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葬送のレクイエム──亡霊剣士と魂送りの少女【小説家になろう版】  作者: 深月(由希つばさ)
外伝(第7章)──褐色の天使と無垢な悪魔

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第4話 黒い焔

挿絵(By みてみん)


 ──……実際、成績は伸びた。


 ルリアの教え方は理路整然としていて、それでいて押しつけがましいところがない。エマがわからないところも辛抱(しんぼう)強く付き合って、嫌な顔ひとつせず──むしろエマが質問すると嬉しそうに──何度も説明してくれた。



「……。何度も同じこと訊かれてうんざりしないの? 自分でも嫌になるんだけど……」


「はじめから何もかもわかってるひとはいません。新しいことを知るから楽しいんじゃないですかっ」


「……前向きすぎるコメントをアリガトウ……」



 はじめは蔵書室で勉強するエマとルリアの姿に目を丸くした教師陣だったが、徐々にその姿は日常に溶け込んで、しっくりなじんだ。──あの子たち、まるで仲のいい姉妹みたいね、と教師の誰かが微笑んだ。


 深夜の奇行は、人知れず続いた。


 ルリアが悪夢にうなされるたびに、エマは起きて、彼女のために子守歌を歌った。当初はお互いに眠れない日々が続いたが、それもだんだん減っていった。


 ルリアの夢見の悪さは相変わらずだったけれど、季節がひとつ、ふたつと移り変わる頃には、幽霊の噂はどこかに消え去っていた……。



 ──三年の月日が経った。



「あーあ。結局、ルリアの方が早く卒業かぁ……」



 エマはぼやいた。出会ってから、たったの三年。本来ならその三倍はかかる教育課程を、ルリアは史上最速で駆け抜けた。エマに勉強を教えながら、である。化け物としか言いようがない。


 そのルリアは三年分成長して、地上に舞い降りた天使のような十三歳の美少女になっていた。



「エマ姉様と会えなくなるのはさみしいです……」


「ほらほら、そんなしょぼくれた顔しないで。婚約も決まってるんでしょ? おめでとう」



 ルリアは浮かない顔だ。聞けば、婚約相手に会ったこともないのだという。ムリもなかった。


 ……ルリアの「お父様」が決めた婚約だ。政略結婚なのは目に見えていた。ルリア本人の意思なんか、ハナから無視されているのだろうことも。


 言葉が、勝手にこぼれた。



「もし変なヤツだったら、私があなたをさらってあげる」


「……え……」



 冗談めかして笑おうとして……──失敗した。

 自分でも驚くぐらい本気だった。


 ルリアを不幸にするヤツはゆるさない。

 大事な大事な……「妹」。

 でも、それ以上に……──


 その答えに行き着く前に、エマはきゅっと唇を引き結んだ。

 ……そこから先は一生、口にするつもりはなかった。



「……私たち、運命共同体だもの。──そうでしょ?」



 その言葉に、ルリアが花開くように笑って──

 エマは自分自身の罪悪感に(ふた)をして、見て見ぬふりをした。


 会えない季節は、瞬く間に過ぎていった。


 ルリアに会えない間も、エマはセントバーズ大聖堂で修行を積んだ。


 王城に行くというイリーダ教官についていったのは、たまたまだった。あるいは、イリーダの方でそうはからってくれたのかもしれない。


 エマは数日前から夜も眠れないで、その日がくるのを待った。


 会うのは一年ぶりだった。


 この頃、ちまたではすでに、ルリアとクロード王子の婚約が正式に発表されていた。……知ったときは驚いた。まさか相手が王子様だとは思わなかったから。


 でも、どんな相手でも関係ない。ルリアの笑顔を曇らせるなら、横っ面張り倒してやるつもりだった。


 ルリアは、王城のサンルームでエマを待っていた。

 かたわらにいた銀髪の少年をひと目見て、……エマは声を失った。

 詰め(えり)の貴族服で微笑む、線の細い優しげな少年。



「エマ姉様にご紹介したかったの。──ね、クロード」



 熱にうるんだ黄玉色の瞳を見て、一瞬で悟った。ルリアの心を奪ったのが、誰なのか。


 それから三人で何を話したのかは、覚えていない。自分が笑顔だったのかどうかも……わからない。

 焼け付くような嫉妬(しっと)に息ができなくなった。


 気が狂わんばかりの殺意を秘めて──

 時間が過ぎることだけを、ただ祈った。

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