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葬送のレクイエム──亡霊剣士と魂送りの少女【小説家になろう版】  作者: 深月(由希つばさ)
第10章 不死鳥のいざない

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第10章6話 褐色の双子 (※挿絵:エヴァンダール王子)

挿絵(By みてみん)


「──それでは、こちらで武器をすべて預からせていただきます」



 馬車を降りて王子の謁見室に向かう途中、検問所でアスターは足を止めた。


 腰に帯びた剣を見やる。(つか)に双頭の獅子(しし)の意匠が彫り込まれた剣──かつての主人だったクロードからもらったもの。



「……。……もったままじゃ、ダメか?」


「規則ですので……」



 衛兵が困ったようにジェイドを見る。

 ジェイドも肩をすくめた。



「すまんな、アスター。ここから先は、特別に帯剣許可の降りた者しか武器の類いはもち込めんのだ」


「…………」



 剣のずしりとした重みを確かめるように、腰のベルトから外した。


 途端、足元が揺らぐような、心もとない浮遊感に襲われた。

 重圧から解放されたように感じるかと思ったら、逆だった。剣の重さが自分の一部になっていたことに、改めて気付く。


 アスターから剣を受け取ると、衛兵はほっとしたように頬をゆるめた。


 何人もの取り次ぎを介し、歴代の国王夫妻の肖像画のかかった控えの間を次々と通過して、城の奥に向かう。


 そうしてたどり着いた謁見室で──

 アスターは、初めて、グリモアの末王子を見た。



「貴殿がアスター・バルトワルドか。ノワール王国の防国の双璧殿……想像していたよりずいぶんと優男なんだな」



 ──底知れない闇の瞳だと思った。


 壇上の椅子に座って傲岸(ごうがん)不遜(ふそん)に言い放ったのは、二十歳ほどの青年だった。


 生来の(くせ)で放っといてもくるくるとうねる自由奔放(ほんぽう)な黒髪に、切れ長の黒眼。王子服の下にのぞく褐色(かっしょく)の肌は、彼が南方の民族の混血であることを示している。


 王子の意外な風貌(ふうぼう)に、アスターは内心、目をみはった。


 ……そこへ。

 (しゃ)の向こう側から、若い女が現れた。


 薄布のベールを宝冠(ティアラ)で留め、布地をたっぷりと使った繻子(サテン)のドレスを着ている。

 杏子(あんず)色の布地の胸元には宝石の代わりに刺繍(ししゅう)がたっぷりと施されて、褐色の肌とストレートな黒髪によく映えている。


 長いまつげの下、切れ長の瞳がまたたいてアスターを見る。現れた女は──エヴァンダール王子とそっくりな外見をしていた。



「──……双子?」



 思わずひとりごちたアスターに、エヴァンダールが笑う。してやったりと。

 いたずらを成功させた子どものような笑みで。



「あぁ、紹介しよう。妹のカトリーナだ。我が国最高の(うた)い手。そして、今から──貴殿の新しい相棒(パートナー)になる女だ」


「……!?」



 唖然(あぜん)とするアスターに歩み寄って、カトリーナはドレスのすそをもって優雅にお辞儀してみせた。


 その王女の背後に付き従って、控えていた従者が何かを手渡す──剣だった。



「我がグリモア王家から、あなたにこの剣を。防国の双璧殿の葬送部隊入りを祝して。……私たち、いい相棒になれますわ」



 薄布のベールの下、にこりともしないで言う。

 カトリーナの捧げもつ剣を前に、アスターは退路をふさがれた気になった。


 剣の柄には、グリモア王家の不死鳥の紋章が刻まれている。……受け取れば、グリモアに忠誠を誓うという意思表示になる。

 あとずさりそうになるのを、こらえた。



「俺には、もう剣が……」


「あなたの主人は、もういない。あなたがグリモアに仕えても、何も裏切ることにはなりません……」



 カトリーナが、そっとささやく。


 仕える王子を前にして、その剣を断るなどありえない。

 それはすなわち、その王子に不忠を働くということだ。……隣に控えているジェイドの顔にも(どろ)を塗ることになる。


 壇上のエヴァンダール王子がこちらを見ている。おもしろげに。


 こちらの迷いを見透かして、あえて試しているかのようにも見えた。

 ……アスターが信頼に足るかどうかを。


 信頼に足らない(こま)など即座に斬り捨ててみせるというような怜悧(れいり)(あや)うさを秘めて。


 カトリーナの黒い瞳がまたたく。

 兄王子と同じ、吸い込まれそうに深い闇の色……。



「……もう、決めたのでしょう? グリモアの葬送部隊に入ると決めたときから。あなたは自分で選んだはず。誰を主人にするのかを……」


「…………っ!」



 淡々と、カトリーナが迫る。

 アスターが剣を受け取るように。


 脳裏に、クロードの姿が浮かんだ。

 彼のかたわらで、微笑んでいたルリアの姿も。


 彼らはもう、どこにもいない。

 忘却(レテ)の河を渡って、生者の手の届かない場所に逝ってしまった……。



(…………)



 やがて──

 最後に浮かんできた少女の笑顔を思い出して、アスターは、握っていたこぶしをふっとゆるめた。



(…………メル)



 ──今の自分が、守ると、決めたもの。


 惑いに揺れていた瞳が、ふと、焦点を定めた──目の前にささげられた剣に。

 アスターは、それを受け取った。

 壇上で、エヴァンダールの笑みが深くなる。



「歓迎しよう。ようこそ、我がグリモアの葬送部隊へ」



 ──たくされた剣は、信じられないほど軽かった。


挿絵(By みてみん)


(※AIイラスト:エヴァンダール王子(狼駄様作))


※※作者より※※


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