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葬送のレクイエム──亡霊剣士と魂送りの少女【小説家になろう版】  作者: 深月(由希つばさ)
第8章 沈黙の杖

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第8章5話 沈黙の刻 (※挿絵:お正月メルver1)

挿絵(By みてみん)


 アスターの役に立つ──その決意を秘めてメルは走った。護衛対象であるフレデリカを逃がして、自分も戦場に駆け戻る。


 荒野では、アスターたちが亡者どもを相手取って戦っていた。


 亡者の数は十体ほど。襲いかかってくる亡者を鮮やかな剣技で寄せ付けない。……が、切っても突いても再生する以上、彼らではとどめをさすことはできない。


 亡者の魂を彼岸に送り返せるのは、魂送りだけだ。



「──アスター!」



 メルの呼びかけに、アスターが気付いた。

 転身、近くにいた亡者どもが、メルに向かって迫ってくる。その背中を追いかけて、アスターの剣技が炸裂(さくれつ)した。



「残光蒼月斬!」



 剣が三日月形の軌跡を描いて、衝撃波に巻き込まれた亡者どもが吹き飛ばされる。切り裂かれた亡者どもの手足がバラバラと落ちる中、アスターが叫んだ。



「今だ、メル……!」


「うんっ」



 ──魂送りを。


 買ったばかりの真新しい杖に、メルは全神経を集中させた。ありったけの聖性を、手にした杖にこめる。自分の中に深く深く潜っていき、亡者を葬送(おく)る歌と踊りが唇からこぼれ落ちるのを待った。

 深く、もっと深く……。


 ──だって、私には……。


 意味も忘れられた神代の言葉が響いてくるのを。


 ──これしか、役に立てることなんか……。


 頭の中に旋律(せんりつ)が訪れるのを。

 でも……──



(…………──え?)



 メルは、杖を両手に構えて立ちすくんだ。

 魂送りの杖は、沈黙したまま。

 亡者を浄化する光を放つことも、ない。



「……どう、して……」



 呆然(ぼうぜん)となったのもつかの間──

 棒立ちになったメルに、手足を再生させた亡者が躍りかかった。



「──……!? メル!」



 異変に気付いたアスターが、即座に駆けた。無我夢中で剣技を放とうとして──……思いとどまった。この位置で放てばメルも巻き込まれる。



「く……っ! メル、逃げろっ」


「…………あ……」



 魂送りの杖をもったまま棒立ちになったメルのもとへ、容赦なく亡者が襲いかかった。剣をもたない無力な獲物。その新鮮な血肉を引き裂こうとして──……

 あらぬ方向から飛んできた(つぶて)に注意を()がれた。



「!?」



 メルとアスターが振り返った先──

 ピンク色のワンピースをはためかせて、肩で息をした金髪の少女が立っていた。涼しげだった頬は桃色に上気し、碧の瞳に怒りをひらめかせている。

 メルはあっけにとられた。 



「フレデリカ……さん。な、なんで来たんですかっ」


「あなたが私を置いていくからっ。自分より年下の子どもを見捨てる趣味はないのよ! ……きゃあっ!?」


「! 危ない……!」



 亡者の怒りの矛先がフレデリカに向かう。

 その軌道の変化を見逃さず、アスターは今度こそ剣技で亡者を吹き飛ばした。

 亡者どころか剣技にまで巻き込まれかけたフレデリカが青くなってへたり込んだ。



「あ……あ……!」


「よくやった。今のうちに逃げるぞ。──メル、おまえも走れ」


「……アスター、私……っ」



 魂送りの杖を手にすがりついたまま、メルは青くなっている。亡者に襲われかけたから、だけではない。


 ──沈黙したままの、魂送りの杖……。


 アスターは、ふいと視線を逸らした。



「今は走れ。死にたいのか」


「……っ!」



 一喝(いっかつ)されて、メルがようやく息を吹き返したように身じろぎする。


 アスターたちが再び馬車に乗り込んで離脱した向こう、再生した亡者どもの怨念(おんねん)めいた叫びが、寒々しい荒野に響いていた。



(第8章・了)


挿絵(By みてみん)


(↑↑ 狼駄様からメルのお正月イラストをいただきました。本当に感謝です✨✨(1/3枚目))


活動報告に、第8章感謝SSを掲載します。

よろしければ、お楽しみください^^

第9章「過去からの来訪者」は1/11(土)に開幕します。

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