8 僕はどこから来たのだろう
僕は元の世界に帰りたい。
僕の世界。よく知っている人々が一杯いる場所。皆お互いを理解しているとは言えないが、馴染みのある考え方、馴染みのある見た目、その中に帰りたい。
リンは確かに素晴らしい人だ。
我慢強く、信頼できて頼れる人だ。だが、僕とは余りにも違いすぎる。彼女といると、自分の至らなさが自分に突きつけられて、つらい。
僕と同じような不完全な、未熟者がいるところに帰りたい。
其処に帰って、今度こそ自分に正直に自分を見つめ直して、身の丈に合った無理をしない生き方をしたい。
どうしたら帰れるのだろうか。
「リン。僕は帰りたい。僕はどこから来たのだろうか。帰れるのだろうか。僕が何か前の世界で他人に酷いことをして、罰として、ここに押し込められたのだろうか。」
「・・・大介は本当に帰りたいですか?ここがきらいですか?」
嫌い、と言うよりここには馴染めない。ここは僕の世界ではない。余りにも変化に乏しく単調だ。
「リンはここしか知らない。ここで十分幸せだろうけど、僕がいるべき場所では無い。」
「そうですか。大介は、帰れます。初めにいた場所に案内しましょう。」
え!初めにいた場所?
其処は確かに初めにいたところなのだろう。でも、僕には探し当てるのは無理だろう。すべて同じように見える砂丘の連なりの1つにしか見えなかった。
近づいていくと、其処には四阿が在るのが分る。周りの砂に紛れて分りづらい、白い石造りだった。
「ここです。昔から、ここに夢見人が現れて、そしてここから帰って行ってしまいます。何時現れるか分らないので、私達はここをいつも見て居るのです。現れた夢見人は、皆疲れて、苦しそうな人ばかりだったと聞いています。」
僕は疲れて居たのか?辛そうにしていただろうか。
そうかも知れない。病気も完治していないのに見栄を張ったり、無理して以前と同じように働こうとしたりしていたものな。医者には未だ何年も気を付けろと言われていたでは無いか。
頑固ものの、見栄っ張り。其れが僕だった。
僕はリンに水の湧き出る水筒を渡した。
「こんなに凄いものを頂けません。私は、当たり前のことしかしていません。」
リンにとっては当たり前のことなのだろう。僕は差し戻された水筒には手を触れず、リンに
「リン。今までありがとう。君がいてくれて良かった。さようなら。」
僕は元の世界に帰る事が出来た。