5 海の魔物
リンは何故、付いてきた?
もっと何か必要だったのか。それとも、僕が何処へ行くのか確認に来たのか。
「リン。何故付いてくる?もう、僕には用はないだろう。」
「・・・」
「もう帰れよ。僕は君が好きではない。トカゲの顔は気味が悪い。」
「済みません。大介様」
「様付け呼びは、辞めてくれ。僕はそんな偉い人間じゃあない!只のポケットを持っている夢見人だ!」
「はい済みません。・・大介」
イライラが募る。何を言っても、暖簾に腕押し。受け流されて、言ったこっちが悪者に感じる。
もう、帰って欲しい。自分の価値のなさに自信が揺らぎッぱなしだ。
僕の価値は、ポケットだけ。他人に優しくなんてしたためしがない。在ったとしても、其れは僕にメリットがある場合だけだった。
他人に同じようにされたからって、僕がそれに対して、あれこれ言える立場にないのだ。
寄付金だって、人に見られているときか、自分の気持ちが優越感に浸れるためだったり、そんなものだ。
ふーっ。なんか疲れた。僕って、こう言う人間だったんだな。
この、死後の世界は、若しかして、閻魔様がいて、本人の生前の行いを裁く場所なのかも知れない。
そう言う意味では、僕は裁かれている。まるで、いい気になっていた、過去の自分を投げつけられているようだ。
「リン。付いて来られても困るんだ。僕はこれから海に行く。危ないから、君は帰った方が良い。僕を放っておいて欲しい。」
「海は一人では危険です。・・大介。私が一緒にいれば役に立ちます。どうかついて征く事を許してください。」
僕は、もう、説得するのを辞めた。付いてきたければ来れば良い。別に気にしなければ良いことだ。いちいち目くじら立てて言うほどのことではないではないか。
それから、僕のそばから離れて、リンは付いてきた。
海が見えてきたが、この間の崖では無いところを探して歩く。
かなり経ってから、遠浅の海辺に行き着いた。
ここなら僕でも海に入っていける。僕はポケットに願った。海で呼吸できる道具を。
シュノーケルが出てきた。これで、大丈夫だろうか?試してみて、驚いた。全く息継ぎがいらない優れものだった。
思い切って海に入ろうとすると海から大きな烏賊が、僕を捕らえようと、足を伸ばしてきた。
うねうねと蠢く吸盤の付いた足に絡め取られそうになる。
「大介!」
リンが、銛を持って烏賊のくちに打ち込んだ。そして銛の先から火が噴き出した。
烏賊はたまらず、這々の体で逃げ出した。
僕はと言えば腰を抜かして、ただその光景を呆然と見ているだけだった。