第1話:「聖戦は半年後! だが勇者は未定」~メテオフォール開発の始まり~
急に作りたくなっちゃった作品
続くのかは不明ですが、ネタはたくさんありそうですよね。
更新は週末に不定期になると思います
炎上案件情報お待ちしております
王国の首都、セントラル・マギカ。王城の奥にある魔導技術省の一室で、俺——エルク・ラドクリフは、頭を抱えていた。
「……半年後に魔王を討伐? いやいや、勇者は?」
机の上に積まれた書類の山。その頂点に鎮座するのは、王命書だ。
『聖戦の刻、迫る。半年後、王国軍は魔王討伐を決行する。よって、魔導技術省は即刻、聖戦の準備に着手せよ。』
「いや、だから、勇者がいないんですけど……!」
神殿の神託によれば、『勇者が現れ、魔王を討つ』とのことだった。
だが問題は、その勇者がどこにいるのか、誰なのか、誰も知らないという点だ。
しかも、王国軍の報告によれば、魔王の正体すら未だ不明。
「どうやって戦うつもりなんだ、俺たちは……」
……まぁ、ある意味では、これは懐かしい光景でもあった。
そう、俺は転生者だ。
前世では、IT企業のプロジェクトマネージャーとして、散々な目に遭ってきた。
納期だけ決まってて仕様が決まらない、「メテオフォール開発」と呼ばれる無茶な案件に振り回され続けた日々。
おっさんになりかけた50手前で身体を壊し、気づけばこの異世界に転生していた。
……でも、異世界に来ても無理難題のプロジェクトは変わらないのか!?
そんな俺のぼやきをかき消すように、扉が荒々しく開いた。
「おい、ラドクリフ! どうなってる、準備は進んでるのか!」
現れたのは、魔導技術省の局長——グレイヴ・ハワード。
典型的な貴族出身の官僚で、決断力はあるが、技術に関してはまるで無知な男だ。
「進めるも何も、戦う相手も、味方も決まってませんよ!」
「そんなことは知ったことか! 王が命じたのだ、やるしかない!」
「無茶振りが過ぎるんですよ……!」
この国の行政は、典型的なトップダウン方式。
王が「やれ」と言えば、どんな無理難題でも実行しなければならない。
そして、その尻拭いをするのが、俺たち魔導技術省の役目だ。
ため息をつきながら、目の前の報告書をめくる。
「せめて、過去の勇者たちがどうやって魔王を倒したのか、記録を調べてみます」
「うむ、それが良かろう。報告は明朝までに頼むぞ!」
「いや、今夜徹夜確定なんですが……!」
---
### ■ 調査結果:魔王討伐の記録が、あまりにも曖昧すぎる
夜を徹して歴代の勇者たちの戦いの記録を調査した結果、判明したのは——
『勇者が魔王を討った(方法は不明)』
『勇者が神の加護を受け、勝利した(具体的な記録なし)』
『魔王と勇者が相打ちになり、詳細は闇の中』
「……情報、なさすぎる」
この国、どうやって今まで戦争してきたんだ?
しかし、それ以上に俺を絶望させたのは、王が「聖戦には魔導兵器を使う」と言い出したことだった。
---
### ■ 魔導兵器? いや、そんなものないんですが?
「局長、これ、何とかしてください。魔導兵器なんて、すぐには用意できませんよ!」
「なにを言っている、王が言ったのだぞ!」
「いや、だから、その兵器って何なんですか?」
俺の言葉に、グレイヴ局長は「なぜそんなことを聞くのか?」と言わんばかりに怪訝な顔をする。
「魔導兵器とは、強力な魔法技術を用いた……」
「そんなふんわりした概念じゃなくて! 具体的に何を作ればいいんですか!」
この時点で、俺は理解した。
王も、局長も、「魔導兵器」という言葉の響きだけで戦争を進めようとしている。
「局長、言っときますけど、魔導兵器って簡単に作れるもんじゃないんですよ?」
「だが、王は『聖戦には魔導兵器を用いる』と仰せだったぞ?」
「王が言ったら、突然生まれるんですか、魔導兵器……」
「作ればいいのだ!」
「これ、前の会社で言われた『リリース日が決まってるのに仕様が決まってない』やつじゃんか……」
---
### ■ 無茶振りにもほどがある
俺は机をバンと叩いた。
ふざけるな、この国は。
「過去の記録を調べましたが、勇者が何を使って魔王を倒したのか、明確な記述は一切なし。
そもそも、魔王が何者なのかすら分かっていないのに、どうやって兵器を設計しろと?」
「……」
「それに、魔導兵器を作るには膨大な資金と時間が必要です。
半年で開発するのは、はっきり言って無理です!」
会議室が静まり返る。
誰も何も言わない。
しばらく沈黙が続いた後、グレイヴ局長が静かに言った。
「……しかし、王の命令は変わらん。」
「……は?」
「よって、魔導技術省は直ちに魔導兵器の開発に着手する」
「待って待って待って!!」
何を言っているんだ、この人は。
「だから、どうやって作るんですか!?」
「お前が考えろ」
「ああ、これ完全にメテオフォール開発案件だわ……!」
---
### ■ こうして始まる、前代未聞の「魔導兵器プロジェクト」
結局、この会議で決まったのは——
✅ 勇者の選定は、王国軍と神殿に任せる
✅ 魔導技術省は、魔導兵器の開発を進める
……というまったく現実味のない方針だった。
こうして、俺は王国最大の「何を作るか決まっていないのに納期だけ決まっているプロジェクト」に巻き込まれることになった。
いや、本当にどうするんだよ、これ……。
翌日——。
俺は朝から、魔導技術省の技術研究棟に呼び出されていた。
目的はもちろん、魔導兵器開発プロジェクトの始動だ。
「おい、ラドクリフ。こんな朝早くに呼び出して、一体何をするつもりだ?」
あくびを噛み殺しながらそう言ったのは、**レーナ・フォルテン**。
魔導技術省の研究員であり、俺の同期だ。
専門は魔導理論と魔法工学で、基本的に理論先行型の技術者。
「お前も聞いてるだろ? 例の“魔導兵器開発”だよ」
「はぁ……本当にやるの? それ」
レーナは呆れたように眉をひそめる。
「“やる”っていうか、**やらなきゃ殺される**んだよ、俺たち」
「まぁ、それはそうなんだけど……兵器を作るって言っても、**何を作るか決まってないんでしょ?**」
「その通り。俺も上層部に聞いたんだけど、まさかの**『お前たちで決めろ』**だってさ」
「……クソすぎるわね」
「だろ? しかも『半年で開発しろ』っていうんだから笑えない」
「半年で兵器開発? 何をどうすればそんなことが可能になるの?」
「それを考えるのが俺たちの仕事なんだとさ」
レーナは額を押さえ、「もう帰っていい?」と言いたげな顔をしている。
俺も言いたい。**「もう帰っていい?」**って。
だが、現実はそう甘くない。
「とりあえず、研究部門の連中とブレストするしかないな」
「どんな魔導兵器があり得るか、案を出すってこと?」
「そういうこと。まぁ、まともな結論が出るとは思えないけどな……」
***
技術研究棟の会議室に集まったのは、俺とレーナ、そして**魔導技術省の主要技術者たち**。
「じゃあ、まず『魔導兵器』って何なのか、コンセプトを決めるところから始めよう」
俺がそう言うと、すぐに年長の研究主任が手を挙げる。
「魔導兵器とは、本来、戦場での戦力を補助するための高出力魔法装置を指すものだな」
「いや、それって普通の魔法じゃねえか」
「兵器なんだから、当然、既存の魔法を応用したものになるだろう?」
「でも、王が求めてるのは“前例にない”魔導兵器だろ?」
「……まぁ、確かに」
そこに口を挟んだのは、武器開発部門の責任者だった。
「なら、いっそ**超巨大な魔法陣を作って、国全体を覆う防衛兵器**にするのはどうだ?」
「それ、どう考えても半年で完成しないな?」
「うーむ……」
「じゃあ、いっそ**“勇者専用”の武器にするのはどう?**」
「……おい、それだ」
俺は思わず顔を上げた。
「“勇者専用”の魔導兵器……?」
「そう。勇者がまだ決まってないからこそ、先に“勇者が使う武器”を作ればいい」
「なるほど……勇者が決まれば、それが自然と必要な兵器になる、ってか」
「そうよ。そもそも王は『勇者が魔王を倒す』って決めてるんだから、勇者用の兵器を作るなら納得するんじゃない?」
「……アリかもしれないな」
「問題は、それがどんな兵器になるかだけど……」
俺たちは顔を見合わせた。
「……どうする?」
会議室には沈黙が流れる。
「勇者専用の兵器を作る」という方向性は決まったが、**肝心の勇者が誰なのか分かっていない**のだから、具体的な設計は困難を極める。
「……どうする?」とレーナが俺に目を向ける。
「どうするも何も、まだ勇者が決まってないんだ。どんな奴が使うかも分からないのに、武器を作るなんて不可能じゃないか?」
「でも、王は“勇者が使う魔導兵器”を求めているのよね?」
「そうだな」
「だったら、**“勇者専用”ってことにしておけば、どんなものでも誤魔化せるんじゃない?**」
「……なるほど」
つまり、勇者の有無に関係なく、「この武器は勇者のために作られた」と言い張れば、**王や貴族を納得させられる可能性がある**というわけだ。
しかし、それにはいくつか問題があった。
「でもさ、仮に勇者専用の武器を作るとして……勇者が魔法剣を使うのか、大砲みたいな武器を使うのか、それすら分からないんだぞ?」
「そうね。だったら、逆に“万能”な魔導兵器を作るのはどう?」
「……万能?」
「例えば、形を変えられる魔法兵器とか」
俺は考え込む。
「武器が勇者に合わせて変化する、ってことか」
「そう。そうすれば、どんな勇者が来ても対応できるわ」
「いや、ちょっと待て。それって魔法技術的に可能なのか?」
「難しいわね。でも……**“それっぽい”仕組みを作ることはできるかも**」
レーナの目が光る。
「例えば、魔法陣に適当なルーンを刻んで、“勇者が触れるとその人に適した形に変化する”みたいな設定にするのはどう?」
「それ……本当に変化するのか?」
「……変わるってことにすればいいのよ」
「詐欺じゃねえか!!」
「情報操作よ」
いやいや、こいつの言ってること、どんどんヤバくなってきてないか?
でも、確かに……この国の連中なら、「それっぽい説明」さえあれば納得する可能性は高い。
「まあ……確かに、形が変わるって言っておけば、どんな勇者が来ても適応できるって話にはなるな」
「そうでしょ?」
レーナがニヤリと笑う。
**これは本当に詐欺では……?** と思いながらも、俺は次の案を考え始めた。
「よし、ならまず、**“勇者の武器”にふさわしい名前を考えよう**」
「そうね。適当なそれっぽい名前にしとけば、後々楽になるわ」
研究員たちも次々とアイデアを出し始めた。
「“光輝の剣”とかどうだ?」
「いや、ベタすぎるだろ」
「“神の審判”」
「ちょっと重すぎない?」
「じゃあ……“テンペスト・エンブレム”とか」
「それっぽい!」
「“アルカナ・ギア”ってのは?」
「おお、カッコいい」
……なにこれ、**魔導兵器のネーミング会議**になってないか?
だが、結局のところ、この**“それっぽさ”**こそが重要なのだ。
王や貴族を納得させるためには、まず名前から入るのが一番手っ取り早い。
俺たちは真剣に議論を交わした結果、ある名前に決めた。
「よし、**“フェルザ・レガリア”にしよう!**」
「おお、それっぽい!」
「異議なし!」
こうして、**名前だけが決まった勇者専用魔導兵器**が誕生した。
***
「さて……名前は決まったけど、どうやって作るの?」
レーナが呆れたように言う。
「いや、むしろ名前が決まったことで、“もうある”ってことにすればいいんじゃないか?」
「なるほど?」
「つまり、まずは『かつて勇者が使った兵器があった』っていう**歴史を捏造**するんだ」
「……え、歴史から作るの?」
「そうだ。歴史を作るんだ」
「……ラドクリフ、あんた異世界転生者だったりする?」
「……なんでそれを?」
「なんとなく、そんな気がした」
俺は思わず苦笑する。
まさか、転生バレしたか……?
「まあいいわ。それで、どうやって“かつてあった”ことにするの?」
「簡単だ。**それっぽい遺跡を作って、古代の碑文を刻めばいい**」
「……」
研究員たちが静まり返る。
「……こいつ、本気で言ってる?」
「俺は本気だ。やるなら徹底的にやる」
「……まぁ、どうせまともな開発は間に合わないしね」
「じゃあ、**遺跡を作る部署を作ろう**」
「おい、プロジェクトが完全に詐欺になってるぞ」
「違う、**国家的ロマンに満ちた歴史創造だ!**」
「もうこれ、“魔導技術省”じゃなくて“考古学省”じゃない?」
こうして、**“フェルザ・レガリアは過去に存在した”という歴史を作る計画**が動き始めた。
……俺たちは、本当にどこへ向かっているんだろうか。
***
数日後——。
魔導技術省の地下研究室では、**前代未聞の歴史捏造プロジェクト**が着々と進んでいた。
「よし、遺跡の場所は決まったな」
「王都の北東、かつて魔法大戦があったとされる地に、“フェルザ・レガリアの遺跡”を建設する」
「えっ、本当に作るの?」
「当たり前だろ?」
研究員たちは困惑していたが、もうこのプロジェクトは後に引けない。
王や貴族を納得させるには、**実物の“それっぽい”証拠**が必要なのだ。
「レーナ、**それっぽい古代碑文**はどうなってる?」
「もうすぐ完成するわ。
“かつて勇者はフェルザ・レガリアを手に取り、魔王と戦った”
みたいな感じの文章を古代語風に刻んでおく予定よ」
「うん、いい感じだ」
「でもさ、本当にこんな適当なものを作って、バレないの?」
「大丈夫。
**この国の歴史記録なんて、すでにいい加減だし、むしろこれが公式記録になる可能性すらある**」
「こええよ、この国……」
研究員たちは半ば諦めたようにうなだれた。
だが、俺たちは本気だ。
「よし、次は**“それっぽい武器の残骸”を用意する**」
「えっ、それも作るの?」
「当たり前だろ?
『かつて勇者が使っていたが、経年劣化で破損した』ってことにすれば、**実際に使えない理由も説明できる**」
「……いや、これ詐欺どころか、考古学的捏造になってない?」
「だから、それっぽい歴史を作るのが目的なんだよ」
「お前の倫理観どうなってんだ」
「そもそも、こんな無茶振りをする王と貴族が悪いんだ。
俺たちは与えられた条件の中で、最善の策を講じているに過ぎない」
「……まあ、確かにそうだけど」
「じゃあ、残骸の素材は何にする?」
「うーん……神金とかにする?」
「いや、それは無理だろ」
「じゃあ、適当な鉄片に魔法陣を刻んで、“これが伝説の武器だった”ことにすれば?」
「うん、それでいこう」
こうして、俺たちは**“過去の勇者が使っていた武器の残骸”を人工的に製造することになった**。
***
さらに一週間後——。
「遺跡の設計、完了しました」
「武器の残骸も完成」
「碑文の刻印も終わりました」
「よし、じゃあ、あとは王と貴族に“発見”させるだけだな」
俺たちは“偶然発見された”という体で、このフェイク遺跡を公開する計画を立てた。
そして数日後——王宮に使者を送り、**「ついに勇者の武器が見つかった!」**と大々的に発表した。
王国中が一気に沸き立つ。
「勇者の武器が発見されたと!? すばらしい!」
「これで聖戦の準備は万全だ!」
「勇者がこの武器を手にすれば、必ずや魔王を討つであろう!」
いやいやいやいや。
この国の連中、ちょっと騙されやすすぎないか?
……と思っていたが、王と貴族がここまで喜んでいる以上、もう後には引けない。
こうして俺たち魔導技術省は、“存在しない魔導兵器”を正式に王国の歴史に刻むことに成功したのだった。
***
夜、魔導技術省の執務室にて。
俺は椅子にもたれかかりながら、天井を仰いだ。
「……これ、本当に大丈夫なのか?」
「今さら何言ってんのよ」
レーナが笑いながら言う。
「王も貴族も、もうすっかり信じてるわよ」
「そうだな……」
確かに、ここまで来たらもうバレることはないだろう。
問題があるとすれば——
「……勇者がこの武器を実際に使おうとしたとき、どうするかだな」
「……」
二人は沈黙した。
「ま、まあ、そのときはそのときよ!」
「いやいやいや、絶対問題になるだろ……」
そんな俺たちの不安をよそに、王宮では**“ついに勇者の武器が見つかった”祝賀パーティー**が開かれていた。
こうして、俺たちの“魔導兵器開発プロジェクト”の第一段階は、
**華々しい成功**を迎えることとなった。
……しかし、ここからが本当の地獄の始まりだったのだ——。