モー、どうしてこうなった
独白調で進行し、プロローグだけみたいなものですが、これが全てです。
オッサンの私はとある会社の経理で、万年主任として働いていた。
私は諍いが大嫌いで、自身の意見を主張するのが苦手で、大きな音や大声を出されるだけでビクビクしてしまう位に臆病な性格だ。
そんな性格であるから営業には不向きで、総務や人事なんて他人に強く出なければならない部署も不向きで、製造では機械の大きな音に反応して手が止まるのでダメで。
それでひたすら書類や表計算と向き合う経理に流れ着いた。
そこで長く働き、臆病な性格から管理職には向かず、主任に落ち着いた。
主任でも他の部署に関わるし、色々言われるから向かないだろ。 と言われそうだが、そこはまあ係長とか直接の上司が自発的にやってくれるので何とかなっていた。
だが決算期にソレは起きた。
営業部が提出期日をとっくに過ぎているのに、決算の資料作成に必要な書類を出してくれないトラブルが起きた。
もちろん早く出してくれと要求を係長が再三繰り返したのだが、提出されず。
それで課長・部長とランクを上げて要求を更に繰り返したけど、ソレでもだめ。
業を煮やした部長が調査したら、その提出する書類が実は隠しきれない不正行為に絡んだもので、営業部総出で隠ぺいしたいものだったと。
上層部へ報告が行き社内で問題になり、営業部全員で懲罰を受けた。
それはまだ良い。
そのトラブルで、今まで経験したどの決算期よりも地獄の進行になった。
だけじゃない。
後少しでこの地獄が終わるって時に、やらかした営業部の今回の不正の実行犯で、懲戒解雇されたはずの人が怒鳴り込んできた。
曰く「お前達が書類を要求しなければ、解雇されなかった!」なんて無茶苦茶なもの。
こっちはちゃんとした仕事をこなしてただけなのに、とんだ言いがかりだ。
で、私は運悪く、その怒鳴り込んで来た人の一番近くにいた。
その人の剣幕から逃れたくて顔を背けると、その背けた先から私に突き刺してくる視線視線視線。
…………うん。 私に何とかしてくれって視線の束がね。
その圧に負けて、席から立ちながら「あの〜」と勇気を振り絞って声を掛けた瞬間だった。
まるで反射的と呼んでいい勢いで「お前じゃねえ! 部長を呼べ!」と吼えながら、私を突き飛ばしたのだ。
ここで私の記憶は途切れていて、死んだのだろうと推測している。
今思えば、私は半端な姿勢の状態だったので踏ん張りが利かなかったし、おそらく……勢い良く押された先で後頭部でも強く打ったのだろう。
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それからだ。
目を覚ましたら、私は別の世界で別人として生まれ変わったらしい。
この世界は典型的な剣と魔法と魔物のファンタジー世界で、その中でも比較的平和で安定した村で生まれた。
この村なのか国の風土なのかは分からないが、異種族でも偏見や差別が無く生活できる所だった。
かく言う私も獣人と呼ばれる人種として生まれたので、それを知った時にホッとしたものだ。
ちなみに種族としては牛人族と言う、そのものズバリで牛の要素を持つ種族。
この種族は男女関係無く力が強く温厚で臆病な人が多く、私には大変に馴染む種族だった。
ただまあ、暴れん坊も少数出てきたり、新顔をイビるのが異様に好きな困った者も必ず少数生まれるのが問題だが。
それと種族の特性として、怒りだすと手がつけられなくなる位に危険な存在となるそうだ。 怒った所などめったに見ないが。
そんな種族に、私は女として生まれてしまった。
しかも、家に置いてある家財で上位に入る高価な物である磨かれた銅の鏡で見る限り、かなり可愛い部類の顔立ち。
…………うん。 生まれ変わったのだから、そういう事もあるだろう。
だが私は男としてオッサンになるまで生きていた記憶と価値観を持ったままなので、それはもう戸惑ったさ。
しかし異性で生まれてしまったので、それは受け入れるしかないのだろう。
両親も女の子として大切にしてくるし、それを裏切って中身は男だと打ち明けるのも忍びない。
なので私は両親の期待に応えるよう、しかし少しだけ男っぽい趣味がある女の子として振る舞った。
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村も平和なまま時間が過ぎ、途中で弟も生まれ、すくすくと成長する私の体。
この体は凄い。
男女関係無く、普通に暮らすだけで筋肉がつく。
牛人族はみな腹筋が6つ……いや、8つに割れるのだ。
それだけでなく魔力も前世での人間を指す普人族並みに持っている。
更に牛人族の女は同種族の男より魔力が多いので、魔法も強い。
まあ牛の要素があるから、この種族はどれだけ胸が小さい者でも、普人族基準で巨乳サイズとか言う元男には困惑しか無い要素もあるが。
改めて、この体は本当に凄い。
が、問題があった。
なぜこの種族は女の方が強いのかに原因がある。
牛人族の女は、年頃になると母乳が自然と出る。
これに魔力が多分に含まれていて、牛人族の乳をそのまま飲んでも魔力回復ポーションとしての効果があるほどらしい。
それだけでなく水の代わりにこの乳を使い、薬草等を入れて作ったポーションは1段も2段も上の効能を発揮するとかで、牛人族の女の良い収入源になるんだとか。
この乳に魔力を含ませるために、魔力が多い。
年頃に成長した私も例外ではなかった。
そしてこの牛人族には、特殊な風習がある。
この年頃になって初めて出てきた乳を、身近な男に飲ませるのだ。
普通なら父。 乳を父……ゲフンゲフン。
居ないなら、兄弟。 それも居ないなら近所に住む親戚の男。
そう言った血縁が居ない場合は、近所の男に。
別にこの初めての乳に特別な効果は無いはずなのだが、そんな風習がまかり通っている。
なので母に報告して搾り、儀式みたいに父に飲ませる。
……うん。 体全体を使って全力で喜び、美味しそうに飲む父の姿は微笑ましかった。
…………ああ、そうか。 こうやって他者へ乳を与える事に抵抗を持たせないよう、教育する意味もあるのか。
それから弟が羨ましがったので、弟用にも乳を搾った。
…………………うん?
無邪気に喜んで、飲んで美味しいとはしゃぐ姿に、私の心がなぜか震えた。
顔を真っ赤にして、もっとちょうだい! と私の胸を熱く見据える男の子に、心が疼いた。
うん?
なぜだ? 私の心は男だぞ?
でもなぜだ?
なんかこの弟に不思議な感情が湧いてきている。
守りたいのか? 育てたいのか? もっと自分の乳を飲ませてやりたくなっている。
これが父性…………いや母性?
あ、これ男が開いちゃいけない扉だ。
でも今の私は女だしなぁ。
いやいや、私は男だぞ。
ああ、でもなんかこの弟の笑顔が可愛くて、もうそれで良いんじゃないかと……………。
いやいや、いやいやいやいや!!
ああ……!! 私がおかしくなっているっ!!!
元オッサン。 年頃になってようやく、女(の自覚)に目覚める……!!
そしてこれ以降はTSもので現在の性別に馴染んで……いくのにまた葛藤だの元同性との恋愛への違和感とかで悩んで、またアレコレがあると。