかね」
「それは……まあ……」
やっぱり耳が赤い。きっと顔も赤くなっているはずだ。
「とにかく俺に勝て」
「はい、もちろんです! 勝ったら絶対に結婚してもらいますからね!」
「勝てたらな」
こうして、故郷に戻ってきてから初の騎士様との戦いは終わった。
でもこれは始まりに過ぎない。
私は何度でも騎士様に求婚して、戦いを挑んで勝ってみせる。
そのためには、もっと力を付けないとね。まずは酒を飲んでから。
最後までお読みいただきありがとうございます。
少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。
ちなみに騎士様の名前は「シリル」です。好きなタイプは自分より強い人というのをこじらせて歳をとっています。