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葬送のレクイエム──亡霊剣士と魂送りの少女【小説家になろう版】  作者: 深月(由希つばさ)
第4章 鍵の開いた鳥かごで

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第4章4話 嵐の再会

挿絵(By みてみん)


 山の天気は移ろいやすい。

 朝から晴れていた行程は、夕方には打って変わって、ゴゥゴゥと風の吹きすさぶ暴風雨に突っ込んだ。



「……地元の傭兵たちの話では、この先に山小屋があるそうだ。そこで嵐をやり過ごそう」



 地図上にアスターがつけた印に、パルメラもうなずいた。それで隊商の進路も決まった。

 幌馬車の隅で縮こまっていたメルのところに寄るのも忘れない。



「メル、おまえ書き取りは? ──見せてみろ」


「……うぅ……」



 ミミズがのたくったような字に、アスターは眉根を寄せた。

 こ、これは……。



「…………。なんて書いたんだ?」


「う、うわぁーん! 見ないでー」


「読めなきゃ文字の意味ないだろ……」



 そこへ、ひょっこりと顔を出したパルメラが同じように石版をのぞき込んで、……ぷっと吹き出した。そのままお腹を抱えてゲラゲラ笑っている。

 つられて、アスターまで口元を隠して小刻みに震えているのが、メルのなけなしの自尊心をボロボロにした。

 ……よりにもよって、アスターまで!



「うわぁぁ、デリカシーってものがないんですかっ。もういい。私、文字なんて書けなくていいもん! 一生このままだもん!」


「……おまえなぁ……」



 さすがのアスターもあきれ顔だ。

 読めない字なのは、メル自身わかってる。だからこそ、いたたまれないのだ。



「どうせこのまま私に魂送りさせないつもりなんだ! やっかい払いするつもりなんだ! アスターのバカぁ……!」


「メル。おまえ、何言って……──」


「おーい、アスター。進路決まったか!? そろそろ動かんと夜になるぞ!」


「……っ。……勝手にしろ」



 傭兵たちに呼びつけられたアスターが、これ以上面倒を見切れないというふうに去って、メルはひとり、幌馬車の荷台の隅でうずくまった。魂送りをしないメルに、役に立てることなどなかった。


 気の毒そうなパルメラの視線が刺さって痛かった。


 そのまま慌ただしく隊商は進み、ずぶ濡れの濡れネズミになりながら、山の頂きに近い山小屋へと転がり込んだ。


 悪路を進んでくれた馬たちを厩舎きゅうしゃに入れ、積み荷の商品を盗まれないように施錠し、やっとの思いで安全な山小屋に入った頃には、みな、へとへとになっていた。


 もうなんでもいいからとにかく休みたい、あったかいものをお腹に入れたい……そんな想いは、メルも同じだった。


 その山小屋に、先客がいた。


 同じ時期に山越えしていた商人たちだった。

 こちらは交易町リビドでの商いを終えて、逆方面に向かう一行らしいのが、山小屋の主人と交渉したパルメラからの話でわかった。同じように嵐で立ち往生して、一足先に山小屋に着いたらしい。


 その中に、妙に知っている顔を見た気がして、メルはいぶかしく思った。

 いかにも旅慣れたマントを羽織った、剛毛の大剣使い。前に、似たような男を見たような気がする。


 気のせいか、向こうもこちらをチラチラと見ているような……。



(……?)



「なんや、メルちゃん。知り合いか?」


「いえ……うーん」



 パルメラに訊かれて、メルはあいまいににごした。

 そこで同じようにメルを見たアスターとも目が合って──逸らした。

 必死に書いた文字を笑われた怒りがふつふつとこみあげてくる。



(アスターのバカ! もう知らない……!)



 投げやりな気持ちで暖炉の方までズカズカ進んだ──そのとき。



「……『──番』!? まさか、生きてたのか……!」



 二度と聞くはずのなかった声に、振り向いた。……目をみはった。さっきの大剣使いと一緒にいたのが、明らかに見知った顔だったので。


 ふくよかな丸い体型を包む見慣れた茶色いベストにステッキ。いつもは細い目元を、今は最大限に見開いている。


 もう一生会うはずがないと思っていた男。



「ご主人……様……!?」



 奴隷だったメルを見捨てたはずの商人──ザイス・ベリウザールがそこにいた。

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